2023年11月17日

「幸せの三段重理論」

 仕事を終えて病院を出ると、ちょうど日没。

家路につく愛車のガラス越しに、八ヶ岳連峰が真っ赤に染まっている。

そんな時、自分でもビックリするほどの幸福感に包まれる。

あー、生きてるだけで丸儲けだー!

些細なことで幸せを感じるのは、職場が緩和ケア病棟だから、かも。

 

「プレジデント」11月3日号で、作家で精神科医の樺沢紫苑氏が「幸せの三段重理論」を唱えている。ちょっと面白かったので紹介します。

・「今がつらい」「今が苦しい」と感じている人が、10年後に幸せになれるはずがない。「幸せな人生」とは「今日の幸せ」を積み重ねた先にしか存在しない

・今がつらい、苦しいと感じている人は「過去」の出来事を思い出して後悔する、あるいは「未来」や「将来」のことを考えて不安になっている人が多い

・過去や未来ではなく、現在にフォーカスすることが何より大切

・私たちが感じる幸福は、その時に分泌される脳内物質の種類で「セロトニン的幸福」「オキシトシン的幸福」「ドーパミン的幸福」の3つに分類できる

・セロトニン的幸福…「健康の幸福」。これを手に入れる最もシンプルで確実な方法は「睡眠」「運動」「朝散歩」

・オキシトシン的幸福…「つながりの幸福」。これを手に入れるために有効なのは「パートナーとの交流やスキンシップ」「仲間との会話やコミュニケーション」「ちょっとした親切やボランティア、ペットとの交流」など

・ドーパミン的幸福とは「お金、成功、達成、富、名誉、地位などの幸福」。これを手に入れるためには「お金や物に感謝する」「自分にはちょっと難しい課題に挑戦し、自己成長を実感する」「ワクワクするようなことをする」「他者に与えるような行動をする」ことが有効

・この3つの幸福を手に入れるためには、必ず守るべき優先順位がある

   セロトニン的幸福(心と体の健康)

   オキシトシン的幸福(つながり)

   ドーパミン的幸福(お金、成功)の順

・自分自身の健康を軽視してお金や成功を目指すと、メンタルや体の疾患に陥ってしまう。家族とのつながりを軽視して仕事でがんばり過ぎると、家庭不和になり、幸せとは言えない

・セロトニン的幸福とオキシトシン的幸福を盤石にして、ドーパミン的幸福を積み上げていくことによって、結果として3つの幸福すべてを手に入れることができる

→これこそが「幸せの三段重理論」

Matsumoto City Museum of Art



2023年11月10日

「シンプルで合理的な人生設計」~後編

 

この本によると、スーパーで値札を気にせず買い物ができれば、それだけで幸福度が上がるという。

何を隠そう、この私もスーパーで値段を気にしたことがない。

豆腐、納豆、バナナ、カイワレ大根、ネギ、豚の小間切れ、豆乳、白菜の浅漬け。

たまたま好きな食べ物が、こういったばかりなものなので…

 

引き続き、橘玲著「シンプルで合理的な人生設計」ダイヤモンド社 を紹介していきます。

80歳まで生きるとして、人生はわずか4000週間。だからこそ、時間を上手に使うことが私たちの最重要課題になる。人生とは時間の使い方そのもの

・若者が映画を早送りしてまでタイパを最大化しようとするのは「友人との会話についていくため」。人間関係には大きなコストがかかるということ
→友だちを減らせば大量の時間資源(リターン)が生まれる

・睡眠や運動のように、無駄なように見えて実は重要な時間がある。それを考えれば1日に自由に使えるのは6~8時間しかない

→最小限のモノしかない家で暮らし、よい食材を使って適量のごはんを作り、テレビやインターネットから距離を置き、友人との人間関係も断捨離して、本当にやりたいもののために時間を使う

・選択をする必要が少なければ少ないほど、人生はより豊かになる

・選択を避けるもっともシンプルな戦略は、お金持ちになること。スーパーマーケットで値札をいちいち確認することなく、食べたいものを買い物かごに入れ、さっさと清算して店を出るだけでも、日々の幸福度は確実に上がる

・選択肢が多すぎると決められなくなり、幸福度が下がる。スーパーで6種類のジャムの試食に立ち寄った客の30%がジャムを購入したが、ジャムを24種類に増やすと、購入に結び付いたのは3%だった

