2023年8月18日

サマーキャンプ!

 

毎年夏のお楽しみ、サマーキャンプ!

猛暑の東京からバスに揺られて、25人の都会っ子が八ヶ岳にやってきた。

山登り、オリエンテーリング、木登り、ボルダリング、ドラム缶風呂、流しそうめん、BBQ…盛りだくさんな、3泊4日のテント生活が始まる。

今年は、どんな子がいるのかな?

 

自分のことを「ボク」と呼ぶ、変顔が得意なアキ(小2女子)。霧ケ峰の最高峰・車山山頂では、お菓子を忘れた別の班の子に、「一緒に食べよう!」と、自分のおやつを分けていた。

最終日の博物館見学で、アキが「ボクのカメラがない」と騒ぎ始めた。あちこち探しても見つからず、ついに泣き顔に。

その時、いつも冷静なチホ(小4)が、つと歩み寄った。

「ここにあるんじゃない?」

なんとカメラは、アキが手から提げている帽子の中から発見された。

頼むよ!アキちゃん。

 

カンタロー(小6)は、サマーキャンプ2度めの参加。しかも4人きょうだいの長兄だけあって、リーダーシップが半端ない。

テント設営や焚火の火起こしを、下級生の面倒を見ながら、率先してやってくれる。自分の自由時間まで使って、BBQのための小枝を集めてくれる。

リーダーの私の出番、ほぼなし。

私の時給を、カンタローにあげたい。

 

ナサの大好物は、パクチーと紫蘇の葉だ。小2にして、なんて成熟した味覚。

でも、みんなで火をおこし、野菜を刻んで作った素朴なBBQやカレーライスを、ナサはおいしそうに食べた。スパイスは、森の空気か。

キャンプ中にナサと交わした交換日記で、

「なさはマンガかになろうとおもったけど、ミヤさんのしごともいいとおもいました」と書いてくれた。

うれしいね。

 

ネイト(小1)は、「軍手をなくした」といっては泣き、「ひとりじゃ怖くてトイレに行けない」といって泣く。おいネイト、まだ昼間だよ。

午後になると、「一日が長すぎる~」といって泣いていた。

泣き虫ネイトは、実はトンボやバッタ、カエルを素手で捕まえる名人だった。いちいち戦果を見せに来るので、そのたびに、思いっきり褒めた。

すると最終日、

「家にも帰りたいけど、もっとここにもいたい。どうしよう、決められない~」

またもや半泣きになっていた。



2023年8月11日

一期一会

 

たとえ空調完備の病院でも、重病の患者さんに今年の夏は過酷だ。

1週間の間に、緩和ケア病棟に入院中の4人が、相次いで亡くなった。

 

Sさんは、差額ベッド代がいちばん高い個室の主だった。

元気なころは、ずっと造園業にたずさわってきたという。

「バブル景気の時は、軽井沢の金持ちの別荘まで行って、1本10万円で庭の木を切ったよ。そりゃあ儲かったぞ」

坊主頭に、濃い眉毛。いかつい顔に似合わず、一杯のお茶にも「ありがとう!」と言ってくれる人だった。

Sさんには、年の離れた美しい女性が、しょっちゅう見舞いに訪れた。外泊許可を取り、Sさんを車いすに乗せて温泉に連れ出し、数日して戻ってくる。

そんなことが、何度か繰り返された。

最後に病院に帰ってきた時、Sさんの頬はげっそりこけ、ベッドに横たわると、もう起き上がる力もなかった。

女性が泊まり込みで付き添った翌日、Sさんは息を引き取った。知らせを受けた親族が到着する直前、女性は看護師に別の階段に案内され、去っていった。涙声で「ありがとうございます」と繰り返し、何度も頭を下げながら。

妻でも血縁者でもない女性がSさんに付き添うことに、病院側は戸惑っていた。でもSさんは、彼女から献身的な介護を受けるに値する、人間的魅力のある人だった。

 

Mさんは、私と同い年の58歳。病気のためか声を失っていて、いつもささやくように話す。寝たまま浴槽に浸かれる「機械浴室」の利用者が多い中、自力で風呂に入れる数少ない患者さんだった。

ある日、Mさんの担当ナースに「一緒にお風呂に入ってあげて」と頼まれた。Mさんは両足が腫れあがり、パンツを脱ぐときや浴槽をまたぐとき、手助けが必要になっていた。

「昨日までは、ぜんぶ自分でできたんだけどなぁ」

と、無念そうなMさん。それでも、

「この炭シャンプーいいですよ。女房がネットで取り寄せてくれたんです」

と言いながら自分で洗髪し、ドライヤーで念入りにヘアスタイルを決めていた。ほとんど何もしていない私に、入浴中12回ぐらい「ありがとうございます」と言ってくれた。

まさかその翌々日、Mさんが逝ってしまうとは…

 

