2024年6月14日

「子持ち様」

 

NPO法人「フローレンス」会長の、駒崎弘樹さん。

ある日彼は、お母さんが「子どもの看病で会社を休んで、解雇された人がいるんだって」と話しているのを聞いた。

大学卒業後すぐに、病児保育のNPOを設立。

以来、メディアで発言を続けている。

 

5月26日付読売新聞で、久しぶりに駒崎さんのインタビュー記事を見つけた。

相変わらず自らの経験に根差した、的を射た発言が多い。

思わず膝を打ちまくってしまったので、一部を紹介します。

 

・最近、SNSで「子持ち様」という言葉が広がっている

「子持ち様の子が、また熱を出したとか言って休んだ。そのカバーで仕事が増えた」などという使われ方をする。子どもを育てる親が、職場から配慮を受けることを揶揄している

2030代の未婚の男女から、そうした声が上がることに衝撃を受けた。不満をぶつける相手は、仕事のカバー態勢を整えていない会社側であるはず。「被害者が被害者を叩く」悲劇的な構図だ

1980年代は全世帯の半数近くに子どもがいたが、今は2割弱と少数派。こうした言葉で子育て世帯の肩身が狭くなり、さらに子どもを産もうという気持ちが薄れてしまうのではないか。そして少子化が加速するのでは?

・日本では「男性が外で仕事をして、女性が家を守る」という役割分担が無意識にすり込まれている。育児が妻に固定化され、夫の会社がそれにただ乗りしている

・日本は長時間労働を前提としている。法定労働時間(1日8時間)を超える割増賃金が欧州の半分ほどと安く、企業からすると残業させやすいため、働く時間が長い

現状のままでは共働きはできても、共育てはできない。労働時間の短縮が、出生率を大幅に上昇させるという研究結果もある

・少子化を巡る問題が難しいのは、当事者の課題が数年ごとに変わってしまうこと。保育所がない、学童保育に入れないと悩んでも、一定期間を耐えれば過ぎ去る。当事者でなくなっても声を上げ続ける人は、ほとんどいない

・子どもは成長し、今の現役世代が高齢者になった時、社会保障制度を支える担い手になる。誰もが「自分の未来への投資」と考え、社会で子育て世帯を支えていく意識を醸成していく必要がある

「私が好きな言葉はインド独立の父、マハトマ・ガンジーの『あなたが見たいと思う変革に、あなた自身がなりなさい』。自分でやってみて必要があれば広げていく、という姿勢を大切にしています」

Jardin des Plantes Paris, January 2024


2024年6月7日

深夜のコルカタと、毛深い大男

 

インドのコルカタに向かう国際線は、どこを経由しても、なぜか必ず深夜の到着になる。

不慣れな外国人に、わざと試練を与えているよう。

この春バンコクから乗った便もまた、真夜中にコルカタ空港に着陸した。

到着ロビーにはATMが見当たらず、手招きする両替商のカモになって、最悪のレートでインドルピーを入手する。

そしてスマホの海外ローミングは、着陸から1時間経っても通じない。だからライドシェアが使えない。プリペイドタクシーの窓口も閉店してしまった。

仕方なく荷物を抱えて到着ロビーから外に出ると、たちまち眼付きの悪いタクシーの運ちゃんに囲まれた。こちらに他の選択肢はないから、料金交渉は圧倒的に不利だ。相場の2倍で、ボロボロの白タクに乗る羽目になる。

あとは運ちゃんが、途中で強盗や人殺しに変身しないことを祈るのみ…

コルカタ市内は、すでに漆黒の闇の中。これが人口1500万の大都市かと思うほど暗い。クルマのヘッドライトが照らす範囲に人影はなく、交通量も少ない。

幸いスマホのグーグルマップが、順調に市の中心部に向かっていることを教えてくれる。

やがてクルマは幹線道路を外れて、狭い路地に入った。廃墟のような建物が、道の両側に並ぶ。路上にはゴミが散乱し、ところどころ、毛布にくるまった人が転がっている。

インド14億を束ねるモディ首相は、西部グジャラート出身。ここコルカタは東の端だから、冷遇され、発展から取り残されているのか。初めてこの町に来た40年前と、まるっきり同じ風景だ。

なんとか無事ホテルに着いた。チェックインでは氏名や住所、電話番号などの宿泊者情報が、分厚い台帳に手書きで管理されている。超高級ではないが、名の通ったホテルをネット予約したんだけど…

