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2026年10月9日

受話器の向こう側~2

 

いよいよ、恐怖の「電話相談実習」が始まった。

「実習」とは名ばかりで、「日常の悩み、心の健康に関する相談を受け付けます」とインターネットに公開されている電話番号の、受け手になるのだ。

いきなりの、ガチ本番。

クラスメート3人でひとつの固定電話を囲み、順に応対した。受話器を置いてもすぐ次のコールが鳴り、休む暇もない。

私を含めて、「そもそも電話で話すこと自体が苦手」という3人。中には深刻な内容の電話もあって、早くもこちら側のメンタルが危機的状況に。

「あなたも電話相談に掛けてみればいいのよ~ プロから応対の基本を学べるわよ~」と、指導教員は言う。

いや冗談抜きで、こっちが心の悩みを相談したい気分。

電話相談を利用する全国の皆さん。

もし心細げな初心者相談員に当たってしまったら、本当にゴメンナサイ!

 

言葉を武器に仕事をする、コピーライターの梅田悟司さんと経営コンサルタントの安達裕哉さん。2人の対談に心理職の仕事にも通じるものがあったので、一部を紹介します(日経ビジネス電子版より)。

・結局、何が相手に刺さるのか。それは相手のことを思い、相手のために使った時間。人は「努力の跡」や「かけたコスト」を見ている

・生成AI(人工知能)の出力をそのまま出した企画書への不信感は、裏を返せば「こちらのために考えた跡が見えないよね」に帰着する

・コピーをつくるときは、まず相手に話してもらう。途中で間が空いても、すぐには埋めない。すると、相手がまた話し始める。同じ話が繰り返されるところまで聞いて、何を大事にしているのかを探っていく

・本音をちゃんと伝えようとすると、付き合える相手が限られてくる。「この人に時間をかけよう」、逆に「この人にはかけない」。これを決めざるを得ない

・平等に接するのは正しいけれど、現実には、誰にどこまで時間をかけるかを平等にはできない。本音を伝えるのは、それくらい時間がかかる

・「本音」とは、「やさしさを配る」こと。やさしさを配るとは、相手のために時間を使うこと。でも配りすぎると、自分のやさしさが枯渇してしまう。10人は無理で、結果的に5、6人にしか配れていない

・最近使うようにしている言葉は「最近、仕事どう?」ではなく、「最近、人生どう?」。その質問自体が、「あなたに興味があります」と伝えている

・別に壮大な物語を語るわけではない。「最近、面白いことある?」からでいい。「旅行に行った」でもいい。そこから時間をかけると、「本当はこういうことがやりたいんですよね」という話が出てくる。それは仕事の話というより、「生きざま」であり「人生」の話

Alleppey, South India 2026


2026年10月2日

共感するAI

 

大学院の同級生M子さんが、AIカウンセリングを研究している。

先行研究では、人間のカウンセラーに比べてAIカウンセラーの方がより「共感」してくれるという、驚くべき結果が出ているらしい。

心理職を目指す、ぼくらの立場ないじゃん!

そういう自分も、ふと気がつけば、AIに相談していたりする。

誰にも知られずに恥ずかしい相談ができるし、何しろタダだし!

 

AIが得意とする分野がある一方で、人間にしか担えない役割とは何か。経営学者の楠木建氏と独立研究者の山口周氏が語り合っている。

どうやらAIは、結婚相手選びはあまり得意じゃなさそう。

日経ビジネス電子版から、一部を紹介します。

・スピーチの内容やブログのドラフトなどを生成AIに作らせると、構成の提案、文章の草稿、表現の改善、図表の生成などは得意

・ただ、「分析」はある程度できるが「統合」は苦手。「分析」と「統合」は、英語では「分析=アナリシス」と「統合=シンセシス」で「対の関係」

・つまり、頭の使い方としては真逆。「新聞で読んだこと」「会食で聞いた話」「街を歩いて気づいたこと」という3つの異なる情報を統合して、そこから言えそうなことを考える、というのはまだまだ苦手……というより、そもそもできない。本質的な問題の創出には、人間の価値観や直観が不可欠

・『婚活したらすごかった』(石神賢介著/新潮新書)という本を読むと、マッチングや婚活パーティーといった人工的に設計されたシステムには、極端なメリットとデメリットが併存していることがよく分かる

