2020年8月1日

ニンジャ・クライマーの子どもたち


「夫婦そろってスーパークライマー」のMさん宅からは、日本有数の岩場が近い。この辺り、多くのクライマーが移り住んでいる。

そしてクライマーを親に持つ子は、まず例外なく「山が嫌い」だという。

「親が楽しみすぎちゃうから・・・なんでしょうね」

 Mさん夫が苦笑して言う。

スーパークライマーの仲間は、ニンジャ・クライマーやターザン・クライマー。類は友を呼ぶ。階段やエレベーターを使わずに東京スカイツリーを登れてしまうような、実力派ばかりだ。

だから彼らの子にとって、山登りといえば「垂直の岩壁を登ること」。

最初からオーバーハングしていたり、一つ目のホールド(手掛かり)が、大人がジャンプしなければ届かない場所にあったり。子どもには、とても歯が立たない。だからいつも、岩場の下で待つことになる。

頭上で親たちが、ヒト科とは思えない手さばき足さばきで登る、その姿をただ眺めるのみ。スマホゲームで時間をつぶそうにも、電波が届かない。

 だからひとりで留守番ができる年ごろになると、子どもは超インドア派になるという。家から出ようともしない。そしてママが「今日は肩が痛いから、山に行くのやめようかな」などとつぶやこうものなら、イヤな顔をする。

 なかには不登校になる子もいる。でもその原因は、いじめとは限らない。

 海外の岩場に行きたくなると、ニンジャ・クライマーたちは子どもに学校を休ませて、道連れにする。だから、子どもの頭から「小学生は学校に行かなければならない」という常識が、欠落してしまうようなのだ。

 そして滞在先で、怪しい外国人クライマーからパーティーに招かれ、「マリファナを吸うと人はどうなるか」を間近に観察している・・・かも知れない。

 そんなニンジャ・クライマーやターザン・クライマーは、とんでもない親なのか? 少なくとも彼らの子どもは、「大人の世界って楽しそう」という認識を持って育つはず。

このことは、どんな学校教育より大切なことじゃないだろうか。

そして「自分も早く大人になって、このしょうもない親から離れよう」と、旺盛な独立心を持つようになる、かも。

また、同調圧力が強く息苦しい日本社会では、学校以外で様々な価値観を知っておくことは、時に「自分の命を救う」ことにさえなると思うのだ。

よく屋内クライミング・ジムにわが子を通わせて、下で叱咤激励するパパやママがいる。Mさん夫によると、そういう熱心な親に限って、自分は岩に触ったこともないそうだ。

ではなぜ、子どもをクライマーにするのか。スポーツクライミングがオリンピック種目になったから? 子どもをメダリストにしたいから?

わが子に期待するより、まず自分が楽しめばいいのに。




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