眠そうな夜勤スタッフに案内されて、薄暗い廊下を部屋に向かった。

ガチャッ

スタッフが鍵を外してドアを開けると、なぜか室内が明るい。

ベッドに上半身を起こしてテレビを見ている大男と、目が合った。

裸でシーツにくるまり、もじゃもじゃ胸毛が生えている。

「・・・・・」 

しばし沈黙ののち、スタッフが低い声で「ソーリー」と呟き、ドアを閉めた。

悪びれる様子はまるでない。フロントに戻り、改めて空き部屋を探している。

別の部屋を当てがわれ、シャワーを浴びてベッドに入る頃には、東の空が白み始めていた。

インドは、やっぱりインドだった。

Kolkata, India 2024


Kolkata, India 2024

2024年6月1日

「フェミニズムの国」に暮らしてみれば

「ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた」 鈴木綾著 幻冬舎

この冬、イギリス人家庭にホームステイしながら3週間ロンドンに滞在した。帰国後、旅行者目線でないロンドン暮らしの実際が知りたくて読んだのが、この本。

著者は東京で働いていた時、セクハラやモラハラに遭い、30歳を目前にしてMBAを取得し、ロンドンに脱出する。

そして、そこで見たものは…

 

・ロンドンで暮らし始めてから、日本の生きづらさから逃げて来た同年齢の日本人女性に何人も出会った。「出国子女」だ

・「帰国子女」と違って、「出国子女」の99%は高学歴の女性。日本人であることや日本文化を誇りに思っているが、日本企業には勤めたくない人たち。自分と同じくらい優秀な独身の日本人男性は海外にいないから、彼氏は外国人

・これはすごい「人材流出」だ

・グローバル企業で、国籍に関係なく世界のトップ人材と一緒に仕事をしたい人は、ニューヨーク、ロンドン、ドバイなどに集まる。東京はもうその選択肢に入らない

・ロンドンで知り合った日本人投資家たちは、子どもを海外で教育を受けさせている。「日本の教育は21世紀に求められるスキルを教えない」から

・6年間東京に住んで、何度もストーカー被害に遭った。地下鉄の中で痴漢に遭った時、周りの人は私を助けようとしなかった。接待ではセクハラ発言を浴びた。日本を出た時、私の心は傷だらけだった

・女性としての生きづらさから脱出するために日本を離れたことは間違っていなかった。でもイギリスはイギリスで、いろいろなことがある

・「働いている女性が強い」「フェミニズム発祥の地」という理由でイギリスに引っ越して来たが、この国に期待するあまり、求めすぎていた

・外見上や制度上の差別はないし、ルールもきちんとしているが、人々の無意識、普通の社会生活の根底に、性差別意識が残っている。少し表面を削れば「フェミニズムを信じない」的な発言が出てくる

・仕事上、若い女性にとって一番大きな問題は、気持ち悪い上司や中高年の男性たちではなく、自分がモノ扱いされることと、便利屋扱いされること

・交通機関やインフラが最悪、物価が高い、友だちが作りづらい。ロンドンは生きづらい街

…そして著者は、120年前にロンドンに留学した夏目漱石の回想を引用する。

「倫敦に住み暮らしたる二年は尤も不愉快の二年なり。余は英国紳士の間にあつて狼群に伍する一匹のむく犬の如く、あはれなる生活を営みたり」 

St Pancras International, London 2024


2024年5月25日

車掌さんの鼻ピアス

 

イギリス人家庭でのホームステイを終えて、ロンドンから大陸に渡る、その朝のこと。

バックパックを背負って地下鉄ピカデリー線の駅に着くと、入り口が鉄のシャッターで閉ざされている。

「???」 脳内が、クエスチョンマークだらけになった。

もし東京の地下鉄が突然、通勤時間帯に運休したら、大混乱間違いなしだ。

でも、駅周辺は閑散として、平和そのもの。よくあることみたい。

近くでのんびり立ち話をしていた女性に聞くと、ロンドン中心部に向かう代行バスが出ているという。

でも、そのバスがいつ来るかわからないし、途中の渋滞も心配だ。

予約した国際列車ユーロスターの出発時間が迫る。

幸いロンドン滞在も長くなり、ある程度の土地勘があった。とりあえず路線バスで別の地下鉄駅に向かうと、その駅から市内に向かうエリザベス線は、平常通り動いていた。

やれやれ、助かった…

見送りに来てくれた某新聞ロンドン支局長のKさん曰く、

「実はエリザベス線も、車両故障でよく止まるんですよ。よかったですね~」

 

一度は乗ってみたかった、国際列車ユーロスター。

ロンドンからドーバー海峡をトンネルで越えて、パリやブリュッセルなど大陸の各都市を結んでいる。

ロンドン市内の駅でパスポートチェックを受け、早くもフランスの入国印が押される。その先のキオスクで売られるサンドイッチは、すでにポンドでなくユーロ価格だ。

先頭車両は流れるような流線型で、新幹線よりカッコいい。でも…ドロドロに汚れている。たぶん製造以来、一度も洗車してない。客車の窓も、外の景色が見えないほどの汚れようだ。