・偶然の出会いと比べて知り合う相手が飛躍的に増える一方で、「相性」という全人格的にして極端に総合的な問題を、年齢や趣味や容姿や収入や住所などの要素に分解してしまう

・そうすると、相手が不動産のような「物件」にしか見えなくなってくる。ここにマッチングシステムに不可避の問題がある

・婚活サイトにプロフィールを提出する→各人のプロフィールに異性からの申し込み状況が示される→自分の価値が定量化された気になる

・相手によって好みがまちまちだというのが、そもそも「マッチング」の本質。1次元上で測定できる「優劣」などないのだが、年収や容姿ばかりが前面に出て、他が捨象されてしまう

・情報量が多いほど、実は情報が伝わらないというパラドックス

・結婚は、現実生活の現実的意思決定。現実的であることは悪くないし、むしろ現実的であるべきだが、問題は現実的になりすぎるところ

・この辺りは、民主主義が機能しすぎるとポピュリズムになるという成り行きと近似している

Fort Kochi, South India 2026



2026年9月25日

「警察官のこのこ日記」

 

「警察官のこのこ日記」安沼保夫著 三五館シンシャ 

元警察官の著者が、その過酷な日常を描いたノンフィクションだ。

特に、警察学校時代の描写がすさまじい。

入校式の前、全員が講堂に集められ、眼光鋭い坊主頭の教官に「おまえ、なめてんじゃねーぞ! やる気がねえ奴は辞めろ! 代わりはいくらでもいるんだ!」いきなり、怒鳴られる。

ネクタイの結び目が曲がっているだけで、「バシッ」容赦なくビンタが飛ぶ。

時には、パンチも飛んでくる。

上司の命令は、絶対。教官の指示には、「はい」か「了解」しか許されない。

「いいえ」と言えるのは、「辞めるか?」と聞かれたときだけ。

「警察官に頭脳はいらねぇ。首から下だけを鍛える首下教場だ」が、鬼教官の口癖。

毎日のランニング、柔道、逮捕術。

恐怖政治と、同調圧力に支配された日常…

今どき、こんな世界があったとは…

 

「権力はウソをつく」

脚本家の大石静さんが、NHK「最後の講義」で、鬼気迫る表情で言っていた。

安保闘争当時、大石さんは、警官隊に殴られて血まみれになった多くの学生を目撃した。それは権力による一方的な暴力だったが、警察側の記者発表は連日「市民の負傷者は数名、警官の負傷は数十名」というものだったという。

治安維持を担う警察官は、市民生活になくてはならない存在。

立派な職業だと思う。

でも、安保闘争を知らない私でさえ、武器を持った国家権力と聞くだけで、条件反射的な拒否反応がある。

 

この春、わが大学山岳部の後輩が、T県警とN県警に就職した。

ゆくゆくは、山岳救助隊員になることを目指す。

Sくんはともかく、数年前一緒にヒマラヤ登山をしたHさん♀が、心配。読んだばかりの「警察官のこのこ日記」が、脳裏をよぎる。

久しぶりに会って話を聞くと、元気いっぱい、いつもの屈託のない笑顔で

「警察学校、楽しいです!」と言う。

え? 警察学校が、楽しい?

Hさんの教官は、厳しいながらも愛があり、理不尽なところがなく、指導に筋が通っているという。

在学中に2度もヒマラヤ遠征をしたHさんは、体力に余裕があるのだろう。山岳救助隊という明快な目標があるのも、がんばれる秘訣か。

万事順調な様子に、ホッとひと安心。

でもHさんの同期には、たびたび彼女の寮部屋を訪れては泣く人もいるらしい。


Fort Kochi, South India 2026




2026年9月11日

AIを親友にしてはいけない?

 

大学院でレポート課題の下調べをしたり、統計ソフトに書きこむプロンプトを考えたり、修士論文で使う先行研究を要約したりする時。

無料で使える各種AIが、大活躍する。

多くの教員も、学生がAIを使っていることを知っている。「この研究にはこのAI」と、お勧めAIを教えてくれる教員も、いたりする。

残酷な締め切り期限が課されるレポート課題、膨大な関連資料の読み込み…

AIは、われわれ大学院生の大親友だ。

 

