2026年5月8日

酸っぱいおっぱい

  

臨床心理基礎実習のマリ先生がまたまた、とても自己開示的な話をしていた。


マリ先生は、長い間、梅干しが苦手だった。


弁当の梅干しをどけても、ご飯の赤く染まった部分さえまったく食べられない。


ある時、実家にあった古い母子手帳を見て、自分の離乳がとても早かったことに気づいたマリ先生。傍にいた母に、その理由を尋ねた。


母の告白は、衝撃的だった。


「マリがおっぱいを嫌がるように、赤チンをおっぱいに塗って真っ赤にしたの」


「そして、梅干しの汁を乳首になすりつけたのよ


「家業の豆腐屋を助けて、早く配達に出たかったから…」


その場で、母と大ゲンカしたマリ先生。


不思議にもそのケンカ後、普通に梅干しを食べられるようになったという。



若い世代で恋愛が進まず、結婚も出生も減っている現状に対して、長谷川 眞理子・日本芸術文化振興会理事長「小さなリスクを試せぬ社会構造を見直すべし」として提言している。


賛否ありそうな話だが、「そうかもな」と思えたので、日経ビジネス電子版の記事から一部を紹介します。


・家族計画が一般化し、子どもは「授かるもの」から「今の生活と比べて選ぶもの」になった


・今、経験している仕事や趣味の楽しさは確実だが、子どもを持つ生活は未知だ。未知より既知が選ばれるのは自然で、先送りが重なれば出産の高齢化は避けられない


女性の社会進出も状況を変えた。30代がキャリアの山場となり、結婚や出産と競合しやすい。親族からの結婚圧力がなくなり、女性も経済的に自立できる以上、結婚はよっぽどの理由があるときに限られる選択肢になった


・また、都市では人が多いほど他者の背景が見えず、すれ違うだけの環境で恋愛が自然発生する方が例外


 SNSによって承認の基準が外側に置かれ、傷つくことへの恐れが肥大化する。失恋は“失敗”として過剰に重く扱われ、深い関係そのものを避けるようになる。便利な生活も拍車をかけ、あらゆる時間が一人で完結できてしまう


・恋愛はその中で最もコストの高い行為になった


・人間が持つ「誰かとつながりたい」という根源的な感情は消えていないが、その一歩を踏み出す力は鍛えなければ育たない。恋愛に限らず、未知に向かって試し、傷つき、回復する経験が必要


・現代社会では、その試行錯誤の機会が極端に乏しくなった。親も学校も企業も「失敗させない」ことを重視し、安全を過度に求める。だが失敗を避け続ければ、挑戦の筋肉は育たない


・失敗を避ける社会の中で恋愛や家族形成だけが「実践の場」を持てずにいる。どれだけ情報を与えても、人は実際に動いてみなければ学べない


・だからこそ求められているのは、安全に小さなリスクを試せる環境



Pondicherry, South India 2026


2026年5月1日

においを嗅ぐ心理師と、ひと筋の涙

 

この大学院の先生に、いわゆる研究バカはいない。

週の半分は、各方面で現役カウンセラーとして活躍中の人たちだ。

だから、その話にはとても臨場感がある。

K先生は長くジソウ(児童相談所)で働き、子どもの虐待やネグレクトに目を光らせてきた。

「来所するお母さんには必ず母子手帳を持ってきてもらってね、こっそり表紙のにおいを嗅ぐの。問題のある親子の手帳は、脂ぎってたり、タバコ臭かったりする」

「子どもの体のにおいにも敏感になるわね。大切に育てられている子はいい香りがするし、虐待を受けている子は、すえたにおいがすることがある。ママとパパ、どっちのにおいがするか嗅ぎ分けたりもする」

「そっと触ったりもするよ。耳の後ろに垢が溜まってないか、耳の穴が詰まってないかを見る」

「家庭訪問に行ったらまず、トイレを借りるね。トイレがいちばん、その家庭のありようを表してるから。ちゃんと子どもにトイレットトレーニングしてるかもわかるし」

「同行の職員には、『K先生は頻尿だね~』ってあきれられてるよ」

 

イギリス帰りのM先生は、カウンセラーとしての長いキャリアで一度だけ、泣いたことがあるという。

ある日、ガクソウ(大学の学生相談所)に、年配の男性がやってきた。長らく学びに飢えていた高卒の彼は、定年退職を期に、晴れて入学してきたのだ。

彼いわく、退職金を得たことを知った知人の女性に、資産運用を持ちかけられた。「私に預けてくれれば、1週間で倍にして返す」という。

試しに、1万円を預けた。1週間後、2万円を渡された。

次の週、2万円を預けた。翌週、4万円になって戻ってきた。

気がつけば、退職金全額を渡していた。

そして…そのお金は戻ってこなかった。

「彼にはね、『ここに来るより、まず法テラスに行きなさい』って言ったわ。そうしたら、女が書いた借用書が、新聞の折り込み広告の裏に走り書きしたような代物で、法的に効力がないことがわかって…」

一文無しになった彼は、宅配便の荷分けの仕事を始めた。

長年の夢だった大学に退学届けを出した日の、最後のカウンセリング。

向き合って座る彼との間に、沈黙が訪れる。

「ごめん、あなたにはかける言葉が見つからない…」

百戦錬磨のM先生の目尻から、涙がひと筋、滲み出たという。





2026年4月24日

受験生の逆襲

 

臨床心理基礎実習のマリ先生は、大学院の長というエライ人でもある。

講義の合間に、昨年度の入試の裏話をしてくれた。

「春期試験の受験者は全員落としたわよ。合格基準点以下だったから」

多くの心理系大学院は、秋期と春期の2回、選抜試験を行う)

