「人はどう老いるのか」 久坂部羊著 講談社現代新書
68歳の著者は医師として長年、高齢者医療に携わり、「どうすれば上手に老いることができるのか。日々真剣に考えている」。自殺に対する考え方がユニーク。以下、内容の抜粋です。
・日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで命を落とす。がん患者が増え、がんで亡くなる人が多いのは、他の病気で死ぬ人が減って長生きする人が増えたから。今の医療では、がんは老化現象のひとつ
・マンモグラフィーや胃のバリウム検査はかなりの放射線を浴びる。私自身はがん検診は受けたことがないし、妻も同様。医者の友だちにも、がん検診を毎年受けている人はほとんどいない
・体調に注意していれば、病状が出てから治療しても助かるがんは多いし、そもそも2人に1人ががんになるということは、2人に1人は生涯がんにならないということ。その人にとっては、毎年受けるがん検診はすべて無駄
・医者が「この抗がん剤が効きます」と言う時の「効く」は、がんの増殖を抑えるという意味。体の中からがんがなくなるという意味ではない。抗がん剤でがんが治ることは、一般的にはない
・でも抗がん剤治療の進歩により、がんは完全には治らないけれど、それによって命を落とすことがない状態を続けることが可能になってきた→がんとの共存
・死にゆくがん患者に必要な医療は、痛みをコントロールするための医療用麻薬の使用。モルヒネや人工麻薬のフェンタニル、オキシコドンなど
・もし自殺を企てている人を止めるなら、その人が抱えている問題や悩みを解決するか、少なくとも気持ちが楽になるような手立てを講じてからにするべき。それをせず単に「自殺するな」というのは、死ぬほど苦しい思いをしている当人に「我慢しろ」と言っているのと同じ
・自殺に反対する人は、相手の苦しみについて十分考えることをせず、ただ相手が死んでほしくないという気持ちでいるのではないか。それはすなわち自分のエゴ。死の全否定はよくない
・戦前の日本は命を粗末にする国だった。敗戦後に180度転換して、今度は命を大事にしすぎる国になった
・私は子どもの頃、武士がなぜ切腹できたのか不思議でならなかったが、切腹に関する本などを読んで、徐々にその気持ちがわかるようになった。ふだんから常に「死」というものを意識して生きるメンタリティがあったということ
・「武士道と云うは死ぬことと見つけたり」(「葉隠」)…常に死を意識して生きることで自由度を増し、その場その時を大事にし、自分の道を誤らずに済むという考え。うわべだけでなく本気で考えているので、時が来れば逃げることなく死を受け入れることができた
Matsumoto Japan, winter 2023 |
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