コロナ禍の時、台湾の初代デジタル担当相として大活躍した天才的プログラマー、オードリー・タン氏。

彼はAIの可能性を肯定的に見ながらも、「親友にしてはいけない」と言う。

日経ビジネス電子版の記事から、一部を紹介します。

・2016年に囲碁AI「AlphaGo(アルファ碁)」が、韓国のイ・セドル九段と対局して勝利した。当初はAIが人間の棋譜を学習していたが、その後AI同士の対局によって学ぶようになり、人間の囲碁の能力を上回るようになった

・すると両者の関係は逆転し、人間がAIから学ぶようになった

・囲碁で得点を最大化するといった、狭く定義された課題で一番になることに置いているような人は、AIの方が囲碁をうまく指せるようになると、がっかりするかもしれない

・しかし、人間が徒歩で馬と競争することに意味はない。馬と競う必要はなく、馬に乗ればいい。馬はスピードを与えてくれるが、進む方向を選び、旅に意味を与えるのは、依然として人間だ

・今年、日本で行われたイベントに登壇した。私は(AIを搭載するメガネ型の)スマートグラスをかけていたので、日本語で話す対談相手の発言を、視線を合わせたままで理解することができた。スマートグラスに英訳がリアルタイムで表示されたから

・私はこのようなAIを「支援的知能」と呼んでいる。こうしたテクノロジーは、人々の距離を近づけ、集団知を拡張してくれる。以前は理解し合えなかった言葉を語る人々が、スムーズに会話できて仲間のような一体感を得られるようになる

・最も重要なアドバイスは、AIが親友のような存在だと勘違いしないこと。多くの経営者は、質問を投げかけると、「私はこう思います」「あなたは100%正しい」「素晴らしいアイデアです」といったふうに答えるAIを使っている

・そうすると、実在する人間に自分が肯定されているように感じ始めるかもしれないが、それは幻想だ。AIシステムが役割を演じているにすぎない

・経営者は、AIとやり取りする際のスタイルを変えるべき。褒めたり、感情を表現したり、友達のふりをしたりしないような指示を追加した方がいい

Fort Kochi, South India 2026



2026年8月21日

ファミリーセラピー怖い

 

「明日の授業は、かなりメンタルに負荷がかかりますよ」

心理系大学院、夏の集中講義初日。

95分×5コマの授業を終えたY先生が、とても不吉なことを言った。

東京からわが校に出張してきたY先生は、「家族療法」の専門家だ。

セラピストと患者が1対1で行う普通の心理面接と違って、家族療法では家族全員が治療対象になる。たとえば不登校の子どもを「患者」とした場合、不登校の原因は子ども本人ではなく、家族それぞれの関係性にあると考える。

誰の責任も問わず、悪者探しもしないセラピー。とても魅力的な考え方だ。

そして、翌日。

円環的因果律、システム・サイバネティクス、ミラノ学派、社会構成主義、ソリューション・フォーカスト・アプローチ…

淡々と家族療法の理論を説いていたY先生が、

「私は話し疲れたので、今から皆さんにロールプレイをやってもらいます」

と言った。

ホワイトボードに書き出した家系図を眺めながら、患者(とされる人)が家族に向けている感情を解き明かしていく「ジェノグラム・インタビュー」をやる、という。

「それでは、患者になりたい人は手を挙げて!」

しーん…

そうだよね、誰もやりたくないよね。

仕方ない、ボクが生贄になってあげよう。

まずクラスメートのW子さんが、私の言葉通りに、私と亡くなった妻の家計図を親子3代ずつ描いていく。

それから延々3時間、Y先生のインタビューを受けた。

それは、ロジャーズの来談者中心療法のような受容的セラピーとは全く違う、容赦ない質問の連続だった。

ああ、同級生の面前で、ボクのプライバシーが丸裸に…

一夜明けた翌日。

「昨日はY先生にかなり深掘りされてたけど、大丈夫ですか?」

クラスメートが気遣ってくれた。

実際、幼少時のトラウマ的な記憶を掘り返されたときは、ほとんど泣きそうだった。

やがて教室に現れたY先生、

「昨日はつい遠慮して、いつもは聞くことを聞かなかったなぁ」と言う。

「それは例えば、どんなことですか?」

「例えば、パートナーとのセックスの頻度とか…」

「エーッ」

そりゃ、人生と「性」は、切っても切り離せないものだけど…

そりゃ、カップルセラピーでは必要な要素かも知れないけど…

そんな質問、みんなの前で答えられるわけねーだろ!

Fort Kochi, India 2026



2026年8月14日

受話器の向こう側


 やっと終わった~!

