2021年12月25日

婚活サイトの世界

 

以前なら出会うはずのない、生い立ちも仕事も異なる男女が、インターネットを通じて結ばれる。

 アメリカでは、マッチングサイトを通じて交際、結婚に至るカップルが、増えているという。

そしてその波が、非婚化が進む日本にも上陸した…?

 

57歳で婚活したらすごかった」 石上賢介著 新潮新書

 離婚歴のあるフリーライターが、婚活アプリに登録してからの一部始終を語っている。率直かつ、タイトルから受ける印象よりマジメな本だ。

 ちょっと中身をのぞいてみると…

・婚活アプリの顔写真は大事。30代を過ぎれば、人柄の良さも悪さも必ず顔に表れる。男女とも、優しく微笑む人で性悪な人は少ない。きつい目で優しい人も少ない。笑っていても、性格のきつい人の目は厳しい

・年下を好むのは男の傾向だと思っていたが、女性も容姿に恵まれ、婚活市場での価値が高いという自覚があると、年下の男性を求める

・婚活アプリで、複数の男性会員にアプローチされている女性の多くは強気だ。「どんなふうに私を楽しませてくれますか?」「何をごちそうしてくれますか?」と言ってくる

・バブル時代を知っている女性は、概して食事からクルマまで男に求めるレベルが高い

・「私どもの結婚相談所では、結婚してもがんばって働きたい人は少数派です」「できれば仕事をしないで子育てに専念したい人が多数派でしょう」(ある結婚相談所スタッフの証言)

 著者は婚活アプリを通じて、いろいろ辛い目にあう。

・「40代女性に『クソ老人』と罵倒された。詐欺にあいそうにもなった。高額な服や靴を買わされたこともある。そんな経験も、時間がたてばエンターテインメントだ」

 そして最後に、こんな感慨に至る。

・「『誰かとともに生きたい』ではなく、『誰かのために生きたい』と思えるぐらいの心のゆとり、経済的なゆとりを持ってこそ、婚活は成就するのではないだろうか」

 

 昨夜、クリスチャンの知人にくっついて、小さな女子修道院を訪れた。白髪のシスターに混じって受けたクリスマス礼拝で、司祭が言った。

「愛とは、与えつくすものです」

 婚活サイトで得られる境地と、信仰から得られる境地。

 ほんのちょっぴり、似ているような…



2021年12月18日

わが家は大食漢

 

 東京のコロナ感染者が、毎日30人を下回っている。

 内心ホンマかいな?と思いつつ、1年ぶりに、トーキョーへ行ってみた。

 新宿行きの「特急あずさ」は、空席だらけ。帰り道、終点・松本まで残っていた乗客は、同じ車両に2人だけだった。

「人流」いまだ回復せず…?

 今回の宿は、「パリのアパルトマンのような」銀座のプチホテル。インバウンドが途絶えて、どのホテルも空いている様子。

 夜は友人たちと、銀座のスペイン料理や南インド料理のレストランに繰り出した。こちらは逆に超満員。友人の声が聞こえないほどの賑わいようだった。

「黙食」は、もうやめたみたい。

 

 東京で出会ったひとつの親切。

 ホテルの隣で工事をやっていて、騒音が部屋まで入ってくる。ダメもとで、フロントに部屋の移動を頼んだ。「逆側はツインルームしかありませんが…」と、差額なしで広いツインルームに替えてくれた。

 東京で出会ったひとつの不親切。

 待ち合わせに遅れそうになり、大通りに出てタクシーを拾った。目的地に着いて財布を見たら、ぴったりの金額を払えそう。小銭を数えて差し出し、ふと目を上げると、ほんの10数秒の間に、メーターの金額が上がっていた。

 そんなのあり? 車は停めても、メーターは止めない運転手…

 

 留守中、天気予報によると、蓼科のわが家は氷点下まで冷え込む。

これまで冬に水道管を凍らせて、給湯器と風呂場の蛇口をぶっ壊している。そのたびに、かなりの出費を強いられた。

うっかり屋内の水回りを破裂させると、家じゅうが水浸しになるらしい。

 ビビりまくって、旅に出る前に、屋外の凍結防止ヒーターをONにした。風呂場と洗面所とトイレの床暖房も、入れっぱなしにしておいた。キッチンの水栓まわりも、電熱線でグルグル巻きにした。

スマートメーターのおかげで、自宅の電力消費量が、出先からスマホで見られる。優雅な銀座ホテルライフの夜、ふと気になって、中部電力のサイトへ。

誰もいないわが家は、主がいる時の1.5倍の勢いで、黙々と電気を食べていらっしゃるようだった。




2021年12月10日

電車に駆け込まない人

 移動の足がJRや地下鉄だった東京時代、発車のベルが聞こえると、たとえ急ぎの用でなくても、息せき切ってホームを目指した。

滑り込みセーフで間に合えば、得した気分。目の前でドアが閉まると、すごく損した気分。どうせ数分後には、次の電車が入って来るのに…

 会社勤めがなくなっても、田舎に引っ越すまで、その癖が抜けなかった。あれは一種の集団心理だと思う。もっと優雅に暮らせばよかったなぁ。

 ところが、この人は違った。

階段の中腹に差し掛かったあたりで、ついに発車を告げる甲高いベル音が鳴り響いた。「まもなく、扉が閉まります」 私は思わず駆け出した』

『「俺は走らねえよ」 振り向くと、落合が薄っすらと笑みを浮かべていた。私は唖然とした。落合はこの期に及んでも歩いていた』

『周囲に流されない、他に合わせない。それが落合の流儀だろう。だが、あらかじめ指定席をおさえた新幹線が今まさに目の前で動き出そうとしている。そんな状況でさえ、自らの歩みを崩そうとしない人間を私は初めて見た。そんな生き方があるのかと、思った』(「嫌われた監督」 鈴木忠平著、文藝春秋)

プロ野球の名打者として、3度の三冠王に輝いた落合博満。その後、監督を務めた中日での8年間を、当時スポーツ紙記者だった著者が辿る。

「オレ流」と言われた落合の突出した個は、読んでいて凄味さえ感じる。

『どの選手に対しても、落合は「がんばれ」とも「期待している」とも言わなかった。怒鳴ることも手を上げることもなかった。ケガをした選手に「大丈夫か?」とも言わなかった。技術的に認めた者をグラウンドに送り出し、認めていない者のユニホームを脱がせる、それだけだった』

