タイのATMから現金を引き出した時は、その場でお札の数を確認する。
この用心深さ、インドで悪徳両替屋と対決していた頃の癖かもしれない。
でも実際、こちらのATMの信頼度は、日本ほどではない。キャッシュカードを飲み込んだまま、返してくれないという話を聞く。
恐怖である。
自衛策として、街かどに設置されているATMは避け、銀行内のATMを使っている。トラブルがあった時、すぐ行員を呼べるからだ。
今回チェンマイの両替商で、少しまとまった金額をバーツに替えた。
現金は持ち歩きたくないので、一刻も早く銀行に預けたい。スーパーの入り口にATMを発見する。
近くに銀行は見当たらない。少し危険だが、ここに預けよう。
・・・でも不安だ。有り金を預けた後で、もしカードが出てこなかったら、身ぐるみはがれることになる。
3台並ぶATMの右端は、通帳記入専用機だ。まず、このあたりで試してみよう。
恐る恐る、通帳を挿入する。なかなか中に入らない。上下を逆にして、もう一度。ぎこちない動きで、通帳が飲み込まれていく。ウィーンという動作音。
待つことしばし、画面に不吉な文字が浮かんだ。
「Not in Service」
あとはキャンセルボタンを押しても、機械を叩いても、まったく反応なし。もとより非常用ボタンや、銀行直通インターホンの類は一切ない。
絵にかいたような結果になった。
隣のATMを使っていたタイ人に、銀行の電話番号を教えてもらった。ところが、何度かけてもつながらない。
宿に戻り、フロントの女性に窮状を訴える。幸いこの時のホテルは、旅行者の面倒見がいいことで評判だった。私が部屋で待っている間に、代わりに何度も銀行に電話をかけ、そのつど状況を知らせてくれた。
「いま、担当者が食事に出ていると言っています」
「今日中に修理するのは難しいそうです」
「明日、口座を開設した支店に出向けば通帳を作り直すと言っています」
・・・やれやれ。
女性にお礼を言いつつ、つい皮肉が口をついて出た。「こういうこと、しょっちゅうあるんでしょ」
答えは、「No! You are lucky!」 だった。
旅の途中で、支店に寄っている暇などない。今度は危険を冒してキャッシュカードを挿入し、残りを全額引き出した。
タイを留守にしていた1年で3バーツ、利子がついていた。
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