盛夏が足早に去り、バーゲンの季節がやってきた。
といっても、カブの話。野菜じゃない方の。
私は株を買うのが趣味なので、近頃安くなってうれしい。だが、新聞やテレビでは完全に「悪いニュース」扱いされている。
メディアは、株が1割上がっても無視するのに、1割下がると大騒ぎ。これはいったい、どういうこと? 何気なくニュースを見ているだけで、「株は危ないもの」という印象が人の心に刷り込まれてしまう。
去年まで働いていた東京・大手町は、株価ボードだらけだった。通勤途中に、いやでも日々の値動きが目に入ってくる。
いま住んでいる街は、どこを探しても株価ボードがない。おかげで、無駄に一喜一憂させられることなく、平和な気分でいられる。
そもそも、株の日々の値動きなんて99%、何の意味もない。今回の下落について、Y新聞は「世界経済の先行きに対する不安」と書いた。これって経済担当記者が、後付けで理由を考える時の常套句。もう聞き飽きた。
株は一時的に大きく下がっても、3日後か3か月後か3年後には再び上昇に転じる。そうわかっていれば、日々の経済活動に関係のない「問答無用の下落」は、むしろ絶好のチャンス。バーゲン到来だ。
では、株はなぜ上がるのか。100年ぐらい歴史がある欧米の株式市場の値動きを見ると、毎日上下を繰り返しながらも、全体ではきれいな右肩上がりのグラフを描いている。今年に入って、アメリカやドイツが史上最高値を更新した。
誰でも、明日は今日より豊かになりたい、と思うもの。人の欲望がその源泉であることは、ほぼ間違いない。地方暮らしに満足している私も、心の底では「思い立った時に、ビジネスクラスで寝ながらパリやニューヨークやバンコクやカトマンズに飛べる」ぐらいお金持ちになりたい、と思っている。
新興国に住む人々の、より良い暮らしへの欲求は私以上に切実だ。だから、いま騒がれている中国経済も心配無用、まだまだ成長すると思う。
もうひとつ考えた屁理屈。会社は、株を発行したり、銀行からお金を借りたりして運転資金を調達している。ということは最低でも、株主に払う配当分、または借りたお金の金利分は、利益を増やさなくてはならない。現状維持さえ許されないのだ。
ピケティが書いた分厚い本も、私が思いっきり要約&意訳すると「株(資本)は給料(GDP)より上がり方が大きい」ということになる。株式投資は、資本主義社会で最強のツールだ。
「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはむつかしい」(寺田寅彦)。ものごとに楽観的すぎると言われる私は、この言葉を肝に銘じようと思う。適度に怖がりながら、一生カブと付き合っていく。
ぼけ予防にもいい。