この病棟では、いつ別れの時が来るかは、予測不能だ。

一期一会。

SさんとMさんのことは、きっと忘れないと思う。

Kuramae Tokyo, Summer 2023


2023年8月5日

格差は心を壊す

 

「格差は心を壊す~比較という呪縛」 リチャード・ウィルキンソン&ケイト・ピケット 東洋経済新報社 2020

まだ読みかけだが、前半の要点をメモしておきます。

 

・先進国の中で、富裕層と貧困層の格差が最も大きい米国では、殺人率、刑務所の収監率、精神疾患の割合、未成年出産率が最も高く、平均寿命、算数や読み書きの能力は最低か最悪の部類に入る

・逆に格差が小さい北欧諸国や日本は、これらの数字は上々

・経済成長は物質的な豊かさをもたらしてくれたが、逆に精神的な不安は高まる傾向にある。WHOの調査では、先進国は途上国より心の病の発症率が大幅に高い(精神障害の生涯有病率は米国55%、ニュージーランド49%、ドイツ33%、オランダ43%に対して、ナイジェリア20%、中国18%)

・給料に対する私たちの幸福感や満足度は、その給料で欲しいものが十分購入できるかどうかではなく、他人と比べて高いか低いかで左右される

・社会階層の底辺に位置する人ほど心の病に冒されやすい。つまり、心の病は社会階層の問題

・最貧困層の男性は、最富裕層の男性に比べてうつ病にかかる確率が35

・うつ病や統合失調症、自己愛癖は、社会の不平等化が進むほど共通に見られる現象。国全体の不平等化の拡大によって多くの人々が苦しむという極めて重大なコストが発生している

・不平等な国ほど統合失調症の発病率が高いのは、不平等な社会ほど社会的な絆が失われ、社会階層間の区別が厳しくなることが理由

・アンケート調査で、日本は米国に比べて「人生に満足している」「幸せだ」と答える人ははるかに少ない。米国では幸せかと聞かれれば、ともかくそうだと答えることが期待される→平等な社会で育てば外部に対してアピールする必要がないから

・自己誇示バイアスと所得格差の間には強い相関関係がある→不平等な社会ほど自己誇示が強まるという事実は、不平等が社会的評価への不安を高める結果、私たちは自分自身を実態より大きく見せようとしてしまう

・不平等の拡大によって社会的評価の脅威に直面した私たちは、不安症やうつ病に陥るか、それとも自己誇示や自己愛を支えにして必死に出世の階段をよじ登るかの板挟みに追い込まれる。こうした二者択一を巡る葛藤がいかに激しいかは、統合失調症や躁うつ病に苦しむ人々がしばしば誇大妄想に捉われることからも明らか

・ドナルド・トランプの頻繁なツイッターへの投稿は、自己誇示、冷淡、自制心の弱さ、自己愛、精神病質の特性を示している

↑笑える!

Taipei, summer 2023


2023年7月28日

週末の台北

 

看護師長が4週ごとに作る、緩和ケア病棟の勤務表。

新しい勤務表を眺めていたら…

おっ、5連休がついてる!

すかさず、台湾に行ってきた。

 

往復は、ネット検索で安かったキャセイ・パシフィック航空。

この香港ベースのエアラインは最近、客室乗務員が

「英語でブランケットと言えないなら、もらえない」

と中国本土の乗客を嘲笑し、その様子がSNSに流れて炎上したらしい。

そんな一件はあっても、機内サービスには定評があるキャセイ航空。満席の機内に乗り込むと、赤い制服の乗務員が、通路を小走りに駆け回っている。

「廊下は走らない!」と学校で習わないのかなあ。

同じ東南アジアのエアライン、タイ国際航空には200回以上乗ったが、乗務員が通路を走る姿には、ただの一度も出会わなかった。お国柄の違いか、それとも会社のカラーなのか。

どんなに忙しくても決して急がない、タイ航空の優雅さが好きだ。たとえ、着陸直前まで機内食にありつけなかったとしても…

機内は、かなり冷房が強かった。北京語も広東語も話せないので、小さな声で「毛布下さい」と英語で頼んだら、無事にもらえた。

 

