ネパール・ヒマラヤで1週間、山歩きをした後、湖畔の町に下山した。
ホテルの正面に洗濯屋があり、「1キロ100ルピー(約100円)」「特急仕上げ3時間コースあり」と書いてある。タイやラオス、カンボジアでも、街の洗濯屋はアイテム毎でなく、キロ当たりの料金だった。
さっそく汚れた登山ウェアを持ち込むと、出てきたおばちゃんがひと言、「Load shedding(停電)」。天気が良くて明日夜、雨が降れば明後日の仕上がりになるという。
この国では、「停電」がすべての免罪符だ。しばらく山に入っていて、すっかり忘れていた。
前日まで山村を転々としたが、各村で自前の水力発電(つまり水車)を持っていたりする。車も通らないのに、1日24時間電気が使える、夢のような集落もあった。首都カトマンズより、田舎の方が電力事情はいい。
明朝にはここを発つので、時間がない。ホテルの洗面台で、洗剤の代わりに備え付けのシャンプーで手洗いする。
空気がとても乾燥していて、室内干しでもひと晩で乾いた。少々の手間で、300円節約できた。
首都カトマンズでは、ゲストハウスや商店が副業でランドリーサービスを手掛けている。「アメリカ製電気洗濯機を使用」「特急サービスあり」とうたう。洗濯物を持ち込むと、スマホから目を離そうとしない、やる気ゼロの店員に「Load shedding」「仕上がりは明後日」などと言われる。
1日13時間停電するこの街で、洗濯乾燥機が使えるタイミングは多くない。「3時間でできる」は、とんだ誇大広告だ。
数年前、停電のカトマンズから小型機を乗り継いで、ダウラギリ峰山麓の村に着いた。ゲストハウスの中庭で、電気洗濯機が勢いよく回っている。宿の主人に洗濯物を出したいと言うと、快く引き受けてくれた。一切合財を差し出した。
快調に回る洗濯機。突然、キュン、といって止まってしまった。
ああ停電か。
すると、中学生ぐらいに見える主人の娘さんが、私の服を洗濯機から取り出し、桶で手洗いし始めた。
待てよ。
今、彼女が洗っているTシャツの下に見えるのは、私のパンツではないか。かといって、今さら取り返しに行くのも恥ずかしい。
我がパンツを年頃の娘さんに、目の前で手洗いされる心境たるや・・・初めて味わったが拷問だった。
あの時以来、どんな長旅だろうが、たとえ1キロ100円だろうが、下着だけは自分で洗う。
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