実験台のイヌに餌を与えると、条件反射で唾液が分泌される。
次に、餌を与えながら、メトロノームの音を聞かせる。
何度も何度も、それを繰り返す。
やがてイヌは、餌なしでも、メトロノームの音を聞いただけで唾液を分泌するようになる。
有名な「パブロフのイヌ」の実験だ。
この一連の手続きは「レスポンデント条件づけ」と呼ばれる。これを心理学用語で説明すると、
「無条件刺激と条件刺激の対提示の反復により、無条件刺激に対する無条件反応を、条件刺激のみの提示によって、条件反応として発生させる手続き」
ということになる。
まず、アルバート坊や(1歳)に白いネズミを見せる。
かわいいネズミに手を伸ばして触ろうとする、アルバート坊や。
そこに恐怖はない。
次に、坊やが白ネズミに手を伸ばした瞬間を狙って、ワトソンが鉄の棒を思い切りハンマーで叩いた。大きな音が、響き渡る。
数回繰り返すと、やがて坊やは、白ネズミを見ただけで泣き叫ぶようになった。
この実験により、「恐怖」という情動さえ、条件付けによって学習されることが明らかになった、ということだが…
いやはや、1歳児を相手にとんでもない実験をやったものだ。
と豪語したワトソンは、学習理論を引っ提げて一世を風靡した。
ここまでが、心理学の教科書で教わる部分。実は、この話には続きがある。
ワトソンは、「アルバート坊や」の実験で助手を務めた女性と不倫した。それが公の知るところとなり、大学を解雇される。
30代の若さで、心理学界から追放されることになった。
妻子と絶縁したワトソンは、不倫相手との間に2人の子をもうけた。「情緒的接触を排し、冷静に条件づけによって育てる」ことを育児の理想とし、「抱きしめるな、キスするな、頭をなでるな」と説いた本を書き、自ら実践した。
その結果、どうなったか。
長男は、うつ病を発症して自殺。次男も心を病んだ。次男は後年、「私たちは愛情を知らずに育った。父の理論は理論としては立派だが、人間を幸福にはしない」と語ったそうだ。
ワトソンの子どもたちの人生は、愛情を排除した環境がいかに人間を傷つけるかを、証明してしまったのだ。
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Cebu Philippines, 2025 |