『「俺がここの監督になったとき、あいつらに何て言ったか知ってるか? 球団のため、監督のため、そんなことのために野球をやるな。自分のために野球をやれって、そう言ったんだ」』

そして、『言葉を信用せず、誤解されるくらいなら無言を選んだ』

 周囲に流されず、個を貫けば、時として反感を買う。7年間で優勝3度の実績を残しながら、落合は突然、球団から退任を告げられる。

 結果が全てのプロの世界で、結果を出し続けている指揮官が、なぜ追われるのか。落合が去ると決まった日からの、彼のチームは神がかり的だった。その後20試合を1532分けで駆け抜け、首位ヤクルトを抜いて優勝した。

『理解されず認められないことも、怖がられ嫌われることも、落合は生きる力にするのだ。万人の流れに依らず、自らの価値観だけで道を選ぶものは、そうするより他にないのだろう』

『そして私を震えさせたのは、これまで落合のものだけだったその性が、集団に伝播していることだった』

 決して爽やかなスポーツ・ノンフィクションではないけれど、全476ページ、読み応えあります。



2021年12月3日

男だってピンク

 

 靴下専門店で、小学生の女の子へのプレゼントを選んでいた時。

なんとなく、ピンク色の靴下ばかりを手に取っていた。

そして、はたと思い出した。

あの子は、青が好きなんだっけ…

 

自分自身(57歳男)はピンク色や花柄が大好きで、ピンクのシャツやジーンズを着て街を歩いている。それでも、「ピンクは女の子の色」という無意識の偏見が、確かにある。

 

「ピンクのお洋服着てるから女の子かと思ったわ~」

世の男の子たちも、いまだにこんな言葉をかけられているという。「#駄言辞典」(日経BP)には、ジェンダーにまつわるステレオタイプから生まれる、さまざまな「駄言」が満載だ。

 被害者は圧倒的に女性だが、男性に向けられる言葉としては、

「男なんだから黙って働けよ」

「男のくせに泣くな」

「やっぱり男の子だね~」(車好きの保育園児に)

「監督を男にしたい」(あるプロ野球選手の発言)

「男だろ」

「男なのに情けない」

「男のくせに言い訳するな」

「男は度胸」

「それでも男か」

「○○付いてんのか」

「デート代は男が払うの、当たり前でしょ」

 

 男らしさって、何? 度胸や車好きに性別は関係あるの?

「職場では長時間残業、休日出勤、はたまた転勤にも柔軟に対応し、私生活では女性をデートに誘い、愛の告白も自分からするなど関係性をリードして、結婚して子どもを持ち、家も買って人生のさまざまな場面における『達成感』を得なければいけない。そんなプレッシャーに常に耐える性、それが男性だ」(「男性学」研究者・田中俊之さんの著書「男がつらいよ」より)

 

 今年の新語・流行語大賞に、「ジェンダー平等」という言葉がトップ10入りした。女性ならでは、男性ならではの「生きづらさ」の解消には、ジェンダー平等の考え方が欠かせない。

「男のくせに」ピンクの花柄を着た、「甲斐性なし」の「スイーツ男子」、ここにあり!



2021年11月27日

人体の不思議

 

 虫の居所が悪いと、すぐ部下を怒鳴りつける。

 その当時のボスは、絵に描いたようなパワハラ上司だった。

 そして、外回りから内勤に異動した私に与えられた席は、よりにもよって、ボスのすぐ隣。

 案の定、定期的に怒号が飛んできた。幸い頭上を通過して、前後左右の同僚に着弾することが多かったが、生きた心地がしなかった。

 そのうち、ボスのいる側の耳が、聞こえなくなった。私の耳をのぞいた耳鼻科の医師が、重々しく病名を告げた。

「あなたはジコウセンソクです」

 やった! これで会社を休める! 

と、思いきや…

 ジコウセンソクを漢字にすると、「耳垢栓塞」。まったく恥ずかしい。

 それにしても。

 不快な音を、こんな方法でシャットアウトしてしまうとは。

人体は、よくできてる。

 

 あれから10年、最近また、耳に違和感が…

 今回は、思い当たる節がない。

 あの頃は大きな会社にいたので、社内に診療所があった。今度の職場は、小さな町のはずれにある。耳鼻科のありかを同僚に尋ねると、

「この町にはろくな医者がいないよ。私はいつも、クルマで隣町まで行くよ」

 別の同僚も、

「耳鼻科の医師がおじいちゃんで、手が震えて診察にならないの。診てもらった子どもが、怖がって泣いて。もういいですって、途中で帰ってきちゃった」

 散々な口コミに恐れをなして、私もさっさと隣町へ。電話で予約を取ろうとしたら、「予約は受け付けません」。いつでも勝手に来い、と言う。

 年季の入った診察椅子に座り、まな板の鯉になる。

今回の診断は、外耳炎。

 やった! 耳垢栓塞より、よほど聞こえがいい。ずいぶん出世したもんだ。

それで先生、原因は?

パソコンに顔を向けたまま、初老の医師がクールに言った。

「耳垢の溜めすぎ」

 なんだ、同じじゃん。

 

 ネット検索によると、過度の耳掃除が、外耳炎の一番の原因だという。

 耳を掻くべきか、掻かざるべきか。

 それが問題だ。



2021年11月19日

コロナに効くのは、カブとワクチン

 会社を離れて、はや7年。

 当時の同僚たちは、定年が視野に入ってきた。

 先日は、定年前研修があったらしい。ファイナンシャルプランナー(FP)との個別相談に臨んだ同僚が、とってもうれしい報告をくれた。

彼女と面談したFP氏が、

「私のDC年金(ミヤサカさんに聞いたまま選んだ)の額を見て、ちょーーーーーーーーーーーびっくりしていました」

「こんな完璧な選択、配分、見たことない、今までで一番高額だ、と言っていました」と。

 やったね!

 

 リーマンショック後、年金運用の重荷に耐えかねた会社が、確定拠出年金(DC)を導入。「これからは自己責任でやってね」とばかり、その運用を、我々社員に丸投げしてきた。

 値上がりする資産ほど、税の優遇を得られる制度だ。私は迷うことなく、全額を株式投資信託に投入した。さらに、労働人口が減っていく日本より、これからはアメリカや新興国の時代でしょうと、大半を外国株に振り向けた。

周りにも自説を吹聴してみたのだが…ミヤサカFPを信じてついてきてくれたのは、彼女ひとりだった(涙)

 

そして今、世界の株価(MSCI世界株指数)は、リーマンショック(2008年)の安値から6倍に値上がりした。

そしてこのコロナ禍でも、リスクが高いと言われる株式市場は、実はビクともしていない。

GAFAMはもちろん、ワクチンを開発したモデルナ、リモートワークの必需品ズームなど、コロナを奇貨とした外国企業の株価が、市場を押し上げている。

 

たかがお金、されどお金。

お金は、ないよりあった方が、人生の選択肢が広がる。

たったひとりでも、誰かの人生を、いい方向に変えられたかな?