えっ…

今年の1年生は内部進学者が多く、学外から試験を受けて入学したのは、私とミキさんの2人だけ。他の受験生がみな不合格だったということは…

我々は、競争率6.5倍を突破したことになる。

えっと、ぼく、なんで合格できたんですかね」

あぁ、あなたは英語の成績がよかったみたいよ~」

そっか フィリピン英語留学や、名古屋の予備校通いが実を結んだか。

たとえ流動性知能が経年劣化しも、社会人の資金力にものを言わせれば、現役の学生とも立派に戦えるのだ。

それにしても…

面接であれだけズタボロにされて、よく合格できたもんだ。

ぼく面接で〇〇先生や××先生に散々いじめられたんですよ」

「あー、人によっては圧迫面接みたいなことやるからね。私はやらないけど」

マリ先生が、ヘラヘラ笑いながら言う。

やっぱり、あれは意図的だったのか…

すると、隣でやりとりを聞いていたアユミさんが突然、かみついた

「私は面接の後、ショックで寝込みました。選抜される側は、圧倒的に不利な立場なですよ! 心理職を目指す学生は、心に傷を抱えている人もいるんです。あんな圧迫面接やって、学生の身に何かあったらどうするんですか ⁉」

アユミさんは、学内からの進学者。筆記試験は免除され、課されるのは面接だけだ。それでも、というか、だからこそ、というか、面接でのプレッシャーは私以上だったかも知れない。

「私も、面接が終わって外に出たら、泣くつもりはなかったのに、涙があふれて止まらなかった

他のクラスメートも、口をはさむ。

マリ先生、たじたじ。

「今日はとてもいい話し合いができました」

といって、チャイムが鳴るより30分も早く、講義を終わらせた。

来年の受験生は、我々みたいな目に遭わなければいいが…


大学教員の紹介ページを見ると、皆さん、全国各地の大学を転々としている。

マリ先生もまた、中途転入組だ。

「私の採用面接の時も、私よりずっと若い准教が意地悪な質問をしてね。アタマに来たから、学校の敷地にツバ吐いて帰ったわよ」

なんと勇ましい…

「こんな大学、絶対蹴ってやろうって思ったけど、数日後に『准教授ではなく、教授のポストを用意しますって電話で言われて

「教授という言葉に目がくらんで、今ここにいるってわけ」


そんなマリ先生、摂食障害に苦しんだ時期があったという。


※登場人物は実在しますが、微妙に仮名です




2026年4月17日

大学生兼ホテトル嬢

 

「ガクソウ(学生相談所)のカウンセリングって平和そうでしょ? 案外そうでもないのよ」

大学院の「臨床心理面接特論」の授業で、マキコ先生が言う。

「親から虐待を受けてきた子もいれば、夜の仕事で学費を稼いでいる子もいる。壮絶な経験を重ねてきた子たちの心を、しっかり守ってあげなきゃいけないのよ」

ところが、マキコ先生の講義はいつの間にか、あらぬ方向へ…

「中にはホテトル嬢やってる子もいたわねぇ。ホテトルってわかる? お客とホテルの部屋で待ち合わせて性的なサービスするんだけど、本番はなし。でも客の中には、無理やり本番やっちゃう奴がいるんだって」

「そういう時はどうするか知ってる? 事務所に詰めてるスタッフに『終わりました』って電話するんだって。普通は電話なんかしないから、それが本番やられたって合図」

「彼女と入れ替わりにスタッフが部屋に入って、男を素っ裸にして写真撮って、外に貼りだすんだって!」

私の同級生はみな、真面目でおとなしそうな20代前半の女子たちだ。

…案外、目を輝かせて聞いてたりして。

 「大学生が夜、ホテトル嬢をしている」

「ホテトル嬢が、昼は大学で学んでいる」

言い方次第で、ずいぶんニュアンスが変わる。


英ケンブリッジ大講師の代田七瀬さんは大学院時代、ジェンダー研究のフィールドワークで、銀座やロンドンのキャバクラで働いた。読売新聞電子版の連載「瀬戸際の七瀬ちゃん」が面白いので、最近のコラムを紹介します。

・七瀬さんが教えるケンブリッジ大の中国出身の学生は、ジェンダーに関する研究テーマにプリキュアを選んだ

・彼は、留学で10か月間を過ごした日本で「化粧文化」にショックを受けた。日本では、小学生などの小さい子まで化粧をしたり、おもちゃコスメの宣伝があったりする。アメリカや中国にもあるが、日本の方が一般的

・それに日本では、女性が化粧をしないといけない社会的な偏見(Social stigma)がある

・彼が一番驚いたことは、プリキュアが「少女向け」ジャンルの中にありながら、「女らしさ」を新しい意味での「パワー」として肯定している点

・子どもがビューティープロダクトを使うことを肯定的に見る母親も多く、おもちゃコスメが娘とのコミュニケーションにつながると認識している

・彼はこの現象を、「肯定的転換(affirmative turn)」と呼ばれるフェミニズムの一種と見る。抑圧的と思われる行為をただ批判するのではなく、予期せぬ喜びや快楽、はたまた違和感や矛盾にも目を配り、多面的に見たり、ニュアンスを理解したりしようとする立場


Fort Kochi, South India 2026


酸っぱいおっぱい

   臨床心理基礎実習のマリ先生がまたまた、とても自己開示的な話をしていた。 マリ先生は、長い間、梅干しが苦手だった。 弁当の梅干しをどけても、ご飯の赤く染まった部分さえまったく食べられない。 ある時、実家にあった古い母子手帳を見て、自分の離乳がとても早かったことに気づいたマリ先...