乗客をA地点からB地点まで運ぶのに、いちいち車体を洗う必要などないと考えるのか? でもここまで汚ないと、空気抵抗が増えますよ絶対。

このユーロスターも、昨年末にトンネル内が漏水して運休してしまい、クリスマス休暇を過ごす乗客で大混乱していた。

国際結婚してイギリスとフランスに30年暮らす友人が、

「日本に一時帰国するたび、電車が時間通り来ることに感激する」

と、しみじみ言ってたっけ。

無事に大陸に渡り、次にベルギー国鉄のローカル線に乗った。車体が派手な色のスプレー塗料で落書きされ、まるで「走るストリートアート」だ。

検察に回ってきた若い女性車掌の鼻(小鼻の脇でなく、鼻っ柱のど真ん中)に、大きめのピアスが光っていた。

う…牛…?

思わず、失礼極まりない連想をしてしまう。

堅苦しい制服制帽姿とのミスマッチが、笑えた。

Gare du Midi, Bruxelles 2024


2024年5月17日

愛人を作るのは合理的判断

 

ここ数年、女性問題で失脚する男性経営者が後を絶たないらしい。

ウエルシアの社長が愛人問題で辞任。タムロンの社長も、ホステスを経費で海外出張に同伴させて辞任。ENEOSの会長と社長も、相次いでセクハラ行為で失脚したという。

この件について、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス准教授で進化心理学者のサトシ・カナザワ氏が、ものすごいことを言っている。

これってホント? 以下、日経ビジネス電子版のインタビューを要約します。

一般的に男性は経営者を目指して懸命に働いており、無意識のうちにより多くの女性と情事を重ねることをその目的としている。経営者になることは手段にすぎず、女性との情事こそが本来の無意識的な目的

・経営者になれば、女性を引きつける上で有利となる富と権力が手に入る。女性スキャンダルを起こす男性経営者は、本来の目的を達成しているだけ

・なぜ男性は富と権力で女性を引きつけられるのか。教育の機会や食料を提供するなど、子どもの養育に必要な投資の能力が高いことを女性に示せるから

・ヒト以外のほとんどの種は母親だけで子どもを育てるので、母親は父親の持つ富や権力には関心がない一方ヒトの場合、父親も子どもの養育に加わるので、母親は富と権力を持つ男性との繁殖を好む

・男性経営者がセクハラ行為に走るのは、女性を魅了できるほどの富と権力を得たと思い込むから。男性は繁殖相手である女性に様々な方法でアプローチするが、その一つがセクハラ

・セクハラは人類の歴史を通じてずっと行われてきた。ただ四半世紀前から社会規範が変わり、セクハラの加害者が制裁を受けるようになった

・より多くの女性との情事を重ねることが経営者になった本来の目的なので、男性経営者が妻以外の女性にアプローチするのを防ぐのは非常に難しい

・一生懸命働いて経営者になった男性に対して「不倫するな」と説くことは、一生懸命働いてお金を稼いだ人に「お金を使うな」と言っているようなもの

・ビジネスで大きなリスクを取って成功した彼らは、経済学や人格心理学の言葉を借りれば「リスク愛好型」の人間。不倫するリスクも取りがち

・さらに、愛人問題で経営者が失脚する確率は小さいのが現実。「女性スキャンダルに発展する恐れがあるから不倫するな」と主張することは、「墜落事故のリスクがあるから飛行機に乗るな」と言っているのと同じ

・愛人がいる経営者のほとんどが、無事に過ごせている。リスクを取ってでも愛人をつくることは合理的な判断といえる

 

たとえ「進化心理学」的にはそうであっても、自分は違う!と言いたい。

富と権力なんか握ったことないから、断言はできないけど…

Musee d'Art Moderne de la ville de Paris, 2024


2024年5月10日

お金と人生と幸せについて

 

「経済評論家の父から息子への手紙~お金と人生と幸せについて」山崎元著 Gakken

今年の元日に65歳で亡くなった著者が、がんと診断されてから書いた本。

著者は転職を12回繰り返して、国内外の金融機関を渡り歩いた。その間、手数料の高い(金融機関が儲かる)アクティブ投信より、実は手数料0.1%のインデックス投信の方が儲かることを、明快な根拠とともに主張し続けた。

一貫して消費者サイドに立つその姿勢ゆえ、勤務先ではさぞ逆風が強かっただろう。

今回はこの本の、投資以外の部分を紹介します。著者の息子は、大学1年生。

・興味を持って面白いと思える仕事でないと、ライバルに勝つための努力が続かない。これは競争上、決定的に不利

・しかし、好きなことで稼いで豊かさを得るのは簡単ではない。むしろ、好きでないことを我慢して稼ぐことが豊かさへの近道になる場合が多い

・自分を変える方法は、付き合う人間を変えるか、時間の使い方を変えるかの2通り

・自己投資の中身は「知識」「スキル」「経験」「人間関係」「時間」

・人間関係の基本は「時間厳守」と「さわやかなあいさつ」

・デートの時にクレジットカードをリボルビング払いで決済する相手とは結婚しない方がいい。経済観念の乏しい相手と結婚すると苦労する

・各種の経験や、豪邸の所有のような自由はお金で買える。名声も買えないことはない。ある種の人間関係も、お金で買えないことはない。しかし、ナチュラルにモテるという状況をお金で買うことは難しい

