2026年8月28日

命を救うショック療法

 

心理系大学院、夏の集中講義・第2幕のお題は「精神医学」。

日本のとある地方都市で働く精神科医A先生に、オンラインで3日間、みっちり教わった。

講義の合間に聞いた、現役の精神科医ならではのエピソードが秀逸だったので、いくつか紹介します。

 

「3・11」が起きた時、A先生は東北地方で働いていた。

運命の日の午後は、「まるで息をするように、口を開けば『死にたい、死にたい』と言う」20代の女性患者B子さんと、面接室で向き合っていた。

突然、グラッと大きな揺れが、2人を襲う。

とっさにB子さんの上に覆いかぶさって、床に突っ伏した。

その時。

「先生……私、死にたくない!」

腹の底から振り絞るような、B子さんの叫びが聞こえてきた。

その日を境に、B子さんの希死念慮は収まっていったという。

 

ショック療法その2。  ※虫が嫌いな人は閲覧注意です

A先生が、街はずれの精神病院に勤務していた時のこと。

自殺企図を繰り返す中学生C子さんを、両親と相談の上で入院させた。

C子さんは入院後も、ショルダーバッグの取っ手で首を吊ろうとしたり、シャーペンの先でリストカットしたり。

医師や看護師の目を盗んで、自殺企図を繰り返す。

やむを得ず、一時的に彼女を拘束器具で、ベッドにくくりつけた。

そして、その日の夜。

病院の周囲は田畑や雑木林が広がり、築ン10年の古びた病棟は、隙間からいろいろな虫が入り込んでくる。

よりにもよって、黒光りした一匹のGが、天井からポトリ…

ベッドで動けないC子さんめがけて、落ちてきた。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」

Gのお陰で、生きる実感が得られたか。

その日を境に、C子さんの自殺企図はピタリと収まったという。

 

以前、A先生が主治医をしていた別の中3女子は、双極症Ⅰ型(躁うつ病)。

彼女が躁状態の時は、いつも中森明菜「DESIRE」ばりの奇抜な着物姿で、診察室にやってきた(←この描写を聞いたクラスメートの20代女子は、皆ポカンとした顔をしていた)。

A先生の見立てでは、「徹子の部屋」であちこち話題が飛びまくる黒柳徹子さんは「間違いなくADHD」だそうだ。

(精神科医A先生のお勧めTVドラマは、いま話題のTBS系「Tシャツが乾くまで」でした)


※写真と本文は関係ありません

Summer camp in Yatsugatake, 2026




2026年8月21日

ファミリーセラピー怖い

 

「明日の授業は、かなりメンタルに負荷がかかりますよ」

心理系大学院、夏の集中講義初日。

95分×5コマの授業を終えたY先生が、とても不吉なことを言った。

東京からわが校に出張してきたY先生は、「家族療法」の専門家だ。

セラピストと患者が1対1で行う普通の心理面接と違って、家族療法では家族全員が治療対象になる。たとえば不登校の子どもを「患者」とした場合、不登校の原因は子ども本人ではなく、家族それぞれの関係性にあると考える。

誰の責任も問わず、悪者探しもしないセラピー。とても魅力的な考え方だ。

そして、翌日。

円環的因果律、システム・サイバネティクス、ミラノ学派、社会構成主義、ソリューション・フォーカスト・アプローチ…

淡々と家族療法の理論を説いていたY先生が、

「私は話し疲れたので、今から皆さんにロールプレイをやってもらいます」

と言った。

ホワイトボードに書き出した家系図を眺めながら、患者(とされる人)が家族に向けている感情を解き明かしていく「ジェノグラム・インタビュー」をやる、という。

「それでは、患者になりたい人は手を挙げて!」

しーん…

そうだよね、誰もやりたくないよね。

仕方ない、ボクが生贄になってあげよう。

まずクラスメートのW子さんが、私の言葉通りに、私と亡くなった妻の家計図を親子3代ずつ描いていく。

それから延々3時間、Y先生のインタビューを受けた。

それは、ロジャーズの来談者中心療法のような受容的セラピーとは全く違う、容赦ない質問の連続だった。

ああ、同級生の面前で、ボクのプライバシーが丸裸に…

一夜明けた翌日。

「昨日はY先生にかなり深掘りされてたけど、大丈夫ですか?」

クラスメートが気遣ってくれた。

実際、幼少時のトラウマ的な記憶を掘り返されたときは、ほとんど泣きそうだった。

やがて教室に現れたY先生、

「昨日はつい遠慮して、いつもは聞くことを聞かなかったなぁ」と言う。

「それは例えば、どんなことですか?」

「例えば、パートナーとのセックスの頻度とか…」

「エーッ」

そりゃ、人生と「性」は、切っても切り離せないものだけど…

そりゃ、カップルセラピーでは必要な要素かも知れないけど…

そんな質問、みんなの前で答えられるわけねーだろ!

