2019年11月30日

やる気の源泉


 経済的に恵まれない子が集まる、無料の学習会。

 顔を出すたび、子どもたちの変わりように驚かされる。

 割り算もおぼつかなかった勉強嫌いのハルナが、中学生になり、複雑な方程式に食らいついている。学習会の90分、ひたすら机に向かう姿に、目を疑う。

誰かいい先生に出会ったの?

 ハルナいわく、クラスで一番勉強ができて、しかもスポーツ万能の男子と隣同士なのだそうだ。彼女の苦手な数学を、優しく教えてくれる。

「でも、テストが終わったら席替えなんだ」

やる気の源泉がイケメン男子だとしたら、席替えした後は・・・?



 その学習会の子どもたちと、秋祭りに参加した。

フランクフルトソーセージ300本を売ることが、与えられた使命だ。

 割り当てられた場所は、通路のどん詰まり。待っていても、人は来ない。

子どもたちは、焼いたソーセージをお盆に乗せて、行商に出た。

 物陰から見ていると、ソータが、うどんを食べている家族の横に座り込み、買うと言うまで離れない。その横では、サクラがおじさんを相手に「これ全部売らないと、家に帰れないんです~」

そのセリフ、どこで覚えたの?

 かわいい小学生に懇願されれば、とても敵わない。1本100円のソーセージが、見る間に売れていく。人影まばらになると、食べもの屋台を出す他の売り子さんにまで、ソーセージを売りつけていた。

 ちなみに、何本売っても、彼らは1円ももらえない。「祭りでソーセージを売る」という行為を、純粋に楽しんでいる・・・のだろうか。

たまに学習会に顔を出す、アンナという10代の子がいる。身長170センチ超。乱暴な男言葉。濃いメイク。鋭い眼光。学校に行かず、彼氏とバイクで遊び回っている。女番長みたいで、近寄りがたい。

 そのアンナが、2年前の秋祭りでは、誰よりも大きな声で呼び込みをした。

「フランクフルトいかがですか~! 1本100円!」

2時間もの間、ひたむきに連呼している。300本のソーセージを、ほぼひとりで売り切った。

 どうして、そんなにがんばれるの? 金銭的報酬もなしに。

と、思う自分は、インセンティブでしか動かない、汚れたオトナだ。



今年の秋祭り、アンナがお客さんとしてやってきた。目つきが柔らかい。来年、お母さんになるのだという。

おめでとう! でもアンナ、まだ高校生だよね・・・(汗)



※子どもの名前は変えてあります


2019年11月22日

英語の先にあるもの


トヨタ自動車の豊田章男社長といえば、豊田家3代目の御曹司。記者会見の姿からは、およそ面白味のない人に見える。

その豊田社長が今年、米バブソン大学の卒業式で演壇に立った。さぞイタイ姿かと、YouTubeで見た。堂々とした、素晴らしいスピーチだった。

跡継ぎ息子であることを自虐ネタに、笑いを取る。ノリのいい話ぶりに、満場の学生が湧く。しまいには、スタンディングオベーションが起きていた。

 エライと思ったのは、約13分間の英語スピーチの間、常に学生たちの目を見て話したこと。あのスティーブ・ジョブズの、伝説的なスタンフォード大卒業スピーチでさえ、ジョブズは手元の原稿を読んでいた。

 英語で話し始めたとたん、人格までアメリカンになる人がいる。豊田社長の場合は、むしろ日本で羊の仮面を被っている。

 そう感じるほど、溌剌としたユーモア溢れるスピーチだった。



 その豊田社長の努力を見習おうと?入会した、オンライン英会話。

授業料3190円を前払いすると、毎日1レッスンずつ受けられる。気合で31日連続して受講したら、レッスン単価が102.9円になった。

 ケチな英語学習者には、「授業料前払い」が最強のモチベーションだ。

 キャンペーン期間が終わった翌月から、授業料は2倍に上がる。それでも、しつこく毎日レッスンを受ければ、1回当たり単価は200円少々だ。

 仕事や学業に忙殺される平均的日本人が、週2、3回しかレッスンを受けられないことを前提に、オンライン英会話ビジネスは成り立っている。閑暇だらけの変人が毎日レッスンを受けたら、この学校は破産する。

