2023年9月15日

日本にジョブズがいた時代

 

「戦前の大金持ち」 出口治明編 小学館新書

昼休みに勤務先の病院の図書室で、たまたま見つけた。

この本によれば、明治から昭和初期にかけての日本は、今よりずっと自由闊達な社会だったようだ。

何しろ当時は、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ並みの起業家がゴロゴロいたというのだ。

例えば、梅屋庄吉(18681934)。

梅屋は14歳の若さで上海に渡り、のち香港とシンガポールで写真館を経営。当時最先端のメディアだった映画ビジネスに着目し、巨万の富を築く。

そしてその金を、「辛亥革命」で清朝を倒そうとした孫文に惜しみなく送金した。欧米列強によるアジア支配に立ち向かうために。

「革命プロデューサー」だ。

例えば、薩摩治郎八(19011976)。

薩摩は19歳でイギリスに留学。のちフランス・パリに渡り、「バロン薩摩」として社交界デビュー。実家の木綿問屋が稼いだ金で豪遊しまくった。

彼が1920年代の10年間にパリで使った金は、現在価値で800億円に上るという。

そして豪遊の傍ら、画家の藤田嗣治らパリ在住の日本人芸術家を、パトロンとして支えた。

例えば、土倉庄三郎(18401917)

“吉野の山林王”と呼ばれ、林業で莫大な富を築いた土倉。女子教育にも熱心で、次女を7年間、明治時代の奈良県川上村からアメリカに留学させている。

また土倉は、薪として切られる寸前だった吉野山のサクラ3万本すべてを、大阪商人から買い戻した。その時の土倉の言葉が、

「いつか外国人が吉野山にサクラを見に来ることもあるだろう。その日までサクラを守らなければならない」

100年以上も前に、現在のインバウンド需要を予見していたとは!

 

この本の編者・出口治明自身も、インターネット生保を立ち上げた起業家だ。現在は立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務めている。

出口は本書で、この国には今こそ梅屋や薩摩、土倉のような「型にはまらない日本人」が必要だと説く。そしてそのカギは、「飯、風呂、寝る」の生活から「人、本、旅」の生活への切り替えにあるという。

長い時間をかけて労働し、家と職場を往復しながら「飯、風呂、寝る」の生活を繰り返していては、イノベーションを起こすようなアイデアは生まれない。

早く家に帰り、空いた時間を活用して「人、本、旅」とたくさん触れ合うことが、サービス業が中心になった現代の日本人に合った働き方だ、という。

そして「そのために重要なのは、長時間労働をやめること」

Summer camp in Yatsugatake, 2023


2023年9月8日

現代人の脳は20万年前のまま

 

わが家は市街地から車で30分、標高差800mを登った森にある。

周りは、夏の別荘地。寒くなると、近所に誰もいなくなる。

今まで、こんな山奥にも新聞が届いた。でも、ついに販売店が音を上げた。「お宅への配達をやめます。今後は郵送でお届けします」と通知が来た。

それからは、月曜日の新聞が水曜日の午後に届くようになった。週末は郵便配達がないから、土曜日の新聞が翌週の水曜日に届く。

もともと、テレビは持っていない。

世捨て人生活も、いよいよここに極まれり…

 

遅いインターネット経由で読む日経ビジネス電子版に、「人類の体との脳は20万年前のまま」という面白い記事があったので、簡単に紹介します(筆者は長谷川 眞理子・前総合研究大学院大学学長)。

・私たち人類は約20万年前に誕生した。都市文明が発展したのは、あくまでここ1万年。19万年はずっと狩猟生活を続けてきた

・現代の先進国に暮らす人も、アフリカの農耕民族も、南米の奥地で狩猟採集を続ける人も、20万年前のヒトと遺伝子構成は同じ

20万年前のヒトの赤ちゃんをタイムマシンで現代に運び、先進国の家庭に養子として迎え入れれば、現代人と同じように育つはず

・変化したのはあくまで技術で、私たちの体や脳ではない。技術は皆に共有され、次の世代に引き継がれて改良を重ねていくから、速く進歩する。一方、人の感情や欲求は20万年前のまま

・人工知能(AI)が登場しているように、社会は技術の進歩によって変化する。生き物としての本来の人類と現代社会との大きな乖離が、精神疾患や生活習慣病などのひずみを生んでいる

・狩猟採集社会では、日の出と日の入りと季節の変化だけが生活のリズムを作る。人々は好きなように振る舞い、気ままに暮らしていた。今は時計とカレンダーに制御され、決まった時間に学校や会社に行き、決まった時間に帰る生活

