2025年9月12日

HIKIKOMORI

 

不登校や引きこもりの子に、心理専門職としてどう関わっていくか。

増え続ける不登校と、中高年への広がりが指摘されるひきこもり。心理系大学院入試でも、事例問題としてよく出題される。

対応の基本は、その子単独の問題として捉えるのではなく、家族システムの中に生じている悪循環にアプローチしていくことだという。

 

「社会的ひきこもり~終わらない思春期」(PHP新書)の著者で、不登校やひきこもりの事例に長年関わってきた精神科医の斎藤環氏のインタビュー記事の一部を、日経ビジネス電子版より紹介します。

・「Hikikomori(ひきこもり)」は英語になって、辞書にも載っている。日本には、成人した子どものケアを両親がナチュラルに続ける文化がある

・英国や米国では、成人した子どもは家から出ざるを得ず、社会参加できなければホームレスになる。日本における「ひきこもり」に該当するのは、英米では「ホームレス」

・でも最近は英米でも、子どもがかわいそうだから家で面倒をみよう、という親が増えている

2022年度の統計で、不登校は小・中学校で約30万人。原因の1位は「子ども同士の人間関係」で、いじめも含まれる。2位は「教師との人間関係」で、ハラスメントも含む。3位は「家庭の問題」で、ネグレクトなどの虐待

・逆にいえば、子ども本人に原因があるケースはほとんどない

・ところが文部科学省の調査では「不登校の主な要因」で最も多いのが生徒本人の「無気力・不安」で、次が「生活リズムの乱れ・あそび・非行」。「生徒本人のせいだ」という回答が6割以上を占める

・自分たちのせいにしたくないので、子どものせいにしている

・親の対応としては、不登校の子には学校の話をしない、ひきこもりなら仕事の話や将来の話は一切しない。これが大前提で、それ以外のおしゃべりを親子でたくさんすること

・親としては難しいことだが、そこを我慢する。そして、「話すことを我慢している」ことを子どもに分かるようにする。手のうちを全部見せることが、信頼関係につながる

・暴言や暴力も、不登校・ひきこもりに伴いやすい。親は「私は暴力を受けたくない」「私はイヤです」と言っていい。「ダメ」は「禁止の言葉」で子どもには全く通用しないが、「イヤ」は「拒否の言葉」で結構効く

・親の家出も有効。1週間ほど家出して帰る頃には、子どもの暴力が収まっていることが、かなりの確度で期待できる

・ひきこもりの解決策の優先順位は、「親のセルフケアが1番。2番目が子どものケア」。そうしなければ、共倒れになってしまう

Matsumoto Japan, 2025


2025年9月5日

昭和の新入社員 令和の新入社員

 

山岳部の後輩で4月に就職したなっちゃんと、社会人2年めのマソラさん。

八ヶ岳登山のついでに、わが家に寄ってくれた。

「会社で働くのは楽しいです!」 なっちゃんが、生き生きとした顔で言う。

は? 会社で働くのが、楽しい?

(ぼくは25年会社で働いたけど、楽しいと思えたのは3分だったよ涙)

彼女の会社は、完全フレックスタイム制。出社時間も退社時間も、自分で決められる。

(なっちゃん、ぼくが就職した頃はね、新入社員は誰よりも早く出社しなきゃいけなくて、夜は上司が帰っていいと言うまで毎晩、残業だったよ涙)

マソラさんはというと、新卒で入った組織にさっさと辞表を出してきた。

医療系の国家資格を取るべく、再び学校で勉強するという。

この2人と自分とは、仕事観、職業観がまったく違うんだろうなぁ。

 

『働くということ』(集英社新書)の著者で組織開発コンサルタントの勅使川原真衣氏が、「職場をダメにするブレない上司~成功体験にこだわり部下をつぶす」と題してインタビューに答えている。

こういう上司、いたいた! ウチの職場にも。

日経ビジネス電子版から一部を紹介します。

・一元的な能力主義で組織を運営するマネジャーは、誰に対しても同じ態度で接しようとする。一見、公平でいいことのようだが、多様な人たちに対して同一のモノサシを当てて評価するので、個人の持ち味の違いをうまく引き出せない

・その人がマネジャーに抜てきされたのは、「過去に」成果を上げたから。だから、そのときの成功体験をどうしても引きずってしまう

・一元的な能力主義の下、「強くあれ、勝ち続けろ」「優秀さのみが正しさである」という価値観で仕事をしてきた人が、マネジャーとしてチームを率いる立場になると、部下にも同じことを求めてしまう

