2023年12月29日

師走の空へ

 

気温マイナス10度まで冷え込んだ日の夕方、510号室のIさんが、師走の空に旅立って行った。

「女の人に裸を見られるのは恥ずかしい」と言って、いつも病棟唯一の男性スタッフである私と風呂に入ったIさん。上機嫌で1時間半も湯船につかり、ナースに怒られたこともあったっけ。

Iさんは、児童福祉に生きた人だった。十数年もの間、児童養護施設から子どもを6人ずつ引き取り、我が子と一緒に自宅で育てた。

亡くなる直前には、成長して看護師になった当時の里子2人が見舞いに訪れていた。

Iさん、今までいろいろな話をありがとうございました。

 

「カウンセラーという生き方」 井澗 知美著 イースト新書

・「傾聴」…カウンセラーになるためには必ず学ぶもので、カウンセリングの基本となるもの

・相手が発言している言葉だけでなく、その言葉がどのような意味を含んでいるのか、その言葉で何を伝えようとしているのか、その言葉を使ってクライアントが語りたかったことに耳を傾け、受け取ったことをクライアントに伝え返す営みが「傾聴」

・そこに批判や評価はなく、そのまま受け入れることによりクライアントは安心して自分の心を探索することができる。そして、自ら答えを見つけていける

・クライアントに「私はこう聴きましたよ、このように捉えましたよ」と伝えることが「聴く」ということであり、すなわちカウンセリング

・クライアントが助けてもらったと思わないような助け方(=カウンセリング)が理想。「よくわからないけど、カウンセラーの先生と話していたら答えが見つかった」これが最高のカウンセリング

・それを行うには、精神的にタフで、なおかつ肉体的にもタフでないと難しい

・深くて重い苦しみを味わっている人を助けるには、カウンセラー自身がその人の苦しみと同じだけ深く重くなくてはいけない。カウンセラー自身が深くて重い苦しみを味わったなら、それと同じ種類の苦しみを味わっている人だけ、救うことができる可能性がある

・カウンセラーはクライアントを利用してはいけない。クライアントを支援することで自分が気持ちよくなってはいけない

・カウンセラーは自分という器を使ってクライアントと向き合うため、自分と向き合うことが避けられない。「メタ認知」とは、自分のメガネを通して人や物事を見ていることを自覚して、俯瞰してみること

・人との違いを楽しみ、面白いと思えることがカウンターに求められる資質



2023年12月22日

命を大事にしすぎる国

「人はどう老いるのか」 久坂部羊著 講談社現代新書

68歳の著者は医師として長年、高齢者医療に携わり、「どうすれば上手に老いることができるのか。日々真剣に考えている」。自殺に対する考え方がユニーク。以下、内容の抜粋です。

・日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで命を落とす。がん患者が増え、がんで亡くなる人が多いのは、他の病気で死ぬ人が減って長生きする人が増えたから。今の医療では、がんは老化現象のひとつ

・マンモグラフィーや胃のバリウム検査はかなりの放射線を浴びる。私自身はがん検診は受けたことがないし、妻も同様。医者の友だちにも、がん検診を毎年受けている人はほとんどいない

・体調に注意していれば、病状が出てから治療しても助かるがんは多いし、そもそも2人に1人ががんになるということは、2人に1人は生涯がんにならないということ。その人にとっては、毎年受けるがん検診はすべて無駄

・医者が「この抗がん剤が効きます」と言う時の「効く」は、がんの増殖を抑えるという意味。体の中からがんがなくなるという意味ではない。抗がん剤でがんが治ることは、一般的にはない

・でも抗がん剤治療の進歩により、がんは完全には治らないけれど、それによって命を落とすことがない状態を続けることが可能になってきた→がんとの共存

・死にゆくがん患者に必要な医療は、痛みをコントロールするための医療用麻薬の使用。モルヒネや人工麻薬のフェンタニル、オキシコドンなど

・もし自殺を企てている人を止めるなら、その人が抱えている問題や悩みを解決するか、少なくとも気持ちが楽になるような手立てを講じてからにするべき。それをせず単に「自殺するな」というのは、死ぬほど苦しい思いをしている当人に「我慢しろ」と言っているのと同じ

・自殺に反対する人は、相手の苦しみについて十分考えることをせず、ただ相手が死んでほしくないという気持ちでいるのではないか。それはすなわち自分のエゴ。死の全否定はよくない

・戦前の日本は命を粗末にする国だった。敗戦後に180度転換して、今度は命を大事にしすぎる国になった

・私は子どもの頃、武士がなぜ切腹できたのか不思議でならなかったが、切腹に関する本などを読んで、徐々にその気持ちがわかるようになった。ふだんから常に「死」というものを意識して生きるメンタリティがあったということ

・「武士道と云うは死ぬことと見つけたり」(「葉隠」)…常に死を意識して生きることで自由度を増し、その場その時を大事にし、自分の道を誤らずに済むという考え。うわべだけでなく本気で考えているので、時が来れば逃げることなく死を受け入れることができた 

Matsumoto Japan, winter 2023


2023年12月15日

チーちゃんありがとう

 

よく晴れた師走の週末。

車いすに酸素ボンベをくくりつけ、K子さんを乗せて散歩に出た。

呼吸器疾患のK子さんは、毎分10リットルの酸素を吸う。まだ病院から出ないうちから、ボンベの中身がどんどん減っていく。

「酸素まだ大丈夫?」

病棟リーダーも心配そうに電話してきた。

やっと、誰もいない冬枯れの中庭に着く。残量計の針は、すでにレッドゾーンだ。

そろそろ帰りましょうと言いかけた時、それまでおし黙っていたK子さんが、

「ここなら大声出してもいいかしら?」

と言って、深く息を吸い込んだ。

口から酸素マスクを外すと、唐突に

「チヅコさーん! 今まで、どうもありがとう!」

「チーちゃーん! 今まで、どうもありがとう!」

青空に向かって叫んだ。

「チヅコさん(チーちゃん)」とは、毎日お見舞いに訪れる、勝気そうな娘さんのこと。面と向かっては言えない思いを、空にぶつけたのだろうか。

病棟に戻り、看護記録をつけていたナースにこの出来事を伝えたら、

「エーッ、あのいつも控えめなK子さんが⁈」

あっという間に、ステーション中の話題になっていた。

 

「いたみを抱えた人の声を聞く」近藤雄生、岸本寛史著 創元社

前々回のブログに続いて、ノンフィクション作家と医師の対話から作られたこの本の後半部分を紹介します。

・死を目前にして「今日1日を大切に過ごそう」と生きている人の思いを想像できる人間が近くにいるかどうかは、患者さんにとって本当に大きな違い

・「傷ついた治療者(Wounded Healer)」…「治療」は健康な人が病気の人を癒すのではなく「傷ついた者が傷ついた者を癒す」こと

・誰の心の中にも、医者もいれば患者もいる。一人の人間の中に、医者的な部分と患者的な部分の両方がある

・医者が自分自身の中にある弱い部分、患者的な部分を意識して患者と関わると、患者の中にある医者的な部分が活性化されてくる

→がん患者が痛みを感じている時、薬をこう使えばこの痛みは制御できると自分で考えて、それに取り組もうという姿勢が自ら育っていく

・「大変な経験をしておられるがん患者さんなどに関わっていくスタンスとして、自分自身の中にある不安や恐怖、困難を意識しながら会う方が、患者さんとつながれるのかな」(岸本)

