2019年11月9日

25分106円、一本勝負


 外国特派員。同時通訳者。翻訳家。英語教師。外資系企業勤務。

 友人知人に語学の達人がいると、かえって英語をやる気が萎える。

 それでも、恥を忍んで、オンライン英会話を始めてみた。



 まずは環境整備から。物置部屋でコソ練しようと思って、無線LAN中継器を買った。ところがドアを全開にしないと、居間の電波が届かない。

下手な英語が、家じゅうに響き渡ることになった。

 数ある中から選んだスクールは、キャンペーン中で月謝3190円。毎日受講すれば、1レッスンが106円。やるっきゃない。

レッスンでは25分間、初対面の外国人と「電話で」「英語で」話すのだから、恐怖そのもの。Skypeは相手の顔が見えるから、少しは楽かと思ったがダメ。簡単な英単語さえ、口から出てこない。七転八倒、悶絶、失神寸前。

レッスン前の緊張は体に悪いので、いつも30分前に予約を入れ、怒涛の勢いで教材を予習し、直前にSkypeを起動する。

千人いる先生は、全員がフィリピン人。「ハロー!日本は寒いの?こっちは気温34度だよ!」。自分の部屋と3千キロ離れた南国が、ネットで瞬時に結ばれる。

初対面のあいさつ中、背後でニワトリが鳴いた。生活ぶりが伺えて、心が和んだ。

 先生方は皆、フィリピン人のイメージ通りに明るくて率直。でも男性陣は、いささか率直すぎる。髪に寝癖をつけたまま画面に現れ、「初めまして、ぼくの名前はジェイ。5分前に起きたばっかり」

そして年配の先生は、男女を問わず話好き。「ずっと大学で教えてたけど、去年晴れてリタイアしたよ!」「ダンナと別れて子育ても終え、犬5匹と暮らしてるの」。自己紹介が、どんどんプライベートな話に流れる。

教材を使ったレッスンをリクエストしておいても、一切お構いなし。最後までフリートーク(雑談)で終わることが、ままある。

早口の英語を浴びて呆然としていると、家人がダメ押しのひと言。

「へーとかホーしか聞こえなかったけど、英会話やってたんじゃないの?」

翌日、先生から送られてきたフィードバックを読む。「あなたはリスニングが素晴らしい」。記者時代に身についた、ひたすら人の話を聴く癖が、完全に裏目に出ている。



フィリピン人中心のスクールが多いが、東欧出身の先生が多い学校、100か国以上の先生と話せる学校もあるみたい。

オンライン英会話は、世界の窓。



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