ちょっとでも変えられたとしたら、すごくうれしい。 



2021年11月13日

湖畔の宿の人間模様

 

 自宅からクルマで30分、湖に面して小さなゲストハウスが佇んでいる。

 コロナ禍前は毎年夏、ここで働いていた。

 久しぶりに訪ねて、管理人と話していると、ひとりの女性がふらりと入ってきた。

 妙に身軽で、ほとんど荷物を持っていない。

 管理人の友人が小声で教えてくれたところによると、この女性、すぐ近くに住んでいる。2泊していったん家に帰り、また2泊しては帰宅、を延々と繰り返しているという。

 怪しい。この人はいったい何者?

 ここで、ヒントその①

 しばらく前から始まった、県民限定の宿泊割引。

うまく使えば、ホテル代が食事付きで半額ほどになる上に、周囲の店で使えるクーポンまでついてくる。

 さらに今月から、このゲストハウスのある町も、宿泊施設に割引で泊まれるキャンペーンを始めた。

 県と市の割引制度をダブルで使えば、タダ同然でホテルに泊まれて食事も出て、もらったクーポンで買い物までできてしまうのだ。

 

 ただし割引が効くのは、連続2泊まで。

 この辺りに、謎の女性の思惑が隠されている…?

 

 ゲストハウスにこの夏、ひとり旅のロン毛青年がひょっこり現れ、泊まっていった。

そのうち、友人の元で、住み込みで働き始めた。

その時の所持金、わずか9000円。

年齢を聞くと、まだ19歳だという。

家族といろいろあって、東北地方の実家から10代前半で上京した。中学や高校には行かず、簿記やプログラミング、証券アナリスト業務を自学自習している。元カノはドイツ人で、今の彼女は現在イギリスに留学中。

 話を聞けば聞くほど、規格外の19歳。

そして、自立心の塊みたいな人だった。

 

 2段ベッドの相部屋と、広い共同キッチンがあるこのゲストハウスは、ファミリーやバイクの若者に人気がある。コロナ禍前は外国人旅行者も混じって、連日賑わっていた。

 割引料金で2泊3日、ここでのんびりマンウォッチングも楽しそう。




2021年11月5日

冬の皮算用

 

 5℃、4℃、3℃、2℃、1℃。

 毎朝、玄関先で測る気温が、きれいに1℃ずつ下がっていく。

勤務先の自然学校では、何度か氷点下を記録し、雪も降った。

ヒタヒタと、冬の足音が。

 

 近所の家は、ほとんどが夏の別荘なので、もうとっくに人影がない。

でも中には、定住しているもの好きが、わずかにいる。

「冬は、ひと月400リットルの灯油を使うよ」

「暖房費が月5万円かかるぞ」

 彼らの話が本当なら、給料が、そのまま石油ストーブの燃料代に消えそう…

 

 昨冬は、正月3が日まで、この森でがんばった。

 大晦日 マイナス15

 元旦 マイナス10

 外の水道管が凍結して、洗面所もキッチンもトイレも、水が出なくなった。風呂場の水栓が、凍って破裂した。

 夏向きに作られたこの家で、冬を越すのは無謀?

 自然学校で働く契約は、来年3月まで。腹をくくるしかない。

 ガソリンスタンドを往復し、家にある200リットル入り灯油タンクを満たす。ホームセンターで凍結防止ヒーターを買い、水栓に巻き付ける。

でも、リビングでストーブ2台ガンガン炊いても、すでに廊下と風呂、トイレの寒さといったら…

 

 幸いコロナが一段落し、観光への支援が復活した。県民向け宿泊割引に加えて、地元市民向けの別の割引も再開。ダブルで使えれば、かなりお得だ。

いざとなったら、すぐ近くのリゾートホテルに避難しちゃおう!

でも、温泉旅館もいいなぁ。

露天風呂に浸かって、雪景色を眺めて。

バイキングの朝夕食付プランもあるよ。

 

じゃらんや楽天トラベルを見て、ちょっと冬が楽しみになったかも。



2021年10月29日

リモート会議が近すぎる

 

 コロナが収まった今頃になって、職場で初めてリモート会議をした。

 スタッフ中最年少の私が、有無を言わさずホスト役を命じられる。タダで飲み会に使っていたズームに、初めて利用料を払った。

会議当日。半分以上のスタッフが、「ズームの使い方がよくわからない」と言って、ゾロゾロ職場に集まってきた。

お互いの顔がすぐそこにある、不思議なリモート会議。

 

開始時刻になり、議題に入ろうとすると、不測の事態が。

ひと部屋で大勢がアクセスしたせいか、発言者の声がハウリングして、ワンワン反響する。何を言っているのか、さっぱり聞き取れない。耳が痛くなる。

たまらずスドーさんが、パソコンとイスを抱えて戸外に飛び出した。距離を取ったら、反響が収まった。やっとズーム会議らしくなってきた。

ダウンを着て震える画面上のスドーさん。その後ろに、黄金色に輝く秋の森が映りこんでいる。きれいすぎて、かえってバーチャル背景にしか見えない。

ふと横を見ると、自分のスマホでアクセスできなかったヒデコさんが、隣のマリさんのパソコンに自分も映るよう、マリさんにピッタリくっついている。

リモート会議どころか、濃厚接触会議!

