2018年2月3日

大工さんが落ちてきた


 タイで会う予定のマツイさんに、羽田空港からメールを送る。

「明後日のランチ、タイ料理とビーガン料理とクレープ、何がいいですか?」

 すぐに返事がきた。

「もちろんミヤサカさんとお食事したいとは思っていますが・・・今回の件は本当に私ですか?」

タイに送ったつもりで、間違えて社会福祉協議会のマツイさんにメールを送っていた。しかも職場のアドレスに。

 社協のマツイさん、忙しいのにごめんなさい。穴があったら入りたい。



 その2日後、「バンコクの青山通り」ランスアン。白人客の多い一軒家レストランで、無事にタイ在住のマツイさんと会うことができた。

 彼女は勤めていた会社を辞めて、チェンマイのエイズ孤児施設でボランティアをしていた。その後、なんと施設近くに自分の家を建てて、暮らし始めた。

 最近、その家の屋根が外れて、盛大に雨が漏るようになった。地元の大工さんを呼ぶと、さっそく屋根に上がって修理を始めた。

 突然、何かが天井を突き破って落ちてきた。そして、部屋に置いてあった空のカメラバッグに着地した。大工さんだった。

「大丈夫そうでしたよ。鼻血が出てましたけど」

 マツイさんの本職はフォトグラファーである。カメラバッグに機材が入っていたら、大工さんも大事な商売道具も、タダでは済まなかった。そして何より、頭上に降ってこなくてよかった。

 お洒落なレストランはできても、やっぱりタイはタイ。予定調和が通じない国だ。この話を聞くだけでも、はるばる来た甲斐があった。

その後、屋根を分厚く改築したそうだ。

ボランティアを任期まで勤めた後、マツイさんはタイで写真の仕事を再開した。日本で13年働いて築いた人脈と、こちらで培った信用とで、仕事も軌道に乗りつつある。

最近、平日はバンコクに借りたアパートを拠点に働いて、週末はチェンマイの自宅で過ごす。毎週、バンコク~チェンマイ往復1400キロを飛行機で移動している。豪快なライフスタイルだ。

「こんなに働いて、何でお金が貯まらないんだろう・・・飛行機代のせいかな」と言って笑っていた。

チェンマイでは、日本語補習校で子どもたちを教えたり、畑で野菜を育てたりしているそうだ。

 海外で、フリーランスで生きる人に憧れる。マツイさんのこの突破力は、どこから来るんだろう? 北海道出身と聞いて、個人的には少し納得。いつも優柔不断で、何も決められない自分の対極にある人だと思った。


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