2023年10月19日

優しきヤンキー・ナース

 

細身のナースYさんが、患者さんをベッドごと病室から出そうと格闘している。

その枕元には、黒光りする重い酸素ボンベが。

ナースYさんを手伝って、ベッドを押した。廊下を通って屋上庭園に出ると、いきなり真っ青な秋空が広がる。遠く、霧ケ峰の優しい稜線も見えた。

「わぁ気持ちいい! 外の空気を吸うのは久しぶり!」

ベッド上で、顔半分を酸素マスクに覆われたK子さんの目元がほころんだ。

 

その朝も、ふたりがかりでK子さんをレントゲン室に運んでいた。

病室を出る時、ナースYさんが酸素ボンベをセットして、ダイヤルを無造作にMAXまで回した。

内心げっ…となった。

K子さんは、かなり容態が悪いということだ。何かのトラブルで酸素を絶たれたら、1時間も生きられないだろう。

レントゲン検査は30分で終わったが、病室に戻った時、酸素ボンベは空になっていた。

 

K子さんの担当看護師、ナースYさんは、ちょっとヤンキーなヤンママだ。

かわいい2歳の娘を育てながら働く。

「今日は501号(室の患者)をフロに入れなきゃなー!」

乱暴なものの言い方。ナースステーションから廊下にまで聞こえそうな、野太い声。

あまり白衣の天使っぽくはない。

 

朝礼の時、夜勤明けのナースがこんな申し送りをしていた。

「巡回の時、K子さんに『壁のカレンダーをもっと見やすい位置にして』と頼まれました。『私にはカレンダーしか見るものがないから…』って」

酸素のチューブにつながれて動けないK子さん、カレンダーの風景写真だけが慰めなのだ。

屋上庭園を満喫して病室に戻ったK子さんは、「ありがとう」「ありがとう」と何度も繰り返していた。

 

病状の重い患者さんの気分を少しでも変えようと、重いベッドごと屋上庭園に連れ出すナースは、顔ぶれが決まっている。

揃って、ちょっとコワモテのナースたち。

人の内面のやさしさは、見かけでは測れない。


 ※緩和ケア病棟のナースは、16人全員が女性。私の観察では、不愛想なおじいちゃんより、可愛いげのあるおばあちゃん患者の方が、明らかにケアが手厚い。自分がお世話になる日に備えて「可愛いおじいちゃん」を目指そうと思った。



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