「戦前の大金持ち」 出口治明編 小学館新書
昼休みに勤務先の病院の図書室で、たまたま見つけた。
この本によれば、明治から昭和初期にかけての日本は、今よりずっと自由闊達な社会だったようだ。
何しろ当時は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ並みの起業家がゴロゴロいたというのだ。
例えば、梅屋庄吉(1868~1934)。
梅屋は14歳の若さで上海に渡り、のち香港とシンガポールで写真館を経営。当時最先端のメディアだった映画ビジネスに着目し、巨万の富を築く。
そしてその金を、「辛亥革命」で清朝を倒そうとした孫文に惜しみなく送金した。欧米列強によるアジア支配に立ち向かうために。
「革命プロデューサー」だ。
例えば、薩摩治郎八(1901~1976)。
薩摩は19歳でイギリスに留学。のちフランス・パリに渡り、「バロン薩摩」として社交界デビュー。実家の木綿問屋が稼いだ金で豪遊しまくった。
彼が1920年代の10年間にパリで使った金は、現在価値で800億円に上るという。
そして豪遊の傍ら、画家の藤田嗣治らパリ在住の日本人芸術家を、パトロンとして支えた。
例えば、土倉庄三郎(1840~1917)。
“吉野の山林王”と呼ばれ、林業で莫大な富を築いた土倉。女子教育にも熱心で、次女を7年間、明治時代の奈良県川上村からアメリカに留学させている。
また土倉は、薪として切られる寸前だった吉野山のサクラ3万本すべてを、大阪商人から買い戻した。その時の土倉の言葉が、
「いつか外国人が吉野山にサクラを見に来ることもあるだろう。その日までサクラを守らなければならない」
100年以上も前に、現在のインバウンド需要を予見していたとは!
この本の編者・出口治明自身も、インターネット生保を立ち上げた起業家だ。現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務めている。
出口は本書で、この国には今こそ梅屋や薩摩、土倉のような「型にはまらない日本人」が必要だと説く。そしてそのカギは、「飯、風呂、寝る」の生活から「人、本、旅」の生活への切り替えにあるという。
長い時間をかけて労働し、家と職場を往復しながら「飯、風呂、寝る」の生活を繰り返していては、イノベーションを起こすようなアイデアは生まれない。
早く家に帰り、空いた時間を活用して「人、本、旅」とたくさん触れ合うことが、サービス業が中心になった現代の日本人に合った働き方だ、という。
そして「そのために重要なのは、長時間労働をやめること」
Summer camp in Yatsugatake, 2023 |
0 件のコメント:
コメントを投稿