・モテない男は幸せそうに見えない

・モテる男になるためのコツは、心からの興味を示しながら、相手の話を熱心に聞くこと。ひたすら聞く。これが肝心だし、これだけでいい。自分から行う自分語りは一切いらない

・いわゆるスペックの高い男でも、自分語りが多い男は驚くほどモテない

・人間の幸福度は、ほとんど100%自己承認感(自分が承認されているという感覚)でできている

・自己承認感によって人をコントロールすることを最も大規模に成功させているのが宗教

・幸福は、人生全体を評価して通算成績で感じるようなものではなく、日常の折々に感じるもの。幸福感とは「その時に感じるもの」。

日常の一日一日、一時一時を大切にしよう

・自分にとって、どのようなことが嬉しくて幸福に感じるのかに気づくといい。できたら、それを言語化しておこう

Varanasi India, March 2024


2024年5月3日

幼稚園の先生も国際分散投資

 

半年に1回ぐらい顔を出す小さなカフェで、ランチに南インド定食を食べた。

食後まったりしていたら、20代後半ぐらいの女性が入ってきた。客は我々2人だけ、なんとなく会話が始まる。これって地方都市あるあるの展開かも。

その人は幼稚園の先生で、去年からNISAを始めた。周りに相談できる人がいなかったからYouTubeで勉強して、アメリカ株・先進国株・新興国株のインデックス投信を3分の1ずつ、毎月積み立てで買っているという。

なんて洗練された投資家だ。「それでいいんです!」と力強く言っておいた。

幼稚園教諭も株式投資。若い世代は特に、日本の将来への危機感が強いのだ。

 

「経済評論家の父から息子への手紙~お金と人生と幸せについて」

元旦に65歳で亡くなった山崎元氏の最後の著書。この人の本を愛読してきたが、一貫して国際分散投資を強く勧めている。ちょっと内容を紹介します。

・就活シーズンになると、リクルートスーツに身を包んで会社訪問に赴く学生の映像が報道される。翌春には、首尾よく就職に成功した学生たちが大企業の入社式に臨む映像が流れるのだが、彼らを見ていつも「悲惨だな」と思う

・区別がつきにくい同じスーツと表情に象徴されるように、彼らの大半は使う側から見て「取り換え可能な存在」。弱い立場で会社人生を送る

・正社員の立場を得たことに本人たちも安心し、親にも褒められる。しかし、親世代と今とでは有利な働き方、稼ぎ方のあり方がすっかり変わっていることに親子ともども気づいていない

・ひとつの組織に居続けるとなると、重要性を増すのが人事。人事は基本的に好き嫌いで決まる。これは現代でもそうだし、世界的にそう。嫌われた者が脱落するシステムだから、評定者の言いなりになることが求められる

・正社員としてそこそこの会社に入社できると、非正規労働者より給料が少しいいかも知れないし、クビにはなりにくいが、その立場に安住すると一生を通じて会社の奴隷のような存在になる可能性が大きい。いわゆる「社畜」だ

・リスクを取りたくない労働者が、安定と引き換えにそこそこの賃金で満足する。その彼らこそが世界の養分であり経済の利益の源

・資本主義経済は、リスクを取ってもいいと思う人が、リスクを取りたくない人から利益を吸い上げるようにできている

・その利益を吸い上げる側に介在するのが資本。そして現代で資本に参加する手段が株式投資だ。若い人は生活費3~6か月分を銀行の普通預金にして、残りを全額「全世界株式インデックスファンド」に投資するといい

・資産運用の三原則は「長期」「分散」「低コスト」。大事なのは売り買いしないこと。大きな利益を得るためには、長い期間資本を提供し続けることが必要。持ちっ放しがいい

・そして、新しい働き方に必要なマインドセットは

   常に適度なリスクを取ること

   他人と異なることを恐れず、むしろそのために工夫をすること

Matsumoto Japan, spring 2024


私はカモシカ

  ・もし、自分を動物に例えるとしたら? A 子「リス」  B 子「カモシカ」  C 子「飛べない鳥」  D 子「ウサギ」  E 子「フクロウ」 ・あなたが人生の最後に食べたいのは? A 子「オムライス」  B 子「あん肝」  C 子「寿司」  D 子「オムライス」 ...