いつも請求書しか入っていない郵便受けに、今日は花柄の封筒が。
昨年お世話になった、病棟の看護師さんからだった。
妻が入院していた時の思い出が綴られ、もし悲しみや不安な気持ちがあったら、私たちに連絡下さい、と結ばれていた。
コロナ禍で面会禁止とする医療機関が多い中、この病院はいつも、患者と家族に寄り添った温かい対応をした。そして1年たった今も、こうして残された者を思いやってくれる。
お礼の電話をすると、
「もう少し状況が落ち着いたら、コーヒーでも飲みにきて下さい」
懐かしい声が返ってきた。
別の日、買い物から戻ると、お向かいさんが庭の手入れをしている。
この辺はセカンドハウスが多く、お向かいさんも暖かい季節だけ、夫婦で来ていた。でも去年から、まったく姿を見なかった。
トレードマークの、赤いジャージが目に眩しい。
お久しぶりです! と声を掛けると、思いがけない答えが返ってきた。
いやぁ、ご無沙汰してしまいました。実は、いろいろありまして…
去年、家内を亡くしました。
健康診断から3日後に、急に苦しみ始めて、慌てて救急車を呼んだんだけど、間に合わなかった。
大腸がん検診で打った麻酔が原因だと思ってます。20万人に1人の割合で、こういうことがあるらしい。医者は認めませんがね。
それまで女房は、ほんとうに「健康優良児」でした。「もし奥さんが先に死んだら、お前が殺したと疑われるよ」と言われるぐらいで。
それが突然、こんなことになっちゃって…
赤ジャージさんの車庫に、白い立派なスポーツカーが鎮座している。
「これですか? アタマに来て買っちゃった! 大げさなクルマでしょ、でも国産車だから、ポルシェよりずっと安いよ。おたくも奥さんを大切にね」
実は去年、私も妻を…と話すと、今度は彼が絶句していた。
2年前の夏、赤ジャージさんの家からは、時おり奥さんの明るい声が聞こえていた。まさか、健康診断で命を落とすなんて。
でも彼は、すでに吹っ切れた表情。
「隣のあずさ平に、古い友人がいるんだけどね、冬は暖房費に月5万円もかかるんだって。かなり寒くなって来たし、ぼくは来月で引き揚げますよ!」
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