Pokhara Nepal, 2023



2023年12月8日

ナースはトイレを流さない

 

病院という非日常な場所で出くわした下ネタを、2つほど。

 

緩和ケア病棟に、まだ30代の女性Yさんが入院してきた。

こんなに若い患者さんを迎えるケースは、そうそうない。

ナース控室では、急いで「AYA世代のがん患者への対応方法」などの冊子が回覧された。

そして病棟主任が、

Yさんの部屋は男子禁制!あなたは入っちゃダメよ」という。

あーそうですかと、Yさんの部屋の掃除や配茶・配膳を公然とサボっていたら、担当ナースが恨めしそうに、「本人はそんなこと言ってないよ」という。

それでは、とYさんの部屋を訪ねた。

いきなり、干したパンツが目に飛び込んできた。

うう、やっぱり入るんじゃなかった。

件のYさんは、髪の毛を派手に染めた、明るくて開けっ広げな人。

「これでCT検査に行っても大丈夫かな」

言うなり、やおらシャツをめくって「肛門」を見せた。

脇腹に、かわいいパウチがついたストーマ(人工肛門)が留置されていた。

 

病棟の一角に、その名も「汚物室」という、直截的すぎるネーミングの部屋がある。

ここが、看護助手を務める私の主戦場だ。

畳2畳ほどの空間で、「陰洗(陰部洗浄)」用のボトルを用意したり、排せつ物で汚れた寝間着やシーツを洗ったりする。

一角には大きなゴミ箱があって、朝夕のおむつ交換時には、中身入りの紙おむつがポンポン捨てられる。

蓋はあっても、かなり匂う。

そしていちばん奥にあるのが、「座面のない洋式トイレ」。

ポータブルトイレや男性用尿器の内容物を、ここに空けるようになっている。

問題は、ナースたちが、使用後に水を流さないことだ。

お茶くみを済ませて汚物室に戻ると、トイレの水たまりが黄褐色に泡立っていたり、茶色い固形物が浮かんでいたりする。

そんなことが、本当に、本当にしょっちゅうある。

「ワレ、トイレぐらいちゃんと流せや!!」

(と言いたいけど、気が小さいから言えない)

忙しいのはわかるけど…

まだヨメ入り前のお嬢様ナースもいるのに、信じられない。

そのうち、よそ様でもトイレを流さない癖がついちゃうぞ。

Kathmandu Nepal, 2023



2023年11月30日

「いたみを抱えた人の声を聞く」

 

看護助手の仕事は、朝から夕方まで立ちっ放し。

さらにカロリー消費のために、緩和ケア病棟のある5階から洗濯室や薬剤室がある地下まで、わざと階段で往復している。

デスクワークより、よっぽど性に合う。

医師や看護師がカンファレンスをする月曜午後の1時間が、貴重な休憩タイム。親しくなった患者さんの部屋に行き、ベッド脇のイスに座って、ただ話を聞いている。

そんなある時、「看護師さんは呼ぶとすぐ来てくれるけど、必要な処置を終えると、そそくさと部屋を出てっちゃう」という愚痴を聞いた。

確かに。満床で忙しい日はともかく、そうでない時も、ナースたちは何かとすぐステーションに籠る。

近藤雄生氏(ノンフィクション作家)と岸本寛史氏(医師)の対話「いたみを抱えた人の声を聞く」(創元社)という本で「治療構造」という概念を知り、その謎が解けた気がした。

・「治療構造」…医療者が患者の話を聞く時間に一定の制限を設けるべきという、臨床心理学の考え方。話を聞く側が自身を守り、同時に患者との関係性をいい状態に保つために重要なこと

・一方、別れがつらいから深く関わらないというふうに考えがちだが、しっかり関われたから、しっかり別れることができる部分もある。患者が亡くなった時に尾を引くのは、しっかり関われていなかったという気持ちがある時

・特定の分野について専門家に話を聞く時、うまく聞けるかどうかはどれだけ事前にその分野に習熟できたかといった知識的なことに左右されることが多い

しかし個人的な話、とりわけいたみを抱える人に話を聞く場合は、知識の有無よりも、相手に対する自分自身の意識や姿勢が問われる

・話し手がいたみや困難を抱えている場合は、聞き手のちょっとした反応や心の動きも敏感に感じ取る。聞く側が日々何を考え、どのような姿勢で生きているかまで問われる

・相槌の打ち方や視線の向け方ひとつにも、聞き手の感情が表れる

・「意識の水準を少し下げて話を聞く」…臨床心理学者の河合隼雄氏がよく言っていたこと。少し明るさが落ちた部屋に身を置くような感覚

・ひとつの言葉の中に、いろんな「響き」を聞き取っていく。そのために、こちらの意識の照度をちょっと下げる

・「相手の話をまずは聞く」。判断を宙づりにして、まずは聞く

・「死出の旅路は一人」…死にゆく人の気持ちは、やはりその人にしかわからない。わからないということを受けとめて、でもできるだけ寄り添い、気持ちを想像し、自分なりにギリギリのところまで一緒に行って見送りたい

・患者さんの語りを通してその心に触れ、いたみに共振すること。それが医療者にとって何よりも大切なこと

Pokhara Nepal, 2023


2023年11月24日

お風呂の明暗

 

AさんとBさんは、ともに80代の男性患者。自力では立つことも歩くこともできない。週2回のお風呂タイムには、いつも女性看護師が2人つく。

Aさんは、とても気持ちよさそう。やれあそこが痒い、ここを掻けと注文が多い。片やBさんは、無言でギュッと目を閉じ、カチカチに固まっている。風呂から上がると、「女性は恥ずかしくてダメなんだ…」とため息をつく。

私「Bさん、観念して下さい。きれいな女の人を侍らせて、ある意味この世の楽園じゃないですか!」


「プレジデント」11月3日号の特集は「人生の価値」。気に入った文章を紹介します。

・教養とは学歴の高さや博識さではなく、さまざまな経験や実践、読書などによって地道に培っていくべきもの。教養=リベラルアーツとは、「自由になるための技術」のこと__楠木建・一橋ビジネススクール特任教授

SNSほど人の幸福感を揺るがすものはない。フェイスブックに時間を費やすと、悲しい気持ちや寂しい気持ちになるという学術的な調査結果もある。「他人との比較」がその元凶(同)

・ハーバード大学の調査によると、70歳を過ぎて長生きする人の最も大きな要因が「友人が多いこと」。しかも異性の友人が多いかどうかが重要で、配偶者の有無より異性の友人の有無が長寿に影響する__諸富祥産(心理学者)

・日本人は周りに合わせようとする気持ちが強く、自分のしたいことを抑えてしまいがち。これは面白いことをする人が「かぶき者」と言われて打ち首にされ、新しいこと、面白いことをするのがタブーだった江戸時代の文化が今も染みついているから(米田肇・ミシュラン三ツ星オーナーシェフ)

・年を取っても「充実した時間を過ごした」と感じるためには、記憶に残る変化をたくさん作ること。新しいことに挑戦してみれば、多くの変化を身に染みて感じることができる__本川達雄(生物学者)

