2022年7月30日

湿原はフルスピードで

 

 舞い込んできた山岳ガイドの仕事で、ホッとひと息。

 ウチの病院は設備が古いので、なんでも人力&人海戦術。10人続けて寝たきり患者さんの入浴介助をすると、朝から夕方まで、サウナで筋トレをやっているよう。そして体力以上に、神経がすり減る。

 それに比べたら、学校登山に同行して健康な13歳と山を歩くなんて、まさに極楽だ。

体重100キロのスーパー中学生が、「バテて動けません」みたいな悪夢が起きない限りは…

 どの学校も養護教諭が同行し、別に看護師さんがいたり、男の先生がAEDを担いで登ることもある。ガイドとしては、安心だ。

 ただ悪いことに、途中の湿原が高山植物の宝庫で、花が咲き乱れている。花なんかわからないから、名前を聞かれても困る。

湿原の中の木道を、先頭に立って、フルスピードで通過した。

ラッキーなことに、お客さんは2日とも、東京の私立男子中学。色鮮やかなニッコウキスゲやヤナギランには目もくれずに、ガシガシ歩いてくれた。

途中で、同行カメラマンさんとすれ違った。30歳ぐらいの男性で、山道を駆け登り、駆け下りながら、6クラス200人の子どもを撮りまくっている。

「学校行事の仕事は、カメラマンじゃなくてランニングマンです」

 コロナで仕事がない時期は、国の給付金で食いつないだそうだ。

「税引き後だと、むしろ儲かっちゃうぐらいの金額をもらいました」

 そしてこの春に修学旅行が再開されると、いきなり東奔西走の日々。家に帰る暇もなく、空港のコンビニでパンツを買いながら、北海道から沖縄まで飛び回っている。

「子どもが好きだし、毎日いろんなドラマがあって楽しいですよ」

 

 山岳ガイドの顔見知りとも、コロナを挟んで3年ぶりに再会した。

 3人めの子どもが生まれたというHさん。末期がんの奥さんを自宅で介護して、「昨夜もほとんど寝てない」というSさん。悲喜こもごも。

 八ヶ岳に移住して3年めのKさんは、畑仕事で忙しそうだ。野菜は自給自足、庭の木を切って薪を作り、家の屋根にはソーラーパネルを備える。

「現金収入は月10万もあれば十分です」

 この春に東京から夫婦で移住してきたクライマーのOさんによると、テレワークが普及したせいか、八ヶ岳山ろくの空き家や中古別荘が大人気だという。

「毎週金曜日に不動産情報サイトが更新されるんですが、いい家は一瞬でなくなってました

 以前は300万円台で買えた物件が、今は1000万円するそうだ。

 


2022年7月22日

おむつ

 

 看護助手から看護師への申し送りに、こんなセリフがある。

「○○さん、3から4、こぶし大!」

 ヒント① おむつ交換の時に交わされます。

…そう、うんちの形と量のことだ。

「ブリストル・スケール」という国際的な基準があって、1がコロコロ便で、7が水様便と定められている。3から4なら、とってもいいうんちだ。

 下顎呼吸が始まった寝たきり患者さんのうんちは、墨汁みたいだった。

「こんなうんちが出るようになったら、もうお迎えが近いのよ」

 看護助手の先輩が、そっと教えてくれた。

 

 先輩たちは、おむつを「アテント」と呼ぶ。アテントはエリエール社製紙おむつの商品名で、3階南病棟の器材室に山と積まれている。患者さんによって4回吸収、8回吸収、12回吸収を使い分けるのだが、さっぱり覚えられない。

 

 紙おむつの国内最大手は、ユニ・チャーム。

 2012年、大人用紙おむつの売り上げが、初めて子ども用を追い抜いた。

 当時すでに1590億円あった市場規模は、年々拡大している。

 

