2020年1月31日

丸顔の美女たち


 オンライン英会話を予約すると、やがてタブレット端末の着信音が鳴る。

 今日の先生は、セブ市からバスで8時間の漁港に暮らす、20代女性のジョイさん。

 インターネットとSkypeの無料通話で、わが家とフィリピン人家庭が瞬時につながる。今さらながら、すごい世の中だと思う。笑顔のジョイ先生の背後で、ニワトリが鳴いている。

この3か月、レッスンを毎日受けているので、ジョイ先生が97人め。フィリピンの地方で暮らす人たちとの、一期一会が楽しい。

「私はネグロス島に住んでるよ。昨日スーパーでレジに並んでたら、後ろが日本人だった。明治アーモンドチョコ買ってたよ 笑」ヴィー先生・20代・女性

「私が暮らしているのはパナイ島。家族とはヒリガイノン語で話すんだよ」パム先生・20代・女性

「私はミンダナオ島在住。お母さんが中国出身で、小さい頃は福建語で育てられたよ。しょっちゅうマニラに行くから、タガログ語も話せる。だから私はトリリンガル」ジョー先生・20代・女性

 フィリピンという国の多様性は、想像以上だ。以下は、男性たちの声。

「ボホール島で暮らす35歳。日本の豚骨ラーメンが大好き。この島にも、日本人経営のレストランがあるんだ。米系企業のコールセンターで14年間ずっと夜勤をしてたけど、ニューヨーカーはすごい早口で困ったよ」ロー先生

「パナイ島の33歳。名門フィリピン大学を出て、同級生は医者になったり、外資で働いたり。ぼくは自分で作った会社を倒産させちゃった。今は画家になって、印象派の画風で故郷の街並みを描いてるよ」サニー先生

「キンイチというぼくのミドルネームは、お父さんが日本人だから。でもぼくが小さい時に、音信不通になっちゃった。お母さんが病気になったから会社を辞めて、在宅でオンライン英会話講師をしながら、薬代を稼いでるんだ」ロン先生・20代・ルソン島ラグナ州在住

 ごくたまに、マニラ首都圏で暮らす先生もいた。

「以前は三菱車のセールスマンをしてたよ。でも通勤に往復6時間!電車とジープニーを3回乗り継いで、8時半に出社するために毎朝5時に家を出てた。食べるのが大好きだから、そのうちレストランを開業したいな」セス先生・23歳・男性

「マニラ最大の病院で、ずっと救急救命室の看護師をしてたよ。もう大変、ドラマ「ER」そっくりの世界。搬送されてくるのは、建設現場や工場でケガをした人が多かったな。あとは、コインを呑み込んだ乳児とか」ロビー先生・20代・女性

 Skypeで対面する先生ほぼ全員が、プロフィール写真より顔が丸い。とても丸い。年月の仕業か、プロフィール写真にスマホの美顔アプリを使うからか、さあどっち

    ※先生の年齢は、自己申告による。性別は、名前と容姿からの推測です



2020年1月25日

野人の独白


地下鉄サリン事件があった、1997年。

同年、サッカー日本代表がW杯初出場を果たした。「ジョホールバルの歓喜」と語り継がれる試合で決勝ゴールを決めたのが、「野人」岡野雅行だ。

20年余を経て、野人が半生を語った。サッカーファンとは言えない人間には、サッカーエリートでない彼の話が、とても面白かった。

(以下、日経グッデイの連載記事より)


「横浜で育ち、いろんな習い事をしたのですが」「どれも続かず、唯一続いたのがサッカーでした」。勉強嫌いで、「僕でも入学できる」島根の私立高へ。

「都心に比べてライバルも少ないし、全国サッカー選手権にも出やすいとも思いました」。ところが・・・

「入学後、サッカー部がないことに気づきました」。退学して横浜に帰ろうかとも思ったが、「理事長に直談判して」サッカー部を作ってもらった。

「全国から不良少年たちを集めてスパルタ教育を施す」学校だったので、

「『けんかだったら東大クラス』のやんちゃな生徒ばかり」が集まった。

「試合をすると相手チームとの小競り合いが始まり、試合を放り出してつかみかかったり、罵倒しあったり」「最初は20点以上の差をつけられての大敗が続きました」。それでも1年生の野人が、やんちゃな先輩たちを懸命に教えた。

「同点で試合を終えた時は、うれしくて部員みんなで大泣きしました」

大学サッカー部でも、最初は洗濯係だった野人。100m10秒7の俊足を生かしてプロ選手になり、97W杯予選では日本代表に選ばれた。だがチームは勝ち点を取れず、加茂監督は更迭されてしまう。

