初めて中国の土を踏んだのは、20歳の時。
当時は車が少なく、街は自転車の海。人々はみな、灰色の人民服姿だった。
ジーンズとTシャツで街を歩いていると、1キロ先からでも外国人とわかってしまう。四方八方から、ものすごい視線が飛んできた。
その後、かれこれ10回ぐらい中国に行った。学生時代の夏休みは新疆ウイグル自治区からチベットのラサまで、長距離トラックをヒッチハイクしながら中国大陸を縦断した。
卒業後は報道カメラマンとして、登山隊の取材でチベットへ。雪山にテントを張って3か月過ごした。
10万人の死者を出した四川省大地震の取材では、ズタズタに寸断された道を、自転車と徒歩で震源地へ。被災者のテントに転がり込んで、その片隅で夜を明かした。朝起きてみると、一夜にして髪が真っ白に。
「ボクも苦労したんだなぁ…」一瞬、感慨にふけりかけた。
何のことはない、枕にした小麦粉入りの麻袋が破れただけだった。
コロナ以降、ずっと入国制限をしていた中国政府が最近、日本人にもビザなし渡航を認めるようになった。
そうだ、久しぶりに中国に行こう!
名古屋の予備校で講義を受けたその足で、中部国際空港から上海に飛んだ。
海外旅行なのに、なぜか上海に着いても非日常感が少ない。思い返せば、名古屋で定宿にしている「東横イン」がいつも中国人の団体に占拠されていて、出発前から「ここは本当にニッポンか?」という状況なのだった。
大都会・上海は、道行く人が洗練されている。ユニクロを着て歩く私は、透明人間並みに無視される。昔はもっと注目してもらえたんだけどなぁ。
自慢じゃないけど、中国語は「トイレはどこですか?」しか話せない。
仕事で大連に行った時、美人のウェイトレスさんに
「厠所在哪里?」
ウェイトレスさん、なぜか無言。
隣にいた、某新聞北京支局長のYさんが赤面している。
「あのねミヤサカさん、現代中国では、もうトイレのことを厠所なんて言わないんです! 洗手間(シーショウジェン)と言って下さい!」
今回、Y支局長に「中国はキャッシュレス社会だから、現金なんか持ってても何もできませんよ」と脅された。だから出発前、スマホにAlipayのアプリを入れ、クレジットカードと紐づけておいた。
おかげで地下鉄にも乗れたし、食事にもありつけた。
街を走るバイクは100%電動で、音もなく近づいてきて危ない。クルマもEVが多い。何度か乗った二階建てバスも電動で、静かなのに加速が強烈だ。
ホテルでエレベーターに乗ろうとしたら、小学生ぐらいの背丈の円筒形ロボットがついてきた。何やら、ひっきりなしに中国語で呟いている。
颯爽と16階で降りて行った。
フロントスタッフに聞くと、きれいな英語で事もなげに言う。
「彼には、お客様に歯ブラシを届けに行ってもらいました」
ハイテク中国!
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Shanghai, May 2025 |
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