2016年1月21日

職業を気にする国①


 ミャンマーへ行くことにした。

 新聞記者をしていた頃、個人でミャンマーに入るのは意外に大変だった。「ミャンマー国内で取材活動をしない旨の誓約書」に、会社の休暇証明書までつけて出さなければならない。行きたいと思いながら、何となく足が遠のいていた。今はもう何の気兼ねもいらない。

 ところが、いくら会社を辞めたと言っても、パスポートには各国のジャーナリストビザが残っている。「辞めたという証明書を出せ」などと言われたら面倒だ。

 そこで、今回は周到に準備した。パスポートを新品にして証拠を消した上で、日本より審査が緩いバンコクのミャンマー大使館に出向いた。

正門近くに駐車したワンボックス車の中では、便利屋さんが顔写真撮影やパスポートのコピー、頼めばビザ申請書の代筆までやってくれる。ここではパスポートとお金さえあれば、簡単にビザが取れるようだ。

 申請書をめくると、現在の職業と過去の職業それぞれ、仕事内容、職位、在職期間まで詳細に申告する欄がある。ずいぶん人の職業にこだわる国である。

 いままでは、正式に取材ビザを取って入国する場合は photojournalist とか staff photographer。観光ビザで仕事をしてしまう場合は office worker などと書いていた。これからは何と書こうか。

freelance では正体不明すぎる。retiree ・・・この歳で? invester も怪しまれそう。unemployed かえって面倒なことになる。NPO staff  真実だが、これにも説明が必要そうだ。

 去年の実態を正確に書けば「労働時間が長かったのは福祉関係と教育関係で、収入が多かったのは投資と失業給付」になる。そのまま申告して、果たして先方はどう思うだろうか。

 結局、elementary school english teacher ということにした。ウソではないし、まともな人に見られることがこの際、最重要。その割には英語が下手だ、と入国審査で突っ込まれそうだが。

 苦心の末に、申請書を書き上げる。妻の分も、適当に代筆する。欧米人バックパッカーたちと一緒に、1時間以上も行列に並んだ。窓口では特にお咎めなく受理され、2日後には無事、ビザが発給された。

 遊びでなく、仕事で行っていた頃のアジア諸国は、基本的にビザが必要だった。観光客を装い、ビザなしで仕事をしてしまう時もあるが、そうはいかない国もある。バンコクに駐在中は、ビザの取得でいろいろなことがあった。
 (続く)


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