2026年11月7日

血を取り合う

 

心理系大学院には、高価な知能検査キットが各種取り揃えてある。

先日、練習を兼ねて、クラスメート同士で知能検査を取り合った。

子ども用の「ビネー式知能検査」で私は、5歳児用の問題を本気で間違えた。

ボクの頭って、いったい…

次に、成人用の「WAIS―Ⅳ(ウェクスラー式知能検査)」をやってみる。

なにぶん、お互い慣れない初心者同士。

検査を終えるまでに4時間もかかり、ヘトヘトになった。

そして、生まれて初めて? 自分のIQなるものを知る。

VCI 124, PRI 105, WMI 114, PSI 93, FSI 119 

(VCIは言語理解、PRIは知覚推理、WMIはワーキングメモリー、PSIは処理速度、FSIは全検査IQ)

「PSIが…93? つまりぼく、かなり鈍くさい奴ってこと?」

「そういうことになりますね~」

うう、クラスメートの情け容赦ないお言葉…

ちなみに今回検査をやってくれたのは、優しい笑顔のモ〇カさん。

もし相手が佐野史郎みたいな奴だったら(←古い)、早々にやる気をなくして、悲惨な結果に終わっていただろう。

これでも、実力以上の数値なのかも知れない。

 

仲間同士で知能検査を取り合っている途中、ふと、病院で看護助手をしていた頃を思い出した。

病院職員であることのメリットは、年2回、かなり精密な健康診断をタダで受けられることだ。

確か、身体の各部位の筋肉量まで計ってくれたような…

勤務先の病院で、初めて健康診断を受けた時。問診表と一緒に、見慣れない紙を渡された。

「血液検査を自分たちでやる場合は、薬剤部まで注射キットを取りに来るように」

周りを見渡して、その意味がわかった。看護師さんたちは、みな注射のエキスパートだ。わざわざ健診会場に行くまでもなく、仲良し同士、そこらで勝手に血を取り合っている。

さっそく私も便乗。朝食後きっちり5時間のタイミングで、顔見知りのナースに採血してもらい、すぐランチに行けた。

これは便利!

でも残念ながら、

「私の血を取って~」

と頼んでくるナースは、誰もいなかった。

Fort Kochi, South India 2026


2026年10月30日

「子どもは親の言う通りではなく、親のやっている通りに育つ」

 

「鴻上尚史のどんといこう!ほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋」鴻上尚史著 朝日新聞出版

AERA dot.に連載中の「鴻上尚史 ほがらか人生相談」が、ついに7冊めの単行本になった。

この連載、大好き!

相談者にとことん寄り添い、毎回具体的で現実的な対処法をアドバイスするのもすごいが、何より、日本社会特有の「世間」をとても窮屈だと思う鴻上さんのスタンスが、いい。

本文中、特に激しく共感してしまったところを、書き出してみます。

 

・人間関係に害毒を流し込む2大フレーズが、「他人に迷惑をかけないように」と「あなたのためを思って言ってるの」

「他人に迷惑をかけないように」が害毒なのは、「迷惑か迷惑じゃないかを決めるのは、相手であってあなたではない」から

「あなたのためを思って言ってるの」が害毒なのは、「期待するのは、自由。でも、それを口に出して押し付ける権利はあなたにはない」から。

・理想の人間関係は「自由の相互承認」だと思う。それは「あなたが私の自由を侵害しない限り、私はあなたの自由を認めます」ということ

・「関係」というのは、持続する運動。毎日の積み重ねで、お互いの関係は深まっていく。「所有」のように、いちど自分のものになったらそれでおしまい、というわけではない。つきあっているというのは固定した状態ではなく、つきあい続けるという関係が大切

・恋愛も子育ても同じだが、相手のことを愛おしく思い、相手が大切な存在になればなるほど、大きな喜びを相手からもらえるが、同時に、相手のいろいろなことに苦しむようになる

・他人に「自慢したい」ということは、「今の自分を大きく見せたい」ということ。それはつまり「今の自分は大きくない」ということ

・ひとりが寂しいという理由で友人を求める人には、友人はできない。友人は、孤独を埋めてくれるカウンセラーではない。ひとりでも充分充実していて、休日にひとりで充実して過ごせる人が、他人と友人関係を作れる

・子どもは親の言う通りではなく、親のやっている通りに育つ

・アメリカで、ただ白人であるだけで自己の優位を主張する人を「白人至上主義者」と呼ぶ。自慢することが「白人であること」しかない人

・日本人であるというだけで海外の人を差別する人を「日本人至上主義者」と呼ぶ。自慢することが「日本人であること」しかない人

・「男性優位仮説」を強く信じている人は、「男性至上主義者」。自慢することが「男であること」以外にない人

Alleppey, South India 2026


2026年10月24日

犯罪は身近なところに

 