・自分が面白がれる新しいものに出会えるかどうかは、行動量に比例する__為末大(オリンピアン)

・話をしていて、自分の中にふっと新しいアイデアが浮かんできたり、不安な気持ちが解消されたり、なんだかわくわくしてきたりすれば、それは対話の相手がもたらしたもの。対面する人間の知性や感性を活性化する人は「すぐれた人物」と断じてまず間違いない__内田樹(著述家・武道家)

・「人を見る目」というのは苦労して身に付けるものではない。感度のよい身体を持っていれば十分。誰かが近くに来た時に自分の中で「アラート」が鳴ったり、耳障りな「ノイズ」がしたら、なるべく近づかない方がいい(同)

・個性というのは履歴書に箇条書きにするものでもないし、自分で早く見つけて必死に育てるものでもない。もし個性というものがあるとすれば、それは他人が見つけて、他人が活かしてくれるもの(同)

Matsumoto City Museum of Art


2023年11月17日

「幸せの三段重理論」

 仕事を終えて病院を出ると、ちょうど日没。

家路につく愛車のガラス越しに、八ヶ岳連峰が真っ赤に染まっている。

そんな時、自分でもビックリするほどの幸福感に包まれる。

あー、生きてるだけで丸儲けだー!

些細なことで幸せを感じるのは、職場が緩和ケア病棟だから、かも。

 

「プレジデント」11月3日号で、作家で精神科医の樺沢紫苑氏が「幸せの三段重理論」を唱えている。ちょっと面白かったので紹介します。

・「今がつらい」「今が苦しい」と感じている人が、10年後に幸せになれるはずがない。「幸せな人生」とは「今日の幸せ」を積み重ねた先にしか存在しない

・今がつらい、苦しいと感じている人は「過去」の出来事を思い出して後悔する、あるいは「未来」や「将来」のことを考えて不安になっている人が多い

・過去や未来ではなく、現在にフォーカスすることが何より大切

・私たちが感じる幸福は、その時に分泌される脳内物質の種類で「セロトニン的幸福」「オキシトシン的幸福」「ドーパミン的幸福」の3つに分類できる

・セロトニン的幸福…「健康の幸福」。これを手に入れる最もシンプルで確実な方法は「睡眠」「運動」「朝散歩」

・オキシトシン的幸福…「つながりの幸福」。これを手に入れるために有効なのは「パートナーとの交流やスキンシップ」「仲間との会話やコミュニケーション」「ちょっとした親切やボランティア、ペットとの交流」など

・ドーパミン的幸福とは「お金、成功、達成、富、名誉、地位などの幸福」。これを手に入れるためには「お金や物に感謝する」「自分にはちょっと難しい課題に挑戦し、自己成長を実感する」「ワクワクするようなことをする」「他者に与えるような行動をする」ことが有効

・この3つの幸福を手に入れるためには、必ず守るべき優先順位がある

   セロトニン的幸福(心と体の健康)

   オキシトシン的幸福(つながり)

   ドーパミン的幸福(お金、成功)の順

・自分自身の健康を軽視してお金や成功を目指すと、メンタルや体の疾患に陥ってしまう。家族とのつながりを軽視して仕事でがんばり過ぎると、家庭不和になり、幸せとは言えない

・セロトニン的幸福とオキシトシン的幸福を盤石にして、ドーパミン的幸福を積み上げていくことによって、結果として3つの幸福すべてを手に入れることができる

→これこそが「幸せの三段重理論」

Matsumoto City Museum of Art



2023年11月10日

「シンプルで合理的な人生設計」~後編

 

この本によると、スーパーで値札を気にせず買い物ができれば、それだけで幸福度が上がるという。

何を隠そう、この私もスーパーで値段を気にしたことがない。

豆腐、納豆、バナナ、カイワレ大根、ネギ、豚の小間切れ、豆乳、白菜の浅漬け。

たまたま好きな食べ物が、こういったばかりなものなので…

 

引き続き、橘玲著「シンプルで合理的な人生設計」ダイヤモンド社 を紹介していきます。

80歳まで生きるとして、人生はわずか4000週間。だからこそ、時間を上手に使うことが私たちの最重要課題になる。人生とは時間の使い方そのもの

・若者が映画を早送りしてまでタイパを最大化しようとするのは「友人との会話についていくため」。人間関係には大きなコストがかかるということ
→友だちを減らせば大量の時間資源(リターン)が生まれる

・睡眠や運動のように、無駄なように見えて実は重要な時間がある。それを考えれば1日に自由に使えるのは6~8時間しかない

→最小限のモノしかない家で暮らし、よい食材を使って適量のごはんを作り、テレビやインターネットから距離を置き、友人との人間関係も断捨離して、本当にやりたいもののために時間を使う

・選択をする必要が少なければ少ないほど、人生はより豊かになる

・選択を避けるもっともシンプルな戦略は、お金持ちになること。スーパーマーケットで値札をいちいち確認することなく、食べたいものを買い物かごに入れ、さっさと清算して店を出るだけでも、日々の幸福度は確実に上がる

・選択肢が多すぎると決められなくなり、幸福度が下がる。スーパーで6種類のジャムの試食に立ち寄った客の30%がジャムを購入したが、ジャムを24種類に増やすと、購入に結び付いたのは3%だった

・睡眠こそ、もっとも効果の高い成功法則。寝不足だと仕事や勉強のパフォーマンスが下がり、身体的な健康やメンタルヘルスを害し、アルツハイマー型認知症リスクが高まる。記憶や運動スキルの向上、イノベーションにも強く関係

→睡眠は最高の自己啓発

1970年代には「睡眠にはなんの役割もない」と大真面目に唱える学者もいた。だがラットを眠らせないと平均15日で死亡する

・認知症の最大の予防は、ちゃんと眠ること

・短期的な幸福(快感)と長期的な幸福(成功)はしばしば衝突する。成功とは多くの場合、短期的な快楽を抑制することで長期的な利益を最大化すること

・テーブルのおいしそうなケーキをほおばるのが短期的最適化。ダイエットや健康のために我慢するのが長期的最適化。短期的最適化の特徴は幸福度が高いこと。長期的最適化は面白みがないが、将来的には幸福度がもっとも大きくなる

Wall painting, Yokoami Tokyo Japan


 

2023年11月3日

「シンプルで合理的な人生設計」

 

「シンプルで合理的な人生設計」 橘玲著 ダイヤモンド社

この人の本は毎度「それを言っちゃーおしまいよ!」の連続なのだが、最新の知見が含まれているので、つい読んでしまう。一部を紹介します。

 

・ビールは最初のひと口がものすごくおいしいが、2杯め、3杯めとお代わりするにつれておいしさが減っていき、最後は惰性で飲むようになる…「限界効用の低減」。同じ相手とのセックスの限界効用も低減する

・お金の効用も低減する。日本で持ち家と別に1億円の金融資産があると、それ以上貯蓄が増えても幸福度は上がらない→「1億円」が老後不安から解放される基準になっているから

・もっとも効果的に幸福になる方法は、お金持ちになること。年収や資産を増やすことはドラッグやギャンブルで一時的に幸福度を上げるような副作用もないし、短期的な効用だけでなく長期的にも人生によい影響を与える