・一日中座って勉強や仕事に向き合うのは人間本来の姿ではないのに、そうした現代社会の枠にはまることができない人は、精神疾患があると見なされる

・狩猟採集社会では砂糖や塩、脂肪はなかなか手に入らなかったから、食べられるときに多く摂取できるよう「おいしい」と感じるようになった。現代は食べ物が豊富なので歯止めがかからず、生活習慣病になってしまう

・環境が早く変化しすぎたせいで、人類の方が追い付いていない

・私たちの体と脳は20万年前のまま、という視点を持つべき。技術が生み出した現代社会との間に生じるギャップをつぶさに見ていけば、対症療法ではなく、より自然で根本的な解決策が見つかるはず

Chino Japan, summer 2023


2023年9月1日

サマキャン点描

 

都会育ちの小学生が、八ヶ岳の森でテント生活を送るサマーキャンプ。

この夏も、各コース25人が6回に渡って、引いては寄せる波のようにやってきた。

・酷暑の東京から、涼風吹き渡る森に降り立ったリュウヤ(小4)。

とっても嬉しそうに発した第一声が、

「とりあえず、塾の宿題から逃げられた!」

そこですか…

・3班の班長に指名されたカンタロー(小5)が自己紹介で、

「サマーキャンプでいちばん楽しみなのは、おみやげタイムです!」

なんの忖度もなく、宣言した。

確かに、霧ケ峰をハイキングした後、売店でおみやげを買う時間が設けられているのだが…

あなたは…そこですか…

・ハイキングの朝、山頂で食べるおにぎりを子どもに配った。すると、

「塩おにぎりしか食べられないのに、塩おにぎりがない!」

「買ったおにぎりは食べられない!」

という抗議の声が上がった。いずれも女子だ。

買ったおにぎりが食べられない? 添加物が心配なのかな。

「じゃあ今朝のロールパン持っていく?」(スーパーで買ったやつだけど)

「うん、それなら持ってく!」

要するに、ごはん好きの子が多い中で、数少ないパン党なのね。

・下山後のおみやげタイムは、予想以上の盛り上がりを見せた。品物をお小遣いの範囲に収められない子が続出。われわれスタッフがレジ前に陣取って、電卓片手にひとりひとり、合計金額を計算することになった。かなり忙しい。

そこにサクラコ(小1)が、「コアラのマーチ」やポテトチップスなど、どこでも買えるようなお菓子を両手に持って現れた。

「サクラコちゃん、それ自分用でしょ! おみやげっていうのはね、パパやママに買うものなんだよ」

「……」「……」

サクラコ、あくまで無言で押し通す。

その鉄の意志に、降参。

・「パパとママにはおみやげ買うけど、おねえちゃんには絶対に買わない。大っきらいだから」(マナカ・小5)

そういうお年頃なんだね。

そのうち変わるさ。

・おみやげに冷感タオルを選んだのは、コウキ(小1)だ。

「暑い中、キッチンカーで働いてるママにあげるんだ」

…ほっこり。



2023年8月25日

格差は心を壊す(続)

 

八ヶ岳中腹の森に中古別荘を買って8年、定住を始めてから3年。

ふだん静かな森は、都会の猛暑を逃れてきた人々で賑わっている。

この時期の別荘地は、首都圏や名古屋、関西ナンバーのベンツ、BMW、アウディ、レンジローバー、ボルボ…大きな外国車が幅を利かせる。

森から15分ほど下った農協スーパー駐車場では、一転して地元ナンバーの軽自動車が多い。

そしてわが愛車は、中古のホンダ・フィット。湘南ナンバー。

見よ!この絶妙のバランス感覚。

 

「格差は心を壊す~比較という呪縛」 R・ウィルキンソン&K・ピケット著 東洋経済新報社 今回は、この本の後半部分を紹介します。

25万年前、人類が大型動物の狩猟方法を発見した時から平等社会が普及した←1家族が食べきれないほどの肉を分配する必要が生じたから

・3~4歳の子どもは自己本位で行動するが、その後、不平等を避けようとする感情が発達する。7~8歳になると自分にとって不利になることでも、平等なやり方で物が分配されるのを好むようになる(受け継がれた遺伝子)

・不平等な社会ほど、子どものいじめが激しい←いじめは権力を巡る争い。動物の支配社会と人間のいじめ社会は構造的に似ている

・不平等な社会の女性は、平等な社会の女性に比べて男っぽい顔の男性を好む。格差社会では、男っぽさが序列社会での出世に有利に働くと考えるから

・平等な社会では、共同体から受ける社会的プレッシャーによって、人は利他的で思いやり深く、親切になりがち

・しかし身分格差の大きな社会では、他人から認められたいという同じ欲求は、自己の出世、優越感、低い身分による不名誉は避けたいという、全く正反対の願望によって相殺されてしまう