・睡眠こそ、もっとも効果の高い成功法則。寝不足だと仕事や勉強のパフォーマンスが下がり、身体的な健康やメンタルヘルスを害し、アルツハイマー型認知症リスクが高まる。記憶や運動スキルの向上、イノベーションにも強く関係

→睡眠は最高の自己啓発

1970年代には「睡眠にはなんの役割もない」と大真面目に唱える学者もいた。だがラットを眠らせないと平均15日で死亡する

・認知症の最大の予防は、ちゃんと眠ること

・短期的な幸福(快感)と長期的な幸福(成功)はしばしば衝突する。成功とは多くの場合、短期的な快楽を抑制することで長期的な利益を最大化すること

・テーブルのおいしそうなケーキをほおばるのが短期的最適化。ダイエットや健康のために我慢するのが長期的最適化。短期的最適化の特徴は幸福度が高いこと。長期的最適化は面白みがないが、将来的には幸福度がもっとも大きくなる

Wall painting, Yokoami Tokyo Japan


 

2023年11月3日

「シンプルで合理的な人生設計」

 

「シンプルで合理的な人生設計」 橘玲著 ダイヤモンド社

この人の本は毎度「それを言っちゃーおしまいよ!」の連続なのだが、最新の知見が含まれているので、つい読んでしまう。一部を紹介します。

 

・ビールは最初のひと口がものすごくおいしいが、2杯め、3杯めとお代わりするにつれておいしさが減っていき、最後は惰性で飲むようになる…「限界効用の低減」。同じ相手とのセックスの限界効用も低減する

・お金の効用も低減する。日本で持ち家と別に1億円の金融資産があると、それ以上貯蓄が増えても幸福度は上がらない→「1億円」が老後不安から解放される基準になっているから

・もっとも効果的に幸福になる方法は、お金持ちになること。年収や資産を増やすことはドラッグやギャンブルで一時的に幸福度を上げるような副作用もないし、短期的な効用だけでなく長期的にも人生によい影響を与える

・幸福になるための方法は星の数ほどあるが、「お金持ちになる」ことほどシンプルかつ効果的な戦略はほかにない→幸福になりたい人が真っ先に取り組む課題は金融資産を大きくすること

・自由とは哲学的・心理的な問題ではなく、自由に生きるための経済的な土台を持っているかどうかで決まる

・「あなたは友だち5人の平均である」はネットワークの科学の常識。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグ、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンと友だちなら、あなたは成功者で大富豪

・問題は因果関係を逆にして、大富豪になるためにこの5人を友だちにすることはできないこと。友だちはあなたが一方的に選ぶのではなく、あなたが友だちに選ばれなくてはならない

・ヘヴィメタルとクラシックのファンはおそらく友だちになることがない→音楽の好みがパーソナリティを反映するから

・友情の維持に必要な時間資源は有限。友人の数が多い外向的なタイプは1人に多くの資源を割くことができず、付き合いが表層的になってしまう

・アメリカでは支持政党による同類婚が進んでいる→夫がトランプ支持なら、妻がバイデンを支持していることはない

・同じ学歴同士が惹かれ合う→アメリカのエリート白人男性は、白人で高卒の元チアガールより、自分と同学歴の有色人種の女性と結婚する

・中国で広く普及しているアリペイの「芝麻信用」はユーザーの信用力を点数化しているが、その基準のひとつが友だちのネットワーク。信用力の低いユーザーとつながっていると自分の信用力も下がってしまう
→中国では誰もが点数の低い友だちを切り、点数の高い友だちとつながろうとするようになった

Tateshina Japan, Autumn 2023


2023年10月26日

ハーブガーデンにて

緩和ケア病棟で働き始めてしばらくの間、患者さんはみな7090歳代だった。

最近、出勤してナースステーションのボードを確認すると、50代の患者さんも見かける。

自分より年若い患者さんを看取った日は、どうしても「不条理」とか、「理不尽」とかいった感情が残る。

 

C子さんも、まだ50代前半。手編みの帽子を目深にかぶり、やせた顔の中で目だけが大きく光っている。

残暑が和らいだ日の午後、C子さんを車いすに乗せてハーブガーデンを散歩した。遠く八ヶ岳連峰がぜんぶ見える、素晴らしい秋晴れだ。

C子さんは、ちょっとこの地方にない珍しい名字を持っていた。離婚して、別れた夫の名字をそのまま名乗っているとのこと。息子がひとり。

「ミヤサカさんは、ご家族は?」

と聞かれたので、3年前に妻と死別したことを話した。

(微妙な話題だが、患者さんに聞かれれば隠さず話している。時にはその場が、妻が最期の日々を送った507号室だったりもするが…それは言わない)

