大病で臓器を摘出、度重なる手術で生死をさまよった友人。
うつで休職中に、体調が戻らないまま雪山に登り、遭難死した友人。
いままで日本の大企業に勤める同世代が、働きすぎで散々な目に遭ってきたのを目にした。
最近は自営業の友だちも増えたが、では彼らがワークライフバランスのとれた暮らしをしているかというと、そうでもない。
お客さんの要求に応えようとして、あるいは漠とした不安から、つい睡眠時間を削り、土日も関係なく働いてしまうみたい。
残業が多く休みが取りにくい日本に比べて、欧米はワークライフバランスに優れ、女性も働きやすい理想郷なのか…?
そんな話は大間違いだというのが、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏。以下、日経ビジネス電子版に載った彼の報告の要約です。
・欧州には労働者とエリート層の2つの世界が存在し、働き方は全く異なる
・欧州で事務職として入社した人は、ずっと事務をやる。持っている資格に従って「一生事務のまま」、上にも横にも閉じられた箱の中でキャリアを全うする。彼らは自分のことを「籠の鳥」「箱の中のネズミ」と自嘲気味に呼ぶ
・年収も硬直的で、20代で300万円、50代になっても350万円
・同じ仕事を長くしていれば熟練度は上がり、同時に倦怠感も高まるという2つの理由で、労働時間は短い。残業はほとんどなく、有給も完全消化
・いまの仕事が機械化などで不要となった場合は、職業訓練所に通って新たな職業資格を取る。ひとつの「籠」から出ても、年収300~400万円の別の籠に移るだけの生活を一生続ける
・欧州に憧れる多くの日本人は「家に帰ると趣味や教養の時間になる」「地域活動や社会奉仕の時間が始まる」とエクセレントな想像をするが、彼らに聞くと答えはただ、「お腹がすくから家に帰る」
・長い夏休み、サガンの小説では南仏の避暑地でバカンスすることになっているが、現実にはパリ郊外の公園にブルーシートを敷いてキャンプしていたり
・バカ高い物価と低賃金のはざまで、そんな生活をしているのが彼らの実情。それでも共働きすれば世帯年収は700万円。なんとか生活は成り立つ
・一方で、欧米のエリートは夜討ち朝駆けの長時間労働。フルに育休を取るような男性は「家庭を選んだ人」と呼ばれ、昇進トラックから外れていく
・つまりワークライフバランスの充実した欧米の生き方とは、「籠の鳥労働者」の世界の話。日本人はふたつの世界をごっちゃにしている
…世の中、そうそうウマい話はないようで。
Kirigamine Japan, Summer 2021 |
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