 

その翌週、両親をクルマに乗せて、ドライブに出た。

元気に旅行もできるが、ふたり揃って80代。ピアス代わりの高性能補聴器が、耳に光る。

出発してしばらくすると、助手席の父がキョロキョロし始めた。

「どこかから人の声が聞こえてくる」

そのうち後部座席の母も、

「女の声がする!」

 カーラジオもオーディオも、スイッチを切ったはずだが…

「今度は後ろから聞こえたぞ」

「また右のほうから!」

 これが深夜のドライブだったら、かなり怖い状況…

 

 交差点を左に曲がった時に、謎の女の正体がわかった。

カーナビの案内音声だった。

 

ICTが進歩しても、使い方に慣れないと、まじめなコミュニケーションが漫才になる。

「やり方忘れないうちに、また集まってズーム会議しよう!」

職場の人たちは、張り切っている。



2021年10月23日

クライマーと同調圧力

 

 夫婦そろって日本屈指のクライマーMさんに、女の子が生まれた。

 出産を見届けてすぐ、パパは仕事で富士山頂へ、ひと月の出張。ママは早くも、「まずは親子でジョン・ミューア・トレイル!」と張り切っている。

ネットで調べたら「アメリカ西部を縦断する340キロのロング・トレイル」「踏破に1か月、途中に山小屋は一切なし、テント・寝袋・食料すべて自分で背負う事」「ゴール地点は標高4418m」「夜はブラックベアーに注意」だって。

 子どもが生まれる前、夫妻は8か月かけてアメリカ大陸を縦断し、岩壁を登りまくっていた。2人にとってはこのトレイル、上高地を散歩するぐらいの感覚なんだろうけど…はるちゃんと名付けた女の子は、いま生後4か月

 

 作家・演出家の鴻上尚史が回答者を務める「ほがらか人生相談」(AERA dot. の連載)に、30代女性からこんな質問が寄せられた。

 夫婦ともフォトグラファー。一家で住んでいたアメリカから、6年ぶりに帰国した。転校した日本の学校で、ビビッドな色の服が好きな小5の娘が「服が派手」と言われ、冷たい目で見られている。親として、どうしたらいいか。

 それに対する鴻上さんの回答が、ふるっている。

・神風特攻隊は、近代軍隊が組織命令として死ぬことを要求した。世界的にも、「死ぬ命令」を出した組織は他にない。同調圧力が強く、自尊意識が低い日本だからこそ、特攻という作戦が成立した

・「同調圧力の強さ」と「自尊意識の低さ」は、日本の宿痾

・軍隊がなくなった今、娘さんは同調圧力が一番強い「学校」という組織で苦しんでいる。娘さんがいま直面し、苦しんでいるのは「日本」そのもの

・お父さんが「ひと目なんか気にせず、お前らしく好きな服を着ろ」と言うのは、フォトグラファーという職業が、教師やサラリーマンに比べてはるかに同調圧力が低いから

・アメリカにも同調圧力はあるが、日本ほど強くない。そして皆、自尊意識を持つよう教育される。日本は逆に、自尊意識に対する教育がほとんどない。そして道徳の授業などで、ひたすら同調圧力に敏感になるよう教えられる

・敵は「日本」そのものなのだから、娘さんが正面から切り込んだら、ほぼ間違いなく負ける。対抗手段のひとつは、同調圧力の少ない組織に移動すること。アメリカンスクール、自由な校風の私立、帰国子女が多い学校など

・または、同調圧力に合わせて、地味な服装で登校する。その代わり、放課後や親しい友だちとのお出かけで、自分が着たい服を着て楽しむ。負けたとは思わず、今の学校で生き延びるために選んだ戦略、と心得ること

 

 クライマーという職業(?)は、フォトグラファー以上に同調圧力が低そう。はるちゃんもそのうち、パパやママが世間一般と違いすぎて、面食らうかも知れないなぁ。



2021年10月15日

サンク・コスト

 

 新たな一歩を踏み出すためには、何かを「やめる」ことが大切。

 時間は有限だから、何かをやめないとすき間ができない。

 そして有効なのは、やめるタイミングをできるだけ早くすることだ。

 経営学者の楠木健(一橋ビジネススクール教授)は、前書きを読んで面白くなかった本は、必ずそこで読むのをやめるという。

 はやっ!

 

 日本マイクロソフトを退職して「『やめる』という選択」を書いた澤円氏と楠木氏が、日経ビジネス電子版で対談した。楠木氏のことばをいくつか、ここにピックアップしておきます。

 

・やめることは、決してネガティブなことではない。「何かをやるということは、何かができない」ということ。だから、「何をやめるか」ということは、戦略的な意思決定だ

・順番としては、「何かをやめないと、何かができない」。起点にはいつも「何をやめるか」という選択がある

・やめるという選択が「良いことと悪いことからの選択」であれば、良いことを選べばいいのだから、誰でもできる。でも本当の選択というのは、「良いことと良いことからの選択」。そこには、センスが必要になってくる

・「それをしない」と選択することは、実は相当強い意思決定。放っておくと、「あれもやれ、これもやれ」というフィードバックがかかってくる。「やめる」ということには、最高の能動性、主体性が求められている

・計画を立てることも、やめたらいい。物事において、計画を立てすぎてしまうと、偶然性に対する間口が狭まってしまう。計画を立てるほど「いつか」は増えていくけど、「まさか」が減ってしまう

 

 さすが、ビジネススクールの先生はいいこと言うよね。

 でも…

 田舎でシンプルに暮らしていると、都会生活ほどTo Do リストが溜まらない。何かをやめないと時間のすき間ができない、なんてことには、ならない。

逆に、どうやって時間をつぶそうか、と思案する日がある。

 だから、前書きを読んで面白くない本も、半分読んでみだけど依然として面白くない本も、根性で最後まで読み通す。お金がもったいないし。

 楠木先生によると、私みたいに「せっかく買ったんだから」といって時間を浪費する人間を、「人生に埋没費用(=サンクコスト Sunk costを抱えている人」、と呼ぶそうだ。



2021年10月9日

日雇い派遣添乗員

 

「〇〇ツーリストですけど~、この前送ったファクス、見てもらってないんですか? 早く回答下さいよ、ファクスでね」

合間に咀嚼する音が聞こえる。菓子をつまみながら電話?名も名乗らない。

自然学校にかかってくる電話は、たいてい旅行会社からだ。修学旅行や移動教室を請け負っては、私たちに子ども向け野外プログラムを依頼してくる。

旅行会社にとって、修学旅行や社員旅行など法人相手の商売はドル箱。とにかく儲かるらしい。

 私の身分は公務員なので、尊大な相手の依頼を断わっても、懐は痛まない。でも上司はNPO専従で、自然学校の売り上げで食べている。辛抱しなきゃ。

 だいたい、今どきファクスなんて代物を、大えばりで使うなと言いたい。

「いまだにファクスやハンコを使う文化は、例えば、中国人から見れば、化石時代を見るようなもの」なのだ(「東京を捨てる~コロナ移住のリアル」澤田晃宏著、中公新書ラクレ)。業界の常識は、世界の非常識だ。

