2021年11月27日

人体の不思議

 

 虫の居所が悪いと、すぐ部下を怒鳴りつける。

 その当時のボスは、絵に描いたようなパワハラ上司だった。

 そして、外回りから内勤に異動した私に与えられた席は、よりにもよって、ボスのすぐ隣。

 案の定、定期的に怒号が飛んできた。幸い頭上を通過して、前後左右の同僚に着弾することが多かったが、生きた心地がしなかった。

 そのうち、ボスのいる側の耳が、聞こえなくなった。私の耳をのぞいた耳鼻科の医師が、重々しく病名を告げた。

「あなたはジコウセンソクです」

 やった! これで会社を休める! 

と、思いきや…

 ジコウセンソクを漢字にすると、「耳垢栓塞」。まったく恥ずかしい。

 それにしても。

 不快な音を、こんな方法でシャットアウトしてしまうとは。

人体は、よくできてる。

 

 あれから10年、最近また、耳に違和感が…

 今回は、思い当たる節がない。

 あの頃は大きな会社にいたので、社内に診療所があった。今度の職場は、小さな町のはずれにある。耳鼻科のありかを同僚に尋ねると、

「この町にはろくな医者がいないよ。私はいつも、クルマで隣町まで行くよ」

 別の同僚も、

「耳鼻科の医師がおじいちゃんで、手が震えて診察にならないの。診てもらった子どもが、怖がって泣いて。もういいですって、途中で帰ってきちゃった」

 散々な口コミに恐れをなして、私もさっさと隣町へ。電話で予約を取ろうとしたら、「予約は受け付けません」。いつでも勝手に来い、と言う。

 年季の入った診察椅子に座り、まな板の鯉になる。

今回の診断は、外耳炎。

 やった! 耳垢栓塞より、よほど聞こえがいい。ずいぶん出世したもんだ。

それで先生、原因は?

パソコンに顔を向けたまま、初老の医師がクールに言った。

「耳垢の溜めすぎ」

 なんだ、同じじゃん。

 

 ネット検索によると、過度の耳掃除が、外耳炎の一番の原因だという。

 耳を掻くべきか、掻かざるべきか。

 それが問題だ。



2021年11月19日

コロナに効くのは、カブとワクチン

 会社を離れて、はや7年。

 当時の同僚たちは、定年が視野に入ってきた。

 先日は、定年前研修があったらしい。ファイナンシャルプランナー(FP)との個別相談に臨んだ同僚が、とってもうれしい報告をくれた。

彼女と面談したFP氏が、

「私のDC年金(ミヤサカさんに聞いたまま選んだ)の額を見て、ちょーーーーーーーーーーーびっくりしていました」

「こんな完璧な選択、配分、見たことない、今までで一番高額だ、と言っていました」と。

 やったね!

 

 リーマンショック後、年金運用の重荷に耐えかねた会社が、確定拠出年金(DC)を導入。「これからは自己責任でやってね」とばかり、その運用を、我々社員に丸投げしてきた。

 値上がりする資産ほど、税の優遇を得られる制度だ。私は迷うことなく、全額を株式投資信託に投入した。さらに、労働人口が減っていく日本より、これからはアメリカや新興国の時代でしょうと、大半を外国株に振り向けた。

周りにも自説を吹聴してみたのだが…ミヤサカFPを信じてついてきてくれたのは、彼女ひとりだった(涙)

 

そして今、世界の株価(MSCI世界株指数)は、リーマンショック(2008年)の安値から6倍に値上がりした。

そしてこのコロナ禍でも、リスクが高いと言われる株式市場は、実はビクともしていない。

GAFAMはもちろん、ワクチンを開発したモデルナ、リモートワークの必需品ズームなど、コロナを奇貨とした外国企業の株価が、市場を押し上げている。

 

たかがお金、されどお金。

お金は、ないよりあった方が、人生の選択肢が広がる。

たったひとりでも、誰かの人生を、いい方向に変えられたかな?

