「クルマも来ないのに赤信号で立ち止まってるバカな奴」
パリの交差点で歩行者用信号が青になるのを待っていると、そういう視線を浴びる…気がする。
まずたいていの人が、信号を無視する。近づいてくる車のスピードを目で測りながら、その鼻先をすり抜けて道を渡っていく。
フランスの小学校は必ず親が付き添って登下校するのだが、ママやパパたちも、わが子の手をしっかり握って、果敢に信号無視だ。
実は自分も密かに「クルマも来ないのに赤信号で待つのは人生の浪費」と思うクチだ。パリでは道の向こうに無垢な子どもがいても、率先して信号無視して大人の矜持、大人の流儀、大人の規範を見せる。とても居心地がいい。
ただ、くせ者は自転車だ。いつの間にかパリ中の大通りに自転車専用レーンが整備され、電動アシスト付自転車も普及した。クルマだけ見て道を渡ろうとすると、反対方向から電動自転車が、時速40キロで音もなく近づいてくる。
あんなのに轢かれたら、死なないまでも、大けが必至だ。
10代から50代のパリジャン&パリジェンヌは、たいてい耳にワイヤレスイヤホンをつけている。日本みたいに大人しく音楽を聴いている人は少なく、ポケットのスマホ経由で、どこかの誰かと賑やかに通話しながら道を歩く。
傍から見ていると、歩行者がみんな大声でひとり言を言っているよう。さらに身振り手振りが加わるから、まるでそこら中で一人芝居をやっているみたい。
やがてそういう風景に慣れても、時々、意味不明の言葉を大声で繰り返しながら行ったり来たりする男性や、あり得ないほどのテンションで笑い続ける女性を見かけたりする。
薬物中毒かも… 精神障害かも…
できるだけ目を合わせない方がいいだろうなと、つい伏し目がちになる。
そしてパリは、ホームレスの人が多い。
セーヌ川にかかる橋の下にはテント村ができているし、道を歩いていても普通に見かける。
そして彼らも、一般パリ市民に負けず劣らず自己主張が強い。
冷たい雨の中、近くの軒先に入ろうともせず、全身ずぶ濡れになりながら人通りの多いカフェの入り口に陣取るのは…なぜ?
片側2車線の大通りのど真ん中で、騒音と排ガスにまみれながら中央分離帯に寝袋を敷いて寝るのは…なぜ?
どんな境遇でも、人とは違う自分でありたいのだろうか。
東京が予定調和の街だとしたら、パリは不協和音に満ちている。
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