2026年5月15日

心理学者のイギリス

 

第一志望校に3連敗して入ったこの大学院に、奇跡が起きた。

私が入学した4月に、PCA(クライエント中心療法)のビッグネームが、他大学から移ってきたのだ。

実はワタクシ、目指すはPCAのカウンセラー。

予備知識もなく入学した第二志望の大学で、こんな幸運に巡り合うとは…

そして他の教授陣も、京大出身のユング派分析心理学者ロールシャッハ・テストの第一人者長年子ども臨床の最前線で活躍してきた人などなど、期待以上の顔ぶれ

これまで高校も大学も就職先も第一志望に落ちてきたが、今回も第一志望に落ちて本当によかった!


イギリスの大学院で心理学の学位を得た先生も、2人いる。

そのひとりK先生は、ジョン・ボウルビィなどの心理学者を輩出したタヴィストック・クリニック週4回の精神分析を、3年間にわたって受けた。

カウチに寝た状態で行われる、本格的な自由連想法だ。

もし自分が受けたら、無意識の中身を丸裸にされてしまいそうで、怖い。

ある意味、とても厳しい訓練だ。

K先生に感想を聞くと、淡々とした口ぶりで、

自分の何かが大きく変わったということは、特になかったなぁ

「でも、こんなに私の話を熱心に聞いてくれる人がいる、と感動しましたよ」

「帰国したら、奥さんに優しくなったかな」

うん、学生にも優しくなった」

ということだった。


もうひとりの英国帰り、M先生は留学イギリス人相手に100回の心理面接を行い、優秀な成績で修了した。

すべて英語でったのだから、とても大変なことだ。

M先生には、非言語的な共感的理解の力が備わっているのかも…


100セッションの中に、こんな相談事例があったという。

「日本人の女性とセックスがしたい」

なんて突拍子もない…

M先生、身の危険を感じたのではないだろうか。

PCAでも精神分析的心理療法でも、セラピストはクライエントのすべての言葉に対する「平等に漂う注意」が必要とされる。

だがM先生は、先の言葉に囚われて、その後のセラピーをうまくこなすことができなかった。

夏季休暇で一時帰国することになり、先生は彼を先輩心理士に託して、日本へ

その後、先輩心理士が聞き出した彼の本当の主訴は、大切な友人を亡くしたことの喪失感だったという。


心理職は、言葉の裏の裏まで読まなくてはいけない、といわれるが…

安月給の割に、大変な職業だ。


Traditional Kathakali Dance, south India 2026




2026年5月8日

酸っぱいおっぱい

  

臨床心理基礎実習のマリ先生がまたまた、とても自己開示的な話をしていた。


マリ先生は、長い間、梅干しが苦手だった。


弁当の梅干しをどけても、ご飯の赤く染まった部分さえまったく食べられない。


ある時、実家にあった古い母子手帳を見て、自分の離乳がとても早かったことに気づいたマリ先生。傍にいた母に、その理由を尋ねた。


母の告白は、衝撃的だった。


「マリがおっぱいを嫌がるように、赤チンをおっぱいに塗って真っ赤にしたの」


「そして、梅干しの汁を乳首になすりつけたのよ


「家業の豆腐屋を助けて、早く配達に出たかったから…」


その場で、母と大ゲンカしたマリ先生。


不思議にもそのケンカ後、普通に梅干しを食べられるようになったという。



若い世代で恋愛が進まず、結婚も出生も減っている現状に対して、長谷川 眞理子・日本芸術文化振興会理事長「小さなリスクを試せぬ社会構造を見直すべし」として提言している。


賛否ありそうな話だが、「そうかもな」と思えたので、日経ビジネス電子版の記事から一部を紹介します。


・家族計画が一般化し、子どもは「授かるもの」から「今の生活と比べて選ぶもの」になった


・今、経験している仕事や趣味の楽しさは確実だが、子どもを持つ生活は未知だ。未知より既知が選ばれるのは自然で、先送りが重なれば出産の高齢化は避けられない


女性の社会進出も状況を変えた。30代がキャリアの山場となり、結婚や出産と競合しやすい。親族からの結婚圧力がなくなり、女性も経済的に自立できる以上、結婚はよっぽどの理由があるときに限られる選択肢になった


・また、都市では人が多いほど他者の背景が見えず、すれ違うだけの環境で恋愛が自然発生する方が例外


 SNSによって承認の基準が外側に置かれ、傷つくことへの恐れが肥大化する。失恋は“失敗”として過剰に重く扱われ、深い関係そのものを避けるようになる。便利な生活も拍車をかけ、あらゆる時間が一人で完結できてしまう


・恋愛はその中で最もコストの高い行為になった


・人間が持つ「誰かとつながりたい」という根源的な感情は消えていないが、その一歩を踏み出す力は鍛えなければ育たない。恋愛に限らず、未知に向かって試し、傷つき、回復する経験が必要


・現代社会では、その試行錯誤の機会が極端に乏しくなった。親も学校も企業も「失敗させない」ことを重視し、安全を過度に求める。だが失敗を避け続ければ、挑戦の筋肉は育たない


・失敗を避ける社会の中で恋愛や家族形成だけが「実践の場」を持てずにいる。どれだけ情報を与えても、人は実際に動いてみなければ学べない


・だからこそ求められているのは、安全に小さなリスクを試せる環境



Pondicherry, South India 2026


2026年5月1日

においを嗅ぐ心理師と、ひと筋の涙

 

