2026年9月18日

自分と向き合う

 

心理系大学院の何が大変といって、夏休み中も関係なく行われる集中講義と、次々と襲ってくるレポート課題の締め切り…

いやまぁ、それは想定内だとしよう。

個人的にしんどく思うのは、ロールプレイやワークで、日々自分の心と向き合わなければならないことだ。

精神分析の世界には、「人の心をケアする前に、まず自分自身の心の傷を修復しなければならない」という考え方がある。

親子関係や学校生活など、過去にあった出来事を振り返って「その時、何を感じたのか」「それが今の自分にどう影響しているのか」を探っていく。

時には、思い出したくないことまで思い出してしまう。

いやいや、「自分」と向き合うのが、こんなに大変な作業だとは…

 

天才的なイノベーターには、子ども時代に深刻ないじめに苦しんだ人物が目立つ。その体験は、イノベーターたちの思考や行動原理にどのような影響を与えたのか。

日経ビジネス電子版から、一部を紹介します。

・テスラやスペースXの創業者イーロン・マスクは子どもの頃、いじめっ子グループに学校で集団暴行を受け、顔面が血まみれになるほどの大けがを負って手術を受けた。執拗ないじめは長期間続き、何度か転校もしている

・親しい友人がいない孤独な少年だったマスクは、多数決や集団的な意見が常に正しいとは考えず、自分自身の判断を信じる思考を身につけた。「EV(電気自動車)は売れない」「再利用可能な宇宙ロケットは実現不可能だ」といった業界の常識を疑う姿勢は、孤独の中で生きてきた経験と切り離して考えることはできない

・アップル創業者スティーブ・ジョブズも、いじめを受けている。成績優秀で、1年飛び級で中学校に入学したジョブズは、同級生より体が小さいうえに生意気で、クラスメートは絶えず彼に嫌がらせをしたり、いじめたりした

・執拗ないじめに耐えきれなくなったジョブズは、両親に訴えて「転校させてくれないならもう学校には行かない」と主張。ジョブズの両親は、本人が安心して教育を受けられそうな地区を探して、新しい自宅まで購入した

・ジョブズも多数派の意見に従うのではなく、自分自身が「反逆者」であることを信条にした。自分の心の声に従って行動することを重視し、2005年の米スタンフォード大学の卒業式でも、「他人の考えに従って生きるのではなく、自分の心と直感に従う勇気を持とう」というメッセージを発信している

・悲惨ないじめを乗り越えた経験は、イノベーターたちの精神的な強さにもつながっている。自分のアイデアを周囲に否定され、味方になってくれる人がほとんどいなくても、自分の信念を貫き、成功するまで努力を続ける──。そんな精神的なタフさは、逆境において培われる

Summer Camp in Yatsugatake, 2026



2026年9月11日

AIを親友にしてはいけない?

 

大学院でレポート課題の下調べをしたり、統計ソフトに書きこむプロンプトを考えたり、修士論文で使う先行研究を要約したりする時。

無料で使える各種AIが、大活躍する。

多くの教員も、学生がAIを使っていることを知っている。「この研究にはこのAI」と、お勧めAIを教えてくれる教員も、いたりする。

残酷な締め切り期限が課されるレポート課題、膨大な関連資料の読み込み…

AIは、われわれ大学院生の大親友だ。

 

コロナ禍の時、台湾の初代デジタル担当相として大活躍した天才的プログラマー、オードリー・タン氏。

彼はAIの可能性を肯定的に見ながらも、「親友にしてはいけない」と言う。

日経ビジネス電子版の記事から、一部を紹介します。

2016年に囲碁AIAlphaGo(アルファ碁)」が、韓国のイ・セドル九段と対局して勝利した。当初はAIが人間の棋譜を学習していたが、その後AI同士の対局によって学ぶようになり、人間の囲碁の能力を上回るようになった

・すると両者の関係は逆転し、人間がAIから学ぶようになった

・囲碁で得点を最大化するといった、狭く定義された課題で一番になることに置いているような人は、AIの方が囲碁をうまく指せるようになると、がっかりするかもしれない

・しかし、人間が徒歩で馬と競争することに意味はない。馬と競う必要はなく、馬に乗ればいい。馬はスピードを与えてくれるが、進む方向を選び、旅に意味を与えるのは、依然として人間だ

