そのタクシーが走り始めてすぐ、異変に気がついた。
スワンナプーム空港を出てものの数分で、早くもメーターが100バーツに届こうとしている。
これは・・・メーターを改造した悪質タクシーか。
乗り込んだ時に車内がタバコ臭く、メーターを布で見にくくしてあるので、嫌な感じはあった。運転手の人相が悪いのは毎度のことなので、それだけで判断するのは難しい。助手席から様子を伺うが、彼は特に変わった様子もなく、平然としている。
バンコクのタクシーとは長い付き合いになる。これまで遠回りをされたり、メーターを倒さずに走って、目的地に着いてからとんでもない料金を請求されたり、メーターを覆い隠す布をどかすと初めから回っていたり、すごいスピード狂だったり、とにかく色々あった。居眠りができる日本のタクシーとは全く別物だ。
そもそも乗る時からして難易度が高い。手を上げて空車を止めるところまでは万国共通だが、助手席のドアを開け、行き先を告げて運転手が首を縦に振るのを待たなければいけない。私の場合、なぜか乗車拒否に会うことが日常茶飯事。近すぎるとか遠すぎるとか、メシの時間だとか子供を迎えに行くとか、運転手にもいろいろ事情があるのだとは思う。でもなぜか、妻が交渉すると一発でOKする。彼女に言わせれば私は「笑顔が足りない」のだそうだ。そんなこと言われても・・・いままでの経験で初めから警戒心があるうえに、繰り返し乗車拒否されると、暑さと焦りでどんどん表情がこわばる。
以前ベトナムのハノイで乗ったタクシーも、走り始めた途端、メーターがものすごい勢いで回り始めた。その時は、100メートルほど走ったところで赤信号につかまったので、さっさと降りて別のタクシーを探した。だが今回は高速道路上で、しかも後部座席に女性3人を乗せている。乗車中に不正を指摘して、逆切れされたら大変だ。
難しい局面にぶつかった時ほど、人生を楽しもう、人生を楽しもうと心がけている。この時も、そう心がけようとしたが、無理だった。
1時間後、川沿いのアパートに着いた時のメーターは550バーツ(約2000円)。
普通は200~300バーツのはずだ。大きいミニバン型タクシーだったので、割高なのかも知れないが、それでも2倍はしないだろう。
以前はケンカしていたが、最近はつい相手の立場を考えてしまう。バンコクのタクシーは、初乗りが100円そこそこ。混沌きわまる路上を30分走っても、メーターは1000円もいかない。いくら何でも安すぎやしないか。会社に車両のレンタル料を払い、ガソリン代を払ったら、彼らの手元にはいくら残るのだろうか。
現地の物価に慣れると550バーツは大金だが、円換算してしまえば、目くじら立てるほどでもない。何も言わずに払った。
0 件のコメント:
コメントを投稿