「〇〇ツーリストですけど~、この前送ったファクス、見てもらってないんですか? 早く回答下さいよ、ファクスでね」
合間に咀嚼する音が聞こえる。菓子をつまみながら電話?名も名乗らない。
自然学校にかかってくる電話は、たいてい旅行会社からだ。修学旅行や移動教室を請け負っては、私たちに子ども向け野外プログラムを依頼してくる。
旅行会社にとって、修学旅行や社員旅行など法人相手の商売はドル箱。とにかく儲かるらしい。
私の身分は公務員なので、尊大な相手の依頼を断わっても、懐は痛まない。でも上司はNPO専従で、自然学校の売り上げで食べている。辛抱しなきゃ。
だいたい、今どきファクスなんて代物を、大えばりで使うなと言いたい。
「いまだにファクスやハンコを使う文化は、例えば、中国人から見れば、化石時代を見るようなもの」なのだ(「東京を捨てる~コロナ移住のリアル」澤田晃宏著、中公新書ラクレ)。業界の常識は、世界の非常識だ。
そのくせ都会でコロナ感染者が増えると、ファクス1枚で、しれっと直前キャンセルする。勝手なものだ。
そして修学旅行当日、子どもたちに同行してくる添乗員は、実は旅行会社の社員ではない。みな派遣会社の人だ。先生用の豪華仕出し弁当を走り回って配りながら、自分はコンビニのおにぎりをかじっている。
先日、中学生の移動教室で来た40代の女性添乗員さんは、コロナ禍で団体旅行が全てキャンセルになり、別のアルバイトで食いつないでいたという。
その人が、「ここに書いてあることは、私たちの世界そのものです」と勧めてくれた本が、「派遣添乗員ヘトヘト日記」(梅村達著 三五館シンシャ)。
塾講師を経て50歳で「日雇い派遣添乗員」になった著者は、「人の喜ぶ顔を見て、自分もまたうれしい心持ちとなる」「そのような満足感は、私のそれまでの人生において、この仕事について初めて味わうものであった」と書く。
しかし、彼が打ち合わせで旅行会社を訪れると、「疲れ果てるというレベルをとうに超えている」顔をした社員に出会うという。
添乗員なりたての彼に親切だった先輩は、ツアー添乗中のパリで亡くなった。朝の集合時間になってもホテルのロビーに現れず、コートを着て今まさにでかけようという姿で、部屋の床に倒れていた。50歳そこそこだったという。
「計算してみたら、ぼくの時給は300円。学校には残業代という概念がないんです」引率の若い先生もまた、元気がなかった。
そして、子どもたちを受け入れる自然学校スタッフのヨッシーさんも、実は元中学校教師。あまりの長時間労働に嫌気がさして退職した、と言っていた。
この世にたやすい仕事はない。でも子どもと接する立場の大人は、できれば生き生きと、笑顔でいて欲しい。
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