2016年2月26日

大きなお尻 小さなお尻


 バンコクを離陸して3時間。機内食のカレーも食べた。カトマンズ行きタイ航空機が、そろそろ目的地上空に達する頃だ。

 1周、2周、3周と旋回。いっこうに高度を下げる気配がない。

そのうち、液晶モニターに映る機影が、あさっての方向に向かい始めた。

 まさか。

やがてキャプテンからのアナウンスで、恐れていたことが現実になる。

「えー、カトマンズ空港が天候悪化で閉鎖されました。地上の報告によると、再開まで2~3時間かかるようです。当機はインドのコルカタに向かいます」

機内に動揺した様子はない。政情不安でネパール・インド間の国境が封鎖されて以来、ネパールではガソリンが枯渇し、航空燃料の補給もままならない。カトマンズに向かう飛行機は、初めから往復分の燃料を積んでいるのだ。

絶妙のタイミングで、客室乗務員がドリンクサービスを始めた。

コルカタに着陸すると、飛行機はターミナルから離れて停止した。乗客は機内に缶詰めのまま、いつとも知れないカトマンズ空港の再開を待つことになった。

トイレに、順番待ちの行列ができる。私の席は運悪くも、トイレの真横だ。

昨年の大地震と国境封鎖の影響か、乗客に外国人旅行者は少ない。トイレに立つ多くは、ネパールの女性たち。使用中とわかると、ごく自然に、私の席のひじ掛けに腰を下ろしてくる。

大きなお尻、小さなお尻が入れ代わり立ち代わり、目前に迫る。

この状況はいったい・・・

今まで滞在したタイで、人は身体的接触、特に異性間の接触を嫌った。その点タイ人は日本と似ている、というより日本以上だった。混みあう電車の中でも、何とか周囲の空間を確保しようとする。初対面でハグしたり、フランス人のように頬にキスなど、とんでもないという国民性だ。

そんな人たちの中で2か月暮らした後だけに、ネパールは人と人との距離がずいぶん近いな、と新鮮に思った。

同じネパール人でも、男はひじ掛けに座ってこない。立ったまま順番を待っている。

「男の尻だけは断固阻止する」という、私の視線を察するのだろう。

タイ航空のCAが笑顔を絶やさず、手にビニール手袋をはめ、こまめにトイレを清掃する。コルカタで2時間以上も待ったが、お尻の競演のおかげもあり、長く感じなかった。

結局、普通なら3時間30分のところを7時間30分かかって、暮れなずむカトマンズ空港に到着した。

乗客たちは、特に急ぐ様子もない。ゆっくりと身支度を整え、まるで何事もなかったかのように降りていく。

お尻に見覚えのある後ろ姿が、小さくなっていく。



0 件のコメント:

コメントを投稿

肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...