2021年7月3日

ユートピアはカゴの中

 

 大病で臓器を摘出、度重なる手術で生死をさまよった友人。

 うつで休職中に、体調が戻らないまま雪山に登り、遭難死した友人。

 いままで日本の大企業に勤める同世代が、働きすぎで散々な目に遭ってきたのを目にした。

 最近は自営業の友だちも増えたが、では彼らがワークライフバランスのとれた暮らしをしているかというと、そうでもない。

 お客さんの要求に応えようとして、あるいは漠とした不安から、つい睡眠時間を削り、土日も関係なく働いてしまうみたい。

 

 残業が多く休みが取りにくい日本に比べて、欧米はワークライフバランスに優れ、女性も働きやすい理想郷なのか…?

そんな話は大間違いだというのが、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏。以下、日経ビジネス電子版に載った彼の報告の要約です。

 

・欧州には労働者とエリート層の2つの世界が存在し、働き方は全く異なる

・欧州で事務職として入社した人は、ずっと事務をやる。持っている資格に従って「一生事務のまま」、上にも横にも閉じられた箱の中でキャリアを全うする。彼らは自分のことを「籠の鳥」「箱の中のネズミ」と自嘲気味に呼ぶ

・年収も硬直的で、20代で300万円、50代になっても350万円

・同じ仕事を長くしていれば熟練度は上がり、同時に倦怠感も高まるという2つの理由で、労働時間は短い。残業はほとんどなく、有給も完全消化

・いまの仕事が機械化などで不要となった場合は、職業訓練所に通って新たな職業資格を取る。ひとつの「籠」から出ても、年収300400万円の別の籠に移るだけの生活を一生続ける

・欧州に憧れる多くの日本人は「家に帰ると趣味や教養の時間になる」「地域活動や社会奉仕の時間が始まる」とエクセレントな想像をするが、彼らに聞くと答えはただ、「お腹がすくから家に帰る」

・長い夏休み、サガンの小説では南仏の避暑地でバカンスすることになっているが、現実にはパリ郊外の公園にブルーシートを敷いてキャンプしていたり

・バカ高い物価と低賃金のはざまで、そんな生活をしているのが彼らの実情。それでも共働きすれば世帯年収は700万円。なんとか生活は成り立つ

・一方で、欧米のエリートは夜討ち朝駆けの長時間労働。フルに育休を取るような男性は「家庭を選んだ人」と呼ばれ、昇進トラックから外れていく

・つまりワークライフバランスの充実した欧米の生き方とは、「籠の鳥労働者」の世界の話。日本人はふたつの世界をごっちゃにしている

 

…世の中、そうそうウマい話はないようで。

Kirigamine Japan, Summer 2021


2021年6月26日

校長先生の英断

 

 久々に、学校登山ガイドの仕事が舞い込んだ。

東京ナンバーの黄色い「はとバス」を連ねてやってきたのは、中野区の小学生たち。長蛇の列になって登り始めると、道中、芋虫が大発生している。男子が、その数を数え始めた。

24」「25」「26」…「71」「72」「73」…「149」「150」「151」…

 おーい、あんまりバラバラにならないでくれー

 最後尾の小柄な男の子が、ポツリとひと言。

「ぼくたち修学旅行代55千円払って、芋虫がウンコするとこ見に来たの?」

 ほら、足元ばっか見てないで! いい眺めだよ。

 もうひとりの山岳ガイドSさんは、元消防士。3年前、長野に移住してきた。

「コロナでガイドができなくなった分、救急救命法の知識を生かして、講習会を開きました。助産師の妻は、産後ケアを受けられる宿泊施設をやってます

 芸は身を助く。

 やっと山頂に到着すると、さっきの男子が駆け寄ってきた。

「芋虫で遅れたぼくたちに付き添ってくれて、ありがとうございました」

 礼儀正しく、ペコリと頭を下げる。この国の将来は明るい…かな?

 下りは、添乗員のNさんと一緒に歩いた。

「私は旅行会社の正社員ではなく、添乗の仕事をフリーで請け負ってます。会社勤めもしたんですが、性に合わなくて」

「連日連夜、国内や海外のツアーで家を空けて、夫はほぼ一人暮らし。でもコロナ禍で、仕事が消滅しました。ゼロですよゼロ! バイトでしのぎました」

「外国に行けるようになったら、夫とバックパッカーの旅をしたい。ヨルダンやシリアがお気に入りです。ヨーロッパだったら、アイスランドが好きかな」

 下山口に着くと、校長先生がリンゴジュースを持って迎えてくれた。

「長崎に行く予定だったんですが、去年はコロナ禍で中止。今年はとにかく修学旅行に行かせてあげたくて、山登りに変更しました。でもこの状況で行っていいものか、出発前日まで悩みました。東京から来てしまってすみません」

 ぜんぜん気にしてませんよ。ようこそ霧ケ峰へ!