久しぶりの台北は、とても暑い。

沖縄より南に来たんだから、まあ当たり前といえば当たり前だ。

台北在住の友人に、お粥専門店に連れて行ってもらう。最近こそ落ち着いている台湾だが、ペロシ米院内総務が来た時は、中国海軍にぐるりと包囲され、かなり怖かったという。

週末の西門や中山界隈は、相変わらず若いカップルや家族連れでにぎわっていた。人々のリラックスした表情、優しそうな眼つきは、前と変わらないように思えた。

ある時、道を歩いていて、はたと気がついた。

同じ方向に向かう台北市民老若男女、ほぼ全員に追い抜かれるのだ。

以前は、こんなことなかったのに。

台湾の人が気ぜわしくなったのか、自分がトロくなったのか。

認めたくないけど、たぶん後者だ。


 成田空港でも台北の空港でも、チェックインや出入国審査がとてもスムーズ。ワクチン証明もPCR検査も、もう何も必要ない。

この気軽さが、とても嬉しい。

Louisa Coffee, Taipei, summer 2023


2023年7月21日

胃ろうで見る夢

 

「やっぱり朝風呂はいいなぁ」

首まで湯につかって、Iさん(80代・男性)が気持ちよさそうに目を閉じた。

長嶋茂雄ばりに胸毛の濃いIさんは、お腹に開いた穴から、チューブが突き出ている。朝昼晩、缶入り経管栄養を、その穴から胃に流し込んでもらう。

1缶200カロリー。1日6缶。

何も食べられず、何も飲めず、これで命をつないで、もうすぐ6か月になる。

「自分の体で人体実験してるようなもんだ。我ながら、よくぞ生きてる。いや、生かされている」

 

Iさんは、生涯を児童福祉に捧げてきた人だ。

最初は、40人の子どもを預かる児童養護施設に、住み込みで働いていた。

「子どもたちを、もっと家庭的な環境で過ごさせたい」

奥さんと話し合ったIさんは、親から虐待を受けた子など6人を、自宅で預かり始めた。

といっても、里親になることが仕事になり、それで給料をもらえるわけではない。だから昼間は、不登校の子を預かる別の施設で働いたという。

時には子どもが家出して行方不明になり、警察沙汰になった。それでも、我が子3人も入れて総勢11人がテーブルを囲む夕食は、とても楽しかった。話が弾んで、気がつくといつも2時間が経っていた。

そうやってIさんが自宅で養育した子どもは、18年間で29人になる。

 

60代でリタイアしたIさんは、念願の信州に移住した。でもやっと訪れた夫婦水入らずの生活も、長くは続かなかった。3年ほどで奥さんを亡くしている。

Iさんは、夫妻ともにクリスチャン。子どもたち3人も、

「別に強制してないのに、みんな洗礼を受けたよ」と、嬉しそうだ。

最近、大学生の孫娘がIさんにインタビューして、半生を卒業論文に書いた。

「図らずも自伝代わりになったなぁ。でも照れくさくて、実はまだ読んでないんだよ」

 

夏が来て、Iさんは病棟の七夕飾りに

「天の原 ふりさけ見れば 春日なる三笠の山に 出でし月かも」

と書いて結んだ。遣唐使の一員として19歳で大陸に渡り、二度と帰れないまま異国で生涯を閉じた阿倍仲麻呂に、病気に囚われた自分の心境が重なるのだという。彼も奈良の出身だ。

「最近、食べものの夢ばかり見るんだ。といってもご馳走じゃなくて、お茶漬けとか、みそ汁とか。ハッと目覚めて夢だとわかるんだけど、でもその時は、食べものが喉を通る気がしてね」

「もし妻が生きて傍にいたら、お茶漬け持ってきて!と頼んだろうな」

Rolwaling valley, Nepal 2023


2023年7月15日

赤いストレッチ・ジーンズ

 

先月お別れしたK子さん(95)は、同じ東京からの移住組ということもあり、よくその病室にお邪魔した。

最後まで、心の中に女の子が住んでいたKさん。その言葉を残しておきます。

「あなた立教ボーイなのね!私も夫を亡くしてから移住してきたの。ここで暮らすために73歳でクルマの免許を取って、90歳まで運転してたのよ」

「子どもは、息子と養女の2人。姉が早逝して、9歳だった女の子を引き取って育てたけど、その子も数年前に見送りました」

「夜中にこっそり晩酌するから、白ワインとKIRIのチーズ、SKIPPYのピーナッツバターを買って来て。SKIPPYは必ずチャンキーでね」

「小学校の同窓会で、Kちゃんていう男の子に再会してね、60年ぶりに。何回か会って、彼が亡くなる前にラブレターくれたの。『私はあなたに会うために生まれて来た』って。そういえば私は、誰かに恋い焦がれたことがない」