ちょっとでも変えられたとしたら、すごくうれしい。 



2021年11月13日

湖畔の宿の人間模様

 

 自宅からクルマで30分、湖に面して小さなゲストハウスが佇んでいる。

 コロナ禍前は毎年夏、ここで働いていた。

 久しぶりに訪ねて、管理人と話していると、ひとりの女性がふらりと入ってきた。

 妙に身軽で、ほとんど荷物を持っていない。

 管理人の友人が小声で教えてくれたところによると、この女性、すぐ近くに住んでいる。2泊していったん家に帰り、また2泊しては帰宅、を延々と繰り返しているという。

 怪しい。この人はいったい何者?

 ここで、ヒントその①

 しばらく前から始まった、県民限定の宿泊割引。

うまく使えば、ホテル代が食事付きで半額ほどになる上に、周囲の店で使えるクーポンまでついてくる。

 さらに今月から、このゲストハウスのある町も、宿泊施設に割引で泊まれるキャンペーンを始めた。

 県と市の割引制度をダブルで使えば、タダ同然でホテルに泊まれて食事も出て、もらったクーポンで買い物までできてしまうのだ。

 

 ただし割引が効くのは、連続2泊まで。

 この辺りに、謎の女性の思惑が隠されている…?

 

 ゲストハウスにこの夏、ひとり旅のロン毛青年がひょっこり現れ、泊まっていった。

そのうち、友人の元で、住み込みで働き始めた。

その時の所持金、わずか9000円。

年齢を聞くと、まだ19歳だという。

家族といろいろあって、東北地方の実家から10代前半で上京した。中学や高校には行かず、簿記やプログラミング、証券アナリスト業務を自学自習している。元カノはドイツ人で、今の彼女は現在イギリスに留学中。

 話を聞けば聞くほど、規格外の19歳。

そして、自立心の塊みたいな人だった。

 

 2段ベッドの相部屋と、広い共同キッチンがあるこのゲストハウスは、ファミリーやバイクの若者に人気がある。コロナ禍前は外国人旅行者も混じって、連日賑わっていた。

 割引料金で2泊3日、ここでのんびりマンウォッチングも楽しそう。




2021年11月5日

冬の皮算用

 

 5℃、4℃、3℃、2℃、1℃。

 毎朝、玄関先で測る気温が、きれいに1℃ずつ下がっていく。

勤務先の自然学校では、何度か氷点下を記録し、雪も降った。

ヒタヒタと、冬の足音が。

 

 近所の家は、ほとんどが夏の別荘なので、もうとっくに人影がない。

でも中には、定住しているもの好きが、わずかにいる。

「冬は、ひと月400リットルの灯油を使うよ」

「暖房費が月5万円かかるぞ」

 彼らの話が本当なら、給料が、そのまま石油ストーブの燃料代に消えそう…

 

 昨冬は、正月3が日まで、この森でがんばった。

 大晦日 マイナス15

 元旦 マイナス10

 外の水道管が凍結して、洗面所もキッチンもトイレも、水が出なくなった。風呂場の水栓が、凍って破裂した。

 夏向きに作られたこの家で、冬を越すのは無謀?

 自然学校で働く契約は、来年3月まで。腹をくくるしかない。

 ガソリンスタンドを往復し、家にある200リットル入り灯油タンクを満たす。ホームセンターで凍結防止ヒーターを買い、水栓に巻き付ける。

でも、リビングでストーブ2台ガンガン炊いても、すでに廊下と風呂、トイレの寒さといったら…

 

 幸いコロナが一段落し、観光への支援が復活した。県民向け宿泊割引に加えて、地元市民向けの別の割引も再開。ダブルで使えれば、かなりお得だ。

いざとなったら、すぐ近くのリゾートホテルに避難しちゃおう!