 近くで子どもと記念写真に納まっていた先生が、

「こんなオジサンも写真に入れてくれるなんて…」

と、泣きまねしている。

 児童も先生も一緒になって、はしゃぎ回る。

 校長の英断を応援するように、終日、梅雨の晴れ間が広がっていた。



2021年6月18日

ネズミVSチキンハート

 

 顔を洗いながら、何げなく風呂場のドアを開けた。

ん? ナイロンタオルやコンディショナーが、床に散乱している。

 そして次の瞬間、濃いグレーの毛をまとった、手のひらサイズの生きものと目が合った。

ついに、ハーシーズ盗み食い犯人の正体見たり!

やっぱりネズミだったか。

しっぽを振りながら、ヨチヨチ逃げていく。

 つい先日も、キッチンの米袋に穴を開けられた。計量カップの中には、これ見よがしの黒い糞が。

ムラムラと敵愾心が湧き起こり、とっさに手持ちの最強兵器「ハチ・アブ用アースジェット」を、チューめがけて噴射!

 去年の夏、スズメバチが軒先に巣を作った。家には蚊取り線香しかなくて、巣の下で焚くも効果ゼロ。妻に笑われた。今回の武器も、いささか頼りない。

窮鼠猫を噛む、という。「窮鼠僕を噛む」事態だけは避けたくて、3メートルも離れて射撃し、効果を確認せずにドアを閉めた。

 そして森の家を出て、一目散に松本のマンションへ。玄関で愛用のピンクのKEENを履こうとして、ゴロっと何かが足裏に触った。何個めかの盗難ハーシーズが、中に入っていた。

縄張りの主張? ここ、ぼくの家なんですけど。

 

 前回のブログを読んだ友人たちから、多くの関連情報が寄せられた。

「ロシア留学時代、ゴキブリホイホイにかかったネズミを、寮のおばちゃんが平気で踏んづけて、ゴミ箱に捨てた」

「ネパール滞在中、至る所に出没するので、四六時中恐れおののいていた」

「カリフォルニアに住んでいた頃、コーチのかばんをかじられた」

「ロンドンのホテルで、部屋や廊下を走り回られて夫が不眠に」

「バグダッドの宿舎の、巨大ネズミを思い出した~」

 なかなか話がグローバルだ。

「職場のチョコを食べられる事件が多発」

「レーズン、スキムミルク、アーモンドの大袋の端っこだけかじられて、全部捨てることに」

 大人たちが恐れ、恨む一方で、子どもは偏見がない。

「ウチの子は、粘着シートにかかったネズミをスケッチしてた」

「娘に話したら、そんな感じのネズミだったら、うちにも来て欲しいって」

 数日後。仕事もあるので、森の家に帰る。ヤツがいなくなっていることを祈りつつ、こわごわ風呂場のドアを開けてみると…

 床に落ちたタオルの上で、眠るようにこと切れていた。

 以来、夜中の物音はしなくなったが、食べ物をS字フックで天井から吊るすこと、靴を履くときは裏返して振ることが、習慣になってしまった。



2021年6月11日

ネズレス、デスモア、チューコロ

 

 4泊5日の旅から戻った夜。

 歯磨きの最中に、妙なものを見つけた。

 洗面所の片隅に、銀紙に包まれたチョコがふたつ。ちょこんと置いてある。

 出発前に、輸入食品店でハーシーズの大袋を買った。確か、涼しい廊下に置いて出たはず…

 いったい誰が、何の目的で、私のハーシーズを、こんな所に? 

 恐る恐る拾い上げると、銀紙の角が破れて、チョコっとかじられていた。

犯人は、人間ではなさそう。

 では、わざわざチョコを廊下から洗面所まで運んで食べるイキモノって…いったいナニモノ?