・幸福になるための方法は星の数ほどあるが、「お金持ちになる」ことほどシンプルかつ効果的な戦略はほかにない→幸福になりたい人が真っ先に取り組む課題は金融資産を大きくすること

・自由とは哲学的・心理的な問題ではなく、自由に生きるための経済的な土台を持っているかどうかで決まる

・「あなたは友だち5人の平均である」はネットワークの科学の常識。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグ、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンと友だちなら、あなたは成功者で大富豪

・問題は因果関係を逆にして、大富豪になるためにこの5人を友だちにすることはできないこと。友だちはあなたが一方的に選ぶのではなく、あなたが友だちに選ばれなくてはならない

・ヘヴィメタルとクラシックのファンはおそらく友だちになることがない→音楽の好みがパーソナリティを反映するから

・友情の維持に必要な時間資源は有限。友人の数が多い外向的なタイプは1人に多くの資源を割くことができず、付き合いが表層的になってしまう

・アメリカでは支持政党による同類婚が進んでいる→夫がトランプ支持なら、妻がバイデンを支持していることはない

・同じ学歴同士が惹かれ合う→アメリカのエリート白人男性は、白人で高卒の元チアガールより、自分と同学歴の有色人種の女性と結婚する

・中国で広く普及しているアリペイの「芝麻信用」はユーザーの信用力を点数化しているが、その基準のひとつが友だちのネットワーク。信用力の低いユーザーとつながっていると自分の信用力も下がってしまう
→中国では誰もが点数の低い友だちを切り、点数の高い友だちとつながろうとするようになった

Tateshina Japan, Autumn 2023


2023年10月26日

ハーブガーデンにて

緩和ケア病棟で働き始めてしばらくの間、患者さんはみな7090歳代だった。

最近、出勤してナースステーションのボードを確認すると、50代の患者さんも見かける。

自分より年若い患者さんを看取った日は、どうしても「不条理」とか、「理不尽」とかいった感情が残る。

 

C子さんも、まだ50代前半。手編みの帽子を目深にかぶり、やせた顔の中で目だけが大きく光っている。

残暑が和らいだ日の午後、C子さんを車いすに乗せてハーブガーデンを散歩した。遠く八ヶ岳連峰がぜんぶ見える、素晴らしい秋晴れだ。

C子さんは、ちょっとこの地方にない珍しい名字を持っていた。離婚して、別れた夫の名字をそのまま名乗っているとのこと。息子がひとり。

「ミヤサカさんは、ご家族は?」

と聞かれたので、3年前に妻と死別したことを話した。

(微妙な話題だが、患者さんに聞かれれば隠さず話している。時にはその場が、妻が最期の日々を送った507号室だったりもするが…それは言わない)

「そう、3年前…」

C子さんはしばらく黙っていたが、さらに妻のことを聞きたがった。

私「妻がキッチンに立てなくなってから、3食ぼくが作ったんですよ。そうしたら『間違っても、あなたの手料理をお客さんには出してくれるな』と言われちゃって。よっぽど不味かったんだろうなぁ」

C子さん「…それは違うよ。きっと奥さん、ミヤサカさんの手料理は自分だけに作って欲しかったんだよ!」

逆に励まされた。

うーん…そういう考え方もあるのか…きっと違うと思うけど…

わが病院が誇る緩和ケア専門医&看護師チームが、彼女の痛みを完璧に取り除いたようだ。C子さんは、

「ここは楽しい。とても自分が入院しているとは思えない。病院じゃないどこかにいるような、不思議な気持ち」

と言ってくれた。

ある日、明後日退院する、とC子さんがいう。

体も心も、十分に休めることができた。新しい治療を始める意欲が湧いたから、別の病院に移る、と。

お看取りが多いこの病棟で、この人は生きるために退院していく。

退院当日は非番なので、夕方、サヨナラを言いに病室を訪ねた。

C子さんはいつもの帽子をかぶって、気持ちよさそうに寝ていた。 



2023年10月19日

優しきヤンキー・ナース

 

細身のナースYさんが、患者さんをベッドごと病室から出そうと格闘している。

その枕元には、黒光りする重い酸素ボンベが。

ナースYさんを手伝って、ベッドを押した。廊下を通って屋上庭園に出ると、いきなり真っ青な秋空が広がる。遠く、霧ケ峰の優しい稜線も見えた。

「わぁ気持ちいい! 外の空気を吸うのは久しぶり!」

ベッド上で、顔半分を酸素マスクに覆われたK子さんの目元がほころんだ。

 

その朝も、ふたりがかりでK子さんをレントゲン室に運んでいた。

病室を出る時、ナースYさんが酸素ボンベをセットして、ダイヤルを無造作にMAXまで回した。

内心げっ…となった。

K子さんは、かなり容態が悪いということだ。何かのトラブルで酸素を絶たれたら、1時間も生きられないだろう。

レントゲン検査は30分で終わったが、病室に戻った時、酸素ボンベは空になっていた。

 

K子さんの担当看護師、ナースYさんは、ちょっとヤンキーなヤンママだ。

かわいい2歳の娘を育てながら働く。

「今日は501号(室の患者)をフロに入れなきゃなー!」

乱暴なものの言い方。ナースステーションから廊下にまで聞こえそうな、野太い声。

あまり白衣の天使っぽくはない。

 

朝礼の時、夜勤明けのナースがこんな申し送りをしていた。

「巡回の時、K子さんに『壁のカレンダーをもっと見やすい位置にして』と頼まれました。『私にはカレンダーしか見るものがないから…』って」

酸素のチューブにつながれて動けないK子さん、カレンダーの風景写真だけが慰めなのだ。

屋上庭園を満喫して病室に戻ったK子さんは、「ありがとう」「ありがとう」と何度も繰り返していた。

 

病状の重い患者さんの気分を少しでも変えようと、重いベッドごと屋上庭園に連れ出すナースは、顔ぶれが決まっている。

揃って、ちょっとコワモテのナースたち。

人の内面のやさしさは、見かけでは測れない。


 ※緩和ケア病棟のナースは、16人全員が女性。私の観察では、不愛想なおじいちゃんより、可愛いげのあるおばあちゃん患者の方が、明らかにケアが手厚い。自分がお世話になる日に備えて「可愛いおじいちゃん」を目指そうと思った。



2023年10月14日

多国籍高校生

 

「明日バーベキューやるから来ない? フランスの女子高生も来るよ」

ご近所さんから、LINEでお誘いが。

やばっ! 子どもの頃フランスにいたのに、ちっともフランス語を話せないのがバレる。

…それでも誘惑には勝てずに、ノコノコと出掛けて行った。

 

すらりとした長身、金髪、よく笑う16歳のアメリさん。

よくよく聞いてみると、「フランスの女子高生」とひと言ではくくれない、かなりユニークな生い立ちの人だった。

お父さんはフランス人。

お母さんはチェコ人。

一家4人でドイツに暮らす。

その自宅はフランス国境にほど近く、彼女が通っている高校の授業はドイツ語とフランス語のバイリンガルで行われる。

放課後、家に帰れば、お父さんとフランス語、お母さんとはチェコ語で話す。

そして家族全員が揃った夕食の席では、共通語としてドイツ語を使う。

私「な、なんてフクザツな!」

ア「そう、私も時々混乱します。自分はいま何語を話してるんだろう?って」

当然のように、アメリさんは英語も流ちょうに話す。

これから1年間、交換留学生として愛知県の高校に通うアメリさん。すぐ日本語も話せるようになるのだろう。

アニメ好きなアメリさんは、留学先に日本を選んだ。

お兄さんはコスタリカに留学中だという。

グローバル家族!

