2018年2月10日

「だから、居場所が欲しかった」


「だから、居場所が欲しかった~バンコク、コールセンターで働く日本人」水谷竹秀著、集英社

 バンコクを舞台にしたノンフィクションを、スクムビットSoi16のアパートで読んだ。

 コールセンターで働く女性が「買春して現地男性の子を身ごもった」と告白する冒頭シーン。その舞台となった「ターミナル21」の灯りが、漆黒の窓外に見える。

 日本企業が経費節減のため、2004年からバンコクに設け始めたコールセンター。そこで働くオペレーターたちは30代半ば~40歳代。彼らの月給は約3万バーツ(10万円)だという。

 バンコクの安いアパートには、キッチンがついていない。タイ大戸屋の鮭塩焼き定食は310バーツ(1000円強)もする。屋台のタイ風炒飯やラーメンが、彼らの常食になる。

著者は「バンコクのコールセンターで働く人々は『海外ワーキングプア』だ」と指摘する。

 それでも、いま日本の地方都市で非正規労働者として働いても、月収15万円に満たない。さらに、日本で働く単身女性の3分の1が月収10万円以下という現実がある。

 物価水準の差を考えれば、「バンコクのコールセンターで働いた方が経済的にも精神的にも満たされる可能性が高い」。

 同感。

 さらに著者は「ビルやショッピングモールが次々と建設され、経済成長を続けるタイの首都バンコクと日本の地方都市の経済格差が狭まりつつある」と書く。私の感覚では、とっくに逆転している。

 日本の生きづらさは金銭面だけではない。取材中、著者はオペレーターに性的マイノリティーが多いことに気づく。

 日本で、同性愛者であることを家族に告白したある男性は、すぐ歯ブラシやコップを別の場所に移された。自分は女性として生きていきたい、とカミングアウトした別のオペレーターは、「もう田舎に帰ってこなくていいぞ」と父親に言われたという。

日本の男性同性愛者の自殺未遂は、異性愛者の5倍強。女性同性愛者は同2倍。彼らは言う。

「タイは昼間でも男同士が普通に手をつないで歩いている。誰も何も言わない」「タイが居心地いいのは、カトゥーイ(タイ語でニューハーフのこと)と言われてもある程度肯定されるから」「海外に出てきてからは心身ともに健康です」

 著者はエピローグにこう記している。

「心の優しい人間は、日本社会で生き続けるといつかは壊れてしまう。逆に壊れない方がおかしい。それほどまでに日本社会は病んでいるように私にも見える」

 取材した大半のオペレーターが、「もう日本に帰る気はない」と口にするという。

 この本を読んで、自分のタイ通いも彼ら同様、日本社会からの逃避なのだと改めて悟った。




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