「明日は、かなりメンタルに負荷がかかる授業になりますよ」
心理系大学院・夏の集中講義初日。
95分×5コマの授業を終えたY先生が、とても不吉なことを言った。
東京からわが校に出張してきたY先生は、「家族療法」の専門家だ。
セラピストと患者が1対1で行う普通の心理面接と違って、家族療法では家族全員が対象になる。たとえば不登校の子どもがいる家族の場合、不登校の原因は子ども本人ではなく、家族それぞれの関係性にあると考える。
誰の責任も問わず、悪者探しもしないセラピー。とても魅力を感じる。
そして、翌日。
円環的因果律、システム・サイバネティクス、ミラノ学派、社会構成主義、ソリューション・フォーカスト・アプローチ…
淡々と家族療法の理論を説いていたY先生が、
「私は話し疲れたので、今から皆さんにロールプレイをやってもらいます」
と言った。
ホワイトボードに書き出した家系図を眺めながら、患者(とされる人)が家族に向けている感情を解き明かしていく「ジェノグラム・インタビュー」をやる、という。
「それでは、患者になりたい人は手を挙げて!」
しーん…
そうだよね、誰もやりたくないよね。
仕方ない、ボクが生贄になってあげよう。
まずクラスメートのW子さんが、私の言葉通りに、私と亡くなった妻の家計図を親子3代ずつ描いていく。
そして、延々2時間に渡って、Y先生のインタビューを受けた。
それは、ロジャーズの来談者中心療法とも、コフートの共感的カウンセリングとも異なる、容赦ない質問の連続だった。
ああ、同級生の面前で、ボクのプライバシーが丸裸に…
一夜明けた翌日。
登校すると、
「昨日はY先生にかなり深掘りされてたけど、大丈夫ですか?」
クラスメートが気遣ってくれた。
実際、幼少時のトラウマ的な記憶を掘り返されたときは、ほとんど泣きそうだった。
やがて教室に現れたY先生、
「昨日はつい遠慮して、いつもは聞くことを聞かなかったなぁ」と言う。
「それは例えば、どんなことですか?」
「例えば、パートナーとのセックスの頻度とか…」
「エーッ」
そりゃ、人生と「性」は、切っても切り離せないものだけど…
そりゃ、カップルセラピーでは必要な要素かも知れないけど…
そんな質問、みんなの前で答えられるわけねーだろ!
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