この大学院の先生に、いわゆる研究バカはいない。

週の半分は、各方面で現役カウンセラーとして活躍中の人たちだ。

だから、その話にはとても臨場感がある。

K先生は長くジソウ(児童相談所)で働き、子どもの虐待やネグレクトに目を光らせてきた。

「来所するお母さんには必ず母子手帳を持ってきてもらってね、こっそり表紙のにおいを嗅ぐの。問題のある親子の手帳は、脂ぎってたり、タバコ臭かったりする」

「子どもの体のにおいにも敏感になるわね。大切に育てられている子はいい香りがするし、虐待を受けている子は、すえたにおいがすることがある。ママとパパ、どっちのにおいがするか嗅ぎ分けたりもする」

「そっと触ったりもするよ。耳の後ろに垢が溜まってないか、耳の穴が詰まってないかを見る」

「家庭訪問に行ったらまず、トイレを借りるね。トイレがいちばん、その家庭のありようを表してるから。ちゃんと子どもにトイレットトレーニングしてるかもわかるし」

「同行の職員には、『K先生は頻尿だね~』ってあきれられてるよ」

 

イギリス帰りのM先生は、カウンセラーとしての長いキャリアで一度だけ、泣いたことがあるという。

ある日、ガクソウ(大学の学生相談所)に、年配の男性がやってきた。長らく学びに飢えていた高卒の彼は、定年退職を期に、晴れて入学してきたのだ。

彼いわく、退職金を得たことを知った知人の女性に、資産運用を持ちかけられた。「私に預けてくれれば、1週間で倍にして返す」という。

試しに、1万円を預けた。1週間後、2万円を渡された。

次の週、2万円を預けた。翌週、4万円になって戻ってきた。

気がつけば、退職金全額を渡していた。

そして…そのお金は戻ってこなかった。

「彼にはね、『ここに来るより、まず法テラスに行きなさい』って言ったわ。そうしたら、女が書いた借用書が、新聞の折り込み広告の裏に走り書きしたような代物で、法的に効力がないことがわかって…」

一文無しになった彼は、宅配便の荷分けの仕事を始めた。

長年の夢だった大学に退学届けを出した日の、最後のカウンセリング。

向き合って座る彼との間に、沈黙が訪れる。

「ごめん、あなたにはかける言葉が見つからない…」

百戦錬磨のM先生の目尻から、涙がひと筋、滲み出たという。





2026年4月24日

受験生の逆襲

 

臨床心理基礎実習のマリ先生は、大学院の長というエライ人でもある。

講義の合間に、昨年度の入試の裏話をしてくれた。

「春期試験の受験者は全員落としたわよ。合格基準点以下だったから」

多くの心理系大学院は、秋期と春期の2回、選抜試験を行う)

えっ…

今年の1年生は内部進学者が多く、学外から試験を受けて入学したのは、私とミキさんの2人だけ。他の受験生がみな不合格だったということは…

我々は、競争率6.5倍を突破したことになる。

えっと、ぼく、なんで合格できたんですかね」

あぁ、あなたは英語の成績がよかったみたいよ~」

そっか フィリピン英語留学や、名古屋の予備校通いが実を結んだか。

たとえ流動性知能が経年劣化しも、社会人の資金力にものを言わせれば、現役の学生とも立派に戦えるのだ。

それにしても…

面接であれだけズタボロにされて、よく合格できたもんだ。

ぼく面接で〇〇先生や××先生に散々いじめられたんですよ」

「あー、人によっては圧迫面接みたいなことやるからね。私はやらないけど」

マリ先生が、ヘラヘラ笑いながら言う。

やっぱり、あれは意図的だったのか…

すると、隣でやりとりを聞いていたアユミさんが突然、かみついた

「私は面接の後、ショックで寝込みました。選抜される側は、圧倒的に不利な立場なですよ! 心理職を目指す学生は、心に傷を抱えている人もいるんです。あんな圧迫面接やって、学生の身に何かあったらどうするんですか ⁉」

アユミさんは、学内からの進学者。筆記試験は免除され、課されるのは面接だけだ。それでも、というか、だからこそ、というか、面接でのプレッシャーは私以上だったかも知れない。

「私も、面接が終わって外に出たら、泣くつもりはなかったのに、涙があふれて止まらなかった

他のクラスメートも、口をはさむ。

マリ先生、たじたじ。

「今日はとてもいい話し合いができました」

といって、チャイムが鳴るより30分も早く、講義を終わらせた。

来年の受験生は、我々みたいな目に遭わなければいいが…


大学教員の紹介ページを見ると、皆さん、全国各地の大学を転々としている。

マリ先生もまた、中途転入組だ。

「私の採用面接の時も、私よりずっと若い准教が意地悪な質問をしてね。アタマに来たから、学校の敷地にツバ吐いて帰ったわよ」

なんと勇ましい…

「こんな大学、絶対蹴ってやろうって思ったけど、数日後に『准教授ではなく、教授のポストを用意しますって電話で言われて

「教授という言葉に目がくらんで、今ここにいるってわけ」


そんなマリ先生、摂食障害に苦しんだ時期があったという。


※登場人物は実在しますが、微妙に仮名です




心理学者のイギリス

  第一志望校に3連敗して入ったこの大学院に 、奇跡が起きた。 私が入学した4月に 、PCA(クライエント中心療法)の ビッグネームが、他大学から移ってきたのだ。 実はワタクシ 、目指すは PCAのカウンセラー。 予備知識もなく入学した第二志望の大学で、こんな幸運に巡り合うとは…...