2024年1月20日

フランス人が英語を話した!

ウクライナ戦争の影響でロシア上空を飛べず、羽田発パリ行きの飛行機は、アラスカや北極圏の上を大きく迂回していく。

14時間を超えるロングフライトだ。

ちょうど私の座席の前が非常口。その小さな空間に、幼児連れの母親が入れ代わり立ち代わり、赤ちゃんをあやしに来る。ママが膝をクッションにして揺らすと、盛大に泣いていた赤ちゃんも安心して泣き止む。

どの夫婦も、パパはわが子にノータッチ。

でも、ママたちの横顔は幸せそう。

 

ようやく飛行機が降下態勢に入る。ここまで快晴の空を飛んでいたのに、着陸直前、地表を覆う厚い雲に呑み込まれる。

そして降り立った、パリの空は鉛色。

まずはバスに乗ってオペラ座まで。車窓から見えるパリ郊外のアパート群は、壁が落書きだらけ。そして市内に入ると、あちこち工事中だ。夏にオリンピックを控えているせいだろうか。

出発前、心配顔の家族に「道端でスマホを出すと、あっという間にかっさらわれるよ!」と脅された。道行く人を観察すると、けっこう皆さん歩きスマホしている。そこまで治安は悪くなさそう。

帰宅ラッシュの渋滞を抜けてバスを降り、雑踏の街でメトロの入り口を探す。昔懐かしい10枚つづりの紙の回数券(カルネ)は廃止になり、今は「ナビゴ」というIC乗車券を買うらしい。

ところが。

メトロ改札口に降りると、6台あった自動券売機が、全て故障中。

窓口にも人の気配がない。

荷物を背負って階段を登り返し、隣の駅まで歩く羽目になった。

以前は不良たちが跳び越えて無賃乗車していた自動改札は、背丈以上ある扉でがっちりガードされていた。混み合うメトロ車内は、ケータイかけ放題で騒然としている。

フランス語だけでなく、東ヨーロッパ系やアフリカ系など色々な言語が耳に飛び込んでくる。東京メトロも最近は国際色豊かだが、パリはその比ではない。

途中で2回乗り換えて、夜のモンパルナスへ。とりあえずの宿は、パリ市内に何軒もあるCampanile というビジネスホテルチェーン。日本でいえば「東横イン」みたいな狭い部屋が、1泊100ユーロ以上する。

フロントの黒人女性は親切な人。でも私のフランス語に、いちいち英語で返してくる。

そんなに発音悪かったかな… 

いや、フランス人が国際的になった、ということで。



2024年1月11日

気がつけばホテル・ジャンキー

 

ホテルのサブスクを利用して、東京・南青山の長期滞在型ホテルに泊まった時のこと。

近くのカフェで朝ごはんを食べていたら、隣にラグビー日本代表ヘッドコーチのエディ・ジョーンズさんが座った。

トレードマークのセーター姿。目尻にしわを寄せて笑う柔和な顔。

テレビで見たジョーンズさんそのものだ。

秩父宮ラグビー場が近いから、たぶんこの辺の高級レジデンスにお住まいなのだろう。

たまに田舎から出てくると、すぐ著名人と遭遇してしまうトーキョーが眩しい。

 

「いったい、何にお金使ってるんですか⁈」

クレジットカードで、2年に1度ヨーロッパ往復できるぐらいマイルが貯まると言ったら、友だちが絶句していた。

ひとり暮らしで、ふだんの食事は玄米と納豆、みそ汁。

いったい何にお金を使ってるのかと聞かれても、自分にも思い当たる節が…

あった!

ホテル代だ。

標高1600mにあるわが家は、12月も半ばを過ぎれば、明け方の気温がマイナス10度を下回る。街へとつながる山道は凍結して、朝晩の通勤は命がけ。

そんな寒い時期のために、車で1時間半ほど離れた街中にマンションの一室を借りた。だがそこも、真冬の気温は氷点下だ。

移住して初めて知った、とんでもなく寒い土地柄。東京からほんの2時間ほどの距離なのに。体脂肪率11%の痩身には堪える。

仕事が終わって外に出ると、周囲は真っ暗。凍りついた自宅に帰る気をなくして、つい職場近くのホテルに泊まる。

1日の給料が、その晩に消えていく。

週末も、家にいると寒いので、近場のホテルに避難してしまう。

フロントで「お車でお越しですか」と尋ねられ、「いえ…歩きです」と答える時の恥ずかしさよ。

長い冬の間はずっとそんな調子。この辺はゴールデンウィークも雪が降る。

気づいてみれば、去年はホテルに104泊していた。

 