犯罪心理学の授業で、クラスメートのOさんがプレゼンテーションを行った。

勤務先のガールズバーで出産した赤ちゃんを殺害し、殺人の罪に問われた事件の犯人Sが、Oさんの小中学時代の友人だったという。

(以下、Oさんの発表及び、Yahoo!ニュースより抜粋)

 

判決公判の起訴状などによると、S被告は昨年9月、東京・池袋にあるガールズバーの勤務中、トイレで出産。赤ん坊が産声を上げたため、出産を知られると店をクビになり生活ができなくなると考え、首を絞めて殺害。遺体をトイレ内のゴミ箱に捨てた。

裁判では被告人質問が行われ、被告の不遇な幼少期が明らかにされた。

S被告には、両親と年の離れた姉が2人いた。小学11年生の時に、父親が他界。母親はアルコール依存症となり、部屋はお酒の空き缶、空き瓶が散乱した。食事は母の友人がコンビニに連れていくなどして面倒を見た。

小学5年生の時、イジメをきっかけに不登校に。中学2年生で母も他界。姉の支援で高校を卒業し、美容系の専門学校に進学するために上京するが、学校になじめず、不登校に。キャバクラなどでアルバイトを始める。

やがて犯行現場となったガールズバーで働き始め、そこで出会った客と関係を持つ。妊娠が発覚しても、店を解雇されることを恐れて、誰にも相談しなかった。勤務先のガールズバーに荷物を置かせてもらい、ネットカフェで生活していたという。

事件が起きた日、勤務中に激しい吐き気と腰痛に襲われ、控え室とトイレを何度か行き来していたが、その後、トイレで出産。赤ん坊が産声を上げてしまったため、

「どうしたらいいかわらなくて……とりあえず泣きやませないといけないと思って赤ちゃんの首に手をかけた。そのまま連れ出すのは無理と思って、ゴミ箱に入れてしまいました」

異変に気づいた店長から「何があった?」と尋ねられ、トイレでの出来事を伝えた後、「出頭します」と話し、その足で警察に向かっている。

今年5月に開かれた判決公判で、東京地裁は

「予期せぬ早産で衝動的な犯行とはいえ、尊い命を奪った結果は重大」

として、拘禁刑3年6月を言い渡した。

 

クラスメートのOさんによると、小中学校時代のS被告は明るい子だったそう。

何度か家に遊びに行ったが、いつも誰もおらず、室内は汚れていたという。

※写真と本文は関係ありません

Puducherry, South India 2026


2026年10月16日

「子どもの頃、私は~」

 

「臨床心理査定特論」で、SCT(文章完成法)という心理検査を受けた。

検査用紙に「子どもの頃、私は~」「私はよく人から~」「家の暮らし~」といった冒頭の文章だけが書かれていて、続きを自分で埋めていく。

全部で60問あり、30問に答えただけで四苦八苦、疲労困憊してしまった。

他のクラスメートは、苦もなくスラスラ書いている。私は「回答するのにひどく時間がかかる男」として、ひとつの査定材料にされてしまうのだろう。

終了後、クラスメートの回答を回し読み。毎日顔を合わせている彼女らの、いかにもその人らしい答えもあれば、意外な一面も垣間見られて、面白かった。

長年SCTの検査者をしてきた先生によると、「NTTや電通、博報堂の社員は上から目線」「メガバンクの行員はタテマエしか書かない」「わが校の学生は素直で感情的」「某国立大生は真面目で小難しく答える」そうだ。

 

神奈川県鎌倉市に本社を置き、ゲームアプリや広告などのコンテンツを発信する「カヤック」のCEO、柳澤大輔氏。彼の考え方には、自分が目指すところと重なるところが多かった。日経ビジネス電子版から一部を紹介します。

・経営者として、まず聞くようにすることを心がけてきた。自分が目指している世界の、少し先を行っている人に話を聞く

・「学生時代にどんなことをやったらいいですか」と、学生からよく質問される一方で、30代、40代から聞かれることは、まずない。そもそもその世代は「何をやったらいいですか」という問いを持っている人のほうが少ない

・でもよくよく考えたら、40代は50代の先輩に「40代で何をやったらいいですか」と聞いたほうがいいし、50代は60代に聞いたほうがいい。みんな自分だけ違う人生を生きたいと思っていても、だいたい先人と似たような課題に直面するから