 翌朝、バスルームに別のハーシーズを1個発見。

玄関先にも1個。

押し入れの洗濯カゴの中に、1個。

そして下駄箱の、愛用の青いシューズの中にまで…

 みんな、少しかじっただけの食べかけだ。行儀が悪いというか、茶目っ気があるというか。犯人は、空腹でどうしようもない、というわけではなさそう。

 近くに、黒米そっくりの糞が残されていた。同じく田舎暮らしをしている友だちに聞くと、「それはネズミ!」と断定した。

 ネズミか~

 友だちも困っているらしく、ネズミ駆除には「ネズレス」より「デスモア」が効く、と力説する。

 デスモア。

 確かに効きそうだが、それにしても情け容赦ないネーミングだ。

 ほかに「チューコロ」という商品もあるらしい。

わが家は八ヶ岳中腹の標高1600メートル、ミズナラやカラマツの木が密生する森にある。動物たちの世界に、私の方が間借りしているようなものだ。

 この前の晩も、何者かが屋根裏で、ガサゴソ動き回っていた。なにやら羽の生えた生きものの気配は、コウモリだろうか。

 今回チョコを盗んだ犯人は、糞のサイズからいって、ごく小さなネズミ。できれば仲良く共存を図りたい。

家じゅうの菓子類を集めてかごに入れ、S字フックで天井からぶら下げた。「デスモア」の前に、まずは守りを固めて様子を見よう。

友だちからは、できた人だね~と感心された。

でもこれ以上、とっておきの輸入チョコを横取りされたら、その時は…

デスモア発射用意!



2021年6月5日

カブと心中

 まだ芽吹き前の森を下りて、緑あふれる里へ。

甲斐駒ヶ岳を間近に望む田んぼで、田植えをした。

その朝集まったのは、百戦錬磨のベテラン稲作農家たち、にはとても見えない、100均の麦わら帽子をかぶった素人集団。

その正体は、ニュース番組ディレクター、ランドスケープ・デザイナー、チェンバロ奏者兼ピアニスト、レバノン料理研究家兼ベリーダンサー、アメリカ有力紙記者兼ヨガ・インストラクター、株式ギャンブラー兼公務員、などなど。

田んぼの持ち主ヤマダさんは、コメの発芽から収穫まで無農薬で手掛けている。この辺りは首都圏からの移住者が多く、ヤマダさん自身も5年前、東京から移り住んできた。

この奇妙な田植え集団は、彼の移住者コミュニティの仲間や、はるばる東京からやってきた飲み友だちだ。

ジャージの裾をまくり上げて、にわか農家が裸足で田んぼに入っていく。5月の太陽に温められて、水はぬるい。みんなで横一列に並び、端から端まで張られたヒモを少しずつ前進させながら、苗を植えていく。

慣れてくれば、作業はリズミカル。声を合わせて歌を歌いたくなる。実際、「田植え歌」は各地に民謡として残っている。

水面に木々の緑が映え、吹き渡る風が心地よい。ヒモに沿って植えるので、苗がきれいにヨコ一直線に揃って、壮観だ。

いい気分で振り返ってみると…そこには、おぞましい光景が。

タテにも真っ直ぐ植えたつもりの苗が、酔っ払いの足跡みたいに蛇行している。素人丸出し。

休憩のたび、田んぼの脇で遊んでいる子どもたちに、水鉄砲で攻撃された。まかないで出された鹿肉カレーが、とてもおいしかった。田んぼの泥パック効果で、足の裏がツルツルになった。

 

ヤマダさんは、男の私から見ても超カッコいい人。自分で重機を操縦して笹林を開墾し、畑地にした。田んぼでは無農薬でコメを作り、3人家族の食料をしっかり賄う。

大工仕事も完全にDIYの領域を超えていて、近隣の住宅工事を請け負い、これから自分の家をイチから建てるというから、逞しい。

 

初体験の田植えは楽しかったが、やっぱり自分には、ヤマダさんの真似はできない。これからも、貨幣経済と金融市場にどっぷり浸かって生きるしか、選択肢はなさそうだ。

マーケットが暴落したら、それはその時。

 私は、野菜じゃない方のカブと心中します。





 

2021年5月28日

モーツァルトより、レッド・ツェッペリン

 

 長引くコロナ禍で、自律神経を乱す人が増えている。

 そして自律神経を整えるには、「モーツァルトよりレッド・ツェッペリン」なのだそうだ。

(以下は自律神経研究の第一人者、小林弘幸・順天堂大学医学部教授のインタビューより。日経ビジネス電子版)