・今年、日本で行われたイベントに登壇した。私は(AIを搭載するメガネ型の)スマートグラスをかけていたので、日本語で話す対談相手の発言を、視線を合わせたままで理解することができた。スマートグラスに英訳がリアルタイムで表示されたから

・私はこのようなAIを「支援的知能」と呼んでいる。こうしたテクノロジーは、人々の距離を近づけ、集団知を拡張してくれる。以前は理解し合えなかった言葉を語る人々が、スムーズに会話できて仲間のような一体感を得られるようになる

・最も重要なアドバイスは、AIが親友のような存在だと勘違いしないこと。多くの経営者は、質問を投げかけると、「私はこう思います」「あなたは100%正しい」「素晴らしいアイデアです」といったふうに答えるAIを使っている

・そうすると、実在する人間に自分が肯定されているように感じ始めるかもしれないが、それは幻想だ。AIシステムが役割を演じているにすぎない

・経営者は、AIとやり取りする際のスタイルを変えるべき。褒めたり、感情を表現したり、友達のふりをしたりしないような指示を追加した方がいい

Fort Kochi, South India 2026



2026年9月4日

声を上げる勇気

 

晩夏のある一日、心理学の集まりに参加し、自衛隊で性被害を受けたAさんの話を聞いた。

一時期、何度もマスコミで取り上げられた事件だ。闘う人のイメージに反して、素顔はごく普通の控えめな女性だった。

Aさんの幼少時、母親が大病を患い、「ひとりでも強く生きられるように」と、5歳から柔道を習い始めたこと。

小学生の時、東日本大震災に遭遇。公民館の床に段ボールを敷いて3か月、避難生活をしたこと。

災害派遣の女性自衛官の勇姿に憧れ、将来は自衛官になると決めたこと。

両親が離婚し、中学の3年間は新聞配達をして母を助けたこと。

大学を中退して陸上自衛隊に入隊。柔道が強いことで自ら希望した部隊は、実はパワハラ・セクハラの噂が絶えない、いわくつきの部隊だったこと。

男が大多数を占める環境で、口にするのも憚れるようなセクハラ行為を受けたこと。

先輩の女性隊員に相談すると、「私はもっとひどい目に遭った」と言って、取り合ってくれなかったこと。

孤立無援となり、心を病んで休職。自転車で車道に飛び出して死のうと思ったが、できなかったこと。

電源コードを首に巻き付けて首を吊ろうとしたその時、偶然、震度6の地震に遭遇。東日本大震災で生きたくても生きられなかった人がいたことを思い出し、立ち直るきっかけになったこと。

被害の刑事告訴を母親にも反対され、たったひとりで裁判所に出向いたこと。

法廷では、複数の加害者の正面に立って証言を求められ、フラッシュバックを起こして倒れ、救急搬送されたこと。

「あれだけの人数が事件を目撃していたのに、みんなウソをつく」ことに絶望したこと。

外国記者クラブで会見したことがきっかけで、「勇気ある女性」として欧米で表彰され、救われたこと。

判決が出る前は、「もし無罪だったら日本にいられない」と思いつめたこと。

有罪判決を勝ち取り、「私、まだ生きてていいんだ」と思えたこと。

裁判が終わっても、ひんぱんに事件のフラッシュバックに悩まされ、ずっと「いなくなりたい」気持ちだったこと。

最近、洋菓子を焼く店を開き、やっと普通の生活を送れるようになったこと。

そんなことを、淡々と話してくれた。

事件をきっかけに、Aさん自身も性被害を受けた女性からの相談を受けるようになった。そのたびに、心が削られるという。

最後に、

「心理職の方は、クライエントの幸せより自分の幸せを大切に」

という言葉を、我々に贈ってくれた。

Pondichery, South India 2026



2026年8月28日

命を救うショック療法

 

心理系大学院、夏の集中講義・第2幕のお題は「精神医学」。

日本のとある地方都市で働く精神科医A先生に、オンラインで3日間、みっちり教わった。

講義の合間に聞いた、現役の精神科医ならではのエピソードが秀逸だったので、いくつか紹介します。

 

「3・11」が起きた時、A先生は東北地方で働いていた。

運命の日の午後は、「まるで息をするように、口を開けば『死にたい、死にたい』と言う」20代の女性患者B子さんと、面接室で向き合っていた。

突然、グラッと大きな揺れが、2人を襲う。

とっさにB子さんの上に覆いかぶさって、床に突っ伏した。

その時。

「先生……私、死にたくない!」

腹の底から振り絞るような、B子さんの叫びが聞こえてきた。

その日を境に、B子さんの希死念慮は収まっていったという。

 