 そうは言っても、授業料3か月分前払いの、元を取らせて頂かないと。経営が傾かない程度に、レッスンがんばろう。

フィリピン各地からSkypeで教えてくれる先生は、ほとんどが大卒者。英語を生かして、ロンドンやシンガポール、ドバイで働いたと話す先生達がいた。

 またフィリピン国内で、米系企業のコールセンターに勤めていた先生も、何人もいた。アメリカ時間に合わせて、夜10時から翌朝6時まで働いたという。

体調を崩して2年で辞めたというA先生は、「アメリカ人は人種差別主義者よ」。哀しみと諦めの口調で言う。40代のA先生は、訛りのある英語を話す。そのせいで、不当な扱いを受けたのかも知れない

 同じくコールセンターから英語講師に転じた、20代のB先生。

「あなたジャーナリストだったの?実は私も、報道番組のアンカーパーソンになるのが夢だった。あの頃は、よくメディア関係の講義を受けてたなあ」

まだ若いんだから、そんなに遠い目をしなくても。



2019年11月16日

フィリピンは英語大国


 オンライン英会話のサービスのひとつに、電話カウンセリングがある。

日本人カウンセラーの質問に答えると、学習プランを立ててくれる。

「あなたが英会話を学ぶ目的は何ですか?」と聞かれて、

「ヒマラヤの山旅で、同宿したインド人に巻き舌の英語で議論を吹っかけられた時に、受けて立ちたいんです」

 と答えたら、カウンセラーが混乱していた。



 ビデオ・レッスンを受けている先生は、全員フィリピン人で、とても流ちょうな英語を話す。イギリスで看護師をしていた女性はもちろん、国から一歩も外に出たことがないと言う人も。

「フィリピンでは保育園から英語を教えているし、小中学校では国語(タガログ語)以外の授業を英語でやるんだよ」

クラーク旧米軍基地近くに住む、50代の先生が言っていた。



空き時間にレッスン相手を検索すると、たちどころに100人以上の先生の顔写真が並ぶ。その中から適当に選んでいるはずが、つい「講師経験が浅く、写真映りがよくない30~40代女性」を選んでしまう。

男の先生は明るくてジョーク好きだが、ルーズで覇気がない人もいる。その点、女の先生は熱心で、ホスピタリティに溢れている。

たとえネット環境が悪くても、女性だと発音もクリアに聞こえる。

若くて写真映りのいい先生は、あえて選ばない。また、保育園で働いていた人も要注意だ。

たどたどしい私の英語を聞くと、職業病が顔を出す。そうでちゅよ~、よくできまちたね~、急に幼児をあやすような話し方になる。けっこう傷つく。

バリバリの「ザ・英語教師」は、さすがに教え方がうまい。そして、他に本業を持つ「アルバイト教師」は、ときどき仕事の話をしてくれる。

「この間までシティバンクで働いてたんだ。でも、いつも低い査定しかくれないから辞めちゃった」(20代男性)

「毎年、韓国人の子たちのサマースクールで英語を教えるんだけど、彼らすぐ仮病で休むのよ。で、引率の先生が、平気で子どもを殴るんだ」(30代女性)

「朝5時から夜11時まで、112コマ英会話を教えてる。でもきつくないよ。常連さんばかりで、教えるというより、おしゃべりだから」(30代女性)

  早くアンジェリカ先生と、自在におしゃべりできるようになりたい・・・

  先生の中に、なぜか「フィリピンの東大」ともいわれる、フィリピン大の卒業生がいる。

国の将来を背負って立つ秀才が、私などに付き合っていて、いいのか??




2019年11月9日

25分106円、一本勝負


 外国特派員。同時通訳者。翻訳家。英語教師。外資系企業勤務。

 友人知人に語学の達人がいると、かえって英語をやる気が萎える。

 それでも、恥を忍んで、オンライン英会話を始めてみた。



 まずは環境整備から。物置部屋でコソ練しようと思って、無線LAN中継器を買った。ところがドアを全開にしないと、居間の電波が届かない。

下手な英語が、家じゅうに響き渡ることになった。

 数ある中から選んだスクールは、キャンペーン中で月謝3190円。毎日受講すれば、1レッスンが106円。やるっきゃない。

レッスンでは25分間、初対面の外国人と「電話で」「英語で」話すのだから、恐怖そのもの。Skypeは相手の顔が見えるから、少しは楽かと思ったがダメ。簡単な英単語さえ、口から出てこない。七転八倒、悶絶、失神寸前。