・ストレス=自律神経の乱れ。会社に行きたくない、この人には会いたくないという負のストレスが自律神経を乱す

・受験勉強も、合格のためにイヤイヤやらされ、「落ちることはできない」というプレッシャーがあり、周囲は敵ばかりの孤独な戦い。強い負のストレスになる

・「怒る」という行為も自律神経を乱し、コンディションを大きく崩す。怒ると脳に十分な酸素と栄養素が行き渡らなくなり、さらに感情の制御を失う。乱れた自律神経は3~4時間回復せず、しばらく悪いコンディションが続く

・怒りそうだと感じたら、とりあえず黙り、深呼吸

・親しい人が亡くなった時のダメージは、回復が早い。死や悲しみは必ず訪れることだから、受け入れるかどうかの問題。本当に悲しい時は、悲しむことが大事

・自律神経の働きは、加齢とともに落ちる。高齢者になればなるほど、感情のバランスが乱れやすくなる

・加齢によって怒りっぽくなる人と、逆に感情のガソリンが切れて次第に無反応になり、穏やかになる人がいる

・自律神経は、何もしなければ機能が下がってしまう。食事や運動で上げる努力をすることが大切

・腸内環境と自律神経は密接に関係している。ヨーグルトを食べ、食事は「腹六分目」に

・机の上が乱雑だったり、家の中がちょっと汚かったりするのを見ただけでも自律神経は乱れる

・一定のリズムを刻むハードロックは自律神経にいい。KISSやレッドツェッペリン。モーツァルトは、自律神経を乱す

・去年はリモートワークで人と直接会話ができなくなり、心療内科を訪れる人が増えた。今は逆に、コロナの収束でリモートワークが終わり、また会社に行かなければならない、というストレスで病む人が多い

・コロナ禍の今は、みんなが長い夏休みをもらったようなもの。また日常が戻ってくることを恐れている。本音を言えば、みんな会社に行きたくない

・まずは体調を万全にすること。体の状態が整えば、心の状態も整ってくる



2021年5月22日

新聞社は、発達障害の集まり

 

「大人の発達障害」に関する記事を読んでいて、思わず笑ってしまった。 

その記事によると、発達障害の人は不得意なことがある一方で、「人より得意なこと」「優れた能力」が突出するのだそうだ。そしてその一例として、

Aさんは会社のデスク周りの片づけはまったくできず荒れ放題だが、文章の構成力、執筆の表現力においては大変優れている」と。

そのまんま、新聞社文化部の奥のほうや、編集委員室の風景じゃないか!

 あの人たち発達障害だったのか。

 特派員電を書きまくる敏腕記者が、実は経費精算が苦手で、海外出張の旅費を1年もため込んでブラックリストに載っていた。

 もしかして、あの人も発達障害…?

 記事(日経ビジネス電子版)に登場する精神科医・五十嵐良雄氏によると、

・発達障害は病気ではなく、生まれながらの脳機能の障害。遺伝や体質など、いろいろな要因が重なりあって起きる。人口の1割が発達障害

・その人の人格的な問題としてとらえられがちだが、全くそうではない。発達障害的な要素は程度の差があるだけで、誰もが多かれ少なかれ持っている

・うつ症状で休職を繰り返す会社員の、本当の原因は発達障害だったケースも

・自分の得意な分野で、ひとりコツコツ仕事をして成果を上げてきた発達障害の社員が、歳を重ねてチームのリーダーなどになった場合、苦手な「周囲とのコミュニケーション」の場面に直面し、ストレスでうつになる

 

 ずっと新聞社の報道カメラマンをやってきて、40代でデスクになったとたんに抗不安剤が手放せなくなった私も、もしかしたら発達障害…

 新聞社は、「大人の発達障害」の巣窟かもしれない。

 

 記事によれば、

・発達障害やその傾向を持つ人は、医師や弁護士に多い。著名人では、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズなどグローバル企業の創業者。歴史上の人物では、アインシュタインやモーツァルトなど

 

 発達障害にはネガティブなイメージもあるが、こうした人たちと並び称されるのは、ちょっとうれしいかも。



快適すぎるインド旅行

  大学院入学を控えたこの春、卒業旅行と称して南インドを旅した。 旧フランス領のポンディシェリ、旧ポルトガル領コーチン、同ゴアなど「インドの中の西洋」を巡り、1日3 食、朝からカレーを食べ続ける旅。 この辺りのカレーは「ケララカレー」といって、ココナツベースで甘みがある。...