 

フランスとドイツは、78年前まで戦争をしていた。

1992年にEU(ヨーロッパ連合)諸国が統合。

フランス・ドイツ間の国境も開かれて、人の往来が自由になった。

いまフランスとドイツが戦うのは、もっぱらサッカースタジアム内限定だ。

これから国境をまたいだ人の往来がますます盛んになり、アメリさんのように多彩なルーツを持つ人が地球規模で増えれば…

そのうちこの世界から戦争がなくなる、かも知れない。

 

アメリさんはフランス人だが、実はドイツ人でもある。

仏独2つのパスポートを持っているという。

Pokhara Nepal, 2023


2023年10月6日

ポカラの旅行代理店

 

この春、ネパールを旅した時のこと。

ポカラからカトマンズに戻るために、ネットで飛行機を探した。

イエティ航空が時間帯も便利で、料金も安い。

待てよ。イエティ航空はつい2か月前、同じカトマンズ~ポカラ間で墜落事故を起こしている。

でも、落ちたばかりのエアラインは性根を入れ替えるから、かえって安全ともいう。今回はこの説を採用しよう。

ところが、イエティ航空の予約画面で延々と個人情報を入力し、やっとたどり着いたクレジットカード決済ページで、何度やってもエラーになる。

どうやら海外発行のカードは受け付けないらしい。やれやれ。早く言ってよ。

ネット予約をあきらめて、財布を持ってポカラの街に出た。

 

小さな旅行代理店を見つけて入ると、女性オーナーのGitaさんが、さっそく端末を叩いてくれた。

「最近みんな旅行の手配をネットでやっちゃうからヒマでヒマで……あなたはどこから来たの?」「日本です」

いきなり手が止まった。

「まぁ! 私の息子が軽井沢の高校に留学してたのよ! 夫と一緒に卒業式に出てきたばかりなの」

そして再び、すごい勢いでキーボードをたたき始めた。

やがて画面に現れたのは、「新緑の軽井沢をバックに、サリーを着て満面の笑顔のGitaさん」「東京の観光名所で笑顔のGitaさん」「京都の神社仏閣で笑顔の…」

その時の写真を何十枚も見せられた。

「日本は本当にすばらしい国。ネパールが追いつくには100年かかるわね」

軽井沢の高校を出た愛息は、現在アメリカの大学で学んでいるという。

Gitaさん一家の未来は明るいですね!」

と励ますと、やっと本来の業務に戻ってくれた。

私「あのー、やっぱり安全を考えたら、ブッダ・エアやシュリー・エアの方がいいでしょうか…」

Gita「ネパールのエアラインなんて、どこも同じよ!」

 

数日後、「落ちたばかりのエアラインはかえって安全」仮説は見事に証明され、何ごともなくカトマンズに到着した。空港からタクシーで市内に向かっていると、ケータイが鳴った。

「ハロー? Gitaです。今どこ? 無事に着いたの?」

安否確認のサービス付き…⁈

実は、かなり心配だったのね。

Pokhara Nepal, Spring 2023


2023年9月29日

悪夢の社員旅行

東京の会社で働いていた時の同僚Fさんが、近所にセカンドハウスを買った。

森の小径を歩いて10分ほどの、目と鼻の先だ。以来、ひんぱんにBBQパーティーに呼んで頂いている。

Fさんは当時、女性報道カメラマンの草分け的存在だった。彼女が若くして退社して以来ご無沙汰していたが、ここ信州で30年ぶりに交流が復活。

こんなこともあるんだなぁ。

 先日のBBQでは、当時の社員旅行の話が出た。

「あれはひどかったよね~」「本当に!」

その会社では、社員旅行をなぜか海軍用語で「全舷」と呼んだ。

泊まりがけで有名温泉地に繰り出し、夜は大広間に一同会して、飲めや歌えの大宴会。酒の席では無礼講とばかり、浴衣をはだけた上司が醜態をさらした。

しかも女子社員がいる前で、平気でコンパニオンをはべらせる。

私は目撃してないが、ストリップが演じられた年もあったという。

女性陣はたまらず別室に避難。まとも(?)な神経を持つわれわれ若手男子社員(←当時)にとっても、全舷は拷問だった。

しかも家族に不幸でもない限り、不参加は許されない。休日召し上げ。

ある年、全舷当日に宿直で会社に残ることになった。合法的に?行かなくて済むと知った時は、思わずバンザイ三唱した。

 

信じがたいことだが、この世の中には、社員みんなが楽しみにしている社員旅行もあるという(以下、日経ビジネス電子版より抜粋)。

長野県伊那市の寒天メーカー、伊那食品工業では、国内と海外、毎年交互に社員旅行に行っている。

まず社員にアンケートを取り、会社がいくつか行き先を決める。いろいろな行き先の中から、社員が各自行きたいところを選び、班ごとに出発。

社員旅行のルールは、国内の場合も海外の場合も1つだけ。1回だけ班の全員が集まって食事をする。あとは全部自由行動。

でも意外にみんな集まって行動する。自分で選んでそうしているから、つらくない。

行き先ごとに作った15ほどの班には、さまざまな部署の社員が集まる。各班のメンバーは事前に集まってどこに行くのか、どのように行くのかなどを話し合う。言ってみれば部門横断のプロジェクトのようなもの。

社員が楽しんで参加し、他の部署の社員とも交流を深めることができる。

遊びに行っているのだから工場見学をする必要はないのだが、自分たちで見学先を探してきて勉強するケースも。

…確かに。こういう社員旅行なら、ぜひ参加したい! 

ちなみにこの伊那食品工業は、48年連続増収増益の超優良企業。

天下のトヨタも見学に訪れるそうだ。



2023年9月23日

ドンキは苦手だけど…

 

「ドン・キホーテ」が苦手だ。

狭い通路の両側に、ぎっしりと無秩序に積み上げられた商品群。

(一説によると、あの乱雑さは確信犯。「わざと」やってるらしい)

どんどんどん、どんき~♪ 騒々しいBGM

澱んだ店内の空気。

人混み。

人の多いところが苦手で、いつも寂れたスーパーを選んで最短時間で買い物を済ませる私にとって、ドンキでのショッピング体験は罰ゲームそのものだ。

ところがこの「ドン・キホーテ」、34期連続で増収増益を達成。いまや日本の小売業で売上高第4位だという。

8年前にシンガポールに移住した「ドン・キホーテ」創業者兼最高顧問・安田隆夫氏のインタビューが、日経ビジネス電子版に載っていた。

さすがは高成長企業のトップ、いいこと言うなぁ。

ドンキは好きじゃないけど。

記事の一部を紹介します。

 

・うちはメイトさん(アルバイトやパート)の意欲とレベルが高い。社員以上に、時給で働いている人たちのほうが一生懸命やっている。それは、最大限の誇りと自己承認(欲求)をかなえられる仕組みができているから

