2016年3月3日

神々の山 その麓で


カトマンズを歩いていて、車とバイクの長い行列に出くわした。渋滞と違い、まったく進む気配がない。先頭をのぞくと、はるか向こうにガソリンスタンドが見えた。

これは、過去にも震災直後の街を取材して見かけた風景だ。でも、ネパールを襲った地震から、もう1年近くがたつ。このガソリン不足は、国境封鎖の影響だ。タクシー運転手の苦労が偲ばれ、値切るのもほどほどにしなければと思う。

カトマンズに着いてから、電気とお湯を求めてホテルを転々とした。どのホテルも、一部で営業を再開しつつ、地震後の修復工事を続けている。玄関前に、がれきの山が残っていたりする。

そのひとつに、7部屋ほどの小さなゲストハウスがあった。ネワール様式の趣ある建物、中庭には花が咲き乱れ、砂ぼこりが舞う表通りとは別天地だ。まだ休業中だったが、マネージャーに頼み込んで、ひと部屋貸してもらった。

毎日、階下のカフェで朝食を取る。たったひとりの客のために、コックとウェイターが専属で食事を用意してくれる。

マネージャー氏によると、地震でキッチンが壊れたほか、大きな被害はなかった。従業員が被災し、出勤できないために休業を決めた。建物の修復が終わったいま、再びスタッフを集めるのに苦労しているという。

陰でウェイターに聞くと、「地震前から働いてるけど、ここは給料安すぎ。村には妻と3歳の息子がいるし、どこか外国で働きたい」という。

このゲストハウスは、前途多難だ。

ネパールは、IMFによれば「アジア最貧国」。最近の失業率は不明だが、10年前は40%あったという。ヒマラヤや仏教遺跡を擁する観光立国なのに、地震で観光客が激減。外国に職を求める動きが加速し、今日もパスポート発給に長蛇の列ができていた。

彼らの渡航先は、カタール、UAEなどの中東諸国やマレーシア。異国で孤独にさらされての自殺、建設現場など過酷な現場での労災死が後を絶たず、社会問題化している。

カトマンズ在住の友人は、人を迎えに行った空港で、1時間半に5体の棺が到着したのを見た。乗客のスーツケースと一緒に、棺がターンテーブルで回っているのを目撃した知人もいる。

この国では、人口3000万の7割が、1日2ドル以下で暮らす。登山やトレッキングで山村を訪れると、現金収入に頼らず、土地に根差して力強く生きる人に会うことができる。

いっぽう、首都カトマンズで道を歩けば、赤ん坊を抱いた母親に金を無心される。食堂で窓側に座ると、皿を覗きこむ浮浪者の、強い視線にさらされる。

8000メートルを超える、ヒマラヤの巨峰が連なるネパール。山好きには夢のような場所だ。だがその懐に飛び込む前に、この国が抱える現実が、いやでも目に飛び込んでくる。



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