・所得格差が小さい国では、人々が博物館、美術館、劇場を訪れる回数が、不平等な国より2~3倍も多い。不平等な社会では、芸術は富裕層の独占領域とみなされてしまう

・所得格差と、刑務所に収監される人の割合は相関する。平等な国は1万人当たり約4人。不平等な国は1万人当たり約40人。不平等な社会ほど、犯罪に対する世論が不寛容になり、軽い犯罪でも収監され、長い刑期が言い渡される

・厳しい処罰は、犯罪への不安の高まりや犯罪者への思いやりの低下を反映している。不平等社会ほど、お互いを信頼しなくなる

・所得格差が広がるほど、警備サービス部門(警備員、警察官、看守など)で働く労働者の割合が増加する

・不平等な社会では、人々がコンプレックスを紛らわすために、地位を誇示するためのブランド商品をたくさん購入する。自分は成功者だと見栄を張るために多くのお金が必要になり、長時間の労働や借金を積み重ねていく

Summer camp in Yatsugatake, 2023


2023年8月18日

サマーキャンプ!

 

毎年夏のお楽しみ、サマーキャンプ!

猛暑の東京からバスに揺られて、25人の都会っ子が八ヶ岳にやってきた。

山登り、オリエンテーリング、木登り、ボルダリング、ドラム缶風呂、流しそうめん、BBQ…盛りだくさんな、3泊4日のテント生活が始まる。

今年は、どんな子がいるのかな?

 

自分のことを「ボク」と呼ぶ、変顔が得意なアキ(小2女子)。霧ケ峰の最高峰・車山山頂では、お菓子を忘れた別の班の子に、「一緒に食べよう!」と、自分のおやつを分けていた。

最終日の博物館見学で、アキが「ボクのカメラがない」と騒ぎ始めた。あちこち探しても見つからず、ついに泣き顔に。

その時、いつも冷静なチホ(小4)が、つと歩み寄った。

「ここにあるんじゃない?」

なんとカメラは、アキが手から提げている帽子の中から発見された。

頼むよ!アキちゃん。

 

カンタロー(小6)は、サマーキャンプ2度めの参加。しかも4人きょうだいの長兄だけあって、リーダーシップが半端ない。

テント設営や焚火の火起こしを、下級生の面倒を見ながら、率先してやってくれる。自分の自由時間まで使って、BBQのための小枝を集めてくれる。

リーダーの私の出番、ほぼなし。

私の時給を、カンタローにあげたい。

 

ナサの大好物は、パクチーと紫蘇の葉だ。小2にして、なんて成熟した味覚。

でも、みんなで火をおこし、野菜を刻んで作った素朴なBBQやカレーライスを、ナサはおいしそうに食べた。スパイスは、森の空気か。

キャンプ中にナサと交わした交換日記で、

「なさはマンガかになろうとおもったけど、ミヤさんのしごともいいとおもいました」と書いてくれた。

うれしいね。

 

ネイト(小1)は、「軍手をなくした」といっては泣き、「ひとりじゃ怖くてトイレに行けない」といって泣く。おいネイト、まだ昼間だよ。

午後になると、「一日が長すぎる~」といって泣いていた。

泣き虫ネイトは、実はトンボやバッタ、カエルを素手で捕まえる名人だった。いちいち戦果を見せに来るので、そのたびに、思いっきり褒めた。

すると最終日、

「家にも帰りたいけど、もっとここにもいたい。どうしよう、決められない~」

またもや半泣きになっていた。



2023年8月11日

一期一会

 

たとえ空調完備の病院でも、重病の患者さんに今年の夏は過酷だ。

1週間の間に、緩和ケア病棟に入院中の4人が、相次いで亡くなった。

 

Sさんは、差額ベッド代がいちばん高い個室の主だった。

元気なころは、ずっと造園業にたずさわってきたという。

「バブル景気の時は、軽井沢の金持ちの別荘まで行って、1本10万円で庭の木を切ったよ。そりゃあ儲かったぞ」

坊主頭に、濃い眉毛。いかつい顔に似合わず、一杯のお茶にも「ありがとう!」と言ってくれる人だった。

Sさんには、年の離れた美しい女性が、しょっちゅう見舞いに訪れた。外泊許可を取り、Sさんを車いすに乗せて温泉に連れ出し、数日して戻ってくる。

そんなことが、何度か繰り返された。

最後に病院に帰ってきた時、Sさんの頬はげっそりこけ、ベッドに横たわると、もう起き上がる力もなかった。

女性が泊まり込みで付き添った翌日、Sさんは息を引き取った。知らせを受けた親族が到着する直前、女性は看護師に別の階段に案内され、去っていった。涙声で「ありがとうございます」と繰り返し、何度も頭を下げながら。