・ドン・キホーテで働くということは、その地域に住む自分の親類縁者、知人がみんな来るということ。うちの場合、メイトさんに直接、仕入れる商品を選んでもらっている。それは社会的承認の集大成

・性善説に基づいて任せてしまえと。1から10まで、とことん丸投げしてみようと。現場への徹底した権限移譲がある

・私自身も死に物狂いで、工夫を凝らして仕事をしてきた。(社員を)同じような環境に置いたら、人間って変わるんじゃないのかなと思ったら、案の定、変わった

・アジアでは「DON DON DONKI」という店舗を増やしている。日本のドン・キホーテとは違う、日本産品に特化したスペシャリティーストアだ

・日本の食は、「第2の自動車産業」になり得るほど期待できる。でも世界の日本食レストランのほとんどが外国人による経営。寿司にしても、ここまで世界的なコンテンツになっているのに、日本企業が活躍し切れていない

・縮む日本人の胃袋にいくら売ろうとしても、たかが知れている。海外で売らない限り何にもならない。だから「DON DON DONKI」を通じて、日本の農畜水産物の輸出を広げていこうと試みている

特に米を海外に売らないと、日本の里山風景が根底から崩れ去ってしまう

Darumasanga-koronda! in Yatsugatake, 2023


2023年9月15日

日本にジョブズがいた時代

 

「戦前の大金持ち」 出口治明編 小学館新書

昼休みに勤務先の病院の図書室で、たまたま見つけた。

この本によれば、明治から昭和初期にかけての日本は、今よりずっと自由闊達な社会だったようだ。

何しろ当時は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ並みの起業家がゴロゴロいたというのだ。

例えば、梅屋庄吉(18681934)。

梅屋は14歳の若さで上海に渡り、のち香港とシンガポールで写真館を経営。当時最先端のメディアだった映画ビジネスに着目し、巨万の富を築く。

そしてその金を、「辛亥革命」で清朝を倒そうとした孫文に惜しみなく送金した。欧米列強によるアジア支配に立ち向かうために。

「革命プロデューサー」だ。

例えば、薩摩治郎八(19011976)。

薩摩は19歳でイギリスに留学。のちフランス・パリに渡り、「バロン薩摩」として社交界デビュー。実家の木綿問屋が稼いだ金で豪遊しまくった。

彼が1920年代の10年間にパリで使った金は、現在価値で800億円に上るという。

そして豪遊の傍ら、画家の藤田嗣治らパリ在住の日本人芸術家を、パトロンとして支えた。

例えば、土倉庄三郎(18401917)

“吉野の山林王”と呼ばれ、林業で莫大な富を築いた土倉。女子教育にも熱心で、次女を7年間、明治時代の奈良県川上村からアメリカに留学させている。

また土倉は、薪として切られる寸前だった吉野山のサクラ3万本すべてを、大阪商人から買い戻した。その時の土倉の言葉が、

「いつか外国人が吉野山にサクラを見に来ることもあるだろう。その日までサクラを守らなければならない」

100年以上も前に、現在のインバウンド需要を予見していたとは!

 

この本の編者・出口治明自身も、インターネット生保を立ち上げた起業家だ。現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務めている。

出口は本書で、この国には今こそ梅屋や薩摩、土倉のような「型にはまらない日本人」が必要だと説く。そしてそのカギは、「飯、風呂、寝る」の生活から「人、本、旅」の生活への切り替えにあるという。

長い時間をかけて労働し、家と職場を往復しながら「飯、風呂、寝る」の生活を繰り返していては、イノベーションを起こすようなアイデアは生まれない。

早く家に帰り、空いた時間を活用して「人、本、旅」とたくさん触れ合うことが、サービス業が中心になった現代の日本人に合った働き方だ、という。

そして「そのために重要なのは、長時間労働をやめること」

Summer camp in Yatsugatake, 2023


2023年9月8日

現代人の脳は20万年前のまま

 

わが家は市街地から車で30分、標高差800mを登った森にある。

周りは、夏の別荘地。寒くなると、近所に誰もいなくなる。

今まで、こんな山奥にも新聞が届いた。でも、ついに販売店が音を上げた。「お宅への配達をやめます。今後は郵送でお届けします」と通知が来た。

それからは、月曜日の新聞が水曜日の午後に届くようになった。週末は郵便配達がないから、土曜日の新聞が翌週の水曜日に届く。

もともと、テレビは持っていない。

世捨て人生活も、いよいよここに極まれり…

 

遅いインターネット経由で読む日経ビジネス電子版に、「人類の体との脳は20万年前のまま」という面白い記事があったので、簡単に紹介します(筆者は長谷川 眞理子・前総合研究大学院大学学長)。

・私たち人類は約20万年前に誕生した。都市文明が発展したのは、あくまでここ1万年。19万年はずっと狩猟生活を続けてきた

・現代の先進国に暮らす人も、アフリカの農耕民族も、南米の奥地で狩猟採集を続ける人も、20万年前のヒトと遺伝子構成は同じ

20万年前のヒトの赤ちゃんをタイムマシンで現代に運び、先進国の家庭に養子として迎え入れれば、現代人と同じように育つはず

・変化したのはあくまで技術で、私たちの体や脳ではない。技術は皆に共有され、次の世代に引き継がれて改良を重ねていくから、速く進歩する。一方、人の感情や欲求は20万年前のまま

・人工知能(AI)が登場しているように、社会は技術の進歩によって変化する。生き物としての本来の人類と現代社会との大きな乖離が、精神疾患や生活習慣病などのひずみを生んでいる

・狩猟採集社会では、日の出と日の入りと季節の変化だけが生活のリズムを作る。人々は好きなように振る舞い、気ままに暮らしていた。今は時計とカレンダーに制御され、決まった時間に学校や会社に行き、決まった時間に帰る生活

・一日中座って勉強や仕事に向き合うのは人間本来の姿ではないのに、そうした現代社会の枠にはまることができない人は、精神疾患があると見なされる

・狩猟採集社会では砂糖や塩、脂肪はなかなか手に入らなかったから、食べられるときに多く摂取できるよう「おいしい」と感じるようになった。現代は食べ物が豊富なので歯止めがかからず、生活習慣病になってしまう

・環境が早く変化しすぎたせいで、人類の方が追い付いていない

・私たちの体と脳は20万年前のまま、という視点を持つべき。技術が生み出した現代社会との間に生じるギャップをつぶさに見ていけば、対症療法ではなく、より自然で根本的な解決策が見つかるはず

Chino Japan, summer 2023


2023年9月1日

サマキャン点描

 

都会育ちの小学生が、八ヶ岳の森でテント生活を送るサマーキャンプ。

この夏も、各コース25人が6回に渡って、引いては寄せる波のようにやってきた。

・酷暑の東京から、涼風吹き渡る森に降り立ったリュウヤ(小4)。

とっても嬉しそうに発した第一声が、

「とりあえず、塾の宿題から逃げられた!」

そこですか…

・3班の班長に指名されたカンタロー(小5)が自己紹介で、

「サマーキャンプでいちばん楽しみなのは、おみやげタイムです!」

なんの忖度もなく、宣言した。

確かに、霧ケ峰をハイキングした後、売店でおみやげを買う時間が設けられているのだが…

あなたは…そこですか…

・ハイキングの朝、山頂で食べるおにぎりを子どもに配った。すると、

「塩おにぎりしか食べられないのに、塩おにぎりがない!」

「買ったおにぎりは食べられない!」

という抗議の声が上がった。いずれも女子だ。

買ったおにぎりが食べられない? 添加物が心配なのかな。

「じゃあ今朝のロールパン持っていく?」(スーパーで買ったやつだけど)

