このところ毎日、アロハシャツを着て、女性とドライブを楽しんでいる。
デートクラブの出張ホスト? そう言えなくもない。
まず、クラブの女ボスから電話で指示を受け、女性たちの自宅まで迎えに行く。それは立派な一戸建てのこともあるが、どちらかといえば「ガード下の古アパート」や「築50年の市営住宅」が多い。
出てくるなり、いきなり腕を組んでくる人がいる。目が見えないから、という。
歩けない、と言う人もいて、有無を言わさず車いすに乗せ、リフトやスロープ付の改造車の中に連れ込む。
たまに「ヘルパーさん」と呼ばれる女性が一緒に乗り込んできて、両手に花となる。
車で、彼女の希望する行き先に案内する。それがレストランやショッピングセンターであることは少ない。たいてい、白衣の天使がたくさんいる場所を指定される。そこで「リガクリョーホーシ」の若い男と遊べる、と楽しそうな人もいれば、ベッドで寝ながらテレビを見ている、という人もいる。
私は、ベッドまでは立ち入らない。近くでランチをしたり、カフェで本を読みながら、用事が終わるのを待っている。
帰りの車中、彼女のおしゃべりを聞きながら夕暮れの街を走る。私は無神経なので、遠慮なく歳を尋ねる。先日の人は、大正生まれだった。クラブの方針なのか、顧客は熟年女性、障碍者が多い。
この世代の日本女性は、男尊女卑の中で生きてきた。今は亡き夫が亭主関白だったりもする。だから、私の世代がごく普通に接するだけで、とても喜んでくれる。悪くない役柄だ。
別れ際、規定の料金をもらう。これもクラブの方針で、ガソリン代程度しか受け取らないことになっている。几帳面に八つに折った千円札が入った薬局の袋を手渡される。たまに、手作りの梅ジャムやキュウリの漬物をもらうこともある。
その千円も払えず、「次の年金支給日まで待って」と言う人は週3回、人工透析に通っている。金があろうがなかろうが、迎えに行かないと命に関わる。
全盲の73歳が手さぐりで、白血病の81歳が杖にすがり、車いすの90歳が四つん這いで、独り暮らしのアパートに入っていく。その後ろ姿は、後光が差して見える。
たまに、女性に同居家族がいる場合、見つかってしまうことがある。逃げるように車を発進させたバックミラーに、深々と頭を下げる家族の姿が写る。
同僚ホストの話では、我々はこの仕事で、現世で徳を積んでいることになる、という。だから来世で生まれ変わる時、虫に生まれるよりは人間に生まれる確率が高まるのだそうだ。
悪くない。
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