・部下が成果を出せないときに、「自分の側が変えられることはないだろうか?」と思えればいいが、相手の問題にするほうが楽。部下が弱かったから、能力がなかったからと考えたほうが「優秀な自分」を温存できて、精神衛生にいい

・マネジャーが自分の成功体験を引きずり、それだけを正攻法だと捉えて部下にも同じやり方を押しつけてしまうと、それが合わない人は認めてもらえなくなる

・いまだに大企業は「優秀な人」を求めている。職務要件をはっきりと定めず、「どんな部署でも頑張れる人」を採りたがっている。求める人材像は「即戦力」で「万能選手」。そんな、スーパーマンみたいな人はいない

Shanghai China, 2025


2025年8月28日

やられたら、やり返せ!

 

学生時代の同級生Z子さんが、わが森の家にやってきた。

昔からの彼女の印象といえば、「まじめ」「物静か」「しっかり者」「努力家」。

卒業後、実業家の夫と結婚して3人の娘をもうけた。

上の2人はもう社会人だ。

娘さんたちは今、恋多き年ごろ? それとも草食系だったりするのかな。

聞いてみたら、長女と次女にはボーイフレンドがいるという。

 

長女に恋人ができたらしいことには、うすうす気づいていたZ子さん。

そのうち、あろうことか、その彼と、夜中に、自宅の洗面所で、鉢合わせするようになった。

「あ、どーも」

「あ、ども…」

お互い、軽く会釈してすれ違う。

そのうち、冷蔵庫の中身が、異常な早さでなくなるように。

そこで初めて、わが娘の部屋にオトコが住んでいることに気づいた。

カセットコンロを持ち込んで、煮炊きしていたという。

「だって私、昼間は仕事でいないし…」

「それにウチは会社兼自宅で、リビングは3階、娘の部屋は1階だから…」

と、言い訳するZ子さん。

「まさか…ダンナも気づかなかったの?」

「彼はほら、あの通り愛想のない人だから」

夜中の洗面所で娘の彼氏と鉢合わせしても、チラッと一瞥をくれるだけ。

ダンナさまも、特に気にしていないという。

隣にいたK子さん(Z子さんの親友)(同じく20代の娘の母)が、口をあんぐり開けて、Z子さんを見つめていた。

 

そして最近、次女にもボーイフレンドができた。

夜になっても、帰って来ない。

どうやら、彼の部屋で同棲を始めたらしい。

ここまで話したZ子さんが、低い声で呟いた。

やられたら、やり返せ! だよ」

やられたら、やり返せ…?

 

長女の彼も次女の彼も、

「2人とも、とってもいい人」

だ、そうだ…

Cebu Philippines, 2025


2025年8月22日

命の恩人

 

猛暑の東京から、今年もXさんがやってきた。

お盆の帰省客に混じって、赤いTシャツに薄いサングラスの怪しい男が、ホームに降り立つ。

こう見えてもXさん、大手新聞の海外支局を渡り歩き、現在も社の中枢を担う敏腕記者である。遠い目をしながら知的な語り口で、理路整然と話し出す。

「赤坂の△△ホテルにナース兼デリヘル嬢のサトウさん呼んで〇〇〇プレイしてたら…」

実は彼の話の8割が、エッチ系下ネタ。カードキーなしでエレベーターに乗れる(=部屋にデリヘル嬢を呼べる)都内の高級ホテルを、完璧に把握しているからすごい。

「そうしたらナースのサトウさんが『Xさん、前立腺が腫れてるよ』って。検査してみたら、放っておけば命に関わる病気が見つかったんです」

〇〇〇プレイ転じて、福となす。

触診で病変を見つけた看護師兼デリヘル嬢サトウさんは、Xさんの命の恩人だ。

(その後も下ネタが続いたが、当ブログの貴重な女性読者を失うので控えさせて頂きます)

