「聖なるヒマラヤホテル」での、今日が13日め。いくつか泊まり歩いた末にたどり着いた、中庸だがバランスのいい宿だ。
喧騒のカトマンズ・タメル地区にありながら、裏通りに面していて静か。ロビーにエスプレッソマシンがあり、いつでも挽きたてのコーヒーが飲める。部屋は清潔で、スタッフが廊下を毎日雑巾がけする。夕方から朝にかけて自家発電機が回り、停電時も熱いシャワーにありつける。
さらに建物は、日本の専門家による耐震証明付き。ここは隠れた実力者だ。
ここ数日、宿泊客が増えてきた。今朝、8時すぎに下りていくと、朝食のテーブルはすでにいっぱい。白髪の白人男性と相席になる。
南アフリカ人の大工さんで、最近リタイアしたばかり。空路、ドバイ経由12時間でネパールに来て、明日からエベレスト街道に向け出発する。
「いままで50軒以上、家を建てた。もう疲れたよ。自営業で年金がないから、手持ちの5軒を人に貸して、老後は賃料収入で暮らすんだ」
「19歳の時、イギリスからインドまでヒッチハイクで旅した。あの頃は若かった。今回カミさんを誘ったけど、大変そうだから私は行かないって」
「君は日本人か。ケープタウンには日本人観光客がたくさん来るよ。え?それは中国人だろうって? そうかもな、ハハハ」
窓から彼の後ろ姿を見送る。穴ぼこだらけの道に、大型バイクが停まっている。ナンバープレートは、オーストラリア・ビクトリア州のもの。傍らで、50代ぐらいのカップルが出発準備に余念がない。
2人とも険しい表情だ。手伝おうとしたホテルの守衛から、寝袋を奪い取っている。これまでの道中が、楽しいことばかりではなかったのだろう。
やがて、それぞれヘッドセット付ヘルメットを装着し、仲良く2人乗りで出発していった。武運長久ヲ祈ル。
空席が目立ち始めたダイニングに、今度は日本の大学生グループが入ってきた。昨夜は、日本人女子学生がサリー、ネパール人が浴衣を着てパーティーをし、遅くまで盛り上がっていた。地元大学との交流ツアーだろうか。
彼&彼女たち、今日も盛大にビールやワインを並べ、「日ネ友好・一気飲み大会」を始めた。指導教員も一緒になって騒いでいる。まさか朝のカトマンズで、学生街の飲み屋みたいな光景に出会うとは思わなかった。
別のテーブルには、フランス人の団体旅行客が陣取っている。ネパール人ガイドの仏語での説明を、おとなしく聞いている。
以前、フランス人ばかりのツアーに紛れ込んでしまった私の経験では、彼らほど集団行動に適さない国民はいない。まず人の話など聞かないし、集合時間も守らない。小柄なガイド氏の、今後の苦労が偲ばれる。