でも、温泉旅館もいいなぁ。

露天風呂に浸かって、雪景色を眺めて。

バイキングの朝夕食付プランもあるよ。

 

じゃらんや楽天トラベルを見て、ちょっと冬が楽しみになったかも。



2021年10月29日

リモート会議が近すぎる

 

 コロナが収まった今頃になって、職場で初めてリモート会議をした。

 スタッフ中最年少の私が、有無を言わさずホスト役を命じられる。タダで飲み会に使っていたズームに、初めて利用料を払った。

会議当日。半分以上のスタッフが、「ズームの使い方がよくわからない」と言って、ゾロゾロ職場に集まってきた。

お互いの顔がすぐそこにある、不思議なリモート会議。

 

開始時刻になり、議題に入ろうとすると、不測の事態が。

ひと部屋で大勢がアクセスしたせいか、発言者の声がハウリングして、ワンワン反響する。何を言っているのか、さっぱり聞き取れない。耳が痛くなる。

たまらずスドーさんが、パソコンとイスを抱えて戸外に飛び出した。距離を取ったら、反響が収まった。やっとズーム会議らしくなってきた。

ダウンを着て震える画面上のスドーさん。その後ろに、黄金色に輝く秋の森が映りこんでいる。きれいすぎて、かえってバーチャル背景にしか見えない。

ふと横を見ると、自分のスマホでアクセスできなかったヒデコさんが、隣のマリさんのパソコンに自分も映るよう、マリさんにピッタリくっついている。

リモート会議どころか、濃厚接触会議!

 

その翌週、両親をクルマに乗せて、ドライブに出た。

元気に旅行もできるが、ふたり揃って80代。ピアス代わりの高性能補聴器が、耳に光る。

出発してしばらくすると、助手席の父がキョロキョロし始めた。

「どこかから人の声が聞こえてくる」

そのうち後部座席の母も、

「女の声がする!」

 カーラジオもオーディオも、スイッチを切ったはずだが…

「今度は後ろから聞こえたぞ」

「また右のほうから!」

 これが深夜のドライブだったら、かなり怖い状況…

 

 交差点を左に曲がった時に、謎の女の正体がわかった。

カーナビの案内音声だった。

 

ICTが進歩しても、使い方に慣れないと、まじめなコミュニケーションが漫才になる。

「やり方忘れないうちに、また集まってズーム会議しよう!」

職場の人たちは、張り切っている。



2021年10月23日

クライマーと同調圧力

 

 夫婦そろって日本屈指のクライマーMさんに、女の子が生まれた。

 出産を見届けてすぐ、パパは仕事で富士山頂へ、ひと月の出張。ママは早くも、「まずは親子でジョン・ミューア・トレイル!」と張り切っている。

ネットで調べたら「アメリカ西部を縦断する340キロのロング・トレイル」「踏破に1か月、途中に山小屋は一切なし、テント・寝袋・食料すべて自分で背負う事」「ゴール地点は標高4418m」「夜はブラックベアーに注意」だって。

 子どもが生まれる前、夫妻は8か月かけてアメリカ大陸を縦断し、岩壁を登りまくっていた。2人にとってはこのトレイル、上高地を散歩するぐらいの感覚なんだろうけど…はるちゃんと名付けた女の子は、いま生後4か月

 

 作家・演出家の鴻上尚史が回答者を務める「ほがらか人生相談」(AERA dot. の連載)に、30代女性からこんな質問が寄せられた。

 夫婦ともフォトグラファー。一家で住んでいたアメリカから、6年ぶりに帰国した。転校した日本の学校で、ビビッドな色の服が好きな小5の娘が「服が派手」と言われ、冷たい目で見られている。親として、どうしたらいいか。

 それに対する鴻上さんの回答が、ふるっている。

・神風特攻隊は、近代軍隊が組織命令として死ぬことを要求した。世界的にも、「死ぬ命令」を出した組織は他にない。同調圧力が強く、自尊意識が低い日本だからこそ、特攻という作戦が成立した