妻でも血縁者でもない女性がSさんに付き添うことに、病院側は戸惑っていた。でもSさんは、彼女から献身的な介護を受けるに値する、人間的魅力のある人だった。

 

Mさんは、私と同い年の58歳。病気のためか声を失っていて、いつもささやくように話す。寝たまま浴槽に浸かれる「機械浴室」の利用者が多い中、自力で風呂に入れる数少ない患者さんだった。

ある日、Mさんの担当ナースに「一緒にお風呂に入ってあげて」と頼まれた。Mさんは両足が腫れあがり、パンツを脱ぐときや浴槽をまたぐとき、手助けが必要になっていた。

「昨日までは、ぜんぶ自分でできたんだけどなぁ」

と、無念そうなMさん。それでも、

「この炭シャンプーいいですよ。女房がネットで取り寄せてくれたんです」

と言いながら自分で洗髪し、ドライヤーで念入りにヘアスタイルを決めていた。ほとんど何もしていない私に、入浴中12回ぐらい「ありがとうございます」と言ってくれた。

まさかその翌々日、Mさんが逝ってしまうとは…

 

この病棟では、いつ別れの時が来るかは、予測不能だ。

一期一会。

SさんとMさんのことは、きっと忘れないと思う。

Kuramae Tokyo, Summer 2023


2023年8月5日

格差は心を壊す

 

「格差は心を壊す~比較という呪縛」 リチャード・ウィルキンソン&ケイト・ピケット 東洋経済新報社 2020

まだ読みかけだが、前半の要点をメモしておきます。

 

・先進国の中で、富裕層と貧困層の格差が最も大きい米国では、殺人率、刑務所の収監率、精神疾患の割合、未成年出産率が最も高く、平均寿命、算数や読み書きの能力は最低か最悪の部類に入る

・逆に格差が小さい北欧諸国や日本は、これらの数字は上々

・経済成長は物質的な豊かさをもたらしてくれたが、逆に精神的な不安は高まる傾向にある。WHOの調査では、先進国は途上国より心の病の発症率が大幅に高い(精神障害の生涯有病率は米国55%、ニュージーランド49%、ドイツ33%、オランダ43%に対して、ナイジェリア20%、中国18%)

・給料に対する私たちの幸福感や満足度は、その給料で欲しいものが十分購入できるかどうかではなく、他人と比べて高いか低いかで左右される

・社会階層の底辺に位置する人ほど心の病に冒されやすい。つまり、心の病は社会階層の問題

・最貧困層の男性は、最富裕層の男性に比べてうつ病にかかる確率が35

・うつ病や統合失調症、自己愛癖は、社会の不平等化が進むほど共通に見られる現象。国全体の不平等化の拡大によって多くの人々が苦しむという極めて重大なコストが発生している

・不平等な国ほど統合失調症の発病率が高いのは、不平等な社会ほど社会的な絆が失われ、社会階層間の区別が厳しくなることが理由

・アンケート調査で、日本は米国に比べて「人生に満足している」「幸せだ」と答える人ははるかに少ない。米国では幸せかと聞かれれば、ともかくそうだと答えることが期待される→平等な社会で育てば外部に対してアピールする必要がないから

・自己誇示バイアスと所得格差の間には強い相関関係がある→不平等な社会ほど自己誇示が強まるという事実は、不平等が社会的評価への不安を高める結果、私たちは自分自身を実態より大きく見せようとしてしまう

・不平等の拡大によって社会的評価の脅威に直面した私たちは、不安症やうつ病に陥るか、それとも自己誇示や自己愛を支えにして必死に出世の階段をよじ登るかの板挟みに追い込まれる。こうした二者択一を巡る葛藤がいかに激しいかは、統合失調症や躁うつ病に苦しむ人々がしばしば誇大妄想に捉われることからも明らか

・ドナルド・トランプの頻繁なツイッターへの投稿は、自己誇示、冷淡、自制心の弱さ、自己愛、精神病質の特性を示している

↑笑える!

Taipei, summer 2023


快適すぎるインド旅行

  大学院入学を控えたこの春、卒業旅行と称して南インドを旅した。 旧フランス領のポンディシェリ、旧ポルトガル領コーチン、同ゴアなど「インドの中の西洋」を巡り、1日3 食、朝からカレーを食べ続ける旅。 この辺りのカレーは「ケララカレー」といって、ココナツベースで甘みがある。...