あー、ホテルの部屋はあったかいなぁ。

入浴剤を溶かした風呂に入り、至福のひと時。

でもこの冬は、もう少し建設的なホテルライフを送りたい。

マイルの有効期限も迫っているので、ちょっとヨーロッパに行ってきます。




2024年1月6日

海外投資は、自由への道

いよいよ今年から「新NISA」が始まった。

1800万円まで無期限・非課税で運用できる、ありがたい資産運用ツールだ。

と同時に、10年前の旧NISA初年度に投資した分が満期を迎えた。

どれどれと自分の口座を調べてみると…10年間で55UPという成績。

年率にすると4%ぐらいか?

株式100%のリスクを負った対価としては、ちょっと物足りないなぁ。

わがミヤサカ・ファンドは、ポートフォリオ全体のバランスを考えて、10年前にNY上場のVB(アメリカ小型株ETF)、VSS(アメリカ以外の海外小型株ETF)、FM(フロンティア株ETF)をNISA枠で買った。

ちなみにフロンティア株というのは、新興国よりさらに魑魅魍魎の…じゃなかった、新興国の次に成長が期待される!小国の企業の集合体だ。

FMの保有銘柄は、カザフスタンのソフトウェア会社やウラン採掘所、エジプトの銀行、ベトナムの製鉄所や不動産、ルーマニアのエネルギー企業や石油会社など。そしてFMのこの10年間の年率リターンは、1%ほどだった。

…まだまだ離陸しないようですね。

次にVSSの保有銘柄を見ると、トップ10はウラン鉱山、コンサル、ソフトウェア、エネルギー、運輸、金銀採掘、保険などなど。すべてカナダの会社だ。

VSS10年間の年率リターンは、3.8%だった。

そしてアメリカの小型株を集めたVB10年間の年率リターンは、8.1%。

もし10年前、奇をてらわず素直にSPYなどのアメリカ大型株ETFにしておけば、年率11.9%のリターンがあった。元手が2倍以上に増えたことになる。

国際分散投資の考え方は正しいにしても、策に溺れて分散しすぎたか…

でもポートフォリオ全体では円安にも助けられて、去年もそこそこリターンがあった。まぁよしとしましょう。

今年からの新NISAではシンプルに、日本を含む世界株インデックスで積み立てようと思う。

ただこのインデックス、新興国株の比率があまりにも低すぎる。いまや世界第2の経済大国になった中国や、将来的にその中国をGDPで抜くと予想されるインドが、過小評価されすぎなのだ。

だから、新興国株インデックスも買おうと思っている。

 

2022年、日本の1人当たりGDPは先進7か国中、ついに最下位に転落した。人口減少と少子高齢化が同時進行するじり貧ニッポン。この国に住み続けるなら、海外投資はギャンブルでも何でもない、立派な生活の技術だ。

私が時給933円の田舎の病院に週3日働くだけで食っていけるのも、株式インデックスを使った国際分散投資のおかげなのです。

海外投資は、職業選択の自由への道! 

Matsumoto Castle project mapping, winter 2023



2023年12月29日

師走の空へ

 

気温マイナス10度まで冷え込んだ日の夕方、510号室のIさんが、師走の空に旅立って行った。

「女の人に裸を見られるのは恥ずかしい」と言って、いつも病棟唯一の男性スタッフである私と風呂に入ったIさん。上機嫌で1時間半も湯船につかり、ナースに怒られたこともあったっけ。

Iさんは、児童福祉に生きた人だった。十数年もの間、児童養護施設から子どもを6人ずつ引き取り、我が子と一緒に自宅で育てた。

亡くなる直前には、成長して看護師になった当時の里子2人が見舞いに訪れていた。

Iさん、今までいろいろな話をありがとうございました。

 

「カウンセラーという生き方」 井澗 知美著 イースト新書

・「傾聴」…カウンセラーになるためには必ず学ぶもので、カウンセリングの基本となるもの

・相手が発言している言葉だけでなく、その言葉がどのような意味を含んでいるのか、その言葉で何を伝えようとしているのか、その言葉を使ってクライアントが語りたかったことに耳を傾け、受け取ったことをクライアントに伝え返す営みが「傾聴」