つい最近知ったことだが、「メイプル超合金」のツッコミ役・安藤なつさんは、親せきがデイサービスを経営していた縁で、中学時代から老人介護をしていたという。

 おむつ交換やトイレ、入浴、食事の介助、口腔ケア、ひと通りこなした。

そして高校生になると、お笑いと介護を同時進行でやるようになる。

「介護は大変とか、そういうイメージが付く前にその世界に行ってしまった」とのことで、お笑いと介護、両方を楽しんでやっていたという。

 高校を卒業した安藤さん、今度は深夜の巡回介護を始めた。

「在宅介護の利用者さんのおむつ交換と安否確認をするという。一晩で15軒ぐらい回っていました」

「(介護は)やっぱりご家族の睡眠時間を削るじゃないですか。それで、ヘルパーが入って睡眠時間を確保できるようにする、そういう仕事でした」

その家のご家族から、鍵を預かって入って…

ちょっとサンタクロースみたいだ。

そしてプレゼントの代わりに、おむつを交換して差し上げる。

「鍵を預かって夜中に知らない、赤の他人がおむつ交換に入ってくるのって、めちゃくちゃハードルが高いと思うんですよ、でもそこを信頼して任せてくれるというのはすごくうれしかったです」

(「」部分は日経ビジネス電子版の安藤さんインタビューより)


Kinugawa-onsen, Japan


2022年7月15日

なんでやねん! Japanese people ! ②

 

「サコ学長、日本を語る」 ウスビ・サコ著 朝日新聞出版

 サコ先生と親しい思想家の内田樹氏によると、「もっと勉強しろという先生はいくらでもいるが、サコ先生はもっとだらだらしろと本気で怒る」らしい。

 アフリカ出身で京都精華大学の学長になったサコ先生の、名言、迷言、金言に、いま一度お付き合い下さい。

 

・日本の教育はダブルスタンダードだ。表面では「平等だ」と言いつつ、自分なりの価値感を持っていたり、形式を重んじたくない子が拾われない。そういう子は、能力や賢さがないわけじゃないのに、「ダメな子」とされる

・平等とは「普遍的な人間を作ること」ではない。平等な機会をどう与えるかが大事。その機会がない子がいるというのは、平等ではない

 ・日本の教育は「本人が満足できる人生を送る」ためではなく、「使える人間」を作るための教育制度。「社会で使えるかどうか」という基準を保つことに、親も含めて全員が、全力で協力してしまっている

・小中学校だけでも、不登校が16万人。15歳から39歳までの死因第1位が自殺。日本社会はいったい、どうなっているのか

・世の中には、生まれながらに弱い人も強い人もいる。弱い人を強くするのでなく、弱い人が弱いままに生きられるよう、支えなければ

・私から見た日本の教育は、「今の社会システムや社会構造を維持したい」という中高年の思いに、子どもや学生、若者が巻き込まれている状態

・大人は「早く大学を決めて、早く就職活動して早く就職しないと遅れる」と学生たちの不安を煽るが、人生100年の時代に、いったい何に遅れるというのか。留年してもいいし、卒業後にアルバイトを経験してから就職してもいい

・なんとなく社会に漂っている焦りは、これまで作り上げてきたシステムが失われることに対する中高年の焦りに過ぎない

・常に将来につながることをやっていないとダメだという空気、何かの役に立っていなければ生きられないようなプレッシャー、就職が全てという思い込み。それらと引きこもりや自殺は、全てつながっている

「日本人よ、もっと肩の力を抜こうぜと、私は言いたい」

 

 サコ先生の故郷マリでは、親が先生に賄賂を渡すことがある。「うちの子の成績を悪くして、学校を辞めさせて欲しい」と頼むのだそうだ。

「一生懸命学校に行かせるのでなく、むしろ一生懸命学校を辞めさせようとする。なぜかというと、マリでは多くの人が、学校以外に人間形成の場があるということを知っているからだ」

「教育とは、偏差値でも識字率でもない。

教育は何のためにあるのかというと、個人を幸せにするためである」


京都大学のかなり多くの教授の子息が、京都精華大学で学んでいるという。


Itoman, Okinawa


2022年7月8日

なんでやねん! Japanese people ! ①

 

「サコ学長、日本を語る」 ウスビ・サコ著 朝日新聞出版

 著者は西アフリカ・マリ共和国出身。25歳で来日後、1年足らずで日本語を習得して京都大学大学院に入学。2018年、京都精華大学学長に就任した。

 最近では立命館アジア太平洋大学が、学長を一般公募して出口治明・ライフネット生命元会長を迎え、日本大学が作家の林真理子氏を理事長にしている。

いくつかの大学が、本気で変わろうとしているようだ。

 アフリカ出身サコ学長が感じたWhy Japanese people ? を紹介します。

【学校に期待しすぎる日本人】

 日本で長年生活していると、どうしても理解できないこと、ヘンだなと思うことがいくつかある。

 まず、学校というものに対する日本の人々の過剰な期待感に、私はビックリしている。なんだかわからないけれど、とにかく日本人は学校が大好きなのだなと思っている。

 日々の生活にまつわるあらゆる要素が学校に集結し、人生そのものが学校中心になっている。部活も友だちも、全てが学校にあるため、学校以外のものが考えられないような時間の作りになっているように見える。

 部活をやっていた(私の)息子たちも例外なく朝から晩まで学校にいて、好き勝手にダラダラする時間がない。よくそんな生活に耐えられるなと、親として違和感を抱いていた。

 しかし日本の親は、「部活に入っているから、余計な趣味に気が散らなくて安心」などと言うのだから、わけがわからない。

 それって、逆じゃないの?