鬼門の「心理統計法特論」期末レポート課題。

大学院の期末試験は、教室でテストを受ける代わりに、2週間かけて長文レポートを書くのです。

そしてその締め切りが、お盆の真っ最中。

途中で他の集中講義も挟まるから、夏休みなんて絵に描いた餅だ。

統計法の期末課題で私が選んだのが、「175カ国117,293人の参加者による、恋愛とパートナー選好に関する異文化間データ」。

その膨大なデータの中から「性別」と「浮気の経験の有無」の組み合わせで尤度比検定を行い、x²分布による近似計算法でP値の評価を行った。

統計解析用のプログラミング言語「R」を駆使し、クロードさん、チャッピーさん、ジェミニさん、副操縦士さんら生成AIの助けも借りて(←教授にはナイショ)、なんとか締め切り前日にレポートを仕上げた。

こう書くと、いかにも統計を理解しているように聞こえるが…

実は、最後までよーわからんかった。

このレポートが書けたのは、休日のスターバックスで、一杯のフラペチーノと引き換えに手伝ってくれたクラスメート(中学時代から交際している彼氏を尻に敷いて君臨する女王、Hさん)のお陰だ。

それにしても、まさかこの年で統計解析言語と格闘することになるとは、ね。

 

心理系大学院の数ある実習の中で、最近始まったのが「電話相談実習」。日常の悩みや不安、こころの健康に関する相談を電話で受け付ける、その受け手を務めるのだ。

受話器の向こう側は統合失調症の患者さん、「死にたい」と訴えてくる人、ひたすら「もやもやする」を繰り返す人、1時間に30数回ワン切りコールする強迫神経症と思われる人など、さまざま。

相談員を務める修士2年の先輩たちの受け答えは、手慣れたものだ。

こんなこと、果たして自分にできるのか?

今のところは陪席で済んでいるが、夏休みが明けると、いよいよ我々1年生の出番だ。

…不安が募る。

午後7時に実習を終え、引き続きスーパービジョン(指導教員による振り返り面接)を受けた。今夜のスーパーバイザーは、メタルフレームの眼鏡が似合う、知的美人のO先生。各事例を丁寧に聴いて、的確なアドバイスをくれる。

1時間ほどで、スーパービジョンも終了。

研究室の壁に停まった蚊を右手の一撃で仕留めながら、O先生がつぶやく。

「実は…私も寂しい真夜中、つい電話相談にかけちゃうのよね。『こんな時間にスミマセン~』なんて言いながら」

せ、先生…

ダ、ダイジョーブ?

                          ※写真と本文は関係ありません

Summer camp, Nagano Japan 2026




2026年7月31日

AIカウンセラー


 やった! 晴れて夏休みに突入!

と、喜びたいところだが…

大学院の夏休みは、まさに絵に描いた餅。

いまだ学期末の長文レポート課題に追われている上に、休み期間中も毎週、集中講義がある。

ただ、研究法や統計法の100分間プレゼンテーションが無事に終わったので、ストレスMAXの状態からは多少、持ち直したかも…

ふぅ。大学院生活、どうしてこんなにつらいんだろう。

脳みそを酷使するだけでなく、「こころ」を震度7で揺さぶられるから?

生成AIに向かって「大学院が辛いよう…」とつぶやいたら、その辛さの正体を見事に言語化してくれた。たかがAIと言うなかれ。親身に寄り添ってくれる。

以下、チャッピーさんの回答です。120%その通りです!


心理系大学院がつらいと感じられる理由はいくつかあります。

 1. 学問と実践の両方を求められる

多くの大学院では、

* 授業を受ける

* 論文を読む

* 研究を行う

* 修士論文を書く

* 実習に行く

* ケース検討をする

というように、研究者としての訓練と臨床家としての訓練を同時に進めます。そのため負担が大きくなります。

 

2. 「自分自身」が問われる

心理学、とくに臨床心理学では、知識や技術だけでなく、

* 自分は何を感じているのか

* クライエントにどう反応しているのか

* なぜそう考えるのか

を常に振り返ることが求められます。

工学や法律のように「正解を覚えればよい」という学問ではなく、自分自身の在り方が学習対象にもなるため、精神的な負荷が大きくなります。

 

3. 正解が見えにくい

心理臨床では、

* この面接でよかったのか

* この解釈は妥当なのか

* この支援は役立ったのか

について明確な正解がないことが多いです。

そのため、「これで十分」という感覚を持ちにくく、不安や迷いが続きやすくなります。

 