・そこに批判や評価はなく、そのまま受け入れることによりクライアントは安心して自分の心を探索することができる。そして、自ら答えを見つけていける

・クライアントに「私はこう聴きましたよ、このように捉えましたよ」と伝えることが「聴く」ということであり、すなわちカウンセリング

・クライアントが助けてもらったと思わないような助け方(=カウンセリング)が理想。「よくわからないけど、カウンセラーの先生と話していたら答えが見つかった」これが最高のカウンセリング

・それを行うには、精神的にタフで、なおかつ肉体的にもタフでないと難しい

・深くて重い苦しみを味わっている人を助けるには、カウンセラー自身がその人の苦しみと同じだけ深く重くなくてはいけない。カウンセラー自身が深くて重い苦しみを味わったなら、それと同じ種類の苦しみを味わっている人だけ、救うことができる可能性がある

・カウンセラーはクライアントを利用してはいけない。クライアントを支援することで自分が気持ちよくなってはいけない

・カウンセラーは自分という器を使ってクライアントと向き合うため、自分と向き合うことが避けられない。「メタ認知」とは、自分のメガネを通して人や物事を見ていることを自覚して、俯瞰してみること

・人との違いを楽しみ、面白いと思えることがカウンターに求められる資質



2023年12月22日

命を大事にしすぎる国

「人はどう老いるのか」 久坂部羊著 講談社現代新書

68歳の著者は医師として長年、高齢者医療に携わり、「どうすれば上手に老いることができるのか。日々真剣に考えている」。自殺に対する考え方がユニーク。以下、内容の抜粋です。

・日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人はがんで命を落とす。がん患者が増え、がんで亡くなる人が多いのは、他の病気で死ぬ人が減って長生きする人が増えたから。今の医療では、がんは老化現象のひとつ

・マンモグラフィーや胃のバリウム検査はかなりの放射線を浴びる。私自身はがん検診は受けたことがないし、妻も同様。医者の友だちにも、がん検診を毎年受けている人はほとんどいない

・体調に注意していれば、病状が出てから治療しても助かるがんは多いし、そもそも2人に1人ががんになるということは、2人に1人は生涯がんにならないということ。その人にとっては、毎年受けるがん検診はすべて無駄

・医者が「この抗がん剤が効きます」と言う時の「効く」は、がんの増殖を抑えるという意味。体の中からがんがなくなるという意味ではない。抗がん剤でがんが治ることは、一般的にはない

・でも抗がん剤治療の進歩により、がんは完全には治らないけれど、それによって命を落とすことがない状態を続けることが可能になってきた→がんとの共存

・死にゆくがん患者に必要な医療は、痛みをコントロールするための医療用麻薬の使用。モルヒネや人工麻薬のフェンタニル、オキシコドンなど

・もし自殺を企てている人を止めるなら、その人が抱えている問題や悩みを解決するか、少なくとも気持ちが楽になるような手立てを講じてからにするべき。それをせず単に「自殺するな」というのは、死ぬほど苦しい思いをしている当人に「我慢しろ」と言っているのと同じ

・自殺に反対する人は、相手の苦しみについて十分考えることをせず、ただ相手が死んでほしくないという気持ちでいるのではないか。それはすなわち自分のエゴ。死の全否定はよくない

・戦前の日本は命を粗末にする国だった。敗戦後に180度転換して、今度は命を大事にしすぎる国になった

・私は子どもの頃、武士がなぜ切腹できたのか不思議でならなかったが、切腹に関する本などを読んで、徐々にその気持ちがわかるようになった。ふだんから常に「死」というものを意識して生きるメンタリティがあったということ

・「武士道と云うは死ぬことと見つけたり」(「葉隠」)…常に死を意識して生きることで自由度を増し、その場その時を大事にし、自分の道を誤らずに済むという考え。うわべだけでなく本気で考えているので、時が来れば逃げることなく死を受け入れることができた 

Matsumoto Japan, winter 2023


2023年12月15日

チーちゃんありがとう

 

よく晴れた師走の週末。

車いすに酸素ボンベをくくりつけ、K子さんを乗せて散歩に出た。

呼吸器疾患のK子さんは、毎分10リットルの酸素を吸う。まだ病院から出ないうちから、ボンベの中身がどんどん減っていく。

「酸素まだ大丈夫?」

病棟リーダーも心配そうに電話してきた。

やっと、誰もいない冬枯れの中庭に着く。残量計の針は、すでにレッドゾーンだ。

そろそろ帰りましょうと言いかけた時、それまでおし黙っていたK子さんが、

「ここなら大声出してもいいかしら?」

と言って、深く息を吸い込んだ。

口から酸素マスクを外すと、唐突に

「チヅコさーん! 今まで、どうもありがとう!」

「チーちゃーん! 今まで、どうもありがとう!」

青空に向かって叫んだ。

「チヅコさん(チーちゃん)」とは、毎日お見舞いに訪れる、勝気そうな娘さんのこと。面と向かっては言えない思いを、空にぶつけたのだろうか。

病棟に戻り、看護記録をつけていたナースにこの出来事を伝えたら、

「エーッ、あのいつも控えめなK子さんが⁈」

あっという間に、ステーション中の話題になっていた。

 

