ある冬の日、出社するなり「ハワイへ行け」。現金100万円を渡された。
厚手のセーターとジャンパーという格好のまま、常夏の島へ。
着いてから数日は、ドアがない吹きさらしの2人乗りヘリコプターで荒波の太平洋を飛び回り、その後はアメリカ太平洋艦隊の軍事法廷に日参した。
結局1か月をハワイで過ごした。
漁業実習船「えひめ丸」が米潜水艦に衝突されて沈み、9人の命が失われたあの日から、17年ぶり2度目のハワイ。
出発前、ホノルル在住のayanoさんにえひめ丸慰霊碑の様子を聞く。
「慰霊碑のある公園は、ホームレス集団による器物損壊で閉鎖されました。先月再オープンしたようですが、大きい道を通って、身の回りに気をつけていらして下さい」
ホノルルに着き、海沿いに5キロ先の慰霊碑を目指す。宿のすぐそば、ワイキキ中心部の路上にホームレスが座っている。海水浴客でにぎわうビーチ沿いの芝生にも、ホームレスが寝ている。
アラモアナ公園では、大きなガジュマルの木陰にホームレス。
そして慰霊碑のある海浜公園には、ホームレスのテント村ができていた。ほかに人気はなく、何か大声で叫んでいる半裸の男の前を駆け足で通過した。
すぐ山側は再開発が進み、お洒落なカフェやレストラン、高級コンドミニアムが立ち並んでいる。通りを一本隔てただけで、雰囲気ががらりと変わる。
近くのカフェでayanoさんに話を聞いた。少し前、当局が米本土のホームレスに片道切符を渡してハワイに送り込んだという。温暖な気候は確かに野外生活向きだが、果たしてこれは人道的措置なのか、単なる厄介払いか。
そして彼らに感じた異様な雰囲気。多くが薬物中毒、アルコール中毒者らしい。
ホームレスにはハワイ先住民も多い。行く先々で先住民を迫害しながら建国した、アメリカ史の負の側面。
核実験のために南太平洋の島から避難させた人たちもまた、ハワイでホームレス化しているという。
海が見えるホテルに泊まり、ショッピングに繰り出す各国の観光客。高層マンションでリタイア生活を送るアメリカの富裕層。ハネムーナーを乗せて走る白いストレッチリムジン。資本主義の果実とホームレスが同居する島。
3泊5日のパックツアーだったら、見たくないものは「見なかった」ことにできるかも知れない。海と空の青さ、吹き抜ける風の心地よさは、まさしくこの世の楽園だ。
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