・「同調圧力の強さ」と「自尊意識の低さ」は、日本の宿痾

・軍隊がなくなった今、娘さんは同調圧力が一番強い「学校」という組織で苦しんでいる。娘さんがいま直面し、苦しんでいるのは「日本」そのもの

・お父さんが「ひと目なんか気にせず、お前らしく好きな服を着ろ」と言うのは、フォトグラファーという職業が、教師やサラリーマンに比べてはるかに同調圧力が低いから

・アメリカにも同調圧力はあるが、日本ほど強くない。そして皆、自尊意識を持つよう教育される。日本は逆に、自尊意識に対する教育がほとんどない。そして道徳の授業などで、ひたすら同調圧力に敏感になるよう教えられる

・敵は「日本」そのものなのだから、娘さんが正面から切り込んだら、ほぼ間違いなく負ける。対抗手段のひとつは、同調圧力の少ない組織に移動すること。アメリカンスクール、自由な校風の私立、帰国子女が多い学校など

・または、同調圧力に合わせて、地味な服装で登校する。その代わり、放課後や親しい友だちとのお出かけで、自分が着たい服を着て楽しむ。負けたとは思わず、今の学校で生き延びるために選んだ戦略、と心得ること

 

 クライマーという職業(?)は、フォトグラファー以上に同調圧力が低そう。はるちゃんもそのうち、パパやママが世間一般と違いすぎて、面食らうかも知れないなぁ。



2021年10月15日

サンク・コスト

 

 新たな一歩を踏み出すためには、何かを「やめる」ことが大切。

 時間は有限だから、何かをやめないとすき間ができない。

 そして有効なのは、やめるタイミングをできるだけ早くすることだ。

 経営学者の楠木健(一橋ビジネススクール教授)は、前書きを読んで面白くなかった本は、必ずそこで読むのをやめるという。

 はやっ!

 

 日本マイクロソフトを退職して「『やめる』という選択」を書いた澤円氏と楠木氏が、日経ビジネス電子版で対談した。楠木氏のことばをいくつか、ここにピックアップしておきます。

 

・やめることは、決してネガティブなことではない。「何かをやるということは、何かができない」ということ。だから、「何をやめるか」ということは、戦略的な意思決定だ

・順番としては、「何かをやめないと、何かができない」。起点にはいつも「何をやめるか」という選択がある

・やめるという選択が「良いことと悪いことからの選択」であれば、良いことを選べばいいのだから、誰でもできる。でも本当の選択というのは、「良いことと良いことからの選択」。そこには、センスが必要になってくる

・「それをしない」と選択することは、実は相当強い意思決定。放っておくと、「あれもやれ、これもやれ」というフィードバックがかかってくる。「やめる」ということには、最高の能動性、主体性が求められている

・計画を立てることも、やめたらいい。物事において、計画を立てすぎてしまうと、偶然性に対する間口が狭まってしまう。計画を立てるほど「いつか」は増えていくけど、「まさか」が減ってしまう

 

 さすが、ビジネススクールの先生はいいこと言うよね。

 でも…

 田舎でシンプルに暮らしていると、都会生活ほどTo Do リストが溜まらない。何かをやめないと時間のすき間ができない、なんてことには、ならない。

逆に、どうやって時間をつぶそうか、と思案する日がある。

 だから、前書きを読んで面白くない本も、半分読んでみだけど依然として面白くない本も、根性で最後まで読み通す。お金がもったいないし。

 楠木先生によると、私みたいに「せっかく買ったんだから」といって時間を浪費する人間を、「人生に埋没費用(=サンクコスト Sunk costを抱えている人」、と呼ぶそうだ。



HIKIKOMORI

  不登校や引きこもりの子に、心理専門職としてどう関わっていくか。 増え続ける不登校と、中高年への広がりが指摘されるひきこもり。 心理系大学院入試でも 、事例問題としてよく出題される。 対応の基本は、その子単独の問題として捉えるのではなく、家族システムの中に生じている悪循...