アメリカは早期退職の先進国だ。アマゾンの米国サイトで検索すると、関連本が山ほど出てくる。ジャンルは2つあり、「どうすれば若くしてセミリタイアできるか」と「リタイアしたら、何をするか」。リタイア後はボランティアをするとよい、と多くの本に書いてある。
日本で「善人による善意の行為」なイメージのボランティア。アメリカ人は、少し打算的に考えるようだ。ボランティアで様々な仕事を経験し、新たな自分の適性を探す。ボランティア経験を立派な要素として履歴書に書き、次の仕事につなげる。ボランティアで求められるような仕事には必ず社会のニーズがあるので、突き詰めればマネタイズ、つまり職業にすることができる、等々。
そんなもんか~、と思いつつ、とりあえずやってみることにする。有償の仕事はハローワーク。無償の仕事は社会福祉協議会で探す。
最近では、認知症グループホームと、在住外国人向け日本語教室に通っている。今回新たに、外出が不自由な人を車で送迎するNPOにも加入した。
入会に当たって「国交省認定の講習を受けてきて」と言われた。週末、「福祉有償輸送運転者講習会」に通った。
実習では、初めて車いすに乗せられ、リフトが付いた福祉車に体験乗車。その乗り心地の悪さに絶句する。時速30キロで道路上のマンホールを通過しただけで、衝撃とともに尻が車いすから宙に浮く。これはゆっくり走らなければ、と肝に銘じる。
次にハンドルを握る。助手席には自動車教習所の教官。つい一時停止の交差点で白線を越えてしまい、「普通なら検定中止ですよ」と脅される。
介助研修では、半身まひ役の男性を、車いすから助手席に移す訓練。中年のおじさん同士がひしと抱き合う。想像以上に重いうえに、かなり微妙な気分。
2日間の講習を終え、普通運転免許でも福祉目的で人を乗せられる資格を得た。
座学での大学講師の話。国内では人口の5%が移送サービスを必要とする障碍者・高齢者であること。これに対し、介護タクシーや移送NPOは圧倒的に不足していて、1人当たり40日に1回しか利用機会がないこと。それも通院目的の利用に限られてしまうこと。バス会社が法令でリフト付バスや低床バスを用意しても、そもそもバス停まで行けない障碍者・高齢者が多いこと。
それでも車いすの人が意を決してバスで外出すると、運転手の介助が必要になる。どうしても乗降に時間を食う。苛立った乗客の視線が背中に突き刺さる。こういう体験をすれば、2度と外出しなくなってしまう。
移動の自由は、大切な基本的人権のひとつだ。誰もが、人に会いに行ったり、買い物を楽しんだりできなければ、生きている甲斐がない。これまで目一杯、移動の自由を享受してきた。少しでもお返しができればと思う。
一抹の不安は、この手のNPOが「有償ボランティア」といって、実費程度の金を利用者から取ることだ。タクシーに比べれば格安とはいえ、金銭の授受が絡む。サービス提供者と利用者の間に、善意のやりとり以外の何かが混じることにならないだろうか。
限りある自分の時間。稼ぎを気にせず働けることに感謝しながら、できるだけ楽しみたい。
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