「19歳で結婚して、商社マンだった夫は、夜ご飯を作ってもほとんど帰って来なかった。夜中に帰宅するなり、いきなり『この家は売った、引っ越すぞ』という人だった」

「小学生だった頃は、Kちゃんちが港区の大地主だなんて知らなかった。もし彼と結ばれてたら、どんな人生だったかしら」

「95年間でいちばん楽しかったのは、60歳すぎてから。当時まだ珍しかったボーイスカウトの女性リーダーとして、日本中を飛び回った。社交ダンスも始めて、90過ぎまで高いヒールでステップ踏んでたのよ!」

(香道も嗜むK子さん、ある夜中に病室でお香を焚いてしまった。煙が充満して大騒ぎになった)

「(嬉しそうに)年の離れた男の人が何人も私のお見舞いに来るって、看護師さんの間で噂になってるらしいのよ!」

(春ごろから、K子さんは体を起こすのがつらそうになった)

「このところ食事が喉を通らなくて。生きられるのは、7月の96歳の誕生日までかな。それまでにもう一度、家で暮らしたいの。でも人の気配がないと寂しいから、ミヤサカさんウチに泊まってくれないかしら」

「何もしなくていいから。1日3000円払うから。もう長くはないから」

(そして、その翌週)

「あの時は、思いつきであんなこと言ってごめんなさい。とうとう、飲み物も喉を通らなくなった。私は、ここで枯れることに決めました」

「今週でお別れのつもりです。最後まで、おむつのお世話にならずに逝きたい。自分でトイレに行けなくなったら、注射で眠らせてもらいます」

ある金曜日の夜、K子さんは旅立った。夜勤明けの看護師さんに聞くと、「彼女のお望み通り」の最期だったようだ。

生前の希望通り、ナースたちに赤いストレッチ・ジーンズをはかせてもらったK子さん。まだお香の香りが残る510号室を、静かに去っていった。

Rolwaling valley, Nepal 2023


2023年7月7日

続・ゼロで死ぬ

 

「関西から来る女子高の八ヶ岳登山ガイド。往復ロープウェー利用、実働4時間。日当3万円!」

むむ。

魅力的なオファーが舞い込んできた。

でも結局、その日も時給933円の緩和ケア病棟で働くことにする。

終末期の患者さんの傍でさまざまな人生に接し、ふと口から漏れ出る心境に耳を澄ませることは、自分にとってかけがえのない経験なので。

 

前回に引き続き、「DIE WITH ZERO」(ビル・パーキンス著、ダイヤモンド社)の中身を紹介していきます。

・人生を最大限に充実させるための3大要素、「金」「健康」「時間」の全てが同時に潤沢に手に入ることは、めったにない

・若い時は健康で自由な時間もあるが、金はあまりない。老後生活を送っている人は時間が豊富にあり、たいてい金も持っているが、残念ながら健康状態は衰えている。中年期はバランスが取れているが、時間が不足しがち

・金でなく健康と時間を重視することが、人生の満足度を上げるコツ

・健康は、金よりはるかに価値が高い。健康状態が良好なら、たとえ金が少なくても素晴らしい経験はできる

・そして金から価値を引き出す力は、年齢とともに低下していく。経験を最大限に楽しめる真の黄金期は、一般的な定年よりもっと前に来る。この真の黄金期に、私たちは喜びを先送りせず、積極的に金を使うべき

・どれだけ働いて金を稼いでも、まだ稼ぎ足りないと感じる人は多い。だが膨大な時間を費やして働いても、稼いだ金をすべて使わずに死んでしまえば、人生の貴重な時間を無駄に働いて過ごしたことになる

100万ドルの資産を残して死んだら、それは100万ドル分の経験をするチャンスを逃したということ。それでは最適に生きたとはいえない

・オーストラリアの緩和ケア介護者ブロニー・ウェアは、余命数週間の患者たちに、人生で後悔していることについて聞いた。最大の後悔は「勇気を出して、もっと自分に忠実に生きればよかった」。2番目に多かったのは「働きすぎなければよかった」(男性患者の1位)

・人生を最大限に充実させるために、「資産を減らすポイント」を明確に作る。経験から多くの楽しみを引き出せる体力があるうちに、資産を取り崩していくべき。大半の人にとって、そのポイントは4560

・若い頃にネパールへ行くことについて。この手の旅行は年をとったら子育てや仕事で簡単にできなくなる。だから有り金を使って、一生に一度の経験をするためにネパールに旅立つ価値はある。それは無駄遣いではない

※著者ビル・パーキンスは1961年生まれのヘッジファンド・マネージャーです

Rolwaling valley, Nepal 2023


HIKIKOMORI

  不登校や引きこもりの子に、心理専門職としてどう関わっていくか。 増え続ける不登校と、中高年への広がりが指摘されるひきこもり。 心理系大学院入試でも 、事例問題としてよく出題される。 対応の基本は、その子単独の問題として捉えるのではなく、家族システムの中に生じている悪循...