 そのくせ都会でコロナ感染者が増えると、ファクス1枚で、しれっと直前キャンセルする。勝手なものだ。

 

そして修学旅行当日、子どもたちに同行してくる添乗員は、実は旅行会社の社員ではない。みな派遣会社の人だ。先生用の豪華仕出し弁当を走り回って配りながら、自分はコンビニのおにぎりをかじっている。

先日、中学生の移動教室で来た40代の女性添乗員さんは、コロナ禍で団体旅行が全てキャンセルになり、別のアルバイトで食いつないでいたという。

その人が、「ここに書いてあることは、私たちの世界そのものです」と勧めてくれた本が、「派遣添乗員ヘトヘト日記」(梅村達著 三五館シンシャ)。

塾講師を経て50歳で「日雇い派遣添乗員」になった著者は、「人の喜ぶ顔を見て、自分もまたうれしい心持ちとなる」「そのような満足感は、私のそれまでの人生において、この仕事について初めて味わうものであった」と書く。

しかし、彼が打ち合わせで旅行会社を訪れると、「疲れ果てるというレベルをとうに超えている」顔をした社員に出会うという。

添乗員なりたての彼に親切だった先輩は、ツアー添乗中のパリで亡くなった。朝の集合時間になってもホテルのロビーに現れず、コートを着て今まさにでかけようという姿で、部屋の床に倒れていた。50歳そこそこだったという。

 

「計算してみたら、ぼくの時給は300円。学校には残業代という概念がないんです」引率の若い先生もまた、元気がなかった。

そして、子どもたちを受け入れる自然学校スタッフのヨッシーさんも、実は元中学校教師。あまりの長時間労働に嫌気がさして退職した、と言っていた。

この世にたやすい仕事はない。でも子どもと接する立場の大人は、できれば生き生きと、笑顔でいて欲しい。



2021年10月2日

白いスポーツカー

 

いつも請求書しか入っていない郵便受けに、今日は花柄の封筒が。

昨年お世話になった、病棟の看護師さんからだった。

妻が入院していた時の思い出が綴られ、もし悲しみや不安な気持ちがあったら、私たちに連絡下さい、と結ばれていた。

コロナ禍で面会禁止とする医療機関が多い中、この病院はいつも、患者と家族に寄り添った温かい対応をした。そして1年たった今も、こうして残された者を思いやってくれる。

お礼の電話をすると、

「もう少し状況が落ち着いたら、コーヒーでも飲みにきて下さい」

懐かしい声が返ってきた。


別の日、買い物から戻ると、お向かいさんが庭の手入れをしている。

 この辺はセカンドハウスが多く、お向かいさんも暖かい季節だけ、夫婦で来ていた。でも去年から、まったく姿を見なかった。

 トレードマークの、赤いジャージが目に眩しい。

 お久しぶりです! と声を掛けると、思いがけない答えが返ってきた。

 

いやぁ、ご無沙汰してしまいました。実は、いろいろありまして…

去年、家内を亡くしました。

健康診断から3日後に、急に苦しみ始めて、慌てて救急車を呼んだんだけど、間に合わなかった。

大腸がん検診で打った麻酔が原因だと思ってます。20万人に1人の割合で、こういうことがあるらしい。医者は認めませんがね。

それまで女房は、ほんとうに「健康優良児」でした。「もし奥さんが先に死んだら、お前が殺したと疑われるよ」と言われるぐらいで。

それが突然、こんなことになっちゃって…

 

赤ジャージさんの車庫に、白い立派なスポーツカーが鎮座している。

「これですか? アタマに来て買っちゃった! 大げさなクルマでしょ、でも国産車だから、ポルシェよりずっと安いよ。おたくも奥さんを大切にね」

実は去年、私も妻を…と話すと、今度は彼が絶句していた。

2年前の夏、赤ジャージさんの家からは、時おり奥さんの明るい声が聞こえていた。まさか、健康診断で命を落とすなんて。

でも彼は、すでに吹っ切れた表情。

「隣のあずさ平に、古い友人がいるんだけどね、冬は暖房費に月5万円もかかるんだって。かなり寒くなって来たし、ぼくは来月で引き揚げますよ!」



2021年9月24日

精鋭たちと詐欺師

 

 コロナ第5波をものともせず、東京の中学生160人が山登りにやってきた。

 彼らを案内するため、山岳ガイドが登山口に集合する。進んで自らを語ろうとしない人たちだが、ぜい肉のない引き締まった体が、職業を物語る。

1年1組担当の男性ガイドは元消防隊員で、救急救命のプロ。ずっと長野の山岳救助隊長を務めている。2日前に八ヶ岳で起きた遭難事故でも現場に急行し、岩場を200メートル滑落した登山者を発見、収容した。

コロナ禍のいま、遭難者を背負う時は、暑くても必ず雨具を着るそうだ。

 2組の担当は、柔らかい笑顔の女性だが、世界第2の高峰K2(8611m)に登頂した、輝かしい経歴のヒマラヤ登山家だ。

「非情の山」と呼ばれるK2は、エベレストなど目じゃないほど難しい山だ。2000年代、「女性初」を含めて5人の女性が登頂に成功したが、そのうち3人が下山中に亡くなっている。

皆さん、ただ者ではない…

生徒と同行してきた添乗員さんに、「道中、自然ガイドをお願いします」と言われた。山は早くも秋の気配だが、途中の湿原にはまだ野花が咲いている。にわか山岳ガイドの私は、花はヒマワリとチューリップしか知らない。

 策を弄して、男子の引率を買って出た。案の定、ヤロウどもは、フォートナイト(オンラインゲーム)の話に夢中になりながら、ガシガシ登っていく。可憐に咲く路傍の花など、見向きもしない。あぁ助かった。

 山頂に着き、お待ちかねの弁当タイムは…当然のように、黙食。

先生「食べ終わったらすぐマスクしろよ~」

男の子「先生! ヤッホーって言っていいですか?」

先生「いいけど小声でな」

男の子 「ヤッホー…」

 予定より早く下山できたので、草原で15分のフリータイム。すると生徒は、がぜん生き生き。鬼ごっこをしたり、寝転んで斜面を転がり落ちたり。

そういえば彼ら、なりこそ大きいけれど、半年前の小学生だ。

「山登りなんかしないで、最初からここに連れてくればよかったなぁ」

緊急事態宣言の東京を逃れて、のびのび遊ぶ子どもたち。それを見ていた精鋭登山家も、どんどん笑顔になっていった。

 山岳救助隊長は、冬はスキーのインストラクターをしているという。

隊長「スキーやりますか? インストラクターのクチなら紹介しますよ」

私「いやいや、ぼくはもっぱら教わる方で…」

隊長「子ども相手なら資格はいりません。ボーゲンができれば十分です」

 なんと! 思いがけなく、冬場の現金収入が転がり込んできたよ。

 でも20年ぶりにスキーを履いて、いきなり先生になるのは…

どう考えても詐欺だ。



2021年9月18日

「私より低収入なら結婚しないわよ」が8割

 

 日経ビジネスの特集「あなたの隣のジェンダー革命」によると、婚活中の女性の83%が、自分より高い収入が見込めない男性とは結婚できない、と答えたそうだ。

 きっつー!