・先人の知恵に学ぶ姿勢は、年を取るとともになくなっていくが、自分はなくならないよう意識している。本をたくさん読むようになったのも30代から

・自分が20代、30代で何をやってきたか。「人生を面白く味わい尽くすためにあらゆるチャレンジをして、半年に1回ぐらいは、何か新しいネタを話せる人でいよう」と思ってきた。それは今も一緒

・一方で、しつこく継続してやり続けることも増やしていく。創業以来20年以上、社長日記を書き続けている。結局は、地道な積み重ねがものを言う

・人生ですごく大きな変化というのは、5年、10年に1回ぐらい。でも、ちょっとした変化は毎年ある。過去とは全く違う見方で世界が見えたときに、面白い体験が起きる

・20代、30代でビジネスの最先端にいると、資本主義の競争原理の中で、人と比べられながら仕事をする。でも自己肯定感は、人より優れているという理由で生み出されるものではない。普通に生きているだけで幸せだという、単純なところから生まれる

Fort Kochi, South India 2026


2026年10月9日

受話器の向こう側~2

 

いよいよ、恐怖の「電話相談実習」が始まった。

「実習」とは名ばかりで、「日常の悩み、心の健康に関する相談を受け付けます」とインターネットに公開されている電話番号の、受け手になるのだ。

いきなりの、ガチ本番。

クラスメート3人でひとつの固定電話を囲み、順に応対した。受話器を置いてもすぐ次のコールが鳴り、休む暇もない。

私を含めて、「そもそも電話で話すこと自体が苦手」という3人。中には深刻な内容の電話もあって、早くもこちら側のメンタルが危機的状況に。

「あなたも電話相談に掛けてみればいいのよ~ プロから応対の基本を学べるわよ~」と、指導教員は言う。

いや冗談抜きで、こっちが心の悩みを相談したい気分。

電話相談を利用する全国の皆さん。

もし心細げな初心者相談員に当たってしまったら、本当にゴメンナサイ!

 

言葉を武器に仕事をする、コピーライターの梅田悟司さんと経営コンサルタントの安達裕哉さん。2人の対談に心理職の仕事にも通じるものがあったので、一部を紹介します(日経ビジネス電子版より)。

・結局、何が相手に刺さるのか。それは相手のことを思い、相手のために使った時間。人は「努力の跡」や「かけたコスト」を見ている

・生成AI(人工知能)の出力をそのまま出した企画書への不信感は、裏を返せば「こちらのために考えた跡が見えないよね」に帰着する

・コピーをつくるときは、まず相手に話してもらう。途中で間が空いても、すぐには埋めない。すると、相手がまた話し始める。同じ話が繰り返されるところまで聞いて、何を大事にしているのかを探っていく

・本音をちゃんと伝えようとすると、付き合える相手が限られてくる。「この人に時間をかけよう」、逆に「この人にはかけない」。これを決めざるを得ない

・平等に接するのは正しいけれど、現実には、誰にどこまで時間をかけるかを平等にはできない。本音を伝えるのは、それくらい時間がかかる

・「本音」とは、「やさしさを配る」こと。やさしさを配るとは、相手のために時間を使うこと。でも配りすぎると、自分のやさしさが枯渇してしまう。10人は無理で、結果的に5、6人にしか配れていない

・最近使うようにしている言葉は「最近、仕事どう?」ではなく、「最近、人生どう?」。その質問自体が、「あなたに興味があります」と伝えている

・別に壮大な物語を語るわけではない。「最近、面白いことある?」からでいい。「旅行に行った」でもいい。そこから時間をかけると、「本当はこういうことがやりたいんですよね」という話が出てくる。それは仕事の話というより、「生きざま」であり「人生」の話

Alleppey, South India 2026


2026年10月2日

共感するAI

 

大学院の同級生M子さんが、AIカウンセリングを研究している。

先行研究では、人間のカウンセラーに比べてAIカウンセラーの方がより「共感」してくれるという、驚くべき結果が出ているらしい。

心理職を目指す、ぼくらの立場ないじゃん!

そういう自分も、ふと気がつけば、AIに相談していたりする。

誰にも知られずに恥ずかしい相談ができるし、何しろタダだし!