「治療のためのホルモン注射で男性ホルモン値がゼロになったから、最近は煩悩も全くありません」と、Xさん。

その割に、先日も真夜中の銀座・ポンパドゥールで、疲れた顔をした水商売の女性にパンを大量におごって、連絡先を聞き出したという。

どこが煩悩ゼロなんだか。

ま、お元気そうで何よりだ。

コロナ禍以降、銀座の夜の店も12時には閉まるようになった。東京メトロ銀座線の終電は、ドレスの上にコートを羽織った物憂げな女性で満員だそう。

八ヶ岳の森から、大都会の夜を垣間見た。

Xさんは世界を取材して歩き、南米もほぼすべての国を制覇している。

「観光旅行で南米に行くとしたら、どの国に行けばいいですか?」

「なんといっても、コロンビアです」

「コロンビア? へぇー、そんなにいい国なんだ」

「ベネズエラもきれいだけど、あそこは整形が多い」

あ、そっち方面の評価ね。

「私は夜型人間だから、朝はいつもコーヒーだけ」

と言った翌朝、Xさんはゆで卵4個にバターを山盛りにして食した。

彼が去った後の食卓には、大量の卵の殻が散乱していた。

私生活での言行不一致が、記事の信憑性を損なう事態に発展しないか心配だ。

帰りの車内で社説を書くそうですが、くれぐれも、あらぬ方向に筆を滑らせないように…

Bangkok Thailand, 2025


2025年8月15日

逃げ腰スクールカウンセラー

 

中学校のスクールカウンセラーの相談室に、3年生の女生徒がやってきた。

そして突然、軽い調子で

「先生、実は生理が遅れているんだけど、やばいと思う?」と聞いてきた。

12月の初めに知り合った男の子と実はセックスしちゃった。コンサートに行って知り合った子で、本名もどこに住んでるのかも知らない」とのこと。

父子家庭で父親は仕事が忙しく、夜遅くまで帰って来ない。

「パパには絶対話さないで。担任にも話さないで」という。

「もし妊娠していたら、あなた一人ではどうにもならないよ」というと、

「テレクラで金のありそうなおじさんと知り合って援交して、お金をもらっておろす」という。

【あなたがスクールカウンセラーだったら、この生徒に対してどのように対応するか。30分、600字以内で答えよ】

 これは先日、名古屋の心理系大学院予備校で出された問題だ。

「事例問題」といって、大学院入試でよく出るスタイルらしい。

この設問も、実際に東京の某女子大学院で過去に出題されたものだ。

もし、本当に女子生徒からこんな告白されたら?

自分なら、大パニック間違いなし。

女性の養護教諭を探し出して、3秒でバトンタッチしたい。

でも、受験本番で答案用紙にそう書けば、3秒で不合格になる。

大汗かきながら、なんとか600字は埋めたが、支離滅裂な答案になった。

帰宅後にテキストの模範解答を読んだら、プロはこのように対応するらしい。

・早急な対応が必要で、受容・共感的なカウンセリングだけをやっていればよいケースとは異なる

・まず援助交際や不特定多数との性行為など、これ以上自分を傷つけないようにすることを要請する

・中絶に伴う困難、出産する場合の困難などの情報を伝える

・産婦人科はハードルが高いので、市販の妊娠検査薬の使用を勧める

・カウンセラーだけでの対処はあり得ない。養護教諭や担任、場合によっては児童相相談所や医療機関とも連携し、チームで対応する

・「あなたにとって一番良い方法を一緒に考える」というスタンスを堅持して、様々な関係者との連携を模索するための下地作りをする

 

ちなみに、この生徒には「躁的防衛」が見られ、「超自我的な抑制」が弱く、親子関係の不全が根底にある「境界例的心性」が想像される、とのこと。

かろうじて、「養護教諭との連携」だけは正解だったけど…

大学院合格への道のりは、かなーり険しいね。

Nagoya Japan, august 2025



2025年8月8日

100日間世界一周の真実

 

セブ島英語留学で知り合ったドクター・ミワのダンナ(略してDD)が、勤めていた大企業を辞めて、船で世界を一周してきた。

これはぜひ話を聞かなくては! 

夫妻が暮らす和歌山まで行ってきた。

予備校の講義を終え、気温38度の名古屋から西へ。城下町・和歌山は海風が吹き抜けて、意外にも涼しい。ま、名古屋と比べての話ですが。

地元っぽい小料理屋の個室で3人、おいしい魚を頂きながら話を伺った。

DDさんが乗った客船は、定員1800人。3分の2が日本人客で、平均年齢76歳。日本を出港してから最初の寄港地までの間に、3人が亡くなったという。

「そういう死に方、本望かも知れませんねー」と、DDさん。

全財産を船室に持ち込んで、船を住処にして地球をグルグル回っている富裕層もいるらしい。

命が尽きるまで海の上…?