4. 実習で現実の苦しさに触れる

病院や学校、福祉施設などの実習では、

* 自殺念慮

* 虐待

* 不登校

* 精神疾患

* 終末期

など、人の深い苦しさに向き合います。

知識として学ぶだけでなく、実際の人と関わるため、感情的な負担も生じます。

 

 5. 少人数で評価される

心理系大学院は少人数教育が多く、教員との距離が近い反面、

* 発言

* レポート

* 面接の様子

* 実習態度

などを細かく見られます。

匿名性が低く、「常に評価されている感覚」を持つ学生も少なくありません。

 

6. 理想と現実のギャップ

入学前は、

「人の役に立ちたい」

「心理療法を学びたい」

という期待を持っていても、実際には

* 統計

* 研究法

* 論文執筆

* 倫理手続き

などに多くの時間を費やします。

このギャップも苦しさの一因になります。

 

一方で、心理系大学院のつらさは、単に課題量が多いからだけではありません。心理臨床は「他者を理解する学び」であると同時に、「自分自身と向き合う学び」でもあるためです。

そのため多くの修了生が振り返ると、「知識や技術を学ぶ以上に、自分の限界や価値観、人との関わり方を学んだ時間だった」と表現します。


Goa, South India 2026


2026年7月24日

かわいいペットがやってくる、かも

 

わが大学には「院生室」という、大学院生のための休憩室がある。

修士課程の1,2年生合わせて12人で占有できる、なかなか贅沢な空間だ。

でも院生室のドアを開けると、トカゲが床を走り去る。

入り口で靴を脱ぐと、スリッパの中にムカデや蜂が潜んでいるから、要注意。

校舎の三方を畑と裏山に囲まれた、自然豊かな(豊かすぎる)環境だ。

そんなある日の、ランチタイム。

クラスメートの地元女子たちは、お母さんが作ってくれた弁当を広げている。

私は寂しく、コンビニで買ったサンドイッチをかじる。

大学院生にもなってママのキャラ弁かよ!と、心の中で毒づきながら…

すると、隣のテーブルに陣取った修士2年の先輩が、

「私、ミヤサカさんの飼いネコになる! 皿洗いするネコ!」

「ぼくはミヤサカさんの飼いイヌになる! 掃除と洗濯するイヌ!」

と、口々に言い始めた。

私が株で生活していることは、どこかでポロっと言ったかも。

そこに尾ひれ背びれがついて、「ミヤサカさんはお金持ち」ということになってしまったみたい。

みんな、よっぽど就職活動で苦労してるんだなぁ。


そしてついに、運命の日がやってきた。

心理統計法特論、恐怖の100分間プレゼンテーション!

ポアソン回帰、最大対数尤度、階層ベイズモデル、パラメトリックブートストラップ法、ロジットリンク関数、一般化線形混合モデル、マルコフ連鎖モンテカルロ法、無情報事前分布、BUGSコード、Neyman-Pearsonの検定の枠組み…

私には「宇宙語」にしか聞こえない統計用語とパワーポイントを駆使して、みんなの前で発表しなければならないのだ。

私の前週に発表した才媛モエカさんが、「ミヤサカさんのために、優しくかみ砕いて解説してあげたよ」という。

ううう、ありがとう。でも、それでも、1ミリもわからんかった…

絶体絶命。でも、この単位だけは落とせない。

自分の担当分野を文系的理解で徹底的に読み込み、乱数シミュレーションはパソコンの統計ソフトにぶち込んで、本番に臨んだ。

さも理解しているように見せかける、我ながら惚れ惚れする、演技力。

そして、わがクラスメートの、万雷の拍手による援護射撃。

頭の上に大きなはてなマークを乗せたまま、T教授が「ま、いいか」という表情で、合格点をくれた。

安堵のあまり、パソコンの上に突っ伏した。

Goa, South India 2026



2026年7月17日

インテーク面接

 

大学併設の「心理臨床センター」で行われたインテーク面接(初回面接)に、初めて陪席した。

初対面の相談者から、限られた時間でできるだけ多くのことを聞き取り、継続面接につなげる大事な面接だ。

ゼミのM先生に

「ぼく、これからインテークの陪席やるんです」

と言うと、

「あなた、面接中に絶対うなずいたらダメよ!」

とくぎを刺された。

私はふだんの会話で、やたらうなずく癖がある。平均、1分間に約10回。

陪席者のうなずきは、相談者にとってもカウンセラーにとっても目障りで、面接の流れを妨害してしまうらしい。

ここは、壁の花に徹しなければ…

20代女性の相談者を相手に約100分間に及んだ面接中、うなずくのを我慢していたら、首がガチガチに。

相談者の言葉を一言一句漏らさず書き取って、後で逐語録を作るという大役を仰せつかっているのに、「うなずき厳禁」に気がとられて、つい手が止まってしまう。

あぁ、早く一人前のカウンセラーになって、思う存分うなずきたい!

