心理学の世界に「ハーロウの代理母」という、かなり有名な実験がある。
まず、アカゲザルの赤ちゃんを、母ザルから引き離して檻に入れる。
次に、2体の模型の代理母を同じ檻に入れる。
1体は針金製。胴体の表面に、針金がむき出しになっている。
もう1体はタオル製。胴体に、タオルを巻き付けてある。
通常、アカゲザルの赤ちゃんは、母親にしがみついて一日の大半を過ごす。
さて、本当の母親がいないこの子ザルは、どちらの代理母にしがみついたでしょう?
実験の結果は、大方の予想通り。
子ザルは、タオル製の代理母にしがみつく時間が圧倒的に多かった。
そして意外なことに、針金製の代理母にミルク入りの哺乳瓶を付けてもなお、子ザルはタオル製代理母の方を好んだという。
この研究は、子どもはおっぱいで空腹を満たしてくれるから母親を好きになる、という「二次的動因説」への反証となり、父親の育児参加を促すきっかけになった…ということだ。
何しろこのお父さん、おっぱいが出ない上に、針金のように痩せている。
結果次第では、心理学史に残る人体実験として、後世に名を残せたかも⁈
ハーロウはまた、「モンスターマザー」と呼ばれる実験を行っている。
今度は、子ザルがタオル製の代理母に抱きつくと、突然、針が出て来て突き刺す、というプログラムを組んだ。
この実験で子ザルは、針に刺されてもなお、「母」に抱きつくことをやめなかった。
何度刺されても、泣き叫びながら、再び抱きついていった。
虐待する親にも向けられる、子どもの無条件の愛。
果たしてこの実験結果、人間にも当てはまるのだろうか…
一連の実験を行ったハリー・ハーロウは、「天才心理学者」「愛を科学で測った男」と呼ばれた。
だが、彼の生涯を描いたノンフィクションによれば、「愛」を研究対象にしたハーロウ自身は生きることに不器用で、「愛」に悩み苦しんだと伝えられている。
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Bangkok Thailand, 2025 |