「そう、3年前…」

C子さんはしばらく黙っていたが、さらに妻のことを聞きたがった。

私「妻がキッチンに立てなくなってから、3食ぼくが作ったんですよ。そうしたら『間違っても、あなたの手料理をお客さんには出してくれるな』と言われちゃって。よっぽど不味かったんだろうなぁ」

C子さん「…それは違うよ。きっと奥さん、ミヤサカさんの手料理は自分だけに作って欲しかったんだよ!」

逆に励まされた。

うーん…そういう考え方もあるのか…きっと違うと思うけど…

わが病院が誇る緩和ケア専門医&看護師チームが、彼女の痛みを完璧に取り除いたようだ。C子さんは、

「ここは楽しい。とても自分が入院しているとは思えない。病院じゃないどこかにいるような、不思議な気持ち」

と言ってくれた。

ある日、明後日退院する、とC子さんがいう。

体も心も、十分に休めることができた。新しい治療を始める意欲が湧いたから、別の病院に移る、と。

お看取りが多いこの病棟で、この人は生きるために退院していく。

退院当日は非番なので、夕方、サヨナラを言いに病室を訪ねた。

C子さんはいつもの帽子をかぶって、気持ちよさそうに寝ていた。 



2023年10月19日

優しきヤンキー・ナース

 

細身のナースYさんが、患者さんをベッドごと病室から出そうと格闘している。

その枕元には、黒光りする重い酸素ボンベが。

ナースYさんを手伝って、ベッドを押した。廊下を通って屋上庭園に出ると、いきなり真っ青な秋空が広がる。遠く、霧ケ峰の優しい稜線も見えた。

「わぁ気持ちいい! 外の空気を吸うのは久しぶり!」

ベッド上で、顔半分を酸素マスクに覆われたK子さんの目元がほころんだ。

 

その朝も、ふたりがかりでK子さんをレントゲン室に運んでいた。

病室を出る時、ナースYさんが酸素ボンベをセットして、ダイヤルを無造作にMAXまで回した。

内心げっ…となった。

K子さんは、かなり容態が悪いということだ。何かのトラブルで酸素を絶たれたら、1時間も生きられないだろう。

レントゲン検査は30分で終わったが、病室に戻った時、酸素ボンベは空になっていた。

 

K子さんの担当看護師、ナースYさんは、ちょっとヤンキーなヤンママだ。

かわいい2歳の娘を育てながら働く。

「今日は501号(室の患者)をフロに入れなきゃなー!」

乱暴なものの言い方。ナースステーションから廊下にまで聞こえそうな、野太い声。

あまり白衣の天使っぽくはない。

 

朝礼の時、夜勤明けのナースがこんな申し送りをしていた。

「巡回の時、K子さんに『壁のカレンダーをもっと見やすい位置にして』と頼まれました。『私にはカレンダーしか見るものがないから…』って」

酸素のチューブにつながれて動けないK子さん、カレンダーの風景写真だけが慰めなのだ。

屋上庭園を満喫して病室に戻ったK子さんは、「ありがとう」「ありがとう」と何度も繰り返していた。

 

病状の重い患者さんの気分を少しでも変えようと、重いベッドごと屋上庭園に連れ出すナースは、顔ぶれが決まっている。

揃って、ちょっとコワモテのナースたち。

人の内面のやさしさは、見かけでは測れない。


 ※緩和ケア病棟のナースは、16人全員が女性。私の観察では、不愛想なおじいちゃんより、可愛いげのあるおばあちゃん患者の方が、明らかにケアが手厚い。自分がお世話になる日に備えて「可愛いおじいちゃん」を目指そうと思った。



2023年10月14日

多国籍高校生

 

「明日バーベキューやるから来ない? フランスの女子高生も来るよ」

ご近所さんから、LINEでお誘いが。

やばっ! 子どもの頃フランスにいたのに、ちっともフランス語を話せないのがバレる。

…それでも誘惑には勝てずに、ノコノコと出掛けて行った。

 