レッスン前の緊張は体に悪いので、いつも30分前に予約を入れ、怒涛の勢いで教材を予習し、直前にSkypeを起動する。

千人いる先生は、全員がフィリピン人。「ハロー!日本は寒いの?こっちは気温34度だよ!」。自分の部屋と3千キロ離れた南国が、ネットで瞬時に結ばれる。

初対面のあいさつ中、背後でニワトリが鳴いた。生活ぶりが伺えて、心が和んだ。

 先生方は皆、フィリピン人のイメージ通りに明るくて率直。でも男性陣は、いささか率直すぎる。髪に寝癖をつけたまま画面に現れ、「初めまして、ぼくの名前はジェイ。5分前に起きたばっかり」

そして年配の先生は、男女を問わず話好き。「ずっと大学で教えてたけど、去年晴れてリタイアしたよ!」「ダンナと別れて子育ても終え、犬5匹と暮らしてるの」。自己紹介が、どんどんプライベートな話に流れる。

教材を使ったレッスンをリクエストしておいても、一切お構いなし。最後までフリートーク(雑談)で終わることが、ままある。

早口の英語を浴びて呆然としていると、家人がダメ押しのひと言。

「へーとかホーしか聞こえなかったけど、英会話やってたんじゃないの?」

翌日、先生から送られてきたフィードバックを読む。「あなたはリスニングが素晴らしい」。記者時代に身についた、ひたすら人の話を聴く癖が、完全に裏目に出ている。



フィリピン人中心のスクールが多いが、東欧出身の先生が多い学校、100か国以上の先生と話せる学校もあるみたい。

オンライン英会話は、世界の窓。



2019年11月2日

灯台下暗し!


「市内の家が浸水して、ひどい状況です。畳の運び出しを手伝ってもらえませんか?」

社会福祉協議会のヤマダさんから、電話をもらった。

あの日、確かに大型台風が町の真上を通過したが、ニュースになっているのはもっぱら千葉や長野、東北方面だ。

 さっそく350円のボランティア保険に加入し、自転車で現場に向かう。なんとなんと、わが家の目と鼻の先が、被災していた。

 そこは、海と川が交わる角にある住宅地。でも川面からそれなりの高さがあり、水が来たとは信じ難い。

 被災家屋で待っていたのは、一人暮らしの50代女性だった。あの日、町内放送で避難勧告を聞いた女性は、風雨の中を避難所に向かった。そして翌朝戻った自宅で、床上浸水という、思ってもいなかった光景を目にした。

台風の通過時間に高潮が重なって、海水が川を逆流したらしい。

住み慣れた家に、もう土足で上がるしかない。その時の心境は、察して余りある。近くのラーメン屋や寿司屋は、何事もなかった。わずかな土地の高低差が、明暗を分けたのか。

 この日、集まったボランティアは5人。元気な70代の2人組は、市内の山岳会に所属する山男だ。東日本大震災の時も、ボランティアで東北に通った。

今回も、2人はまず千葉の被災地に急行したという。このフットワークの軽さ、まさにスーパーボランティアだ。千葉では、家じゅうの家財道具が流されて玄関に積み重なり、中に入るのも一苦労だったという。

マスクと軍手をつけた我々は、靴のまま女性宅に上がった。塩水に浸かった畳が異臭を発し、壁のあちこちからカビが生えてきている。豪雨で雨漏りしたのか、食器棚の天井に置かれた皿にまで、泥水が入っている。

女性は、もうこの家を出ていくと決めている様子。

居間の仏壇に、ご両親の遺影が見える。長年、家族3人で暮らしてきたらしい室内には、たくさんのモノがあった。汚れて、ほとんどゴミとして出すしかないのだが、その分別に手間取った。

自治体の決まりで、衣類は「燃えるゴミ」でも「燃えないゴミ」でもなく、資源ゴミとして「紙ゴミ」と一緒に出すことになっている。でも今回のように水に浸かった衣類は、「燃えるゴミ」になるそうだ。

人のスーパーボランティアは、悩む私を尻目に、慣れた手つきでどんどん分別して、外に運び出していく。

外は、申し分ない秋晴れ。社協のヤマダさんが、「この辺で休憩しましょう!」と、お茶やチョコレートを出してくれる。スーパーボランティアに導びかれて体を動かし、女性からは感謝の言葉を頂いた。

つなぎの作業着で駆けつけた自分ではあったが、見かけ倒しに終わった気がする。でも貴重な時間だった。



肉食女子

わが母校は、伝統的に女子がキラキラ輝いて、男子が冴えない大学。 現在の山岳部も、 12 人の部員を束ねる主将は ナナコさんだ。 でも山岳部の場合、キャンパスを風を切って歩く「民放局アナ志望女子」たちとは、輝きっぷりが異なる。 今年大学を卒業して八ヶ岳の麓に就職したマソ...