「緊張と重圧と腹立たしさ、そして疲労で、レギュラーメンバーは次第に口数が少なくなり、ピリピリした雰囲気が漂っていました」

「ただ僕だけは元気でした。監督が使ってくれないので」

「起用されない理由を岡田監督に聞きに行きました。その答えは『お前は秘密兵器だ』。真剣な顔で言われたので、単純な僕は納得して部屋に帰りました」

「その後も秘密兵器が使われることなく、やきもきしながらふてくされていた」


「僕が出場し、万が一ゴールを決められなかったら」「嫌な汗をかき、生まれて初めて『試合に出たくない』と、サッカーを恨んでしまった」

「でも、同点のままゴールデンゴール方式の延長戦に入り、岡田監督に『岡野、来い』と呼ばれてしまいました。『入れてこい!』と一言だけ声をかけられ、押し出されるように白線を越えてピッチに入りました」

緊張でシュートを外しまくる野人に、チームメートが駆け寄る。

『「大丈夫だ』『お前のせいじゃない』と励まし、背中をたたいてくれました」

 そして延長後半、ヒデが打ったシュートの跳ね返りが、目の前に転がってきた。懸命に、右足を当てる。悲願のゴールが生まれた。

「うれしかったです、これで日本に帰れると思った」

「あんな経験、もう二度としたくないですが……



 野人はいま、J3チームのGMをしている。長髪をばっさり切り、スーツとネクタイに身を包んで、スポンサー集めに奔走する毎日だという。


Tateshina, winter 2019

2020年1月18日

大人になったら、何になる?


 大人になったら、何になる?

 キャリアに悩む55歳(♂)が、近所の子に聞いてみた。

「考古学者!」~タロウ(家族でエジプトを旅行し、ピラミッドを見て決心)

「トリマーになりたかったけど、私アレルギーだからミュージカル女優」~ルナ(毎日、鏡の前で踊っている)

「まだわからない。でも学校の先生だけはイヤ」~ショウちゃん(遅くまで残業しなくちゃいけないから、らしい。子どもはよく見ている)

「・・・警察官」~えいちゃん(超おとなしい彼が、約1分間の沈黙の後に)



日本の小学生が「将来就きたい職業ランキング」(2019年・学研調べ)では、ついにユーチューバーが男子の1位になった。



「もし私が10歳で、日本で暮らしていたら・・・海外移住を考える」

これは伝説の投資家、ジム・ロジャーズの発言。東京で開かれた会見では、日本の将来を悲観する言葉が並んだ(以下、CNN English Express より)。

「日本は、私が世界で最も好きな国のひとつ。だから、深刻な問題を抱えていることに、胸が痛む」

「毎日、国の借金は増え続け、人口は減り続けている」

「そのうち、社会不安が起きるだろう」

「日本の10代の一番の希望は、政府の仕事に就くことと聞いた。誰もが政府で働きたいと思うような国に、明るい未来があるとはいえない」

ロジャーズの持論は、『21世紀は中国の時代』。我が子を中国語環境で育てるために、家族で米国からシンガポールに移住した。



昨年、「子育て経営学~私たちは子供をどう育てていくのか」というトークセッションが、京都で開かれた。

わが家の子育てを熱く語る、ベンチャー企業経営者たち。その中で、末松弥奈子・ジャパンタイムズ会長ひとりが、とてもクールだった(以下、日経ビジネス電子版より)。

「私も夫も、この社会に適応して生きてきた人間です。親が生きてきた人生の延長線上に、子どもを置いてはいけないと思っているんです」

「だから、子どもとの距離をできるだけ置く努力をすることが、親のできる最大限のサポートだと思っています」

「私のような、ちっぽけな人間の影響は受けないで欲しい」

 英字紙のトップとして、日々変化する世界を見ている人らしい意見だ。

 
「今の子どもの65%は、大学を卒業する時、現在は存在もしていない職に就く」。ニューヨーク市大大学院センターのC.デビッドソン教授は、そう予測している。



2020年1月10日

ポテトチップスを欲する仕事


「アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した」J.ブラッドワース著

 英国のジャーナリストが、アマゾンの倉庫や訪問介護ヘルパー、ウーバーの運転手など、最低賃金労働の現場に“潜入”したルポルタージュ。

著者が英国にあるアマゾンの倉庫で感じたことは、私が近所のアマゾンで働いて得た感慨と、驚くほどよく似ていた。

「少しでも太っていれば、この仕事は拷問に変わる。一定の年齢を超えた時にも、同じことが当てはまった」「全体として、従業員に対する思いやりはどこにも見当たらなかった」

1時間当たり作業量のノルマを課せられ、常に“生産性”を監視されながら、広い倉庫内を駆けずり回る。米やビールを積んで、重さ40キロにもなるカートを引きながらのピッキングは、若い男性以外には、辛い仕事だ。