 

AIが得意とする分野がある一方で、人間にしか担えない役割とは何か。経営学者の楠木建氏と独立研究者の山口周氏が語り合っている。

どうやらAIは、結婚相手選びはあまり得意じゃなさそう。

日経ビジネス電子版から、一部を紹介します。

・スピーチの内容やブログのドラフトなどを生成AIに作らせると、構成の提案、文章の草稿、表現の改善、図表の生成などは得意

・ただ、「分析」はある程度できるが「統合」は苦手。「分析」と「統合」は、英語では「分析=アナリシス」と「統合=シンセシス」で「対の関係」

・つまり、頭の使い方としては真逆。「新聞で読んだこと」「会食で聞いた話」「街を歩いて気づいたこと」という3つの異なる情報を統合して、そこから言えそうなことを考える、というのはまだまだ苦手……というより、そもそもできない。本質的な問題の創出には、人間の価値観や直観が不可欠

・『婚活したらすごかった』(石神賢介著/新潮新書)という本を読むと、マッチングや婚活パーティーといった人工的に設計されたシステムには、極端なメリットとデメリットが併存していることがよく分かる

・偶然の出会いと比べて知り合う相手が飛躍的に増える一方で、「相性」という全人格的にして極端に総合的な問題を、年齢や趣味や容姿や収入や住所などの要素に分解してしまう

・そうすると、相手が不動産のような「物件」にしか見えなくなってくる。ここにマッチングシステムに不可避の問題がある

・婚活サイトにプロフィールを提出する→各人のプロフィールに異性からの申し込み状況が示される→自分の価値が定量化された気になる

・相手によって好みがまちまちだというのが、そもそも「マッチング」の本質。1次元上で測定できる「優劣」などないのだが、年収や容姿ばかりが前面に出て、他が捨象されてしまう

・情報量が多いほど、実は情報が伝わらないというパラドックス

・結婚は、現実生活の現実的意思決定。現実的であることは悪くないし、むしろ現実的であるべきだが、問題は現実的になりすぎるところ

・この辺りは、民主主義が機能しすぎるとポピュリズムになるという成り行きと近似している

Fort Kochi, South India 2026



2026年9月25日

「警察官のこのこ日記」

 

「警察官のこのこ日記」安沼保夫著 三五館シンシャ 

元警察官の著者が、その過酷な日常を描いたノンフィクションだ。

特に、警察学校時代の描写がすさまじい。

入校式の前、全員が講堂に集められ、眼光鋭い坊主頭の教官に「おまえ、なめてんじゃねーぞ! やる気がねえ奴は辞めろ! 代わりはいくらでもいるんだ!」いきなり、怒鳴られる。

ネクタイの結び目が曲がっているだけで、「バシッ」容赦なくビンタが飛ぶ。

時には、パンチも飛んでくる。

上司の命令は、絶対。教官の指示には、「はい」か「了解」しか許されない。

「いいえ」と言えるのは、「辞めるか?」と聞かれたときだけ。

「警察官に頭脳はいらねぇ。首から下だけを鍛える首下教場だ」が、鬼教官の口癖。

毎日のランニング、柔道、逮捕術。

恐怖政治と、同調圧力に支配された日常…

今どき、こんな世界があったとは…

 

「権力はウソをつく」

脚本家の大石静さんが、NHK「最後の講義」で、鬼気迫る表情で言っていた。

安保闘争当時、大石さんは、警官隊に殴られて血まみれになった多くの学生を目撃した。それは権力による一方的な暴力だったが、警察側の記者発表は連日「市民の負傷者は数名、警官の負傷は数十名」というものだったという。

治安維持を担う警察官は、市民生活になくてはならない存在。

立派な職業だと思う。

でも、安保闘争を知らない私でさえ、武器を持った国家権力と聞くだけで、条件反射的な拒否反応がある。

 

この春、わが大学山岳部の後輩が、T県警とN県警に就職した。

ゆくゆくは、山岳救助隊員になることを目指す。

Sくんはともかく、数年前一緒にヒマラヤ登山をしたHさん♀が、心配。読んだばかりの「警察官のこのこ日記」が、脳裏をよぎる。

久しぶりに会って話を聞くと、元気いっぱい、いつもの屈託のない笑顔で

「警察学校、楽しいです!」と言う。

え? 警察学校が、楽しい?

Hさんの教官は、厳しいながらも愛があり、理不尽なところがなく、指導に筋が通っているという。

在学中に2度もヒマラヤ遠征をしたHさんは、体力に余裕があるのだろう。山岳救助隊という明快な目標があるのも、がんばれる秘訣か。

万事順調な様子に、ホッとひと安心。

でもHさんの同期には、たびたび彼女の寮部屋を訪れては泣く人もいるらしい。


Fort Kochi, South India 2026




血を取り合う

  心理系大学院には、高価な知能検査キットが各種取り揃えてある。 先日、練習を兼ねて、クラスメート同士で知能検査を取り合った。 子ども用の「ビネー式知能検査」で私は、5歳児用の問題を本気で間違えた。 ボクの頭って、いったい… 次に、成人用の「 WAIS ―Ⅳ(ウェ...