世界最高峰エベレストがそびえ、多様な民族が暮らす美しい国、ネパール。
でもアジアの最貧国ゆえに、旅をしていて大変なことも多い。
登山を終えた我がR大学山岳部は、次なる目標「アンナプルナ山群トレッキング」のために、カトマンズからポカラへ向かった。
日本でいえば、東京~大阪のような幹線道路だ。
ところが! この200キロ足らずのバス移動に、10時間かかったのである。
国土の大半が山岳地帯ゆえ、道がクネクネ曲がっているのは仕方ない。
今回はそれに加えて、断続的に、全線にわたって工事中だった。道路の至る所が掘り返されていて、乗ったインド製バスは尋常でなく揺れた。
横転するのではと思うほどバスが傾き、網棚に載せた私のザックが降ってくる。窓のすき間から入ってくる砂ぼこりが、車内に充満する。
その後のトレッキングでは、初日から高熱を出す人、下痢や嘔吐に苦しむ人が続出。2日目に全員でポカラに引き返すことになってしまった。
出発前夜、みんなで屋台の怪しげなパニプリ(ピンポン玉大の揚げ玉の中にポテトが入ったネパール風スナック)に群がったのも、悪かった。
でも原因の9割は、内臓を前後左右上下にシャッフルされ続けた、あの悪夢のバス旅に違いない。
さて、問題はポカラからの帰りだ。
飛行機を使えば、ポカラ~カトマンズ間はたったの25分。でもこの路線で2か月ほど前、乗員乗客71人全員が死亡する墜落事故が起きている。
ネパールに入り浸っている登山家兼取材コーディネーターのヌキタさん曰く、「統計的にこの区間は、飛行機が落ちるより、バスと一緒に崖から落ちて死ぬ確率の方が高い。空路の方がまだマシ」
ピオレドール賞クライマーのケンロウさんにも聞いてみた。
「ぼくが予約したポカラ行きの飛行機が、天候不良で欠航に。急きょジープをチャーターしたら、途中でタイミングベルトが切れて立ち往生。最後はトラックをヒッチハイクして、真夜中にたどり着きました」
私自身はこれまで、アフガニスタン航空やアフガン民営カム航空、イラン民営マハン航空など、世界中の危ない航空会社に乗って、生き延びてきた。
もう半世紀も生きたし、たまに落ちる航空会社を使うことに何の躊躇もない。
でもZ世代の山岳部員は、安全コンシャスだ。ネパールに来る際も、私が勧めたネパール航空の直行便を「安全性に問題がある」といって却下。わざわざ行きは香港経由、帰りはスリランカ経由便を選んだ人たちだ。
試しに、2年生のあい先輩を誘ってみた。
「帰りも10時間バスに揺られる? それとも、落ちたばかりのイエティ航空に乗って、空からヒマラヤを眺めながら25分で帰る?」
「ミヤサカさんと一緒に飛行機で帰ります!」
即座に、返事が返ってきた。
よっぽどバスに懲りたようですね。
Way to Kathmandu |
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