(写真は「南インド・カレーの旅」第3弾です)





       


2026年6月26日

大学教授、だまされる

 

大学院のゼミでご指導頂くM先生が、オンライン詐欺に遭った。

被害額、約90万円…

生真面目タイプが多い精神分析派と違い、PCA(パーソンセンタード・アプローチ)派のM先生は、とてもサバサバした性格だ。

90万円取られても、ケロッとしている。

そして「転んでもタダじゃ起きないよ! 私を騙した詐欺師の手口をみんなに広めて!」と息巻いている。

先生のご希望通り、事件のいきさつを紹介します。

①   M先生のニュージーランド(以下NZ)の友人が、WhatsApp(海外でよく使われるLINEみたいなアプリ)経由で、「日本製のサプリメント(コラーゲン)を買って送って欲しい」と、M先生に依頼

※先生はイギリスで博士号を取っていて、英語圏に友人が多い

② さらにその友人は「家族の誕生日に間に合わせたい。NZからの送金では間に合わないから、代金15万円は建て替えて欲しい」と

③   この時点で先生は詐欺を疑い、念のためその友人の夫からもWhatsAppでメッセージが欲しい、と依頼

④   夫名義のメッセージを受け取った先生は、友人を信用して、15万円を指定された口座に送金

⑤   すると今度は「そのサプリを90万円購入すると、20万円分のおまけがつく。だから追加で75万円分買って欲しい」と。

⑥   先生は「そんな大金は建て替えられない。まず、NZからお金を送って欲しい」と返信

※この段階でいきさつを聞いた私は「90万もするコラーゲンなんてあり得ない。ぼくがマツキヨで買ったコラーゲンは千円でしたよ」と言ったのだが…

⑦ ほどなく「先生の口座に送金した」と、スクリーンショット付きのメッセージが来る

⑦   さらに、みずほ銀行からも「NZから先生の口座に送金があった。3~5日で入金する」とのショートメッセージが

⑧   その「証拠」を信じた先生は、追加の75万円(合計90万円)を送金する

⑨   ところが10日待っても、NZからのお金が先生の口座に入金されない。不審に思った先生が、口座があるみず〇銀行に照会すると、「海外からの送金の事実はない。ショートメッセージも送っていない」との返事

⑩   ここで初めて先生は、自分のWhatsAppのアカウントが乗っ取られていたことに気づく

⑪   犯人は先生のアカウントを乗っ取り、登録されていたNZの友人になりすまして詐欺を働いたのだ

⑫ 友人に頼まれて気軽に90万円を建て替えるM先生は、よっぽどお金持ちに違いない


Hongkong, 2026 ※写真と本文は関係ありません



2026年6月12日

私はカモシカ

 

・もし、自分を動物に例えるとしたら?

A子「リス」 B子「カモシカ」 C子「飛べない鳥」 D子「ウサギ」 E子「フクロウ」

・あなたが人生の最後に食べたいのは?

A子「オムライス」 B子「あん肝」 C子「寿司」 D子「オムライス」 E子「ウナギ」

・地球滅亡の日、3人だけロケットで脱出できるとしたら、誰を乗せる?

A子「私以外の乗りたい人」 B子「私は辞退する」 C子「私、母、弟」 D子「科学者、医師、心理士」 E子「私と、年下で女性の友人」

・自分の母親を、漢字一文字で表すとしたら?

A子「明」 B子「自」 C子「保」 D子「緩」 E子「情」

・自分を1から9までの数字で表してください

A子「7」 B子「7」 C子「4」 D子「2」 E子「9」


クラスメート5人が、5つの質問の答えを無記名で書いた。

最後に、どの回答を誰が書いたかを、皆で当てっこ。

イエーイ! 全員を正確に当てられたのは、私だけ。

4月の入学式で知り合ってから、2か月半で5人のパーソナリティをかなり正しく把握した。我ながら、鋭い観察眼。

自分、心理職に向いてるかも!