 自分より収入の多い相手を希望する気持ちは、わかる。

せめて必要条件でなく、努力目標に留めて欲しい…

 

 その記事には、他にもいろいろなデータが載っていた。

・米英の最難関大学であるハーバード大学やオックスフォード大学は、学生の男女比がほぼ拮抗しているが、国内の最難関・東京大学は、8割が男子学生

・東大の異常な男女比は、よい大学に入って、よい会社に就職しなければならないという、日本人男性が受けるプレッシャーの表れ

・そこまで頑張っても、社会に出て幸せになれるとは限らない。多くの男性が精神的に追い詰められて、昨年は女性の2倍の14055人が自ら命を絶った

・「仕事の失敗」や「仕事疲れ」といった「勤務問題」が原因で自殺した男性は、女性の4.9倍。「事業不振」「失業」「倒産」「負債」など、「経済・生活問題」が原因で自ら死を選んだ男性は、女性の6.6

・主要7カ国(G7)の中でも、日本は男性の幸福度が最低

・女性に比べてこれほど多くの男性が仕事上の悩みで自死してしまう背景には、「夫は外で働くべきだ」という性別役割分担から逃れがたい社会状況があるのではないか

・「妻は家事に専念すべきだ」という、女性を家庭に縛り付ける考え方が性差別なら、男性を職場に縛り付けている価値観も差別だ

 

そして記事は、

「男社会を壊すことは、男性自身の幸せのためでもある」と結ばれていた。

 

 邦画「男はつらいよ」の主人公、しがらみを超越して旅に生きるフーテンの寅さんに、とても憧れる。

でも寅さんの恋は、いつも(48回ぐらい)成就しないで終わる。

 収入を気にしなければ自由に生きられるが、その代わり結婚はあきらめろ。

実は、そういうメッセージの映画だったの?

 もし寅さんがジェンダー革命の進んだ国に生まれたら、彼の恋愛はハッピーエンドに終わるのかな。

Kurobe Japan, summer 2021


2021年9月10日

接種会場がハーレムだった件

  

 ワクチン接種券が送られて来た時、ウェブ予約はまだ始まっていなかった。

 少し待って再びアクセスすると、今度は市内の病院やクリニックが、軒並みひと月先まで予約で一杯。

うわぁ出遅れた!

 諦め半分、ブログにこのことを書いたら、そこに救世主が。

湖畔の宿を営む友人が、ホテルや飲食店で働く人への優先枠を、私に回してくれるという。

 えーっと、自分はいつからホテルの従業員になったんだ? 

考える暇も与えず、さっそく彼が翌週の予約を取ってくれた。

 

接種会場に入ろうとしたら、愛用のユニクロ製マスクに、いきなりダメ出しが!

不繊布マスクにつけ替えろ、と。

キ、キビシイ…

一瞬、身構えた。

でも私の職業詐称?については、何のお咎めもなし。受付→問診→ワクチン接種と、あれよあれよという間に物事が進んだ。

「アナフィラキシー待機」の時間も含めて、30分ですべてが終わり、秋晴れの屋外に出ることができた。

 

そのとき一緒に接種を受けたのは、私以外のほぼ全員が、20代の女性たち。

ホテルや飲食店、美容院の従業員は、若い女性が多いのだろう。

…と、いうことは?

4週間後の次回接種でも、ハーレムが再現される?

でっかいニンジンを、ぶら下げられたような…

いやいや、そこはあくまで世のため、人のため、自分のため。

モデルナ2回目は副反応がきついらしいけど、粛々と打ちに行こう。

 

持つべきは友、書くべきはブログ、だ。




2021年9月4日

文学はマッチョだ

  芥川賞作家・磯崎憲一郎。

日経新聞主催のシンポジウムでの、彼の発言に笑った。

「僕の小説が大学入試問題に使われたことがあったのですが、『この文章の作者の意図は、次の選択肢のうちのどれでしょう?』という問題で、僕にもどれが正解かわからなかった」

 作者本人にも正解がわからない難問(?)で合否判定され、将来が決まってしまうなんて。受験生が気の毒だ。

 磯崎氏は三井物産で広報部長まで務めた。そして在職中に「終の住処」で芥川賞を受賞した。商社マンと言えば体力勝負、そんな職場で小説を書いていたのだから、超人だ。

 彼の発言には、ほかにも物事の核心に触れたものが多かった。

・「読み手に何を伝えたいんですか」という質問をよく受けるが、それが簡単に答えられないから、何百枚も小説を書くのだ

・セザンヌの絵を見て「セザンヌのこの山は何を意図しているんでしょう」という質問はない。小説も、美術や音楽に近い。読む時間に没入すればいい

・本を読むことによって何か得ようとか学習しようとか、そういうさもしい考えは捨てて、「本を読んでいる時間」そのものが読書だと思った方がいい

・丸の内、大手町界隈のサラリーマンは、本当に本を読まない。読んでいる人でも、いわゆるノウハウ本ばかり。そのくらい余裕がないのだと思う

・文学作品は、わからないことの中にとどまる覚悟がないと読めない。それなのに今の時代、わからないことの中にとどまるのは非効率だとみなされてしまう

・だが、正解がなく、ひたすら自分の頭で考え続けなければならない文学や哲学は、軟弱どころではない。はるかにマッチョな世界

・サラリーマンは哲学書や文学を読む方が、結果的にはるかに得るものが大きいということに気づいて欲しい

・今の若い人は、自分の世代とは比較にならないぐらい、難しい時代を生きていかなければならない。だから正解にたどり着く力ではなく、自分の頭で考える力、正解のない中で自分の力で現状を打破していく力を身につけて欲しい

 

