インドのコルカタに向かう国際線は、どこを経由しても、なぜか必ず深夜の到着になる。
不慣れな外国人に、わざと試練を与えているよう。
この春バンコクから乗った便もまた、真夜中にコルカタ空港に着陸した。
到着ロビーにはATMが見当たらず、手招きする両替商のカモになって、最悪のレートでインドルピーを入手する。
そしてスマホの海外ローミングは、着陸から1時間経っても通じない。だからライドシェアが使えない。プリペイドタクシーの窓口も閉店してしまった。
仕方なく荷物を抱えて到着ロビーから外に出ると、たちまち眼付きの悪いタクシーの運ちゃんに囲まれた。こちらに他の選択肢はないから、料金交渉は圧倒的に不利だ。相場の2倍で、ボロボロの白タクに乗る羽目になる。
あとは運ちゃんが、途中で強盗や人殺しに変身しないことを祈るのみ…
コルカタ市内は、すでに漆黒の闇の中。これが人口1500万の大都市かと思うほど暗い。クルマのヘッドライトが照らす範囲に人影はなく、交通量も少ない。
幸いスマホのグーグルマップが、順調に市の中心部に向かっていることを教えてくれる。
やがてクルマは幹線道路を外れて、狭い路地に入った。廃墟のような建物が、道の両側に並ぶ。路上にはゴミが散乱し、ところどころ、毛布にくるまった人が転がっている。
インド14億を束ねるモディ首相は、西部グジャラート出身。ここコルカタは東の端だから、冷遇され、発展から取り残されているのか。初めてこの町に来た40年前と、まるっきり同じ風景だ。
なんとか無事ホテルに着いた。チェックインでは氏名や住所、電話番号などの宿泊者情報が、分厚い台帳に手書きで管理されている。超高級ではないが、名の通ったホテルをネット予約したんだけど…
眠そうな夜勤スタッフに案内されて、薄暗い廊下を部屋に向かった。
ガチャッ
スタッフが鍵を外してドアを開けると、なぜか室内が明るい。
ベッドに上半身を起こしてテレビを見ている大男と、目が合った。
裸でシーツにくるまり、もじゃもじゃ胸毛が生えている。
「・・・・・」
しばし沈黙ののち、スタッフが低い声で「ソーリー」と呟き、ドアを閉めた。
悪びれる様子はまるでない。フロントに戻り、改めて空き部屋を探している。
別の部屋を当てがわれ、シャワーを浴びてベッドに入る頃には、東の空が白み始めていた。
インドは、やっぱりインドだった。
Kolkata, India 2024 |
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