ちなみにこれ、ある日の大学院「臨床心理基礎実習」です。

発表と課題地獄の中、たまにこうして息抜きさせてくれるのは嬉しい。

 

これまでに複数の先生から、

「心理系の大学院では、朝から晩まで100%心理学ばかりやるから、いやになるほど自分や他人の心について考える。すると、クラスメートの間に不思議な力動が働いて、妙な対立関係になったりする。会社の同僚同士みたいな関係とは、ぜんぜん違うよ」

と、いうようなことを言われた。

今のところ、クラスメート同士の仲はとてもいいが…

実際にクライエントを持つようになると、我々のメンタルが悪化する、という話も聞く。

 ちなみに、わがクラスメート(22~23歳女子)は

「もしクライエントを選べるなら、権威主義的な中高年男性だけはイヤ!」

と、異口同音にいう。

ああ、自分の属性はそんなに嫌われてるのか…

ため息。

Chennai, South India 2026




2026年6月4日

感情をコントロールする

 

件の「巨人アベカントク解任事件」、わが大学院でもかなり話題になった。

授業中に警視庁捜査一課の刑事にLINEして、「家庭内暴力の現行犯逮捕って可能なの?」と聞く教授がいたかと思えば…

「児童相談所が警察に通報するってアリですか?」と学生に聞かれて、「エッ何の話? へぇー、そんな大ニュースがあったんだ!」と返す世間知らずは、元児童相談所長のM先生。

「よく知らないけど…その一家、揃っておバカさんよねー」

M先生のコメントに、座布団10枚。


 健康社会学者の河合薫さんが、アベ監督事件に関連して、感情をマネジメントすることの大切さを説いている。

日経ビジネス電子版の記事から、一部を紹介します。

・SNSが普及し、あらゆる「密室」が可視化される現代において、一瞬の感情の暴走が、何十年もの歳月をかけて築き上げてきた「信頼とキャリア」のすべてを台無しにしてしまう破壊力を持つ

・現代社会は、体を動かす「肉体労働=ブルーカラー」、知識を使う「頭脳労働=ホワイトカラー」に加えて、「感情労働=自分の感情をコントロールし、組織が求める適切な表情や態度を維持して相手をケアする労働」が増えた

・感情労働とは、サービス業や医療・看護、カウンセリングなどの仕事

・そして、人間だけが「社会的な生き物」として、他者と共生するために感情をコントロールする知恵=EQ(Emotional Intelligence)を持っている

・人生の成功を予測するのは IQ (知能指数)ではなくEQであり、EQは誰もが高められる能力

・社会が同じ価値観を持っていた時代は、感情の暴発や不機嫌も「厳しい指導」として回収された。しかし「パワハラ」という新しい言葉が生まれ、「厳しい指導」という間違った正義に耐えていた人たちが可視化され、ただの暴力に過ぎなくなった。上司は部下をコントロールする武器を失った

・たとえそれが子であれ、親であれ、友だちであれ、誰であれ、罵るような言動は決して正当化されるものではない。感情を爆発させて一番後悔するのは自分自身

・感情コントロールは、決して難しいものではない。ネガティブな感情を抑えたり消したりするのではなく、ちょっとだけ「間」をつくるだけで、他者を傷つけない言動に置き換えるシステムが人間にはある

・怒りや強い衝動が湧いたら、その場を離れる、深呼吸する、紙などをギュッと握りしめる、心の中で数字を数える、などするだけでいい。その「間」ができると、情動を抑える理性が働くのだ

Alleppey, South India 2026





2026年5月29日

涙の意味は?

