2026年5月22日

快適すぎるインド旅行

 

大学院入学を控えたこの春、卒業旅行と称して南インドを旅した。

旧フランス領のポンディシェリ、旧ポルトガル領コーチン、同ゴアなど「インドの中の西洋」を巡り、1日3食、朝からカレーを食べ続ける旅。

この辺りのカレーは「ケララカレー」といって、ココナツベースで甘みがある。日本のインド料理店にはない深い味わいで、毎日食べても飽きなかった。

 初めてインドを旅したのは、大学1年だった19歳の春。「地球の歩き方」を片手に、安宿の相部屋に泊まり、屋台のカレーを食べながら、酷暑の北インドを横断した。

人と牛と人力車が溢れる街の大通り、老若男女の遺体が次々に燃やされるガンジス川の火葬場、カルカッタ(現コルカタ)の路上で行き倒れになっていた人…

生と死が露骨なインドを、体で感じる旅だった。

貧乏旅行の代償は大きかった。旅行2日めから1か月後の帰国まで、ず~っと下痢続き。成田空港の検疫で赤痢菌が検出されて、隔離病棟送りと相成った。

 今はもう、あの頃みたいに超満員の長距離列車の網棚で寝たり、2人掛けのシートに3人が重なり合うように座る夜行バスで移動するような気力、体力はない。社会人の財力にモノを言わせて、大名旅行をした。

少し長い距離の移動には、すかさず飛び道具を使った。今はインディゴというLCCが、インド全土に路線を広げている。何度も乗ったが、いつも定刻に飛び立ち、定刻に着いた。機内は清潔で、乗客のインド人も静かでマナーがいい。

このインディゴ、近年はわがJALANAを定時発着率で上回るほどの正確さ。

陸路の移動でも公共交通を使わず、配車アプリでタクシーを呼んだ。最長で4時間、貸し切りで移動したが、エアコンが効いた車内は快適だった。

水郷の街アレッピーでは、ベッドルーム付の観光船をチャーター。キャプテンとネパール人キッチンボーイを専属で従えて、船旅を楽しんだ。1泊2日で100ドルちょっとだから、南インドはまだまだ物価が安い。

そして近年のインドは、日本以上のキャッシュレス社会。地元の人は屋台の支払いさえ、QRコードにスマホをかざしている。クレジットカードも普通に使えた(一部、端末が不調だったり停電したりで決済できず、近所のATMまで現金を下ろしに行ったりもしたが…)。

今回は屋台で飲み食いせず、テーブルクロス付きのレストランで食べたので、胃も快調そのものだ。

そんな旅で、飛行機やタクシー、船の上から眺めたインドは…

どうも、期待したほどのインパクトがない。

インドが変わったというより、自分が変わってしまったのだろう。

インドの旅には、適齢期というものがある。

Alleppey, South India 2026



2026年5月15日

心理学者のイギリス

 

第一志望校に3連敗して入ったこの大学院に、奇跡が起きた。

私が入学した4月に、PCA(クライエント中心療法)のビッグネームが、他大学から移ってきたのだ。

実はワタクシ、目指すはPCAのカウンセラー。

予備知識もなく入学した第二志望の大学で、こんな幸運に巡り合うとは…

そして他の教授陣も、京大出身のユング派分析心理学者ロールシャッハ・テストの第一人者長年子ども臨床の最前線で活躍してきた人などなど、個性的な顔ぶれ

これまで高校も大学も就職先も第一志望に落ちてきたが、今回も第一志望に落ちて本当によかった!


イギリスの大学院で心理学の学位を得た先生も、2人いる。

そのひとりK先生は、ジョン・ボウルビィなどの心理学者を輩出したタヴィストック・クリニック週4回の精神分析を、3年間にわたって受けた。

カウチに寝た状態で行われる、本格的な自由連想法だ。

もし自分が受けたら、無意識の中身を丸裸にされそうで、怖い。

ある意味、とても厳しい訓練だ。

K先生に感想を聞くと、淡々とした口ぶりで、

自分の何かが大きく変わったということは、特になかったなぁ

「でも、こんなに私の話を熱心に聞いてくれる人がいる、と感動しましたよ」

「帰国したら、奥さんに優しくなったかな」

学生にも優しくなった」

ということだった。


もうひとりの英国帰り、M先生は留学イギリス人相手に100回の心理面接を行い、優秀な成績で修了した。

すべて英語でったのだから、とても大変なことだ。

M先生には、非言語的な共感的理解の力が備わっているのかも…


100セッションの中に、こんな相談事例があったという。

「日本人の女性とセックスがしたい」

なんて突拍子もない…

M先生、身の危険を感じたのではないだろうか。

PCAでも精神分析的心理療法でも、セラピストはクライエントのすべての言葉に対する「平等に漂う注意」が必要とされる。

だがM先生は、先の言葉に囚われて、その後のセラピーをうまくこなすことができなかった。

休暇で一時帰国することになり、彼を先輩心理士に託して、日本へ

先輩心理士が聞き出した彼の本当の主訴は、大切な友人を亡くしたことの喪失感だったという。


心理職は、言葉の裏の裏まで読まなくてはいけない、といわれるが…

安月給の割に、大変な職業だ。


Traditional Kathakali Dance, south India 2026




2026年5月8日

酸っぱいおっぱい

  