「うん、それなら持ってく!」

要するに、ごはん好きの子が多い中で、数少ないパン党なのね。

・下山後のおみやげタイムは、予想以上の盛り上がりを見せた。品物をお小遣いの範囲に収められない子が続出。われわれスタッフがレジ前に陣取って、電卓片手にひとりひとり、合計金額を計算することになった。かなり忙しい。

そこにサクラコ(小1)が、「コアラのマーチ」やポテトチップスなど、どこでも買えるようなお菓子を両手に持って現れた。

「サクラコちゃん、それ自分用でしょ! おみやげっていうのはね、パパやママに買うものなんだよ」

「……」「……」

サクラコ、あくまで無言で押し通す。

その鉄の意志に、降参。

・「パパとママにはおみやげ買うけど、おねえちゃんには絶対に買わない。大っきらいだから」(マナカ・小5)

そういうお年頃なんだね。

そのうち変わるさ。

・おみやげに冷感タオルを選んだのは、コウキ(小1)だ。

「暑い中、キッチンカーで働いてるママにあげるんだ」

…ほっこり。



2023年8月25日

格差は心を壊す(続)

 

八ヶ岳中腹の森に中古別荘を買って8年、定住を始めてから3年。

ふだん静かな森は、都会の猛暑を逃れてきた人々で賑わっている。

この時期の別荘地は、首都圏や名古屋、関西ナンバーのベンツ、BMW、アウディ、レンジローバー、ボルボ…大きな外国車が幅を利かせる。

森から15分ほど下った農協スーパー駐車場では、一転して地元ナンバーの軽自動車が多い。

そしてわが愛車は、中古のホンダ・フィット。湘南ナンバー。

見よ!この絶妙のバランス感覚。

 

「格差は心を壊す~比較という呪縛」 R・ウィルキンソン&K・ピケット著 東洋経済新報社 今回は、この本の後半部分を紹介します。

25万年前、人類が大型動物の狩猟方法を発見した時から平等社会が普及した←1家族が食べきれないほどの肉を分配する必要が生じたから

・3~4歳の子どもは自己本位で行動するが、その後、不平等を避けようとする感情が発達する。7~8歳になると自分にとって不利になることでも、平等なやり方で物が分配されるのを好むようになる(受け継がれた遺伝子)

・不平等な社会ほど、子どものいじめが激しい←いじめは権力を巡る争い。動物の支配社会と人間のいじめ社会は構造的に似ている

・不平等な社会の女性は、平等な社会の女性に比べて男っぽい顔の男性を好む。格差社会では、男っぽさが序列社会での出世に有利に働くと考えるから

・平等な社会では、共同体から受ける社会的プレッシャーによって、人は利他的で思いやり深く、親切になりがち

・しかし身分格差の大きな社会では、他人から認められたいという同じ欲求は、自己の出世、優越感、低い身分による不名誉は避けたいという、全く正反対の願望によって相殺されてしまう

・所得格差が小さい国では、人々が博物館、美術館、劇場を訪れる回数が、不平等な国より2~3倍も多い。不平等な社会では、芸術は富裕層の独占領域とみなされてしまう

・所得格差と、刑務所に収監される人の割合は相関する。平等な国は1万人当たり約4人。不平等な国は1万人当たり約40人。不平等な社会ほど、犯罪に対する世論が不寛容になり、軽い犯罪でも収監され、長い刑期が言い渡される

・厳しい処罰は、犯罪への不安の高まりや犯罪者への思いやりの低下を反映している。不平等社会ほど、お互いを信頼しなくなる

・所得格差が広がるほど、警備サービス部門(警備員、警察官、看守など)で働く労働者の割合が増加する

・不平等な社会では、人々がコンプレックスを紛らわすために、地位を誇示するためのブランド商品をたくさん購入する。自分は成功者だと見栄を張るために多くのお金が必要になり、長時間の労働や借金を積み重ねていく

Summer camp in Yatsugatake, 2023


2023年8月18日

サマーキャンプ!

 

毎年夏のお楽しみ、サマーキャンプ!

猛暑の東京からバスに揺られて、25人の都会っ子が八ヶ岳にやってきた。

山登り、オリエンテーリング、木登り、ボルダリング、ドラム缶風呂、流しそうめん、BBQ…盛りだくさんな、3泊4日のテント生活が始まる。

今年は、どんな子がいるのかな?

 

自分のことを「ボク」と呼ぶ、変顔が得意なアキ(小2女子)。霧ケ峰の最高峰・車山山頂では、お菓子を忘れた別の班の子に、「一緒に食べよう!」と、自分のおやつを分けていた。

最終日の博物館見学で、アキが「ボクのカメラがない」と騒ぎ始めた。あちこち探しても見つからず、ついに泣き顔に。

その時、いつも冷静なチホ(小4)が、つと歩み寄った。

「ここにあるんじゃない?」

なんとカメラは、アキが手から提げている帽子の中から発見された。

頼むよ!アキちゃん。

 

カンタロー(小6)は、サマーキャンプ2度めの参加。しかも4人きょうだいの長兄だけあって、リーダーシップが半端ない。

テント設営や焚火の火起こしを、下級生の面倒を見ながら、率先してやってくれる。自分の自由時間まで使って、BBQのための小枝を集めてくれる。

リーダーの私の出番、ほぼなし。

私の時給を、カンタローにあげたい。

 

ナサの大好物は、パクチーと紫蘇の葉だ。小2にして、なんて成熟した味覚。

でも、みんなで火をおこし、野菜を刻んで作った素朴なBBQやカレーライスを、ナサはおいしそうに食べた。スパイスは、森の空気か。

キャンプ中にナサと交わした交換日記で、

「なさはマンガかになろうとおもったけど、ミヤさんのしごともいいとおもいました」と書いてくれた。

うれしいね。

 

ネイト(小1)は、「軍手をなくした」といっては泣き、「ひとりじゃ怖くてトイレに行けない」といって泣く。おいネイト、まだ昼間だよ。

午後になると、「一日が長すぎる~」といって泣いていた。

泣き虫ネイトは、実はトンボやバッタ、カエルを素手で捕まえる名人だった。いちいち戦果を見せに来るので、そのたびに、思いっきり褒めた。

すると最終日、

「家にも帰りたいけど、もっとここにもいたい。どうしよう、決められない~」

またもや半泣きになっていた。



2023年8月11日

一期一会

 

たとえ空調完備の病院でも、重病の患者さんに今年の夏は過酷だ。

1週間の間に、緩和ケア病棟に入院中の4人が、相次いで亡くなった。

 