 義務化されていない時間をいかに有効に使い、その人が人格形成していくか。それが、子どもの教育にとって必要不可欠であるはずなのに、日本の大人たちはそこから手を引いているように思える。

 余暇の使い方を学ぶことこそが、人間を作り、個性を作る。それが私の持論である。

【平等をはき違える日本人】

(親は)いかに自分の子を他の子と差がないようにするか。そして個性よりも、いかに自分の子が上位にいるかということを大事に考えてしまう傾向はないだろうか。

 わが子を偏差値の高い大学や医学部に進学させたお母さんが、私に耳打ちで報告してきたときは驚いた。

「うちの子、医学部なんです」

 なんで小声やねん!

 医学部に行きたかった子が医学部に行くのなら、別に「よかったね」と思うし、やりたい子がやりたい道に進んだ、というだけのことであるはずなのに。


Matsumoto City Museum of Art, Japan


2022年7月1日

厚切り流FIRE達成術

 

 年下の友だちと資産運用の話をしていたら、あるお笑い芸人の名が出た。

 厚切りジェイソン、36歳。

その著書「ジェイソン流お金の増やし方」は、43万部のベストセラーになったという。

彼は「アメリカ株インデックス投信の積み立て」という、とてもオーソドックスな方法でFIREを達成している。投資哲学は共感できるが、日経ビジネス電子版のインタビューを読むと、かな~り変人だ。

以下に厚切り名言集を…

FIRE達成の鍵は「収入と支出の差額ですね。言い方は悪いですけど、僕はまあ高収入で支出が少ない」

「僕は私服は今でも人からもらったものを着ていて、自分で買ったことがほぼないんです」

「業務スーパー」で買った2リットルの飲料の空き瓶に、インスタントコーヒーを溶かして「今日も3リットル飲みましたよ」

「今日もオーケーストアに行きました。牛乳や冷凍食品など30kgくらいの買い物をして、登山リュックをしょったまま歩いて」

「普段も2km離れている業務スーパーまで行って、満杯のリュックをしょって帰りますよ」

「マイバッグも必ず持ってます。レジ袋にマネー払ってる場合か!」

「母が節約の努力を見せてくれたのが大きいと思います」「米国の教育は教会と学校と家庭の3本柱で、金銭教育は基本、家庭内で教えます」「日本は学校に任せ過ぎの人が多く、家庭教育もあまり熱心じゃないかも」

「手元には3カ月分の生活費を残して、後は全部投資に回していい」「なぜ3カ月かというと、それだけあれば次の収入を見つけられる自信があるからです」

「最近ですと収入の95%くらいを投資に回していて、究極というか、もうこれ以上やりようがない感じ」

「データは友達ですね。ロシアのウクライナ侵攻の時には、世界的な紛争で株価が暴落した後、戻るのにどのくらいかかるのかを調べました。3カ月ほどで戻ってくる傾向があるのが分かりました」

「父はリーマン・ショックの時に狼狽売りして、後悔してました。僕はそれを見ていたので今回のコロナショックでは売却しないで済んだ」

「夫婦でお金の価値観が合わないとうまくいかないケースがある。金銭感覚の不一致は米国の離婚原因の上位に入ってます」

「ともかく日本は年金制度があり退職金が出るところも多いから、これまではお金の知識がなくても何とかなった人が多いのは事実ですよ。ただ、この先はちゃんと考えた方が有利な時代になると思います」

Matsumoto City Museum of Art


自然学校で

  このところ、勤務先の自然学校に連日、首都圏の小中学校がやってくる。 先日、ある北関東の私立中の先生から「ウチの生徒、新 NISA の話になると目の色が変わります。実際に株式投資を始めた子もいますよ」という話を聞いた。 中学生から株式投資! 未成年でも証券口座を開けるん...