25年間勤めた新聞社を50歳で離れて、今月でちょうど10年になった。
世の中には、似たような人がいる。
「魂の退社~会社を辞めるということ」稲垣えみ子著 幻冬舎文庫
この本の著者もちょうど同じ頃、50歳で朝日新聞を退職した。8年前に単行本で一度読んだのだが、最近母から文庫版をもらって、今回も楽しく読んだ。
著者の稲垣さんは、自由気ままな独身女性。それでも退職を決める際は、かなり逡巡したという。私の場合は扶養家族があったので、当時としては思い切った行動だったかも知れない。
稲垣さんは退職時、ずいぶん会社から慰留されたらしい。
私の退職時は、誰ひとり引き留める人がいなかった。
…なんでやねん!
稲垣さんは給料に頼らない生活を始めるにあたって、「電気のない暮らし」を実践した。冷蔵庫や洗濯機などの家電製品を使わない。室内の電気もつけない。夜に帰宅したら、玄関でしばらくじっとしている。
暗闇に目が慣れれば、ほとんど何でもできるという。
私といえば退職時、節約生活の代わりに、今まで以上に資本市場にどっぷり浸かる暮らし、つまり株式投資で生きていく方法を模索していた。
そして東京から移住した信州のわが家は、人里離れた森の中だ。いくら玄関でじっとしていても、何も見えてこない。稲垣戦術は使えないのだ。
彼女とはいろいろな面で正反対なのだが、読み進むうちに、思い切って退社した時の懐かしい気持ちがよみがえって来た(以下、本書より引用です)。
「高い給料、恵まれた立場に慣れきってしまうと、そこから離れることがどんどん難しくなる」「その境遇が少しでも損なわれることに恐怖や怒りを覚え始める」「その結果どうなるか。自由な精神はどんどん失われ、恐怖と不安に人生を支配されかねない」
「雇われた人間が黙って理不尽な仕打ちに耐えるのは、究極のところ生活のためだ。つまりはお金のためだ」「会社で働くということは、極論すれば、お金に人生を支配されるということでもあるのではないか」
「『お金』よりも『時間』や『自由』が欲しくなった」
「退職金の一部は税金の支払いを控除されるのだが、この控除額は、勤続年数が長いほど増える」「つまり、会社から自主的に自立、独立する人間には国家からペナルティーが科されるのである」
「失業保険はなんと、別の会社に就職しようとしている人だけが受け取ることができるのであり、個人で独立して生計を立てようとしている人間には受給資格がない」「会社員にあらずんば人にあらず」「国までもが会社に属さない人間に『懲罰』を科してくるのである」
会社を辞める時に背中を押してくれた亡妻のためにも、これからもハッピーに暮らそう。
Musee d'Orsay Paris 2024 |