 1965年生まれの磯崎氏は中学生の頃、北杜夫の作品を全部読んだという。彼と同世代の私も、北杜夫を全部読んだクチ。親近感を覚えた。

「大手町界隈のサラリーマン」だった20数年、自分も読書はノンフィクション一辺倒だった。その間、文学作品を読みふけっていた妻とは、心の豊かさに大差がついた。

 最近、本好きの友人に勧められた小説を読むようになった。今ごろになって、会社人間から脱皮できたような…

 今月は、妻の一周忌。

Tateyama Japan, summer 2021 (photo and text unrelated)



 

2021年8月27日

打つ気まんまん

 遅ればせながら、「コロナ」のワクチン接種を受けたくなった。

 ふだん蓼科の森で暮らし、同じ森にある職場にマイカーで通勤していると、ついコロナの存在を忘れてしまう。

わざわざ注射器で体内に異物を入れる行為も、気が進まない。

 そうこうしているうちに、作家・橘玲の文章が目に留まった。

・免疫を持つ人が増えればウイルスは広がらないから、ワクチンを打つことは自分が病気にならないだけでなく、社会全体を感染症から守ることになる

・人口の7割がワクチン接種することで集団免疫が獲得され、感染は収束する

・ワクチンを接種せず(副反応のリスクを負わずに)、集団免疫という利益だけを享受しようとする人は、フリーライダー(ただ乗り)だ

                (「週刊プレイボーイ」75日号より) 

「お前はフリーライダーだ」とは言われたくない。何よりワクチン・パスポートがなければ、外国にも行けない。個人的には、こっちの方がキツイ。

 にわかに、打つ気満々になった。調べてみると、地元の茅野市で受けられるのはファイザー製ワクチン。でも、現在大流行している変異種(デルタ株)に対する感染予防効果は、42%でしかない。一方のモデルナ製ワクチンは、76%(読売新聞8月18日朝刊より)。

 どうせ打つなら、断然モデルナでしょう。

で、モデルナが打てるのは、①自衛隊がやっている大規模接種会場 ②前の会社の職域接種。どちらも、東京のど真ん中に行かなければならない。一方、ファイザーが打てる最寄りのクリニックは、いつも行くスーパーの隣にある。

 あっさり日和ってファイザーにした。

さっそく予約の電話を入れてみたら、なんと10月まで空きがないという。

 完全に出遅れた。

 茅野市の皆さんも、打つ気まんまんだ。

 

数か月前、「私はワクチン接種を受けない」と断言する人に出会った。

2人揃って「遺伝子を勝手に書き換えられてしまうから」と言う。

 いったい誰が何の目的で、人の遺伝子を操作しようとするの? 

地球人に敵意を抱く宇宙人?

 私にはSNS経由のデマにしか思えなかったが、哲学者の岸見一郎は「デマに流される人が一概に悪いわけではない」という。

「なぜデマに流されるかといえば、ワクチンを打ちたくないからです。打たないという決心を固めるためには理由が必要です」(日経メディカル onlineより)

 岸見氏自身もワクチン接種に不安があり、主治医に尋ねると「あなたの場合、ワクチン接種のデメリットよりも、メリットの方が大きいので打たない理由はない」と即答され、決心がついたそうだ。

 専門家による情報提供や助言は、とても大切だとつくづく思う。 

Tateyama Japan, summer 2021


2021年8月20日

外国に行きたい

  世界中の国が「鎖国」を始めて、1年半が経った。

 今年に入って、友人を訪ねたついでに成田空港に行ってみた。免税店やレストランが軒並みシャッターを閉ざして、まるで過疎地の商店街のよう。照明が落とされ、行きかう人もない巨大な空間は、不気味でさえあった。

コロナが明けたら、まずセブ島かボホール島へ、英会話を習いに行きたい。

行ってみたい外国の土地、再訪したい街のリストも、もう満杯だ。

ゴーキョ、ポカラ、アッサム、シッキム、ダージリン、バラナシ、チェンマイ(バーンロムサイ)、ベルリン(ザクセンハウゼン)、バリ島(タンジュンサリ)、ブリュッセル(王立美術館)、トゥンブクトゥ…

パスポートとワクチン・パスポートを手に、来年は国際線のフライトに乗れる日が来る、と信じている。

 

イギリスの経済紙 The Economist に、「今こそ国境を開くとき」という記事が載った。論調が内向きにならないところが、さすが英メディア。

ごもっとも!と思った部分を、以下にメモしておきます。

・新型コロナウイルスの感染拡大で、いまや外国旅行は幸運な少数の人だけに許される特権になった。海外旅行者の数は85%減少したまま

・ワクチン接種した人や、高額な検査が受けられる人にしか入国させない国も

・国境が封鎖されると、海外で働いたり留学したりしている人は、愛する家族や恋人に会いに帰ることができない。親の臨終に際して、メッセージアプリWhatsAppで別れを告げることしかできなかった人も

・今日導入されている渡航制限は、海外から流入する新型コロナウイルスから国内の人々を守るためという名目。でも実際にウイルスの侵入を食い止めている国はごくわずかで、そのほとんどは島国か独裁国家

・大多数の国の国境は陸地にあり、そうした国々に鎖国政策は適さない

・あるウイルスの感染がひとたび地域で拡大を始めれば、感染者数は2週間ごとに倍増する。入国制限がもたらす効果など、感染者数全体から見れば微々たるもの

・世界をめぐる旅行を規制するにあたって、もっとも望ましいのは、国境の開放を標準とすること。完全に防ぐことなど、到底不可能な話なのだから

・デルタ型の感染が現在ほぼすべての地域で拡大しているように、ひとたび変異株がその地に根付いてしまえば、入国制限は無用の長物となる。ならば廃止するのがよい

・移動の権利は、あらゆる自由の中で最も重要なものの一つ。その権利を奪うのは、制限を講じることで明らかに命を救える場合に限られる

・安全が確保され次第、移動の自由は回復されなければならない。そしてほとんどの国において、今がまさにその時だ

Yatsumine Japan, Summer 2021


2021年8月14日

森の官民格差

   朝、起きるとまず外に出て、玄関の温度計をチェック。

 標高1600メートルのわが家、午前6時の気温が20度を超えたのは、今年に入ってまだ2日だけ。

 そして勤務先の自然学校は、さらに200メートル高い。昨日出勤したら、気温12度だった。

 例年ならサマーキャンプの子どもたちで賑わうこの時期、自然学校は閑散としている。コロナ禍のあおりで、家族連れがぽつりぽつりと、遠慮がちに訪れるのみ。

先日、みたび緊急事態宣言が発令されると、9月のカレンダーを埋めていた中学校10数校、2000人余によるオリエンテーリングの予約が、ファクス1枚で全てキャンセルされた。

