2021年6月5日

カブと心中

 まだ芽吹き前の森を下りて、緑あふれる里へ。

甲斐駒ヶ岳を間近に望む田んぼで、田植えをした。

その朝集まったのは、百戦錬磨のベテラン稲作農家たち、にはとても見えない、100均の麦わら帽子をかぶった素人集団。

その正体は、ニュース番組ディレクター、ランドスケープ・デザイナー、チェンバロ奏者兼ピアニスト、レバノン料理研究家兼ベリーダンサー、アメリカ有力紙記者兼ヨガ・インストラクター、株式ギャンブラー兼公務員、などなど。

田んぼの持ち主ヤマダさんは、コメの発芽から収穫まで無農薬で手掛けている。この辺りは首都圏からの移住者が多く、ヤマダさん自身も5年前、東京から移り住んできた。

この奇妙な田植え集団は、彼の移住者コミュニティの仲間や、はるばる東京からやってきた飲み友だちだ。

ジャージの裾をまくり上げて、にわか農家が裸足で田んぼに入っていく。5月の太陽に温められて、水はぬるい。みんなで横一列に並び、端から端まで張られたヒモを少しずつ前進させながら、苗を植えていく。

慣れてくれば、作業はリズミカル。声を合わせて歌を歌いたくなる。実際、「田植え歌」は各地に民謡として残っている。

水面に木々の緑が映え、吹き渡る風が心地よい。ヒモに沿って植えるので、苗がきれいにヨコ一直線に揃って、壮観だ。

いい気分で振り返ってみると…そこには、おぞましい光景が。

タテにも真っ直ぐ植えたつもりの苗が、酔っ払いの足跡みたいに蛇行している。素人丸出し。

休憩のたび、田んぼの脇で遊んでいる子どもたちに、水鉄砲で攻撃された。まかないで出された鹿肉カレーが、とてもおいしかった。田んぼの泥パック効果で、足の裏がツルツルになった。

 

ヤマダさんは、男の私から見ても超カッコいい人。自分で重機を操縦して笹林を開墾し、畑地にした。田んぼでは無農薬でコメを作り、3人家族の食料をしっかり賄う。

大工仕事も完全にDIYの領域を超えていて、近隣の住宅工事を請け負い、これから自分の家をイチから建てるというから、逞しい。

 

初体験の田植えは楽しかったが、やっぱり自分には、ヤマダさんの真似はできない。これからも、貨幣経済と金融市場にどっぷり浸かって生きるしか、選択肢はなさそうだ。

マーケットが暴落したら、それはその時。

 私は、野菜じゃない方のカブと心中します。





 

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