Fort Kochi, India 2026



2026年8月14日

受話器の向こう側


 やっと終わった~!

鬼門の「心理統計法特論」期末レポート課題。

大学院の期末試験は、教室でテストを受ける代わりに、2週間かけて長文レポートを書くのです。

そしてその締め切りが、お盆の真っ最中。

途中で他の集中講義も挟まるから、夏休みなんて絵に描いた餅だ。

統計法の期末課題で私が選んだのが、「175カ国117,293人の参加者による、恋愛とパートナー選好に関する異文化間データ」。

その膨大なデータの中から「性別」と「浮気の経験の有無」の組み合わせで尤度比検定を行い、x²分布による近似計算法でP値の評価を行った。

統計解析用のプログラミング言語「R」を駆使し、クロードさん、チャッピーさん、ジェミニさん、副操縦士さんら生成AIの助けも借りて(←教授にはナイショ)、なんとか締め切り前日にレポートを仕上げた。

こう書くと、いかにも統計を理解しているように聞こえるが…

実は、最後までよーわからんかった。

このレポートが書けたのは、休日のスターバックスで、一杯のフラペチーノと引き換えに手伝ってくれたクラスメート(中学時代から交際している彼氏を尻に敷いて君臨する女王、Hさん)のお陰だ。

それにしても、まさかこの年で統計解析言語と格闘することになるとは、ね。

 

心理系大学院の数ある実習の中で、最近始まったのが「電話相談実習」。日常の悩みや不安、こころの健康に関する相談を電話で受け付ける、その受け手を務めるのだ。

受話器の向こう側は統合失調症の患者さん、「死にたい」と訴えてくる人、ひたすら「もやもやする」を繰り返す人、1時間に30数回ワン切りコールする強迫神経症と思われる人など、さまざま。

相談員を務める修士2年の先輩たちの受け答えは、手慣れたものだ。

こんなこと、果たして自分にできるのか?

今のところは陪席で済んでいるが、夏休みが明けると、いよいよ我々1年生の出番だ。

…不安が募る。

午後7時に実習を終え、引き続きスーパービジョン(指導教員による振り返り面接)を受けた。今夜のスーパーバイザーは、メタルフレームの眼鏡が似合う、知的美人のO先生。各事例を丁寧に聴いて、的確なアドバイスをくれる。

1時間ほどで、スーパービジョンも終了。

研究室の壁に停まった蚊を右手の一撃で仕留めながら、O先生がつぶやく。

「実は…私も寂しい真夜中、つい電話相談にかけちゃうのよね。『こんな時間にスミマセン~』なんて言いながら」

せ、先生…

ダ、ダイジョーブ?

                          ※写真と本文は関係ありません

Summer camp, Nagano Japan 2026




2026年8月8日

サマーキャンプ


我が家から峠道をクルマで少し登ったところに、NPOが運営する自然学校がある。

毎夏、2泊3日で行われる小学生のサマーキャンプを手伝う。

今年はやけに子どもが少ないなと思ったら、クマ出没の風評被害で、参加者のキャンセルが急増したのだという。

この辺、クマは出ないんだけどな。

東京の親にしてみれば、長野県内はどこも同じか。

私は今年も木登り担当。

木登りといっても、岩登り用ロープとハーネス、ヘルメットを着用して、高さ10m以上のカラマツを登る、本格的な「ツリークライミング」だ。

3mも登らないうちに「怖いよ~!」と大泣きしていた子が、2度目のトライで見事に完登! 成長した子どもの笑顔を見るのは、いつも楽しい。

初対面なのにベタベタまとわりついてくる子に、「この子は無秩序型愛着スタイルの脱抑制型対人交流症なのかな?」と思ってみたり、果ては虫かごの中で蠢くクワガタにまで「こいつ、注意欠如多動症に違いない!」と思ってみたり。

ふだん朝から晩まで心理学漬けになっているせいで、脳内が、かなりヤバいことになっている。

他のクワガタの下敷きになってもがくADHDクワガタを観察していたら、横から

「この子、いじめられてかわいそう…」という声が。

自然学校スタッフのエイコさんが、クワガタをつまんで、別の虫かごに移し替えた。

小学生ばかりか、クワガタにまで優しい気配り…

これぞ自然学校スタッフとして、いや人として、あるべき姿だ。

いや~、気をつけないと!

Summer camp in Yatsugatake, 2026



命を救うショック療法

  心理系大学院、夏の集中講義・第2幕のお題は「精神医学」。 日本のとある地方都市で働く精神科医 A 先生に、オンラインで3日間、みっちり教わった。 講義の合間に聞いた、現役の精神科医ならではのエピソードが秀逸だったので、いくつか紹介します。   「3・11」が起...