寄港地は全部で17か所。今回の航海では南半球をぐるりと回って、南極の氷も見ることができた。

「ペンギンって、群れで水面を滑空するんです。水族館のペンギンとはぜんぜん違った!」

DDさんが大ピンチに見舞われたのは、マダガスカル。日帰りのつもりで内陸のバオバブ林を見に行った帰り、港に戻る飛行機がまさかの欠航。予定外の1泊を強いられた。その間に、無情にも船は出港してしまった。

着の身着のまま、飛行機を乗り継いで船を追いかけ、なんとか1週間後に合流できたという。

南米の寄港地では他の日本人客が強盗に襲われ、金目の物をすべて奪われた。

貧しい国の強盗たちからすれば、お金持ちが豪華客船に乗ってやってくるのは、まるで鴨が葱を背負って来るようなものだろう。

世界一周100日間の船旅は、一見優雅なようで、実はいろいろあるみたい。

いったん帰国したDDさん、今度はモロッコに3週間滞在。魔窟のようなスーク(旧市街)でホームステイしながら、フランス語学校に通った。

そして先月は、娘さんと2人でスイス・アルプスへ。

糸の切れた凧だ。

その間、ドクター・ミワは「私が稼ぐからいいわよー」とばかり、連続36時間勤務の夜勤を挟みながら、病院で働いたという。

ああ見えてDDさん、よっぽど今まで奥さんに徳を積んできんだろうな。

「さすがに金がなくなった。いま妻に離縁されたらすごく困りますー」

最近、DDさんは料理の腕を磨いて、夕食作りを買って出ている。

「妻には、ご飯がおいしいから家に帰るのが楽しみと言ってもらえます」

がっちり、奥さんの胃袋を掴んでいる様子。

策略家である。

Wakayama Japan, 2025


2025年7月31日

自己愛性パーソナリティ

 

心理的障害のひとつに、「自己愛性パーソナリティ障害」がある。

自己愛性パーソナリティの特徴は、アメリカ精神医学会の診断基準では

・自己の重要性に関する誇大な感覚。業績や才能を誇張する

・限りない成功、権力、才能、美しさの空想に囚われている

・自分が特別で独特で、他の地位の高い人にしか理解されないと思っている

・過剰な賞賛を求める

・特権意識があり、自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する

・自分自身の目的を達成するために他人を利用する

・共感の欠如。他人の気持ちを認識しようとしない、または気づこうとしない

・しばしば他人に嫉妬する。あるいは他人が自分に嫉妬していると思い込む

・尊大で傲慢な行動または態度

・男性に多い

…この性格特徴、某超大国の現職大統領に、ほとんどの項目が当てはまってしまうのでは? 


予備校のミヤガワ先生の話では、幼少時にほとんど叱られず、褒められすぎて育つと自己愛性パーソナリティになりやすい,、という。

現代日本で、子どもは「褒めて育てる」が基本だ。

日ごろ親から褒められて育った子は、自己愛が肥大化する。たくさん賞賛されないと、承認欲求が満たされなくなる。SNSの自分のポストにたくさんの「いいね」がつかないと、不安になってしまう。

何ごとも、ほどほどがよろしいようで。

でも、自己愛性パーソナリティの人が持つ傲慢さ、尊大さ、妥協を許さない心は、創造的な営みにおいては非常に大切らしい。

「誇大ともいえる自信があるからこそ、誰にもなしえない成功ももたらされるのである」(岡田尊司著「パーソナリティ障害」PHP新書より)。

同書によると、アーティストや芸術家にこうした特性は不可欠。画家のサルバドール・ダリ、ファッションデザイナーのココ・シャネル、彫刻家のオーギュスト・ロダンも、自己愛性パーソナリティの持ち主だったようだ。

そしてそして。

引きこもりも、自己愛性パーソナリティ障害の随伴症状だという。

「自分が抱いている偉大な成功と、卑小な現実が釣り合わなくなった時、ナルシシストは、自分の小さな世界に閉じこもることによって、失望したり、傷つくことから身を守るのである」(同書より)。

 

超大国の大統領や芸術家と引きこもりが、同じ精神病理で語られるとは…

心理学って面白い。

Cebu city Philippines, 2025


HIKIKOMORI

  不登校や引きこもりの子に、心理専門職としてどう関わっていくか。 増え続ける不登校と、中高年への広がりが指摘されるひきこもり。 心理系大学院入試でも 、事例問題としてよく出題される。 対応の基本は、その子単独の問題として捉えるのではなく、家族システムの中に生じている悪循...