「いたみを抱えた人の声を聞く」近藤雄生、岸本寛史著 創元社

前々回のブログに続いて、ノンフィクション作家と医師の対話から作られたこの本の後半部分を紹介します。

・死を目前にして「今日1日を大切に過ごそう」と生きている人の思いを想像できる人間が近くにいるかどうかは、患者さんにとって本当に大きな違い

・「傷ついた治療者(Wounded Healer)」…「治療」は健康な人が病気の人を癒すのではなく「傷ついた者が傷ついた者を癒す」こと

・誰の心の中にも、医者もいれば患者もいる。一人の人間の中に、医者的な部分と患者的な部分の両方がある

・医者が自分自身の中にある弱い部分、患者的な部分を意識して患者と関わると、患者の中にある医者的な部分が活性化されてくる

→がん患者が痛みを感じている時、薬をこう使えばこの痛みは制御できると自分で考えて、それに取り組もうという姿勢が自ら育っていく

・「大変な経験をしておられるがん患者さんなどに関わっていくスタンスとして、自分自身の中にある不安や恐怖、困難を意識しながら会う方が、患者さんとつながれるのかな」(岸本)

Pokhara Nepal, 2023



2023年12月8日

ナースはトイレを流さない

 

病院という非日常な場所で出くわした下ネタを、2つほど。

 

緩和ケア病棟に、まだ30代の女性Yさんが入院してきた。

こんなに若い患者さんを迎えるケースは、そうそうない。

ナース控室では、急いで「AYA世代のがん患者への対応方法」などの冊子が回覧された。

そして病棟主任が、

Yさんの部屋は男子禁制!あなたは入っちゃダメよ」という。

あーそうですかと、Yさんの部屋の掃除や配茶・配膳を公然とサボっていたら、担当ナースが恨めしそうに、「本人はそんなこと言ってないよ」という。

それでは、とYさんの部屋を訪ねた。

いきなり、干したパンツが目に飛び込んできた。

うう、やっぱり入るんじゃなかった。

件のYさんは、髪の毛を派手に染めた、明るくて開けっ広げな人。

「これでCT検査に行っても大丈夫かな」

言うなり、やおらシャツをめくって「肛門」を見せた。

脇腹に、かわいいパウチがついたストーマ(人工肛門)が留置されていた。

 

病棟の一角に、その名も「汚物室」という、直截的すぎるネーミングの部屋がある。

ここが、看護助手を務める私の主戦場だ。

畳2畳ほどの空間で、「陰洗(陰部洗浄)」用のボトルを用意したり、排せつ物で汚れた寝間着やシーツを洗ったりする。

一角には大きなゴミ箱があって、朝夕のおむつ交換時には、中身入りの紙おむつがポンポン捨てられる。

蓋はあっても、かなり匂う。

そしていちばん奥にあるのが、「座面のない洋式トイレ」。

ポータブルトイレや男性用尿器の内容物を、ここに空けるようになっている。

問題は、ナースたちが、使用後に水を流さないことだ。

お茶くみを済ませて汚物室に戻ると、トイレの水たまりが黄褐色に泡立っていたり、茶色い固形物が浮かんでいたりする。

そんなことが、本当に、本当にしょっちゅうある。

「ワレ、トイレぐらいちゃんと流せや!!」

(と言いたいけど、気が小さいから言えない)

忙しいのはわかるけど…

まだヨメ入り前のお嬢様ナースもいるのに、信じられない。

そのうち、よそ様でもトイレを流さない癖がついちゃうぞ。

Kathmandu Nepal, 2023



HIKIKOMORI

  不登校や引きこもりの子に、心理専門職としてどう関わっていくか。 増え続ける不登校と、中高年への広がりが指摘されるひきこもり。 心理系大学院入試でも 、事例問題としてよく出題される。 対応の基本は、その子単独の問題として捉えるのではなく、家族システムの中に生じている悪循...