 

この1週間で2度、女性の涙を見てしまった。

最初は、臨床心理面接特論の授業中。

K子先生の気まぐれで、1週間の出来事を、学生が順番にコメントすることになった。

私はテキトーに思い出したことを話し(何を言ったかも忘れた)、M子さんの番になった。

突然、彼女の眼から、ぽろぽろ涙がこぼれ落ちた。

声を詰まらせながら、可愛がっていた犬が死んでしまった、と。

K子先生は、顔色ひとつ変えない。

「そうですか。ハイ、じゃあ次の人!」


もう一度は、ケースカンファレンス(事例検討会)の席上で。

大学院2年の先輩C子さんが、自分が受け持っているクライエント(父を亡くして不安定になった5歳男児)との面接の様子を発表した。

それを聞いたベテランの先生方から、

「彼の万能感を満たすと言っておきながら、あなたは彼の攻撃性を怖がっていますね」

「セラピーの方向性が、見えてきません」

容赦ない指摘が飛ぶ。

やがて、C子さんの瞳からも涙が…

C子さんいわく、

「先生の指摘で泣いたんじゃない。あの子の心情を思い出して泣いたんだよ!」

 

人の情動に関する学説のひとつに、ジェームズ・ランゲ説がある。

「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」という理論だ。

外的な刺激を受けると、まず身体反応(涙)が先に現れ、それを大脳が感知することで情動(悲しさ)が生じるのだ、という。

いっぽう、キャノン・バード説というのもある。

外的な刺激を受けると、神経信号が大脳と身体末梢に分かれて到達し、情動(悲しさ)と身体反応(涙)が同時に発生する、という考え。

さらには、シャクター・シンガー説がある。

情動の発生には、生理的喚起と認知的解釈の2要因が必要で…

以下略。

理論はともかく、私は女性の涙に弱い。

すぐ、すごく、動揺してしまう。

(たぶん、男の涙にも弱い)

先生方に「オロオロしてないで、涙の意味を解釈しろ!」と、どやされそう。

プロの心理士になったら、毎回クライエントの涙にうろたえるわけにもいかないし…

はぁ。

やっぱり心理職、向いてないかも。

Pondicherry, South India 2026



2026年5月15日

心理学者のイギリス

 

第一志望校に3連敗して入ったこの大学院に、奇跡が起きた。

私が入学した4月に、PCA(クライエント中心療法)のビッグネームが、他大学から移ってきたのだ。

実はワタクシ、目指すはPCAのカウンセラー。

予備知識もなく入学した第二志望の大学で、こんな幸運に巡り合うとは…

そして他の教授陣も、京大出身のユング派分析心理学者、ロールシャッハ・テストの第一人者、長年子ども臨床の最前線で活躍してきた人などなど、個性的な顔ぶれ。

これまで高校も大学も就職先も第一志望に落ちてきたが、今回も第一志望に落ちて本当によかった!


イギリスの大学院で心理学の学位を得た先生も、2人いる。

そのひとりK先生は、ジョン・ボウルビィなどの心理学者を輩出したタヴィストック・クリニックで週4回の精神分析を、3年間にわたって受けた。

カウチに寝た状態で行われる、本格的な自由連想法だ。

もし自分が受けたら、無意識の中身を丸裸にされそうで、怖い。

ある意味、とても厳しい訓練だ。

K先生に感想を聞くと、淡々とした口ぶりで、

「自分の何かが大きく変わったということは、特になかったなぁ…」

「でも、こんなに私の話を熱心に聞いてくれる人がいる、と感動しましたよ」

「帰国したら、奥さんに優しくなったかな」

「学生にも優しくなった」

ということだった。


もうひとりの英国帰り、M先生は留学中、イギリス人相手に100回の心理面接を行い、優秀な成績で修了した。

すべて英語でやったのだから、とても大変なことだ。

M先生には、非言語的な共感的理解の力が備わっているのかも…


100セッションの中には、こんな相談事例があったという。

「日本人の女性とセックスがしたい」

なんて突拍子もない…

M先生、身の危険を感じたのではないだろうか。

PCAでも精神分析的心理療法でも、セラピストはクライエントのすべての言葉に対する「平等に漂う注意」が必要とされる。

だがM先生は、先の言葉に囚われて、その後のセラピーをうまくこなすことができなかった。

休暇で一時帰国することになり、彼を先輩心理士に託して、日本へ。

先輩心理士が聞き出した彼の本当の主訴は、大切な友人を亡くしたことの喪失感だったという。


心理職は、言葉の裏の裏まで読まなくてはいけない、といわれるが…

安月給の割に、大変な職業だ。


Traditional Kathakali Dance, south India 2026




受話器の向こう側~2

  いよいよ、恐怖の「電話相談実習」が始まった。 「実習」とは名ばかりで、「日常の悩み、心の健康に関する相談を受け付けます」とインターネットに公開されている電話番号の、受け手になるのだ。 いきなりの、ガチ本番。 クラスメート3人でひとつの固定電話を囲み、順に応対した。受話...