ショック療法その2。  ※虫が嫌いな人は閲覧注意です

A先生が、街はずれの精神病院に勤務していた時のこと。

自殺企図を繰り返す中学生C子さんを、両親と相談の上で入院させた。

C子さんは入院後も、ショルダーバッグの取っ手で首を吊ろうとしたり、シャーペンの先でリストカットしたり。

医師や看護師の目を盗んで、自殺企図を繰り返す。

やむを得ず、一時的に彼女を拘束器具で、ベッドにくくりつけた。

そして、その日の夜。

病院の周囲は田畑や雑木林が広がり、築ン10年の古びた病棟は、隙間からいろいろな虫が入り込んでくる。

よりにもよって、黒光りした一匹のGが、天井からポトリ…

ベッドで動けないC子さんめがけて、落ちてきた。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」

Gのお陰で、生きる実感が得られたか。

その日を境に、C子さんの自殺企図はピタリと収まったという。

 

以前、A先生が主治医をしていた別の中3女子は、双極症Ⅰ型(躁うつ病)。

彼女が躁状態の時は、いつも中森明菜「DESIRE」ばりの奇抜な着物姿で、診察室にやってきた(←この描写を聞いたクラスメートの20代女子は、皆ポカンとした顔をしていた)。

A先生の見立てでは、「徹子の部屋」であちこち話題が飛びまくる黒柳徹子さんは「間違いなくADHD」だそうだ。

(精神科医A先生のお勧めTVドラマは、いま話題のTBS系「Tシャツが乾くまで」でした)


※写真と本文は関係ありません

Summer camp in Yatsugatake, 2026




2026年8月21日

ファミリーセラピー怖い

 

「明日の授業は、かなりメンタルに負荷がかかりますよ」

心理系大学院、夏の集中講義初日。

95分×5コマの授業を終えたY先生が、とても不吉なことを言った。

東京からわが校に出張してきたY先生は、「家族療法」の専門家だ。

セラピストと患者が1対1で行う普通の心理面接と違って、家族療法では家族全員が治療対象になる。たとえば不登校の子どもを「患者」とした場合、不登校の原因は子ども本人ではなく、家族それぞれの関係性にあると考える。

誰の責任も問わず、悪者探しもしないセラピー。とても魅力的な考え方だ。

そして、翌日。

円環的因果律、システム・サイバネティクス、ミラノ学派、社会構成主義、ソリューション・フォーカスト・アプローチ…

淡々と家族療法の理論を説いていたY先生が、

「私は話し疲れたので、今から皆さんにロールプレイをやってもらいます」

と言った。

ホワイトボードに書き出した家系図を眺めながら、患者(とされる人)が家族に向けている感情を解き明かしていく「ジェノグラム・インタビュー」をやる、という。

「それでは、患者になりたい人は手を挙げて!」

しーん…

そうだよね、誰もやりたくないよね。

仕方ない、ボクが生贄になってあげよう。

まずクラスメートのW子さんが、私の言葉通りに、私と亡くなった妻の家計図を親子3代ずつ描いていく。

それから延々3時間、Y先生のインタビューを受けた。

それは、ロジャーズの来談者中心療法のような受容的セラピーとは全く違う、容赦ない質問の連続だった。

ああ、同級生の面前で、ボクのプライバシーが丸裸に…

一夜明けた翌日。

「昨日はY先生にかなり深掘りされてたけど、大丈夫ですか?」

クラスメートが気遣ってくれた。

実際、幼少時のトラウマ的な記憶を掘り返されたときは、ほとんど泣きそうだった。

やがて教室に現れたY先生、

「昨日はつい遠慮して、いつもは聞くことを聞かなかったなぁ」と言う。

「それは例えば、どんなことですか?」

「例えば、パートナーとのセックスの頻度とか…」

「エーッ」

そりゃ、人生と「性」は、切っても切り離せないものだけど…

そりゃ、カップルセラピーでは必要な要素かも知れないけど…

そんな質問、みんなの前で答えられるわけねーだろ!

Fort Kochi, India 2026



2026年8月14日

受話器の向こう側


 やっと終わった~!