臨床心理基礎実習のマリ先生がまたまた、とても自己開示的な話をしていた。


マリ先生は、長い間、梅干しが苦手だった。


弁当の梅干しをどけても、ご飯の赤く染まった部分さえまったく食べられない。


ある時、実家にあった古い母子手帳を見て、自分の離乳がとても早かったことに気づいたマリ先生。傍にいた母に、その理由を尋ねた。


母の告白は、衝撃的だった。


「マリがおっぱいを嫌がるように、赤チンをおっぱいに塗って真っ赤にしたの」


「そして、梅干しの汁を乳首になすりつけたのよ


「家業の豆腐屋を助けて、早く配達に出たかったから…」


その場で、母と大ゲンカしたマリ先生。


不思議にもそのケンカ後、普通に梅干しを食べられるようになったという。



若い世代で恋愛が進まず、結婚も出生も減っている現状に対して、長谷川 眞理子・日本芸術文化振興会理事長「小さなリスクを試せぬ社会構造を見直すべし」として提言している。


賛否ありそうな話だが、「そうかもな」と思えたので、日経ビジネス電子版の記事から一部を紹介します。


・家族計画が一般化し、子どもは「授かるもの」から「今の生活と比べて選ぶもの」になった


・今、経験している仕事や趣味の楽しさは確実だが、子どもを持つ生活は未知だ。未知より既知が選ばれるのは自然で、先送りが重なれば出産の高齢化は避けられない


女性の社会進出も状況を変えた。30代がキャリアの山場となり、結婚や出産と競合しやすい。親族からの結婚圧力がなくなり、女性も経済的に自立できる以上、結婚はよっぽどの理由があるときに限られる選択肢になった


・また、都市では人が多いほど他者の背景が見えず、すれ違うだけの環境で恋愛が自然発生する方が例外


 SNSによって承認の基準が外側に置かれ、傷つくことへの恐れが肥大化する。失恋は“失敗”として過剰に重く扱われ、深い関係そのものを避けるようになる。便利な生活も拍車をかけ、あらゆる時間が一人で完結できてしまう


・恋愛はその中で最もコストの高い行為になった


・人間が持つ「誰かとつながりたい」という根源的な感情は消えていないが、その一歩を踏み出す力は鍛えなければ育たない。恋愛に限らず、未知に向かって試し、傷つき、回復する経験が必要


・現代社会では、その試行錯誤の機会が極端に乏しくなった。親も学校も企業も「失敗させない」ことを重視し、安全を過度に求める。だが失敗を避け続ければ、挑戦の筋肉は育たない


・失敗を避ける社会の中で恋愛や家族形成だけが「実践の場」を持てずにいる。どれだけ情報を与えても、人は実際に動いてみなければ学べない


・だからこそ求められているのは、安全に小さなリスクを試せる環境



Pondicherry, South India 2026


2026年5月1日

においを嗅ぐ心理師と、ひと筋の涙

 

この大学院の先生に、いわゆる研究バカはいない。

週の半分は、各方面で現役カウンセラーとして活躍中の人たちだ。

だから、その話にはとても臨場感がある。

K先生は長くジソウ(児童相談所)で働き、子どもの虐待やネグレクトに目を光らせてきた。

「来所するお母さんには必ず母子手帳を持ってきてもらってね、こっそり表紙のにおいを嗅ぐの。問題のある親子の手帳は、脂ぎってたり、タバコ臭かったりする」

「子どもの体のにおいにも敏感になるわね。大切に育てられている子はいい香りがするし、虐待を受けている子は、すえたにおいがすることがある。ママとパパ、どっちのにおいがするか嗅ぎ分けたりもする」

「そっと触ったりもするよ。耳の後ろに垢が溜まってないか、耳の穴が詰まってないかを見る」

「家庭訪問に行ったらまず、トイレを借りるね。トイレがいちばん、その家庭のありようを表してるから。ちゃんと子どもにトイレットトレーニングしてるかもわかるし」

「同行の職員には、『K先生は頻尿だね~』ってあきれられてるよ」

 

イギリス帰りのM先生は、カウンセラーとしての長いキャリアで一度だけ、泣いたことがあるという。

ある日、ガクソウ(大学の学生相談所)に、年配の男性がやってきた。長らく学びに飢えていた高卒の彼は、定年退職を期に、晴れて入学してきたのだ。

彼いわく、退職金を得たことを知った知人の女性に、資産運用を持ちかけられた。「私に預けてくれれば、1週間で倍にして返す」という。

試しに、1万円を預けた。1週間後、2万円を渡された。

次の週、2万円を預けた。翌週、4万円になって戻ってきた。

気がつけば、退職金全額を渡していた。

そして…そのお金は戻ってこなかった。

「彼にはね、『ここに来るより、まず法テラスに行きなさい』って言ったわ。そうしたら、女が書いた借用書が、新聞の折り込み広告の裏に走り書きしたような代物で、法的に効力がないことがわかって…」

一文無しになった彼は、宅配便の荷分けの仕事を始めた。

長年の夢だった大学に退学届けを出した日の、最後のカウンセリング。

向き合って座る彼との間に、沈黙が訪れる。

「ごめん、あなたにはかける言葉が見つからない…」

百戦錬磨のM先生の目尻から、涙がひと筋、滲み出たという。





快適すぎるインド旅行

  大学院入学を控えたこの春、卒業旅行と称して南インドを旅した。 旧フランス領のポンディシェリ、旧ポルトガル領コーチン、同ゴアなど「インドの中の西洋」を巡り、1日3 食、朝からカレーを食べ続ける旅。 この辺りのカレーは「ケララカレー」といって、ココナツベースで甘みがある。...