Sさんは、差額ベッド代がいちばん高い個室の主だった。

元気なころは、ずっと造園業にたずさわってきたという。

「バブル景気の時は、軽井沢の金持ちの別荘まで行って、1本10万円で庭の木を切ったよ。そりゃあ儲かったぞ」

坊主頭に、濃い眉毛。いかつい顔に似合わず、一杯のお茶にも「ありがとう!」と言ってくれる人だった。

Sさんには、年の離れた美しい女性が、しょっちゅう見舞いに訪れた。外泊許可を取り、Sさんを車いすに乗せて温泉に連れ出し、数日して戻ってくる。

そんなことが、何度か繰り返された。

最後に病院に帰ってきた時、Sさんの頬はげっそりこけ、ベッドに横たわると、もう起き上がる力もなかった。

女性が泊まり込みで付き添った翌日、Sさんは息を引き取った。知らせを受けた親族が到着する直前、女性は看護師に別の階段に案内され、去っていった。涙声で「ありがとうございます」と繰り返し、何度も頭を下げながら。

妻でも血縁者でもない女性がSさんに付き添うことに、病院側は戸惑っていた。でもSさんは、彼女から献身的な介護を受けるに値する、人間的魅力のある人だった。

 

Mさんは、私と同い年の58歳。病気のためか声を失っていて、いつもささやくように話す。寝たまま浴槽に浸かれる「機械浴室」の利用者が多い中、自力で風呂に入れる数少ない患者さんだった。

ある日、Mさんの担当ナースに「一緒にお風呂に入ってあげて」と頼まれた。Mさんは両足が腫れあがり、パンツを脱ぐときや浴槽をまたぐとき、手助けが必要になっていた。

「昨日までは、ぜんぶ自分でできたんだけどなぁ」

と、無念そうなMさん。それでも、

「この炭シャンプーいいですよ。女房がネットで取り寄せてくれたんです」

と言いながら自分で洗髪し、ドライヤーで念入りにヘアスタイルを決めていた。ほとんど何もしていない私に、入浴中12回ぐらい「ありがとうございます」と言ってくれた。

まさかその翌々日、Mさんが逝ってしまうとは…

 

この病棟では、いつ別れの時が来るかは、予測不能だ。

一期一会。

SさんとMさんのことは、きっと忘れないと思う。

Kuramae Tokyo, Summer 2023


2023年8月5日

格差は心を壊す

 

「格差は心を壊す~比較という呪縛」 リチャード・ウィルキンソン&ケイト・ピケット 東洋経済新報社 2020

まだ読みかけだが、前半の要点をメモしておきます。

 

・先進国の中で、富裕層と貧困層の格差が最も大きい米国では、殺人率、刑務所の収監率、精神疾患の割合、未成年出産率が最も高く、平均寿命、算数や読み書きの能力は最低か最悪の部類に入る

・逆に格差が小さい北欧諸国や日本は、これらの数字は上々

・経済成長は物質的な豊かさをもたらしてくれたが、逆に精神的な不安は高まる傾向にある。WHOの調査では、先進国は途上国より心の病の発症率が大幅に高い(精神障害の生涯有病率は米国55%、ニュージーランド49%、ドイツ33%、オランダ43%に対して、ナイジェリア20%、中国18%)

・給料に対する私たちの幸福感や満足度は、その給料で欲しいものが十分購入できるかどうかではなく、他人と比べて高いか低いかで左右される

・社会階層の底辺に位置する人ほど心の病に冒されやすい。つまり、心の病は社会階層の問題

・最貧困層の男性は、最富裕層の男性に比べてうつ病にかかる確率が35

・うつ病や統合失調症、自己愛癖は、社会の不平等化が進むほど共通に見られる現象。国全体の不平等化の拡大によって多くの人々が苦しむという極めて重大なコストが発生している

・不平等な国ほど統合失調症の発病率が高いのは、不平等な社会ほど社会的な絆が失われ、社会階層間の区別が厳しくなることが理由

・アンケート調査で、日本は米国に比べて「人生に満足している」「幸せだ」と答える人ははるかに少ない。米国では幸せかと聞かれれば、ともかくそうだと答えることが期待される→平等な社会で育てば外部に対してアピールする必要がないから

・自己誇示バイアスと所得格差の間には強い相関関係がある→不平等な社会ほど自己誇示が強まるという事実は、不平等が社会的評価への不安を高める結果、私たちは自分自身を実態より大きく見せようとしてしまう

・不平等の拡大によって社会的評価の脅威に直面した私たちは、不安症やうつ病に陥るか、それとも自己誇示や自己愛を支えにして必死に出世の階段をよじ登るかの板挟みに追い込まれる。こうした二者択一を巡る葛藤がいかに激しいかは、統合失調症や躁うつ病に苦しむ人々がしばしば誇大妄想に捉われることからも明らか

・ドナルド・トランプの頻繁なツイッターへの投稿は、自己誇示、冷淡、自制心の弱さ、自己愛、精神病質の特性を示している

↑笑える!

Taipei, summer 2023


2023年7月28日

週末の台北

 

看護師長が4週ごとに作る、緩和ケア病棟の勤務表。

新しい勤務表を眺めていたら…

おっ、5連休がついてる!

すかさず、台湾に行ってきた。

 

往復は、ネット検索で安かったキャセイ・パシフィック航空。

この香港ベースのエアラインは最近、客室乗務員が

「英語でブランケットと言えないなら、もらえない」

と中国本土の乗客を嘲笑し、その様子がSNSに流れて炎上したらしい。

そんな一件はあっても、機内サービスには定評があるキャセイ航空。満席の機内に乗り込むと、赤い制服の乗務員が、通路を小走りに駆け回っている。

「廊下は走らない!」と学校で習わないのかなあ。

同じ東南アジアのエアライン、タイ国際航空には200回以上乗ったが、乗務員が通路を走る姿には、ただの一度も出会わなかった。お国柄の違いか、それとも会社のカラーなのか。

どんなに忙しくても決して急がない、タイ航空の優雅さが好きだ。たとえ、着陸直前まで機内食にありつけなかったとしても…

機内は、かなり冷房が強かった。北京語も広東語も話せないので、小さな声で「毛布下さい」と英語で頼んだら、無事にもらえた。

 

久しぶりの台北は、とても暑い。

沖縄より南に来たんだから、まあ当たり前といえば当たり前だ。

台北在住の友人に、お粥専門店に連れて行ってもらう。最近こそ落ち着いている台湾だが、ペロシ米院内総務が来た時は、中国海軍にぐるりと包囲され、かなり怖かったという。

週末の西門や中山界隈は、相変わらず若いカップルや家族連れでにぎわっていた。人々のリラックスした表情、優しそうな眼つきは、前と変わらないように思えた。

ある時、道を歩いていて、はたと気がついた。

同じ方向に向かう台北市民老若男女、ほぼ全員に追い抜かれるのだ。

以前は、こんなことなかったのに。

台湾の人が気ぜわしくなったのか、自分がトロくなったのか。

認めたくないけど、たぶん後者だ。


 成田空港でも台北の空港でも、チェックインや出入国審査がとてもスムーズ。ワクチン証明もPCR検査も、もう何も必要ない。

この気軽さが、とても嬉しい。

Louisa Coffee, Taipei, summer 2023


自然学校で

  このところ、勤務先の自然学校に連日、首都圏の小中学校がやってくる。 先日、ある北関東の私立中の先生から「ウチの生徒、新 NISA の話になると目の色が変わります。実際に株式投資を始めた子もいますよ」という話を聞いた。 中学生から株式投資! 未成年でも証券口座を開けるん...