雪道を運転して、近所の農協スーパーへ。駐車場にはSUV車が目立ち、見かけはただの軽自動車でも、そのほとんどが4輪駆動だ。
わが愛車は、軟弱な湘南ナンバーの2輪駆動。
新雪が積もる朝、路面が凍結する夕方も、今まで卓越した運転技術でカバーしてきた。坂道の途中で止まると100%動けなくなるので、決してアクセルを緩めない。時々カーブでスリップして、対向車線にはみ出す。
God bless
you.
日に日に陽が伸びて、何とかこの冬を生き延びられそう、と思ったら、思わぬ伏兵がいた。たっぷり水分を含んだ、重たい春の雪だ。
ある朝、除雪車を待つ間に出勤時間となり、えいやとクルマを発進させた。前の晩に降った雪が、足首まで積もっている。
カーブを過ぎて最初の上り坂にかかると、前輪が空転する気配がして、あっけなくクルマが止まった。いくらアクセルを踏んでも、ただエンジンが唸りを上げるだけ。そのうち雪がえぐれて、前進もバックもできなくなった。
万事休す。でも幸い、現場はオオツキさんの家の近く。IT企業の社長を務めるオオツキさんは、東京本社をテレワークに移行させて、自らも2年前から、この森で暮らしている。越冬生活の大先輩だ。
事態を察したオオツキ社長が、さっそく駆けつけてくれた。手に持っているのは、自宅玄関のゴムマット。タイヤにマットを慎重にかませて、祈るような気持ちでアクセルを踏み込む。
やった、脱出に成功! そのまま延々とバックして、わが家に逃げ帰った。
結局、除雪車がやって来たのは午後2時過ぎ。職場には、大大大遅刻。
それにしても、道の真ん中で1時間も立ち往生していた間、ただの1台もクルマが来なかった。どれだけ田舎なんだか。
社長からは、玄関マットの他にも耳より情報を教わった。火災保険だ。火事はもちろん、キツツキに開けられた穴の補修や、スズメバチの巣の駆除、うっかり凍結・破裂させてしまった給湯器の交換まで、保険が利くという。
わが家は、ほぼ毎年キツツキの被害にあう。十分、モトが取れそうだ。
「キツツキの穴まで直してくれて、保険会社は大丈夫なんですか?」
代理店の人に軽口を叩いたら、
「そのうちキツツキが対象外になるかも知れないから、ここは思い切って10年契約にしましょう!」
うーむ、敵もさるもの。やぶ蛇だった。
家に帰ると、屋根に引っかかっていた氷柱が落下して、玄関前に突き刺さっている。見たところ、重さ50キロはありそうだ。
…真っ先に検討すべきは、生命保険かも。
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