2019年8月30日

はるちゃん怖い


 東京から来た小学生が繰り広げる、八ヶ岳でのサマーキャンプ。

日目のハイライトは木登りだ。

ヘルメットとハーネスに身を固めて、高さ10メートル超のカラマツを登る。

命綱のロープを私に預けて、何の躊躇もなく、スルスル登っていく子がいる。見る間に、小さな背中が枝葉の影に消えていく。

 東京湾岸のタワーマンションから来た子も多い。地上100メートルで暮らしていれば、この程度の高さは、何でもないのかも。

 でも高みが苦手で、動けなくなる子もいた。落ち着いてゆっくり登りな、と励ますそばから、

「ギブ(アップ)ならギブって早くいいなよ!」

 待っている子が、しきりに急かす。こういう容赦ない発言は、女子に多い。

そして男子に多いのが、このパターン。登り始めてすぐ、

「うわ~、アリだ!このアリ、噛まない? もうダメ・・・ギブ、ギブ!」

 たかがアリで、3メートル登っただけで、降りて来る。



 夕暮れの森でバーベキューをしていたら、突然の雷雨に見舞われた。にわかに雨が強まり、横殴りに降りつける。突然、至近距離で大きな雷鳴がとどろいた。急いで子どもたちを、本部棟に避難させた。

「カミナリこわい~」男の子が泣く。恐怖で、ろれつが回っていない。

でも女子は、意外に怖がらない。バリバリッという雷の轟音にも、「うるさいなあ」。それより、鉄板に残った焼きそばに、未練たっぷり。



 そして夕食後は、ナイトハイクの時間。野生動物を探して、夜の森を歩く。

ピーッ

 静寂を切り裂いて、鋭い鳴き声が響いた。シカが発する警戒の声だ。

 コンビニはもちろん、人工的な光が一切ない漆黒の闇は、初めてだったかも知れない。「怖い」「帰りたい」1年生が、泣きながらしがみついてきた。

 中でもはる子ちゃんは、とりわけ内気な子だった。点呼で名前を呼ばれても、返事ができない。木登りでは足がすくんで、動けない。

 3日目の朝、子どもたちが騒いている。その輪の中心には、はる子ちゃん。カエルを素手で捕まえて、今まで見せたことのない、満面の笑顔だ。

 山登りの最終日も、みんなが急坂にハアハア言っている間、彼女だけは、ひとり別世界。トンボがハエを食べる様子を、熱心に観察していた。

末は生物学者か、昆虫博士か。



サマーキャンプの子どもたちは、アリ、雷、夜の森を恐れた。

私は、カエルを両手にニンマリ笑うはる子ちゃんが、いちばん怖かった。


流しそうめん in Yatsugatake, summer 2019


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