すらりとした長身、金髪、よく笑う16歳のアメリさん。

よくよく聞いてみると、「フランスの女子高生」とひと言ではくくれない、かなりユニークな生い立ちの人だった。

お父さんはフランス人。

お母さんはチェコ人。

一家4人でドイツに暮らす。

その自宅はフランス国境にほど近く、彼女が通っている高校の授業はドイツ語とフランス語のバイリンガルで行われる。

放課後、家に帰れば、お父さんとフランス語、お母さんとはチェコ語で話す。

そして家族全員が揃った夕食の席では、共通語としてドイツ語を使う。

私「な、なんてフクザツな!」

ア「そう、私も時々混乱します。自分はいま何語を話してるんだろう?って」

当然のように、アメリさんは英語も流ちょうに話す。

これから1年間、交換留学生として愛知県の高校に通うアメリさん。すぐ日本語も話せるようになるのだろう。

アニメ好きなアメリさんは、留学先に日本を選んだ。

お兄さんはコスタリカに留学中だという。

グローバル家族!

 

フランスとドイツは、78年前まで戦争をしていた。

1992年にEU(ヨーロッパ連合)諸国が統合。

フランス・ドイツ間の国境も開かれて、人の往来が自由になった。

いまフランスとドイツが戦うのは、もっぱらサッカースタジアム内限定だ。

これから国境をまたいだ人の往来がますます盛んになり、アメリさんのように多彩なルーツを持つ人が地球規模で増えれば…

そのうちこの世界から戦争がなくなる、かも知れない。

 

アメリさんはフランス人だが、実はドイツ人でもある。

仏独2つのパスポートを持っているという。

Pokhara Nepal, 2023


2023年10月6日

ポカラの旅行代理店

 

この春、ネパールを旅した時のこと。

ポカラからカトマンズに戻るために、ネットで飛行機を探した。

イエティ航空が時間帯も便利で、料金も安い。

待てよ。イエティ航空はつい2か月前、同じカトマンズ~ポカラ間で墜落事故を起こしている。

でも、落ちたばかりのエアラインは性根を入れ替えるから、かえって安全ともいう。今回はこの説を採用しよう。

ところが、イエティ航空の予約画面で延々と個人情報を入力し、やっとたどり着いたクレジットカード決済ページで、何度やってもエラーになる。

どうやら海外発行のカードは受け付けないらしい。やれやれ。早く言ってよ。

ネット予約をあきらめて、財布を持ってポカラの街に出た。

 

小さな旅行代理店を見つけて入ると、女性オーナーのGitaさんが、さっそく端末を叩いてくれた。

「最近みんな旅行の手配をネットでやっちゃうからヒマでヒマで……あなたはどこから来たの?」「日本です」

いきなり手が止まった。

「まぁ! 私の息子が軽井沢の高校に留学してたのよ! 夫と一緒に卒業式に出てきたばかりなの」

そして再び、すごい勢いでキーボードをたたき始めた。

やがて画面に現れたのは、「新緑の軽井沢をバックに、サリーを着て満面の笑顔のGitaさん」「東京の観光名所で笑顔のGitaさん」「京都の神社仏閣で笑顔の…」

その時の写真を何十枚も見せられた。

「日本は本当にすばらしい国。ネパールが追いつくには100年かかるわね」

軽井沢の高校を出た愛息は、現在アメリカの大学で学んでいるという。

Gitaさん一家の未来は明るいですね!」

と励ますと、やっと本来の業務に戻ってくれた。

私「あのー、やっぱり安全を考えたら、ブッダ・エアやシュリー・エアの方がいいでしょうか…」

Gita「ネパールのエアラインなんて、どこも同じよ!」

 

数日後、「落ちたばかりのエアラインはかえって安全」仮説は見事に証明され、何ごともなくカトマンズに到着した。空港からタクシーで市内に向かっていると、ケータイが鳴った。

「ハロー? Gitaです。今どこ? 無事に着いたの?」

安否確認のサービス付き…⁈

実は、かなり心配だったのね。

Pokhara Nepal, Spring 2023


快適すぎるインド旅行

  大学院入学を控えたこの春、卒業旅行と称して南インドを旅した。 旧フランス領のポンディシェリ、旧ポルトガル領コーチン、同ゴアなど「インドの中の西洋」を巡り、1日3 食、朝からカレーを食べ続ける旅。 この辺りのカレーは「ケララカレー」といって、ココナツベースで甘みがある。...