わが追憶の「花の都」、70年代のパリは・・・犬のフンだらけだった。
美しいマロニエ並木の根元に、大型犬のブツが落ちている。新聞紙とレジ袋持参できちんと持ち帰る、日本人みたいな飼い主は皆無だ。
時には湯気の立った出来立てのほやほやが、歩道のど真ん中に横たわっていた。ぼんやりした少年(私)は、何度も踏んづけた。バナナを3倍にして皮をむいたようなブツを踏んだ時の、ぐにゃりとした足裏の感触。今も忘れない。
道行くフランス人も、よく踏んづけていた。彼らは「オーラララララ!」と叫び、汚れた靴底を歩道になすりつけながら去っていく。後には黄色い足跡が棒状に残った。
人通りが多い道では、第2第3の犠牲者が出た。ブツを起点に、黄色い棒が放射状に広がっていった。
今のパリは知らないが、状況は変わっていないようだ。NHKの「とことんフランス!深田恭子のジャポニズム2018」を見た劇作家の山崎正和によると、惨状を見かねた在住日本人が立ち上がり、自発的に清掃を始め出したという。
当初、パリ市民の反応は否定的で、清掃業者の職を奪うという声さえあった。寡黙に愚直に、そろいのエプロンまで用意して頑張っていたら、やがてフランス人も参加し始め、今では彼ら自身の運動になっているらしい。
山崎はその様子を見て「胸に熱いものを禁じ得なかった」という。そして次のように書いている。
「今日の日本には明治以来のいつの時代にもなかった、誇るべき国威が新しく芽生えている」「新しい平成の国威は静かに海を渡り、フランスのパリに影響を及ぼしている」と。
「見かねて立ち上がった」在住日本人は、確かにすごい。
ところでパリの清掃業者といえば、かつてフランスの植民地だったアルジェリア、チュニジア、モロッコなど北アフリカ出身の移民が多い。
フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドは、「日本はなぜ移民を拒むのか」と問われて、「日本人どうしの居心地は申し分なく、幸せ」だからと答えている。そして「それは極めて特殊」なことだという(読売新聞より)。
「フランスの場合、誰もが身勝手で不作法。フランス人同士でいると不愉快になります」「だから移民受け入れに特段の不安はなかった」すごい理由だ。
トッドは、「日本人どうし」に固執する先には衰退しかない、と説く。それはその通りだが、汚れ仕事を外国人に押し付けるフランス人の高圧的な態度が、移民の子をテロに走らせている面はないだろうか。反面教師にしたい。
たかが犬のフン、されど犬のフン。「明治に輸入された『公共』の観念がやがて国民の習慣になり、今、かつての故郷フランスに帰りつつある」と山崎正和が激賞した日本人の公共意識は、確かに世界に誇れるものかも知れない。
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