鬼門の「心理統計法特論」期末レポート課題。

大学院の期末試験は、教室でテストを受ける代わりに、2週間かけて長文レポートを書くのです。

そしてその締め切りが、お盆の真っ最中。

途中で他の集中講義も挟まるから、夏休みなんて絵に描いた餅だ。

統計法の期末課題で私が選んだのが、「175カ国117,293人の参加者による、恋愛とパートナー選好に関する異文化間データ」。

その膨大なデータの中から「性別」と「浮気の経験の有無」の組み合わせで尤度比検定を行い、x²分布による近似計算法でP値の評価を行った。

統計解析用のプログラミング言語「R」を駆使し、クロードさん、チャッピーさん、ジェミニさん、副操縦士さんら生成AIの助けも借りて(←教授にはナイショ)、なんとか締め切り前日にレポートを仕上げた。

こう書くと、いかにも統計を理解しているように聞こえるが…

実は、最後までよーわからんかった。

このレポートが書けたのは、休日のスターバックスで、一杯のフラペチーノと引き換えに手伝ってくれたクラスメート(中学時代から交際している彼氏を尻に敷いて君臨する女王、Hさん)のお陰だ。

それにしても、まさかこの年で統計解析言語と格闘することになるとは、ね。

 

心理系大学院の数ある実習の中で、最近始まったのが「電話相談実習」。日常の悩みや不安、こころの健康に関する相談を電話で受け付ける、その受け手を務めるのだ。

受話器の向こう側は統合失調症の患者さん、「死にたい」と訴えてくる人、ひたすら「もやもやする」を繰り返す人、1時間に30数回ワン切りコールする強迫神経症と思われる人など、さまざま。

相談員を務める修士2年の先輩たちの受け答えは、手慣れたものだ。

こんなこと、果たして自分にできるのか?

今のところは陪席で済んでいるが、夏休みが明けると、いよいよ我々1年生の出番だ。

…不安が募る。

午後7時に実習を終え、引き続きスーパービジョン(指導教員による振り返り面接)を受けた。今夜のスーパーバイザーは、メタルフレームの眼鏡が似合う、知的美人のO先生。各事例を丁寧に聴いて、的確なアドバイスをくれる。

1時間ほどで、スーパービジョンも終了。

研究室の壁に停まった蚊を右手の一撃で仕留めながら、O先生がつぶやく。

「実は…私も寂しい真夜中、つい電話相談にかけちゃうのよね。『こんな時間にスミマセン~』なんて言いながら」

せ、先生…

ダ、ダイジョーブ?

                          ※写真と本文は関係ありません

Summer camp, Nagano Japan 2026




2026年8月8日

サマーキャンプ


我が家から峠道をクルマで少し登ったところに、NPOが運営する自然学校がある。

毎夏、2泊3日で行われる小学生のサマーキャンプを手伝う。

今年はやけに子どもが少ないなと思ったら、クマ出没の風評被害で、参加者のキャンセルが急増したのだという。

この辺、クマは出ないんだけどな。

東京の親にしてみれば、長野県内はどこも同じか。

私は今年も木登り担当。

木登りといっても、岩登り用ロープとハーネス、ヘルメットを着用して、高さ10m以上のカラマツを登る、本格的な「ツリークライミング」だ。

3mも登らないうちに「怖いよ~!」と大泣きしていた子が、2度目のトライで見事に完登! 成長した子どもの笑顔を見るのは、いつも楽しい。

初対面なのにベタベタまとわりついてくる子に、「この子は無秩序型愛着スタイルの脱抑制型対人交流症なのかな?」と思ってみたり、果ては虫かごの中で蠢くクワガタにまで「こいつ、注意欠如多動症に違いない!」と思ってみたり。

ふだん朝から晩まで心理学漬けになっているせいで、脳内が、かなりヤバいことになっている。

他のクワガタの下敷きになってもがくADHDクワガタを観察していたら、横から

「この子、いじめられてかわいそう…」という声が。

自然学校スタッフのエイコさんが、クワガタをつまんで、別の虫かごに移し替えた。

小学生ばかりか、クワガタにまで優しい気配り…

これぞ自然学校スタッフとして、いや人として、あるべき姿だ。

いや~、気をつけないと!

Summer camp in Yatsugatake, 2026



自分と向き合う

  心理系大学院の何が大変といって、夏休み中も関係なく行われる集中講義と、次々と襲ってくるレポート課題の締め切り… いやまぁ、それは想定内だとしよう。 個人的にしんどく思うのは、ロールプレイやワークで、日々自分の心と向き合わなければならないことだ。 精神分析の世界には...