2024年12月27日

「好き」を仕事にしたら、そこにキョジンがいた

 

小さい頃から、趣味は写真。

高校では写真部に入り、撮影旅行と暗室作業に明け暮れた。

大学では主に山岳写真を撮り、卒業して報道カメラマンになった。

「好きなことを仕事にできてよかったね」

傍から見れば、そういうことになる。

でも現実は、そう簡単ではなかった。

 勇んで入社した新聞社は、プロ野球人気球団の親会社だった。

そして、数十人の同僚の中から選ばれる「G担」(キョジン担当カメラマン)は、出世コースど真ん中、花形ポジションとされた。

しかも「すべての報道写真の基本はスポーツ写真」が、不文律となっていた。

スポーツを撮れなければ、人間に非ず。

スポーツ取材に興味がなく、反射神経も鈍い人間(私)にとっては、実はかなりキビシイ職業なのである。

それでも、スポーツ以外に居場所を探して、なんとか20年余、在職した。

その間、栄えある「キョジン担当」には縁がなかったが、キョジン戦の応援取材には、有無を言わさず駆り出された。

3人で取材チームを組み、まずは球場近くで腹ごしらえ。油ギトギトの料理と一緒に、酒好きな先輩カメラマンに、飲めないビールを飲まされた。

この時点で、すでに戦意喪失。意識もうろう。

球場内のカメラマン席に戻って、さぁ試合開始だ。隣のベテラン・スポーツ紙カメラマンが、一球一球をレンズで追い、心地よいシャッター音を響かせる。

空調の効いたドーム球場は、暑からず寒からず、実に快適だ。

…これで寝るなという方が無理でしょう。

キョジンが勝とうが負けようが、ぼく興味ないし。

ウトウト…

カキーン!!

鋭い打球音と、大歓声。我に返ると、イヤホンのラジオ中継が「打った入ったホームラン! キョジン勝ち越しです!」と叫んでいる。

ししし、しまったぁ! 撮りっぱぐれたぁ!

もしこれが決勝点になってしまうと、会社に戻ってから地獄を見る。たちまち睡魔も吹っ飛び、その後は相手チームを熱烈に応援した。

すると、神風が吹いた。相手打線が奮起して、執念の再逆転!

あぁ、助かった…


もし自分が素直にキョジン軍のファンになっていたら…

タダで特等席から試合が見られて、さぞ楽しかったろうと思う。

仕事にも、もっと身が入っただろう。寝たりもしなかっただろう。

もしかしたら、人生そのものが変わっていたかも…

でも人間って、そう簡単には宗旨替えできないのです。

Tateshina Japan, December 2024


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