久しぶりに帰国して、新鮮に感じた光景がある。「犬がちゃんとつながれている」ことだ。飼い主とリードでつながり、程よい距離を保ちながら歩道の端を歩いている犬なんて、バンコクにはいない。驚愕に値する。
この冬に訪れた、バンコク、チェンマイ、プノンペン、ビエンチャンといった街では、犬は路上に放し飼い。夜、街灯のない暗がりでボロ布のようにうずくまる犬を、何度踏んづけそうになったことか。
それだけならいい。天下の公道を歩く人さまに向かって吠えるのはどういうことか。バンコク東部のアパートに滞在していた時、入り口を出てすぐのところに、5~6匹の大型犬がたむろしていた。通りがかるといつも、唸り声をあげながら寄ってくる。おかげで出かける時は、敷地内からトゥクトゥクやバイクタクシーに乗っていた。噛まれたら狂犬病で死ぬかも、と思うと、とても怖い。
犬といえば、会社を辞める前の2年間、私は夕刊「ペット面」担当カメラマンだった。作家や俳優、スポーツ選手などの自宅におじゃまして、ペットとの交遊を撮影する。ペットと一緒にいる時の飼い主は、とてもリラックスした表情になる。撮っていて楽しかった。
少しは苦労もあった。俳優・前田吟さん宅のチワワには、よほど嫌われてしまったと見え、2時間吠えられっぱなし。撮影が終わってからも、しばらく耳がガンガン鳴っていた。また、中にはペットをアクセサリーのように扱う人もいた。できるだけ親密な関係を撮る努力をしたが、読者には見抜かれていたと思う。
それでも、出会ったほとんどの人が、筋金入りのイヌ・ネコ好きだった。「セクシー女優」杉本彩さんは、京都市内のマンションに猫10匹、犬3匹と暮らしていた。みな、飼い主に捨てられたものばかりという。ネコエイズで四肢麻痺の猫も引き取っていた。
漫画家のハルノ宵子さんは、おしっこうんこ垂れ流しの猫を墓地で拾ってきた。社会運動家のイメージがある池田香代子さんも、それはそれは愛情こまやかに、年老いた愛犬のシモの世話をしていた。
家族の一員か、それ以上の扱い。それが日本だ。だれが飼い主かも判然としない東南アジアとは、ペットとの接し方が根本から違う。
ちなみに、少子化が進む日本では、飼われている犬や猫の数が、中学生以下の子供の数より多いという。
タイ滞在中に、作家・稲葉真弓さんの訃報に接した。享年64。やはりペット面の取材で、海に近い東京都内のマンションに伺ったことがある。新聞の追悼記事によると、私がお会いした時には、すでにがんの再発を知っていたようだ。愛猫ボニーと、ひとりと一匹。お互いを知り尽くした様子の、淡々とした暮らしぶりが思い出された。
東南アジアでは、猫も放し飼いが多い。たまに人からエサをもらうことはあっても、基本は自給自足。身づくろいをするゆとりもないらしく、うっかりなでると手が黒くなる。
すぐ徒党を組むバンコクの犬 |
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