平成元年、新卒で日本企業に入った。社内は、昭和の香りに満ちていた。
そのひとつが、社員旅行の存在。職場の先輩は社員旅行を「全舷」という、旧日本海軍の用語で呼んでいた。そうとう時代がかっている。
ただでさえ年間休日が90日だった当時、2日も召し上げられて上司の酔態に付き合うのは、苦行そのものだった。
昨年、「ハーバード・ビジネス・レビュー」(以下HBR)が「職場の孤独」という特集を組んでいる。
「企業が開催する強制参加の交流イベントは、うまくいっても参加者は居心地が悪く、下手をすれば疎外感を感じる」(ウェイツ・ノースウェスタン大准教授)
どうやら欧米企業にも、強制参加の交流イベントがあるらしい。
「従業員を家に帰して、家族と一緒の時間を過ごさせよう。バーに行ったり、ティンダー(出会い系マッチングサイト)をチェックさせたりしよう」
「楽しみを強制するのでなく、休日を与えて従業員の社会的生活が充実するのを見守れば、彼らの孤独感は消え去るだろう」と、その論文は結論している。
社員旅行がとっくに廃れた日本は、時代の先端を行っているのだろうか。
HBRが特集したように、いま「孤独」が世界の課題になっている。アメリカ人の4割が孤独を感じている。イギリスは「孤独担当大臣」まで作った。
孤独はあくまで個人の主観・・・のような気もするが、HBRによると「1日15本のタバコを吸うのと同じぐらいの悪影響」を人体に及ぼし、死亡リスクが26%高まるというから侮れない。
多くの時間を過ごす職場で、「同僚はたくさんいるにも関わらず、全員がコンピュータを見つめているか、人間的な触れ合いのない会議に出席している」という状況が、孤独を蔓延させている。
予防医学者・石川善樹が寄せた論文では、「職場での孤独感が強い社員ほどパフォーマンスが低く」「ある実験で参加者に孤独感を抱かせた結果、論理的思考能力の低下や、他者に対する攻撃性が見られた」という。
石川は、職場の孤独を解消する特効薬はないが、間接的なアプローチとして「組織に信頼の文化を築くこと」が有効、と書く。
それにはまず、「上司が従業員を一人の人間として認めること」。
そして「特に重要になるのが、組織の末端にいる人たちへの接し方」だ。
「マンUのファーガソン元監督は、チームがゴールを決めた時、最初に抱き付いたのは得点を決めた選手ではなく、ベンチにいる用具係だった」「意識してその姿を選手に見せていた」
現代に生きる私たちの責任として、次世代にどのような働き方を提示したらいいのか。「長時間労働と社員旅行」のセットは論外。やはり、上司のあり方が大きなカギを握っている。
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