ハリス家の夫マイケルは、言っちゃ悪いが「ダメ夫」の典型みたいな人だ。
ホームステイ初日の夜、夫マイケルがお洒落してどこかに出かけて行く。アイロンがかかった純白のシャツに、肩まで垂らしたドレッドヘア。なかなか男前だ。年齢もハリス夫人より10歳は若そう。父親がジャマイカ出身だという。
そのまま、一向に帰って来ない。午前3時、ブチ切れたハリス夫人が夫マイケルに電話。ドスの効いた夫人の低い声は、迫力十分だ。
夫マイケルは、10数分で飛んで帰ってきた。かなり近くで飲んでたみたい。地元が大好きな、マイルドヤンキーか。
彼は翌日の午後まで、半裸でリビングのソファに転がっていた。その体は指先や手の甲から、腹や背中に至るまでタトゥーだらけ。
そしてまったく同じことが、翌週末も展開された。懲りない人である。
ろれつが回らない上に早口なので、彼の英語は解読不能。家じゅうの壁に張られた、エルビス・プレスリー、モハメド・アリ、ジェームス・ディーン、マリリン・モンローのポスター。トイレのドアは開け放ったまま放尿する。
そんな彼だが、ある朝私がトーストを焦がして火災報知機が鳴った時は、別人のような機敏さを見せた。脱兎のごとく2階から駆け下りて玄関ドアを開け、煙を外に逃がしてくれた。彼がいなかったら、大騒ぎになっていた。
ハリス夫妻の次男メイソンは、コンビニ店員。私の隣の部屋にいるのだが、夜中に盛んに咳をする。ハリス夫人によると、「あれは電子タバコの吸い過ぎ。イギリスでは紙のタバコより安いから、12~13歳から吸い始めるのよ」
週の半分は、どこかに外泊して帰ってこない。
誰もいないキッチンで朝ごはんを食べていたら、カゴの中にリウマチの薬を発見した。きっと「ビール命」の夫マイケルが患っているのだろう。
でも一緒に置いてある妊婦用の葉酸タブレットは、いったい誰が…?
その謎は、まもなく解けた。ガチャガチャッと外から玄関のカギを開ける音がして、赤ちゃん連れの若い夫婦が入って来た。
「Hi!」「Hi!」と、お互い自己紹介する。ケイシーと名乗った女性が、
「私はハリス夫人の孫です」と言う。
えっ孫? 思わず聞き返した。確かに、Grand-daughter だと。
…とすると、生後2週間のこの赤ちゃんは、ハリス夫人のひ孫?
孫娘ケイシーによれば「おばあちゃんは61歳」。計算上、不可能ではない。
平均的な日本人が2世代回る間に、ハリス家では3世代回っちゃうのね。
他人の家庭をのぞき見するのが大好きな悪趣味人間(←私)に、ホームステイは堪えられない面白さがある。
でもかわいいウチの大学生の娘は、この家には預けられねーな。
いないけど。
London Underground |
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