 

 施設を市が所有し、運営をNPOに委託している自然学校。私は市の臨時職員枠で採用されたので、利用者が減っても給料は変わらない。

25年間ずっと民間企業で働いたので、業績と報酬が連動しないのは、かなり妙な気分。まるで、共産主義国の市民になったよう。

でも一緒に働くNPOのスタッフは、そうはいかない。収益の柱だったサマーキャンプが2年連続で中止となり、頼みの綱の学校オリエンテーリングもキャンセル。資金が枯渇し、NPO存続のために、自ら給料を返上している。

 標高1800メートルの、官民格差。

 かなり心苦しい。

 

(果たしてこの状況で、そちらに行っていいものでしょうか…)

自然学校にかかってくる問い合わせ電話から、都会の人たちのそんな逡巡が伝わってくる。

私たちが広い森で提供するオリエンテーリング、ウォークラリー、親子キャンプ等のプログラムに、コロナ感染拡大の要素があるとは思えない。

(ここは別世界です。どうぞマスクを外して、この新鮮な空気を思う存分、吸いに来てください)

 と、小声で伝えたくなる。

 

 新型ウイルス感染拡大を5年前に予言した、ビル・ゲイツ。過去に起きた疫病大流行を研究する、歴史学者の磯田道史。

 変異種が新たな流行の波を引き起こし、一方で有効なワクチンが行き渡りつつある現状を、2人はコロナ禍の最終段階と位置付けている。

 終息まで、あとひと息か…

Tsurugidake Japan, summer 2021


2021年8月6日

14連続ふりかけご飯

 学生の夏山合宿に合流するため、やって来たのは北アルプス・剱岳。

 テント場に着くと、コロナ禍で増えたソロキャンプの小さなテントの真ん中に、冬山4人用テント4つを発見。

 そして、側頭部をツーブロックよりさらに短い「スキンフェード」に刈り上げた若い衆が、たむろしている。

 まさかと思ったその強面集団が、軟弱で知られるわが母校、R大学山岳部パーティーだった。

 

 大学山岳部といえば、キケン・キツイ・キタナイ・ダサイの4拍子。人が集まらず、どこの大学も、常に存続の危機に立たされてきた。

 ところがこの春、我が部は部員がまさかの2ケタに。コロナ禍で授業がリモートに移行したため、「リアルな体験」を求める新入生が、進んで山岳部の門を叩くのだという。

 神風だ。

 

 いま彼らが大学に通うのは、週3回の部活の時だけ。せっかく入学したのに、汚い山岳部の部室しか知らないのは、ちょっと気の毒。

でも毎日在宅の他の学生に比べれば、まだ幸せなのかも。

 

 我々OBが合流したその日、夕食のメニューは「ぜんざい」だった。

ぜんざいって…普通はおやつでは?

「ええーっ? ぜんざいー?」

 子どもみたいに言ってみたら、レトルトの牛丼を出してくれた。

 

 この夏山合宿、彼らは2週間分の食料を背負って入山した。まず剱岳周辺で雪上訓練と岩登りをこなし、槍穂高連峰を経て上高地まで縦走する計画だ。

 何げなく食料表を眺めていたら、昼食は「ふりかけご飯」とある。

 2週間ず~っと、昼の弁当は「ふりかけご飯」。

 ほんの冗談かも? という期待むなしく、翌日ホントに「ふりかけご飯」が出てきた。

「ええーっ? ふりかけごはんー?」

 と、子どもみたいに言ってみた。

 今度は…何も出て来なかった。

 

 彼らは毎朝、まだ暗いうちからテントを出て、10時間以上歩く。山登りに打ち込む1921歳は、食事なんかどうでもいいみたい。

 ン十年前の卒業生(私)は、しっぽを巻いて3日で退散した。 



2021年7月31日

安いニッポン

今や昔の話だが、コロナ禍前まで、大勢の外国人旅行者が日本に来ていた。

彼らは美しい日本の四季、おもてなしの心に溢れた日本人に魅せられた? 私の観察では、海外からの旅行者の一番の目的は、ドンキやヨドバシ、マツキヨ、セブンイレブンだったように思える。

そして私たち日本人にとっても、モノが安いのは、決していいことばかりではない、らしい。

 

「安いニッポン~価格が示す停滞」 中藤玲 日経プレミア

・「300円の牛丼」や「1000円カット」は、他の先進国ではとても成り立たない。なぜこんなに安いのか?

・長引くデフレで、企業が価格転嫁するメカニズムが破壊された→値上げができない→企業がもうからない→従業員の賃金が上がらない→消費が増えない。だから物価が上がらない

・日本は雇用規制が厳しく、従業員を解雇できない→企業は、従業員の給料を確保するため、製品の価格を下げてでも売上高を確保しようとする

・でも値下げしないと売れないということは、裏を返せばその会社の製品は値下げ前の値段では社会に必要とされていないということ→必要とされていない企業に人を縛り付けておく方が罪では?

・日本は「20年間旋盤を回してきた人に老人ホームで介護の仕事はできない」という考え方。アメリカは「労働者も学習しなおし、それぞれが必要とされる場所で仕事をする方が幸せ」という考え方

→世の中で必要とされる仕事の種類の変化に合わせて、労働者も自己変革しなければならない

・多くの人は「価格が安ければ幸せだ」というが、それは違う

 企業からすると、せっかくおいしいチョコレートを作るアイデアが浮かんでも、「価格据え置きなら元が取れない」と商品化をあきらめてしまう→価格を据え置く代わりに量を減らす「ステルス値上げ」のように、どうやって小容量化するかの研究を最重要視するようになる

・安いニッポンは質の良いモノを安く供給しているということで、それは価値に適正な値付けができていないという意味→我々には「質の高いモノやサービスにきちんと対価を払うことは当然」という考え方が必要

・日本企業の給料は安い→NTTの研究開発人材は、35歳までに3割がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などに引き抜かれる→人材の流出、国際競争力の低下

・物価が上がらないと、中央銀行が金融引き締めに動きにくい→株や証券にお金が集中→労働による所得が増えにくく、投資による所得が増えやすくなる

・企業の利益が出ないので賃金を上げられない→GDPが増えなければ税収も上がらない→将来、社会保障サービスの財源を確保できなくなる 



肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...