「アマゾンで働いていた間、ずっと私は疑いという名の暗い雲の下にいる気分だった」

出口に設置されたX線探知機と、ポケットのハンカチまで広げさせられる手荷物検査。そして、「ケータイの倉庫内持ち込みは即解雇」の張り紙。いくらコソ泥や情報漏洩を防ぐためとはいえ、毎度気分が悪い。

「ゆっくりやろう。他の人の仕事を奪うようなことをしてはいけない」

時間当たりの目標ピック数を下回った時、監督者に注意された。でも考えてみたら、この“目標”は、過去の平均を基に作られているはず。言われた通りにがんばれば、平均がどんどん上がってしまう。

 私がマイペースを貫くことで、救われる人もいる。だから、がんばらない。

「労働者階級の人々は、現実からの感情的な逃げ道として脂っこいポテトチップスを買う」「単純労働による身体的、感情的な消耗を、何かで補う必要に迫られる」

仕事帰りに、私も無性にポテトチップが食べたくなった。店で買って、家でむさぼり食った。うまい!これは・・・麻薬だ。

「結局のところ、私は観光客でしかなかった。大きな問題が起きれば、私はいつでも銀行でお金を下ろすことができたし、より快適な生活にそそくさと戻ることができた」

アマゾンの倉庫での仕事は、「物質文明を知るための社会勉強」「運動不足の解消」「小遣い稼ぎのアルバイト」など、短時間&短期間がいい。間違っても、この仕事で家賃を払い、家族を養っていこうと思わない方がいい。

 もし地元にこの仕事しかなかったら?と思うと、ゾッとする。

 この年末年始は、アマゾンの倉庫で働きながら、本書やJ.D.ヴァンスの「ヒルビリー・エレジー」を読み、ケン・ローチ監督の映画を観た。

英国の地方で暮らす人々がBREXITを選び、米国の地方で暮らす人々がトランプ大統領を選んだ、その根底にある社会への閉塞感。今は、わかる気がする。


2020年1月4日

砂上の楼閣


 最近入会した「オンライン英会話」は、先生全員がフィリピン人だ。

毎朝、初めての先生を予約して、日本とフィリピンをSkypeでつなぐ。

「会社を5年前に辞めて、いまは投資家をしています」と自己紹介すると、「ワ~オ! 羨ましい! でも私、株は怖いな」

 ほとんどの先生が、日本の友人たちと全く同じ反応をする。



 確かに、株は怖い。

トランプ大統領のツイートひとつで、世界中のマーケットが動揺する。「自分が寄って立つこの株式市場は、実は砂上の楼閣なのか?」と思ってしまう。

でも何もせずにいると、やがて株価は、その本質的価値に収れんしていく。

 株式市場が生み出す利益は、「恐怖に対する報酬」なのだろう。



米中貿易摩擦、ブレグジットとイギリスの政権交代、サウジ油田の爆破などで、市場が乱高下した2019年。でも1年間を通じた騰落率は、

先進国株式 +25% 新興国株式 +15% 日本株式 +17% 外国債券 +8% 日本債券 +0.7% 外国REIT(不動産投資信託) +20% 日本REIT +26%

終わってみれば、すべての資産クラスが値上がりした。私も無事に生き延びて、投資家6年目の正月を迎えることができた。



国別では、去年もアメリカ株が+29%と、相変わらず強い。

200年の歴史を持つニューヨーク市場は、大恐慌や2度の世界大戦、ITバブル崩壊、同時テロを挟んで、なお右肩上がり。去年も史上最高値を更新した。

選挙のたび、なりふり構わず株価を上げようとする為政者。株価を上げなければ、すぐクビになる企業経営者。そして、大切な老後資金を株に託して、真剣に見守る米国民。これだけ役者が揃えば、上がらない方がおかしいのかも。



アメリカの会社は、労働者より株主が大事。

去年、アマゾンの倉庫で働き、思い知った。

私の時給は、国が定める最低賃金プラス、たったの9円。その分、儲けを株主に還元する。アマゾン株は、上場以来20年間で1300倍になった。

しかも、EC市場でこれだけの大帝国を築きつつ、早くもクラウドサービスを次の収益源に育てている。投資家にとっては、とても魅力的な会社だと思う。



ネット証券に口座を作れば、アマゾン株は、スマホで簡単に買える。

今なら1株、1874ドル(約20万円)。

さあ、あなたもアマゾンの株主に・・・なりますか?

 少なくとも、アマゾンの倉庫で働くよりは、賢い選択かと。


自然学校で

  このところ、勤務先の自然学校に連日、首都圏の小中学校がやってくる。 先日、ある北関東の私立中の先生から「ウチの生徒、新 NISA の話になると目の色が変わります。実際に株式投資を始めた子もいますよ」という話を聞いた。 中学生から株式投資! 未成年でも証券口座を開けるん...